労働慣行の是正を促す最高裁の判決と労労対立

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年5月

最近、労働組合組織における民主的手続きを重視し、既存の労働慣行の是正を促す最高裁の判決が相次ぎ、労労対立の新たな火種になっている。つまり、組合員総会と組合員による投票を経ずに、スト決議大会だけでストを強行したのは不法行為に当たるとの判決や、労働組合の代議員を間接選挙で選ぶことを定めている労組の規約や選挙管理規定は労働組合及び労働関係調整法違反で無効であるとの判決などが相次ぎ、労労対立の構図に発展しているのである。その他に、複数労組の容認をめぐって地裁の判決と労働部の行政指針とが食い違いを見せ,労労対立を助長してしまう動きもみられる。

鉄道労組における代議員間接選挙を無効とする判決と労労対立

最高裁民事2部は1月17日、「鉄道労組民主化推進委員会」所属組合員5人が「全国鉄道労組」を相手に起こした訴訟で、「労働組合総会の代わりを務める代議員大会の構成員を組合員の間接選挙で選ぶよう定めた労組の規約や選挙管理規定は労働組合及び労働関係調整法違反で、無効である」との判決を下し、同事件をソウル高裁に送り返した。裁判部は判決文で、「労働組合及び労働関係調整法17条(旧労働組合法20条2項)で、労組の最高議決機関である組合員総会の代わりを務める代議員大会の構成員を組合員の直接・秘密・無記名投票で選出するよう定められているのは労働組合の民主性を実現するためである。これは義務条項なので、特別な事情がない限り、組合員が代議員の選出に直接関与できないように間接的な選出方法のみを定めた規約や選挙管理規定などは無効である」と判決の理由を述べている。

また裁判部は「全国規模の組合で、その組織が地域的に散らばっているため、組合員総会の開催が事実上不可能な場合は、代議員の間接選挙も例外的に容認されなければならない」としたソウル高裁の判決に対しては、「組合支部または地方本部別に代議員を直接・秘密・無記名投票によって選出すればいいことなので、間接選挙は例外的にも容認されてはならない」と付け加えている。

全国鉄道労組(組合員2万8000人)の傘下には158カ所の支部と9カ所の地域本部がおかれていることもあって、いままで代議員の選出にあたっては次のような間接選挙が行われていた。つまりまず各支部別に組合員が支部代議員を、次に支部代議員が9カ所の地方本部代議員を、最後に地方本部代議員が全国代議員92人をそれぞれ選ぶという3段階の選出方式がとられていたのである。しかも、地方本部代議員や全国代議員の選出は主に議長や議長団が推薦した候補に対する信任投票の形で行われていたようである。

全国鉄道労組は最高裁の判決に沿って、労組規約改定のための組合員投票を実施することにしていたが、突然「規約の改定は行わず、代議員のみを直接選挙で選ぶ」ことに方針を変え、代議員選挙を強行しようとした。

これに反対する組合員勢力(鉄道労組の全面的な直接選挙を勝ち取るための共同闘争本部)は、組合員2万5000人のうち、1万2000人余りが「全面的な直接選挙要求」に署名したのを受けて、組合執行部に規約改定のための組合員総会の開催を要求するとともに、執行部側が2月24~25日に実施する代議員選挙には参加しないことを決めた。2月17日からはソウル鉄道労組本部事務室を占拠し、代議員選挙を阻止する行動に出ており、現執行部側の組合員と衝突する場面も増えている。「共同闘争本部」側は「最高裁判決が出たにもかかわらず、現執行部は現行の選出方式を維持したまま、執行部寄りの組合員を代議員に選ぶために、一方的に代議員選挙を推し進めようとしている」と主張している。

2月末現在現執行部側は共同闘争本部側の組合員らが本部の事務室を占拠し、業務を妨害していることを理由に「同組合員らの出入り禁止仮処分申請」を、共同闘争本部側は「現労組委員長の職務停止仮処分申請」をそれぞれソウル地裁に出している。

今回の最高裁判決はしばらくの間、その趣旨である「労働組合の民主化」を促すというよりは、前述したように労組内部における労労対立に火をつけてしまう側面が強いかもしれない。今後全国鉄道労組と同様の代議員選出方式を取り入れている全国規模の労働組合、例えば、韓国労総系の電力労組(2万9000人)や逓信労組(2万9000人)などにも代議員選出方式の見直しの動きが広がるかどうか、その行方が注目される。

