政府の雇用対策
―若年層の高失業率・非正規労働者の急増・所得格差の拡大

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年4月

予想以上に速い景気回復や政府の緊急避難型失業対策などにより、雇用情勢は全般的に改善基調にある。その一方で、冬季特有の季節的要因による失業率の再上昇、若年層の高失業率、非正規労働者の急増、所得格差の拡大など、社会不安につながりかねない構造的な問題が頭をもたげ始めている。「生産的福祉(雇用や仕事を通しての福祉)」を唱える政府の舵取り(雇用政策や社会政策)の真価が問われるのはこれからであろう。

失業率の再上昇・若年層の高失業率と政府の対策

労働部の「1999年12月の雇用動向分析」によると、12月の失業者数(ILO基準)は104万人で11月の97万1000人より6万9000人が増え、失業率も4.8%で11月より0.4ポイント上昇するなど、1999年に入って減少傾向が続いていた失業者数は再び増加に転じた。1999年11月から公表し始めた「求職活動を断念した失業者数」も11月の19万8000人から22万人に増えた。ただ、非自発的な失業者の割合は43.0%で1998年同期の62.5%より大幅に下がった。特に早期退職・整理解雇の減少幅(17.4%から7.7%へ)が著しい。

政府は、11月から建設及び農業分野における労働力需要の一時的減少や新卒者の労働市場への参入などの季節的要因により冬季には失業者が再び増加するとみて、「冬季雇用安定対策」を講じていたものの、失業者数の増加を抑えるまでには至らなかったようである。政府の「2000年総合失業対策」の主な内容をみても分かるように、このような冬季特有の季節的要因との戦いは2000年第1四半期まで続きそうである。

その中で特に注目されるのは若年層(15~24歳)の高失業率への対策である。若年層の失業率は1998年12月の19.7%(42万7000人)をピークに、1999年10月には10.6%まで下がり続けたが、11月から再び上昇に転じ、12月には13.2%(28万7000人)を記録した。年平均値でみると、1997年の7.6%(全体2.6%)から、経済危機と構造調整の影響を強く受けた1998年には16.0%(6.8%)まで急上昇した後、1999年には14.2%(6.3%)に下がってはいるものの、IMF管理体制以前の倍近く高い水準にとどまっている。

政府によると、2000年2月の大学卒業予定者42万5000人のうち、未就業者は14万9000人に上る。これに1999年の未就業者14万5000人を合わせると、大卒の未就業者は29万4000人に達する見込みである。

このため、政府はまず、大企業に対して、定期採用から通年採用への採用方式の見直し、年齢制限要件の弾力的な運用、契約職社員の採用拡大などを求め、大学卒業後も長期間就職できず、失業状態にある者の就職活動を支援する。

第二に、高学歴未就業者を対象に専門職種向けの職業訓練を実施する。3月から短大卒以上の未就業者5000人を対象に、先物取引や国際貿易などの有望な資格取得、ネットワーク専門家やシステム専門家など情報関連職種、国際会計・金融や国際法律専門家などの国際業務関連職種など77職種向けの教育課程を設け、2~6カ月間の職業訓練を実施すること。訓練生には1人当たり3万~33万ウオン(100ウオン=9.59円)の訓練手当が支給され、一部の高級課程を除いて訓練費用は無料である。また情報通信分野の専門家育成策の一環として、123億ウオンを投入し、高学歴失業者3万2650人を対象に情報通信関連の訓練を実施する。

第三に、中央政府と地方自治体におけるインターン職員の採用枠を4万2000人に拡大する。新卒者向けの雇用対策の一環として導入されたインターン社員制度をめぐっては次のような制度改善の効果もあって、1999年12月からの第3次インターン社員募集には1月中旬現在すでに4万5000人が申し込むほど関心が高まっているようである。例えば、研修期間の短縮(6カ月から3カ月)、インターン社員の身分改善(研修生から契約職社員)、労災及び雇用保険の適用、正社員としての継続採用誘導など。

その他に、専門職業相談員によるマンツーマン指導・支援(後見人制度)や、通学が難しい退役予定軍人を対象にしたインターネットによる職業訓練・移動式職業訓練実施、大学生の創業支援、ワーキングホリデー制度の拡充なども盛り込まれている。

日雇い・臨時雇い労働者の増加と政府の対策

次に、年度別雇用動向をみると、景気回復と失業対策事業などの効果により、1999年の失業者数は135万3000人で1998年の146万1000人より10万8000人減り、失業率も6.3%で1998年の6.8%より0.5ポイント下がった。就業者数は2163万4000人で1998年(2145万6000人)より28万7000人増えた。業種別では個人・公共サービス業が26万6000人で最も多く、次いで卸小売・飲食宿泊業(15万3000人)、製造業(10万8000人)の順となっている。

雇用形態別にみると、賃金労働者のうち、常用労働者は605万1000人で1998年より40万7000人(前年対比6.3%減)減った。これに対して、日雇いと臨時雇い労働者はそれぞれ229万人、418万3000人で、1998年より55万4000人(前年対比31.9%増)、18万5000人(4.6%増)増えた。これにより、日雇いと臨時雇い労働者の割合は1998年の47.0%から51.7%に上昇し、常用労働者のそれを上回った。

このような逆転現象の背景には、失業対策事業(年平均38万4000人)や、景気回復に伴い就業者数の増加傾向が著しい前述のような分野で日雇いや臨時雇いが増えたことの他に、整理解雇制や労働者派遣制の施行により労働市場の柔軟性が向上したことも少なからぬ影響を及ぼしているとみられている。その行方をめぐっては雇用不安を募らせることを懸念する声と、新たな雇用創出につながると前向きに捉える向きが入り交じっている。

