ベンチャーブームと雇用への波及効果

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年3月

景気回復とともに、創業ブームに勢いがついている。特にその成長への期待からインターネットや情報通信分野のベンチャー企業向けにリスクマネーや人材が集中的に流れている一方で、早くも株価のバブルや既存の製造業の空洞化などを懸念する声も上がっている。

中小企業庁認定のベンチャー企業の経営実態

まず韓国銀行によると、ソウル、釜山等7大都市における1999年12月の新設法人数は3099社で、1993年1月に統計を取り始めて以来、最も多い水準を記録した。月別推移をみると、通貨危機に陥った1997年末月に1459社にとどまっていたが、1998年末には2079社に回復し、1999年末に初めて3000社を上回るなど、急速な増加傾向を見せている。年間ベースでみると、1999年の新設法人数は2万9976社で、1998年の1万9277社より1万社以上増えている。

次に、中小企業庁によると、ベンチャー企業認定制度(ベンチャー企業育成策の一環として1998年5月から実施)に基づいて、ベンチャー企業と認定されたのは1998年末までの2042社に新たに2741社が加えられ、1999年11月末現在延べ4783社に上った。業種別には電子・情報通信分野が34%で最も多く、次いで機械・金属28.3%、電気・家電13.5%、繊維・化学13.4%、医療・精密機器5%等の順になっている。

中小企業庁がベンチャー企業の認定を受けた企業4008社を対象に調査したところによると、ベンチャー企業の創業者は30代が45%で最も多く、短大卒以上が84%を占めている。ベンチャー企業の平均像をみると、資本金7億ウオン(100ウオン=9.82円)、従業員数35人、操業年数6年、売上高47億ウオン規模である。

まずベンチャー企業の大きな特徴として注目されるのは、売上高(71.2%)、輸出(61.5%)、雇用(25.3%)、経常利益(4%)などの面でその伸び率が一般の中小企業や大企業よりかなり高いことである。次に、売上高対比 R&D 投資比率は平均33.7%で一般の中小企業(0.3%)や大企業(2.1%)より遙かに高いうえ、技術職人材の比率も51%で、一般の中小企業(2.7%)や大企業(0.3%)を大幅に上回っている点である。その他に、従業員の報酬制度としては年俸制(30.1%)、個別成果給(23.3%)、従業員持株制(9.8%)、ストックオプション(8.3%)等が好まれている。従業員の離職率は17%で、一般の中小企業(2.9%)や大企業(1.7%)よりかなり高い。高い離職率は、若年層の技術専門職を中心に同一職種での企業間移動がより頻繁に行われているうえ、独立志向が強い分スピンオフで創業に踏み切る人が相対的に多いことによるものとみられている。

このようなベンチャー企業の業種別状況をみると、電気電子・半導体22%、機械・金属21%、情報通信・マルチメディア15%、繊維・化学・環境15%、建設・非金属・鉱物15%、ソフトウェア・インターネット12%等のように広く分布している。

しかし技術水準と成長性を軸にした類型化によると、技術水準は低いが市場の成長性が高い「ブティック型」(35%)や、技術水準と市場の成長性共に高い「ハイテク型」(34%)のような成長分野への進出組の他に、技術水準と市場の成長性共に低い「一般企業型」(17%)や技術水準は高いが市場の成長性が低い「伝統技術型」(14%)も3割以上含まれている。いまのところ支援策目当ての一般の中小企業も混じるなど玉石混淆の状態にあるようである。政府はベンチャー企業の数を現在の5000社弱から2005年、4万社に増やす方針を打ち出しているが、今後その量的目標の達成には「本当の意味でのベンチャー企業」の選別基準が大きな前提になるだろう。

情報通信分野におけるベンチャー企業の経営実態

毎日経済新聞社が、コスダック市場(店頭株市場)に登録したベンチャー企業のうち、各業種における地位や成長性、知名度などを基準に主要企業50社を選んで調査したところによると、1999年の平均売上高は488億ウオンで1998年の286億ウオンより70.6%増え、2000年の売上目標値は991億ウオンで100%以上の伸びを見込んでいる。当期純利益は45億ウオンで1998年の9億1000万ウオンより394%増えた。純利益の伸び率が著しいのは収益性重視の経営が軌道に乗ったことの他に、金融費用の減少や株式市場の好調さによる投資収益の向上などによるところも大きい。業種別にみると、成長著しい情報通信分野に90%以上が集中している。情報通信分野の成長性はインターネット使用者の急増、移動通信市場の急成長、半導体産業の好調などによるところが大きい。ただ、コスダック市場の活況で主要ベンチャー企業の株価が急騰し、その時価総額は1999年12月22日現在3918億ウオン(売上高の8倍)に達しているため、バブルを懸念する声も上がっている。