万都機械労組のストを不法行為とする最高裁の判決

最高裁第2部は3月16日、業務妨害の疑いで起訴された万都機械労組のファンゾンキュ組織局長の上告審で、「組合員総会と組合員の直接・秘密・無記名投票など手続き上の要件を満たさないまま、組合員決議大会を開くだけで強行したストライキは不法である」との判決を下し、事件を大田地裁に送り返した。

裁判部は判決文で、「組合員決議大会はスト行為の一環として開かれたものにすぎず、組合員総会を開催したとは認められない。原審は単純にストへの参加人数だけで組合員側の意思が反映された正当な行為だと判断したが、労働組合法と労組規約に定められた組合員の直接・秘密・無記名投票による過半数賛成という手続き上の要件を満たさず、争議行為に入ったのは違法だと判断される。また中央労働委員会による十分な自主的交渉の勧告にもかかわらずストに突入したことからも労組側が使用者側と十分な交渉を行ったと見なすことはできない。それに労組側による車両統制と検問、現場巡回、集会などにおいて、ストに参加しない者に対する物理的な強制力がなかったとは言えず、争議行為の手段と方法において適法の範囲を超えている」と述べている。

ファン氏は1998年5月6日に組合員決議大会を開いて、未払い賃金の支払いを求めて12日までストを主導した疑いなどで起訴され、大田地裁で懲役8カ月、執行猶予2年の判決を受けていた。大田地裁は1999年8月の控訴審で「組合員投票を実施しなかったのは労組内部の意思決定過程の欠陥にすぎない。実際にストに参加した人数などをみると、そのストは組合員大多数が賛成したものと見なすことができる。組合員投票を実施していないことだけを理由に直ちにストの手続きが違法であるとみることはできない。またストは通常の賃金交渉を目的としたもので、その目的が違法であるとはいえない」と、労組側寄りの判決を下していた。

しかし、労働部は当時「同労組側がストの理由として掲げた未払い賃金の問題は不当労働行為の救済などと同様に労使間の権利紛争に当たる事項で、争議の対象ではない」という解釈を出していた。改正労働法では、労働争議の対象は「賃金、労働時間、福祉、解雇、その他の待遇など、労働条件の決定に関する事項」、つまり利益紛争に限定されている。したがって、未払い賃金問題は権利紛争で司法上の救済を受ける事項であって、ストで解決する問題ではないということである。

その他に、1998年5月12日以降構造調整の方針に抵抗して起こしたストに対しては、第1、2審と最高裁ともに「経営権に属する事項で争議の対象ではない」ことを理由に有罪とした。

今回の判決は順法方針を徹底し、争議行為をめぐる既存の慣行に対して見直しを迫るものであるだけに、労働界の対応が注目されている。民主労総側は、「未払い賃金や会社の売却などのような特別な状況で起きる突発的な争議行為に対して、法律で定められている手続きを完璧に踏むことを要求するのは、労働現場の現実とはかなりかけ離れた判決である。特に使用者側の事由で起きたストにまで法的手続きを厳格に順守するよう求めるのは、かなり狭い範囲での法解釈であり、団体行動権の深刻な制約である」と主張している。

港湾労組における複数労組問題をめぐる労使紛争の動き

釜山港湾地域における新設労組の合法化をめぐって、労使紛争が発生し、労労対立に発展している。今回の労使紛争は、既存の韓国労総傘下の釜山港湾労組(労組が独占的な供給権をもつ派遣労働者中心)とは別途に、民主労総傘下の全国運送荷役労組(クレーン技師など常用労働者中心、全国27カ所の運送・荷役事業所で2200人)のシンソンデターミナル支部とウアムターミナル支部が1999年3月に新設され、使用者側に団体交渉を求めたのがその始まりである。

全国運送荷役労組は4回にわたって団体交渉を求めたが、使用者側は「単一事業所に二つの労組は認められない」との立場を堅持し、同支部を労組と認めようとせず、労使交渉にも応じなかったため、1999年12月23日に釜山地方労働庁に不当労働行為で告発した。使用者側が両支部を労組と認めない根拠として挙げているのは、「単一事業所での複数労組容認条項は2001年まで留保されることを定めた、労働組合及び労働関係調整法の附則5条」である。労働部も1999年12月29日、シンソンデとウアムターミナルには既存の釜山港湾労組の連絡事務所が設置され、組合員215人が働いているので、そこに新設された全国運送荷役労組の支部(組合員460人)は労組として認められないという解釈を出した。このような解釈に対して、民主労総と全国運送荷役労組側は「1999年7月7日のブイル交通事件で企業横断的労組の場合複数労組は合法である」とした釜山地裁の判決を無視したものであると反発している。

