最低賃金、政治的人気とり手段に

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年5月

毎年5月1日に改訂される最低賃金を、今回政府は、過去12カ月のインフレ指数約7%で調整して、現行の136レアルを146レアル程度の引き上げを予定していたところ、政府与党を構成する3大政党の一つが政治的冷遇を受けたとして、与党離反を宣言し、その報復として、最低賃金を100ドル、約177レアルへの引き上げを要求すると発表した。政府への報復と今年10月の市長、市議選、2003年10月に行われる次期大統領選をにらんでの政治工作と言われている。例年高率の最低賃金調整を要求して、政治手段に利用している労働党は、先をこされたために、今年はどの水準を党として要求するか、討議中である。残る政府与党2党も、人気を心配して、政府の予想を大きく上回る調整率を掲げて政府と交渉すると発表しており、最低賃金の調整は政治工作手段となった。

政府と政党が、最低賃金を136レアルからどれだけ引き上げるかを議論している最中に連邦最高裁判所と連邦労働最高裁判所の裁判官が中心となって、裁判官の住宅手当を要求し、受け入れないなら司法ストに入ると脅して、最高裁長官は、住宅手当として、最低2000レアル、最高3000レアルまでの支給を決定したために、世論は大騒ぎになった。世論や報道機関は、住宅手当とは単に名目をつけた実質賃金引き上げであり、国家と国民の現実を無視した司法の暴挙であると非難しているが、司法関係者は三権平等の当然の権利と主張し、もし手当が撤回されるならストで抵抗すると、世論に対抗している。これは国会議員と大臣だけが首都に住宅を提供されていることを、一方的特恵として、司法が抗議しているものである。

ただ、ちょうど最低賃金の、政府案なら10レアル、政党案でも41レアル引き上げ案が出て、この支出増加が、政府財政に与える影響を連日議論している最中に、連邦最高裁判官の最低2000、最高3000レアルの住宅手当支給決定は、世論を強く刺激した。司法のこの手当支給決定を見た公務員労組は、我々にも当然権利があると見て、70%以上のベア要求を出し、受け入れられない場合はストに入ると発表し、労働党のルラ名誉党首は、全国で土地を不法占拠している土地なしグループに、住宅手当を要求する行政訴訟を起こすよう指導しており、次第に収拾がつかない事態へ発展しつつある。このためカルドーゾ大統領は、行政、司法、立法三権の交渉を提案した。

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