グローバリゼーションと労働者

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年4月

リー副首相は1999年12月17日に開催されたシンガポール肉体・商業労働者組合(Singapore Manual and Mercantile Workers' Union)の定例会議で、組合指導者や労働者に対し、グローバリゼーションや技術発展が提起する課題をよく認識し、創造的かつ建設的に対応するよう呼びかけた。

副首相は、シンガポールの生存は輸出に依存しており、技術導入、雇用創出、市場開放を進めるには外国の投資が不可欠であるとの見地から、先にシアトルで開かれたWTO(世界貿易機構)閣僚会議で暴動に参加した米国の一部労組が自由貿易と労働基準をリンクさせようとしたことについて、グローバリゼーションや技術発展に向き合うための最善の方法ではないと疑問を投げかけた。

副首相はグローバリゼーションのもたらす影響について、国際環境の急速な変化に対応するため企業はリストラを大胆に押しすすめ、そのため多くの雇用が喪失される一方で新たな雇用が創出されるという状況が生じており、これからの労働者は現役中に職を5~6回変更することが一般的となると指摘した。

こうした課題に対応する基本戦略として副首相は、労働者の技能習得と技能向上が依然として重要であり、「できるかぎり多くの労働者が、生涯を通じて新たな技能を習得しつづける能力を有する知的労働者とならねばならない」との認識を示し、次の3つの労働者支援策を提示した。

医療保険の「携帯性」アップ

使用者負担の医療保険など基礎的給付の「携帯性」を高め、労働者の雇用先が変わっても継続して十分な保護が受けられるようにする。民間部門の多くの従業員が使用者負担の医療保険に加入しているが、現行では、退職すると資格を失う。

解雇労働者の保護

労働者が解雇されても継続して組合に加入し続けられるようにする。あるいは少なくとも、組合が失業中の労働者を支援できるように制度を整える。現行では、組合に加入したり、加入者に与えられる特典を享受できるのは被雇用者だけである。

全国労働組合会議(NTUC)の場合は加入者に対する支援の方が手厚いとはいえ、非加入者にも支援を提供している。たとえば、NTUCが主導した技能再開発プログラムは今では加入者・非加入者双方を対象とする全国的な制度となっている。この制度は解雇された労働者をも対象としており、将来の再就職に向けて技能向上や再訓練を施す。

組合の強化

組合を新しい国際環境に適応させ、強化する方策を見いだす。これは、政労使の三者が協力して達成すべき課題である。

先進国では企業は環境に柔軟に対応するため、非熟練労働者を臨時雇用に切り換える傾向が強まっており、先進国の組合はこうした層を組織し、その待遇改善を求めているが、シンガポールはこうした路線はとらず、臨時従業員ではなく熟練労働者の増大を目指す。

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