全国運送荷役労組側は2000年1月10日、釜山地労委に労働争議調停申請を、11日には釜山地裁に団体交渉拒否中止仮処分申請をそれぞれ出した。そして1月18日には同労組の支部長らに対する暴行事件を理由に怠業に入った後、1月25日には全組合員の87%賛成で労働争議を決議し、1月27日から第1段階の争議行為として高速道路での低速運行に入り、全国規模に拡大させた。その後、2月2日に予定されていた第3段階のストは留保されたものの、2月25日から再び怠業に入り、既存の釜山港湾労組組合員と衝突するなど、労労対立がエスカレートしている。

その間、釜山地労委は全国運送荷役労組側の労働争議調停申請のみでなく調停内容に対する使用者側の異議申し立てに対しても、繰り返し「労使間の誠実な交渉を通じて解決するよう」勧告した。にもかかわらず、使用者側は労組とは認められないという従来の立場を堅持している。釜山地裁民事1部も団体交渉拒否禁止仮処分申請を受け入れるにあたって、「両ターミナルにはいままで労組支部が存在しなかったので、全国運送荷役労組の両支部を単一事業所における複数労組とみることはできない。使用者側が労組組織と認めている釜山港湾労組の連絡事務所は業務連絡上の便宜を図るための窓口にすぎず、法的設立手続きを踏んだ組合組織と見なすことはできない」と述べ、労働部の解釈を覆している。

これに対して、既存の釜山港湾労組側は「釜山地裁は使用者側に対して全国運送荷役労組との団体交渉に応じるよう、仮処分の決定を下したのであって、複数労組の可否に対する司法部の公式判決が下されたわけではない。よって全国運送荷役労組の怠業とストは不法行為にあたる」と主張するとともに、2月28日には集会(500人余りの組合員及び日雇い労働者らが参加)を開いて全国運送荷役労組の怠業及びストに対して法的措置を講じるよう求めた。

全国運送荷役労組もこれと時を同じくして、組合員総会を開いて、暴力沙汰に発展するのを黙認した釜山地方労働庁長と釜山地方警察庁長、南部警察署長などの辞職、間違った行政上の解釈で労使紛争を悪化させた労働大臣と警察庁長の公式謝罪、釜山港湾労組の執行部及び暴行事件への加担者の処罰などを求めるほか、労組活動の保障などに関する労働協約の締結を使用者側と労働部に要求し、これらの要求が受け入れられるまで民主労総挙げての闘争を展開する方針を打ち出した。

このように釜山港湾における労使紛争が労労対立に発展し、長引いているため、シンソンデターミナルとウアムターミナルに入港する予定の外国籍船舶の入港先変更が相次ぐなど、事態は悪化の一途をたどっている。これにより、両ターミナルの損失は3月10日現在100億ウオン(100ウオン=9.54円)以上に上ったという。

これを機に、政府は港湾の機能維持と労使関係の安定化のために港湾を占拠禁止施設と指定し、荷役事業を公益事業に含める案を検討し始めている。つまり海洋部は3月末まで労働部との協議を経て、争議行為の際に占拠により公益上の被害の恐れがある施設を占拠禁止施設と定めている現行の労働組合及び労働関係法施行令21条を改正し、港湾も新たに含めることにするとともに、労働大臣の職権で緊急調整または仲裁を行うことができる公益事業を定めている現行の労働組合及び労働関係法71条を改正し、港湾での荷役事業を公益事業と指定するということである。

これと関連して、釜山海洋庁の関係者は「港湾施設と荷役事業は輸出入貨物の99.7%を処理しており、ストによる直接・間接損失だけでも1日平均8000億ウオンに達するほど重要なインフラなので、安定的な維持が絶対必要である」と述べている。これに対して、全国運送荷役労組側は「政府は港湾における労使紛争の根本的な問題解決には目を向けず、労組の団体行動権に制限を加えようとしている」と強く反発しており、しばらく目が離せないところである。

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