政府は、今後とも労働市場の柔軟性向上は避けられない流れであるとしたうえで、雇用不安を払拭させるために日雇い・臨時雇い労働者の労働条件を保障し、社会安全網を拡充する方向で法制度の整備に取り組んでいる。

まず、契約期間1年未満の労働者に対しても労働基準法の適用を徹底する。事業主は日雇い労働者(1日単位で雇用契約を締結した労働者)や臨時雇い労働者(日雇い以外の雇用形態または継続労働期間が1年未満の労働者)を使う場合にも労働条件を明記した雇用契約を書面で作成し、賃金台帳を3年間保管することを義務づける(違反した事業主に対しては500万ウオン以下の罰金)。また建設現場の日雇い労働者に対する休業手当(1日賃金の70%)の支給と退職共済制度への加入が義務づけられる工事範囲を拡大することなども含まれている。

第二に、日雇い・臨時雇い労働者の能力開発支援態勢を強化する。(1)個人別相談を経て経歴・年齢・適性に合った訓練プログラムを提示し、7月から実施される職業訓練カード制を活用する。(2)能力開発のための専門講座受講奨励金を100万ウオンまで支援する。(3)建設現場日雇い労働者登録制を導入し、データベースを構築する。(4)同労働者の訓練費用の他に、労働大臣の認定を受けた社内資格検定試験の開発運用にかかる費用を支援する。

その他に、労災保険の対象を7月から従業員4人以下の全事業所に拡大する。

所得格差の拡大と政府の対策

経済危機の影響で所得格差が急速に拡大している。

まず、所得分配の不平等度を測る尺度の一つであるジニ係数で所得格差の推移をみると、1997年には0.283で最も低い水準を記録し、それまで所得分配は順調に改善されてきたことを表している。それが経済危機の影響が現れ始める1998年には0.316へと上昇に転じ、さらに1999年第1四半期には0.333に急上昇し、所得格差がいかに急速に拡大したかを物語っている。その後第2四半期に0.311、第3四半期には0.310のように落ち着きを見せてはいるものの、依然として所得格差は大きく開いたままである。

第二に、金融研究院が統計庁の都市勤労者家計所得統計(所得階層10等分)を上位30%・中位40%・下位30%に区分して各所得階層間の所得格差を調べたところによると、上位階層の所得に対する中位階層の比重は1985年の48%から1990年には50%、1997年には53.5%へと上昇し続けてきたが、経済危機を機に1998年に50%へと下落し、1999年上半期には48.7%にまで下がった。また上位階層の所得に対する下位階層の比重も1997年には29%にまで上昇したが、1998年には25%、さらに1999年上半期には24.8%に下落し続けている。

その他に、UNDP(国連開発計画)の依頼で行われた調査によると、所得が最低生計費(月23万4000ウオン)以下の者を基準に算定した貧困率は1997年の14.4%から1998年には17.2%、1999年にはさらに18.8%へと上昇し続けており、1999年上半期の貧困層の数は1029万8853人に達すると推定されている。以上のような統計値から経済危機の影響による中間層の崩壊や貧困層の急増ぶりを確認することができよう。

このような所得格差の拡大や貧困層の急増の深刻さは、IMF管理体制の2周年を迎えて開かれた国際フォーラム(韓国の経済危機と構造改革の評価)でも最重要課題の一つとして取り上がられた。その対策をめぐっては、失業者の救済のための直接的な雇用創出よりは、勤労所得が急減し、さらには貧困ライン以下にまで落ちた雇用者層に目を向け、所得の向上や社会安全網の拡充などに力を入れるべきであるとの意見が目立った。

政府が競争力の強化や新規雇用創出のために推進するデジタル経済への移行やベンチャー企業の育成などは皮肉にも所得格差を助長する側面をも合わせ持っている。つまり、それはすでに伝統産業と新興産業(Eビジネス)との格差、さらにはそれぞれに従事している労働者間の所得格差の拡大に拍車をかけ始めており、その流れは今後ますます加速するだろう。それだけに、政府は後者つまり所得格差の拡大への対策も同時に講じなければならず、綱渡りを余儀なくされているのである。2000年に入って、政府内に既存の関係閣僚会議である国家安全保障会議と経済政策調整会議に加えて、「人的資源開発調整会議」と「福祉政策関係長官会議」が新たに設置されたのは、前述のような相反する政策課題を同時に解決するために、知識情報化時代に適合した人的資源の開発と所得分配構造の改善及び福祉の向上を国政の新たな軸に据えたことを意味する。

政府の福祉政策として注目されるのは次の通りである。まず、10月から「国民基礎生活保障法」を施行する。これにより、生活保護の対象は現在の54万人から154万人に大幅に増え、生活費の支給額も1人当たり月平均17万8000ウオンから20万5000ウオンに引き上げられる。勤労能力のある者への支給額も現在の4万8000ウオンから9万3000ウオンに引き上げられる。

第二に、低所得層の生活支援事業を強化するために、現在3000人規模の社会福祉専門要員を新たに1800人増員して低所得層が多い地域に配置し、低所得層の生活実態や生活保護の水準・方法などについて正確に把握できるような態勢を整える。

第三に、日雇い労働者にも雇用保険を適用し、日雇い労働者の管理体制を整備する。その他に、キャピタルゲインへの課税や相続・贈与税など、所得格差是正のための税制改正を検討する。

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