労働生産性を上回る急速な賃金上昇と2000年の賃金交渉

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年5月

労働生産性を上回る急速な賃金上昇

財政経済部がまとめた「1999年の賃金・労働時間・雇用動向」によると、名目賃金上昇率は12.1%(実質賃金上昇率11.1%)で1994年の12.7%以来最も高い水準を記録した。名目賃金上昇率は1994年の12.7%をピークに1997年には7.0%、1998年にはマイナス2.5%にまで急速に下がっていた。

名目賃金上昇率の内訳をみると、定額給与は6.1%増にとどまったのに対して、経済危機の影響で落ち込みが大きかった超過給与(時間外手当)はその反動で30.1%増、特別給与(ボーナス)も28.3%増をそれぞれ記録した。景気回復に伴い、超過労働時間は23.4%増え、週当たり労働時間は47.9時間で、1998年の45.9時間より4.5%増えたことが大きい。

企業規模別賃金上昇率をみると、500人以上の大手企業は14.4%で最も高く、次いで300~499人(14.3%)、100~299人(13.0%)、30~99人(10.1%)、10~29人(9.6%)などの順となっており、企業規模間の賃金格差は拡大傾向にある。

その一方で、賃金上昇率と労働生産性増加率の推移をみると、1999年第3四半期の賃金上昇率は11.5%で、同期の製造業における労働生産性増加率10.7%を上回った。第4四半期にも引き続き賃金上昇率が労働生産性増加率を上回ると推定されている。賃金上昇率は1996年の14.1%をピークに1997年には6.4%、1998年には0.5%、1999年第1四半期にも0.5%にまで急速に下がり続けた後、1999年第2四半期から4.8%へと大幅な回復に転じた。これに対して、労働生産性増加率は1996年の11.1%から1997年には12.9%に上がった後、1998年には10.7%、1999年第1四半期には9.0%、第2四半期には8.9%へとわずかながら下がり続けた後、第3四半期になってようやく10.7%に上昇するなど緩やかな回復を見せている。

このように経済危機の影響で賃金上昇率は急激に落ち込んだ反面、労働生産性増加率は僅かながらの低下にとどまったが、その後予想以上の速い景気回復もあって、賃金上昇率は急速に回復しているのに対して、労働生産性増加率は緩やかな回復にとどまっている。そのため、賃金上昇率と労働生産性増加率は早くも逆転してしまったのである。この背景について、財政経済部の李次官補は、「大企業の間で構造調整のスピードが落ちて労働生産性は僅かな上昇にとどまっているのに対して、労働者の賃上げ要求はますます強まっている」点を挙げている。このような逆転現象をめぐっては早くも経済危機の遠因の一つといわれた「高費用低効率体質」への逆戻りを懸念する声が上がっている。

しかしながら、労働部によると、総額及び定額給与基準では名目賃金及び実質賃金ともに、IMF 管理体制以前の水準を上回っているものの、それに物価と労働時間を勘案すれば、賃金は実質的には IMF 管理体制以前の水準までには回復していないという。つまり消費者物価指数は1995年を100とした場合、1997年の104.9から1999年には117.8%へと急上昇した。また月平均通常労働時間は1997年の179.6時間から1999年には183.3時間へと大幅に増えた。特に超過・特別労働時間を含めた総労働時間は1997年の203時間から1998年には199.2時間に減った後、1999年には208.1時間へと大幅に増えた。これにより、時間当たり実質賃金は1997年の6577ウオンから1999年には6468.7ウオンへと108.3ウオン減った。また定額給与を通常労働時間で割った時間当たり給与は1997年の5143ウオンから5116.6ウオンへと26.4ウオン減ったということである。以上のような統計値は賃上げ率をめぐる議論に少なからぬ影響を与えるものとみられている。

2000年の賃金交渉における労使の賃上げ案

韓国経総は2月15日、会長団会議を開いて次のような2000年の賃上げ案を確定した。つまり、2000年の経済成長率、物価指数、企業の支払い能力、生産性指数などを考慮した、適正な賃上げ率として5.4%を提示するほか、賃金交渉の基本原則として第一に、個人・集団別成果配分システムの構築、第二に、総額基準での賃上げ交渉の原則確立、第三に、非効率的な人件費構成の改善、第四に、新規雇用の創出と雇用安定の追求などを会員企業に勧告するというものである。

これに対して、韓国労総と民主労総はすでにそれぞれ13.2%(定額14万6259ウオン)、15.2%の賃上げ要求案を出していた。まず韓国労総は1月17日、産別代表会議と中央委員会を開いて、13.2%の賃上げ要求案を確定するとともに、「3月初め頃から賃金闘争を開始し、3月中旬には上部団体への交渉権委任と共同交渉を展開した後、4月には各事業所労組の争議調停申請と争議行為の決議を集中させ、5月初め頃にゼネストに突入する」という賃金闘争日程を立てている。

そして民主労総は2月22日、「週5日勤務制、経済危機で労働者が被った損失の補填、税制改革と社会保障の拡大など対政府3大要求事項」を発表し、国務総理など政府側代表との交渉を正式に要求した。具体的にはまず週5日勤務制で、現行の法定労働時間を短縮し、ワークシェアリングを図る。第二に、経済危機で労働者が被った損失の補填策として15.2%の賃上げと整理解雇の中断を求める。第三に、社会保障向けの予算を国内総生産の10%に引き上げるほか、税制改革を断行することにより、低所得層の福祉を大幅に改善することなどが挙げられている。

民主労総は3月から本格的な賃金闘争に入り、総選挙の時期に合わせて3月末から4月初めにかけて大宇自動車・双竜自動車の売却と農・畜産業協同組合中央会の強制的な統合を阻止するためのストや大規模のデモを展開し、5月末には対政府闘争に突入する計画を明らかにしている。

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