労働法典に関する意識調査

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年6月

労働科学社会問題研究所は1999年末、労働法典の効果や履行状況に関する調査を行った。調査対象は320社で、これらの会社の従業員、使用者、そして各社の労働組合代表の3者からの聞き取り調査である。

労働契約の締結とその履行

労働契約は労使関係を規定する最も重要な法的文書である。労働法典第4章各項は、企業が労働者と労働契約を結ばなければならないと規定している。しかし調査対象320社の過半数の企業が、労働契約の締結や履行にあたり困難な問題に直面していると回答した。この状況は、特定の地域や企業の業種・規模に限定されたものではない。

最も多く指摘された問題は、いかに雇用を確保するかということで、何らかの問題を指摘した企業の53.4%がこの問題を指摘した。特に大規模企業、国営企業、外国投資企業に広く見られる問題である。

これについで多く指摘された諸問題は、賃金支払い(26.9%)、労働時間や休憩時間(16.9%)、社会保険などである。契約通りの労働時間や休憩時間を確保できていない主な理由は、現実の生産方法や事業形態にそぐわないということである。

契約の種類

労働法典は労働契約について、書面による契約に加え、労使が口頭で契約を交わしてもよいとしている。口頭で契約した場合、契約の諸規定の履行は労使の主観的な解釈に委ねられる傾向がある(使用者の約6割がそのように回答)。各社における労組代表は、口頭で契約を交わすべきでないと確信しているが、口頭での契約は被用者に不利で、使用者との間で問題が発生した場合に問題解決が困難であるからと答えている。

契約期間

労働契約の期間については企業の経営主体により違いが見られる。国営企業はすべての種類の契約期間を用いる傾向がある。外国投資企業は1年契約を好まない。大部分の民間企業は1年未満の契約あるいは期間が明示されていない契約を好む。多くの家族経営の企業は無回答であった。

多くの労働者(回答者の48%)は、期間が明示されていない契約は適当であると考えている。国営企業従業員は期間が明示されていない契約を好むが、外国投資企業従業員は1年契約を好み、民間企業や家族経営の企業の労働者が好むのは季節的な労働契約である。

一方、企業の労組代表者が最も望ましい契約期間と考えているのは、1年以上の契約あるいは期間が明示されていない契約である。

事業体の所有形態が変化(事業体の合併・分割、所有権・経営権の移転)の際に既存の労働契約に生じる諸問題

このような場合、使用者は既存の労働契約を継続させることは困難だと主張する。その理由の一つとして、新たな企業が必要とする技能や適性に労働者が適合していないことがあげられる。このような場合可能ならば、使用者の75.6%は労働契約を解除することも認められるべきだと考えている。また使用者の96.3%は、事業体が所有権を移転させる前に労働契約を解除して然るべきだと考えている。

労働協約締結に関する諸規定

労働法典では、労働協約締結は自由意思に基づくものとされる。しかし、1994年12月31日の政令196/CP 号第1項により、従業員数10人以上の企業については労働協約締結が義務づけられているとするのが多数派の理解である。

しかし今回の調査では、労働協約締結が義務づけられるべきかどうかに関し、様々な回答が寄せられた。国営企業使用者の69.7%また外国投資企業使用者の61.9%が労働協約締結を義務づけるべきだと答えたが、民間企業使用者の約84%が義務づけるべきでないとし、家族経営事業者の約96%が無回答であった。

協約交渉にあたる者は、労働者側からは単位労働組合執行委員会委員長または同委員会から委任された者とされ、この労働者代表が使用者代表と協約を締結した後、地方労働当局に協約を登録する。この登録がない場合、協約は無効とされる。多くの企業で、この規定が協約締結を困難にしている。例えば、企業に単位労働組合が存在しないため労働協約を締結できないとする企業が多い(企業数の51.3%)。

外国投資企業による、雇用サービスセンターでの労働者採用

労働法典16条では、使用者が労働者を募集する際に雇用サービスセンターを使わなくともよいとしている。しかし労働法典132条の1項、1995年10月31日の政令72/CP 号、そして1998年10月20日の政令85/CP 号は、外国投資企業の使用者については労働者の募集や採用を雇用サービスセンターを通して行わなければならないとする。 多くの外国投資企業は、この規定を理にかなっていないとし、実際のところ、その多くが規定に従っていない。規定が順守されない理由として、雇用サービスセンターで紹介される労働者の質が低いことや、同センターを通じた採用手続きが複雑なことが指摘されている。

時間外労働

労働法典69条は、労使が時間外労働について交渉・合意してよいが、その時間は1日4時間、1年で200時間を超えてはならないとする。各企業における使用者、労働者、労組代表の大多数は、1日4時間という上限について賛成する。しかし1年で200時間という上限に関しては、特定の職種にのみ適用されるべきだという意見が多い。

週40時間労働制

労働者の52.9%が、週40時間労働制が好ましいとする。しかし、労働者の属性によって意見の違いがあった。大企業に働いている単科・総合大学卒業生の中に週40時間労働を好む者が多い一方で、それよりも低い学歴を持つ労働者がこれを好まないという傾向がある。この相違は明らかに労働者の所得水準や生活水準に関係している。労働時間削減が所得の減少につながってしまうのではないかと、単位労働組合は大いに懸念している。

労働規律違反への制裁

労働法典84条で、労働規律に違反する者に、その違反行為の程度により、(1)譴責、(2)最高6カ月間の減給と他業務への配置換え、(3)解雇の3つの制裁措置のうちの1つに服させることが定められている。また1つの労働規律違反行為に対し、同時に多数の制裁を行使することは禁じられている。

しかし、28%強の使用者が選択肢(2)に従うことは困難だと回答している。このような他業務への配置換えを行うと、企業の人事や生産のやり方に支障をきたすことなどが指摘された。何人かの使用者は、選択肢(2)を他の制裁に置き換えたり、他の制裁で補完すべきだと考えている。

単位労働組合職員の多く(59.6%)も選択肢(2)は不適当としている。その多くは選択肢(2)を除くべきだと考えている。

労働法典85条では、選択肢(3)解雇が行われる状況を窃盗や横領、正当な理由なく1カ月に7日もしくは1年に20日間無断欠勤した場合などに限定している。労組指導者を含めた多くの回答者は、この限定を必要だと考えている。しかし「正当な理由なく」という条件は曖昧だと指摘する者もあった。

女子労働に関する規定

女性労働者を雇用している企業が最も困難を感じているのは、女性労働者を生産工程に配置する仕方である。この問題を複雑にしているのは、主に労働法典の諸規定である。例えば、女子労働者を過酷な業務、危険な業務、生殖機能に有害な影響を与える物質に接触する業務に就かせてはならない。また出産休暇や乳幼児の育児休暇を取得する権利、生理期間中の1シフト当たり30分間の休憩、企業が女性従業員のために準備しなければならない設備(更衣室、浴室など)、未就学児童を持つ女性従業員への手当の支給も労働法典に定められている。

しかし、政府が使用者に進んで女性従業員を雇用させるための、女性を集約的に雇用する諸企業を対象にした課税免除あるいは減税の規定はただ一つしかないが、今回調査対象になった企業のほとんどすべてが同規定の恩恵を受けたことがない。

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