次に、情報通信部(郵政省に当たる)が情報通信分野における優良中小ベンチャー企業100社を選んで経営実態を調査したところによると、売上高は1998年の1兆6712億ウオンから1999年には3兆6251億ウオンへと、117%増えた。特に上位10社の売上高は1兆9837億ウオンに達し、全体の半分以上を占めており、企業間の格差は大きくなっている。上位10社のうち6社は携帯電話関連メーカーであり、移動通信市場の急成長ぶりがうかがえる。その他に輸出額は1998年の3794億ウオンから1999年には1兆1202億ウオンに195%伸びた。当期純利益は1998年の819億ウオンから1999年には2384億ウオンへと、325%も増えるなど、純利益の伸び率は売上高の3倍近く高い水準を記録した。

ベンチャーファンドの急増

このようなベンチャー企業の創業ブームに拍車をかけているのはコスダック市場(店頭株市場)の活況である。特に情報通信・インターネット関連株を中心に株価が急騰したこともあって、巨額のリスクマネーがベンチャー企業向けに一気に流れ出しているのである。

中小企業庁によると、1999年のベンチャー投資資金(創業投資会社の資本金、ベンチャー投資ファンド、財政投融資などを合わせたもの)は3兆1362億ウオンで1998年の2兆1879億ウオンより9483億ウオン増えた。ベンチャーキャピタルの状況をみると、ベンチャーファンドの数は1997年67、1998年80から、1999年には一気に76(4478億ウオン規模)が新たに増え、151に上り、出資総額は1兆2241億ウオンに達している。特に2000年に入ってからはベンチャーファンドの規模が急速に大きくなっている。主な動きを拾ってみると、まず情報通信部主導の1500億ウオン規模の情報通信専門ファンド、韓国ITベンチャーによる3000億ウオン規模の情報基盤技術ファンド、日本のソフトバンク主導の2000億ウオン規模のベンチャーファンドなどの他に、中堅企業グループ、成功したベンチャー企業グループによるベンチャーファンドなどが目白押しである。

また「創業投資会社」は1997年の57社から1998年には68社、1999年には94社へと、順調に増え、資金運用方式も融資中心から投資重視(63.2%)へと変わっている。中小企業庁の関係者は、「2000年にも引き続き中小企業の政策資金を融資から投資中心に回す計画であり、ベンチャー企業向け投資に当てる政策資金は1兆ウオンに達する」と述べている。

雇用への波及効果

1999年11月末現在中小企業庁認定のベンチャー企業は1998年末の2042社から4783社へと134%増え、新規雇用は1社当り35人で約9万6000人規模に達した。また「技術信用保証基金」によると、1999年7月から12月末まで生計支援型創業保証制度を通して4万8000社余りに1兆3632億ウオン規模の支援が行われ、16万5000人の新規雇用創出効果が得られたという。

ベンチャーブームの雇用への波及効果として特に注目されるのは、人材の流動化である。つまり、ベンチャー企業の間では株価の急上昇により、ストックオプションをもらっている社員を中心に数億ウオンのキャピタルゲイン(帳簿上)を得るところが増えていることもあって、大学生や新卒者のみでなく大企業の中堅社員も大企業に見切りをつけてベンチャー企業への就職や転職、さらには創業に乗り出しているのである。例えば、採用試験の倍率をみると、大企業は40~50倍であるのに対して、成功したベンチャー企業のそれは300~600倍に膨れ上がるなど、かなりの狭き門になっている。

大企業からベンチャー企業への人材移動は主にインターネットや情報通信分野で著しい。三星グループ、LGグループ、現代グループなどの大手企業グループでは数十名から数百名単位で中堅社員の転職が相次いでおり、優秀な人材の流出で社内での業務の流れに支障が出るほど深刻な状態になっているようである。そのため、大企業の間ではストックオプション制度や社内ベンチャー制度を新たに設けるなど優秀な人材を引き留めようと必死になっている。

このような大企業からベンチャー企業への人材移動の背景には、まず新たな雇用創出先や新しい成長軸としてベンチャー企業への期待が高まる中で、政府の支援策のみでなく、民間のリスクマネーの大量流入などでベンチャー企業の株価が高騰し、多くの成功事例が生まれていることが大きく影響しているようである。

次に考えられるのは、経済危機とその後の構造調整を経る中で、大企業への信頼が大きく揺らぎ、企業への忠誠心が急速に崩れてしまったことへの反動である。特に経済危機を機に、「大企業だから安定的な仕事と報酬が保証される」という時代は終わったことを思い知らされ、「リスクの面からは大企業もベンチャー企業もあまり変わらない」との思いを強くした人が増えていることが大きいようである。それに、大企業の場合、依然として意思決定上の権限や報酬などのインセンティブの面で硬直的かつ安定志向の側面が強い。それに対して、ベンチャー企業は柔軟で速やかな意思決定ができるうえ、ストックオプションや高い成果給など成果に見あった報酬が保証される仕組みを取り入れていることも大企業の優秀な人材を引きつける要因となっているようである。

その結果、1998年の経済危機に伴う構造調整の際には早期退職制度などによる非自発的な離職のケースが多かったのに対して、今回は社員自らが時代の流れと共に、多くのベンチャー企業の成功事例などに刺激され、大企業に見切りをつけてベンチャー企業に夢を託すような自発的な離職のケースが目立っているのである。

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