期限付雇用の状況

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年2月

スペインにおける労使関係を規定している労働者憲章は、1984年に承認されたものである。これは労使関係に民主主義の原則を取りいれただけでなく、それまで事実上禁止されていた雇用契約形態である「期限付雇用」を認めたものだった。その背景には、労働市場における様々な硬直性が失業の急増につながるという意識があった。実際、1970年代半ばには5%以下だった失業率は、わずか5年もたたないうちに約25%まで跳ね上がった。当時の唯一の雇用関係は終身雇用で、しかも労働者を解雇することはほとんどの場合企業にとって多額の負担(最大で40日×勤続年数相当の賃金を解雇金として支払わなければならない)を意味するものだった。

その後の失業率の低下は、主として1980年代後半に始まる好況によるものとされる。しかし期限付雇用の自由化で失業の持続的な減少が始まったのも確かである。1984年の労働者憲章以後5年間に、失業率は25%低下したが、この間期限付雇用労働者は全賃金労働者の3分の1を占めるに至った。

失業率低下の第2段階は1994年に始まり最近まで続いているが、期限付雇用については様相は大きく異なっている。1986年から1990年にかけての好況期と違い、終身雇用の増加が期限付雇用の増加を上回っている。これは政府・労組・使用者団体間で、解雇コストの低下を含む終身雇用創出促進に向けた協定が結ばれたためである。こうした傾向の変化がどのような結果をもたらすかは未知数だが、賃金労働者全体に対する期限付雇用労働者の割合は今のところ変わっていない。

過去3年間の賃金労働者雇用創出を分析してみると、終身雇用労働者が110万人増えたのに対し、期限付雇用労働者の増加はその4分の1程度になっている。

つまり、終身雇用が増加したといっても、その分期限付雇用が減ったわけではない。期限付雇用の伸びはより緩やかだが、相変わらず増え続けているのである。

その結果、期限付き労働者の割合は、1997年の大幅な労働法改革以来もわずかに1%減っただけで、現在でも33.6%と、EU平均の12.2%とは大きくかけ離れている。

部門別に見た期限付雇用

一方期限付雇用は部門および雇用者の種類によって異なった動向をみせている。まず民間での期限付雇用の割合は、公行政部門の約2倍にのぼる。公務員は一定の試験に合格すれば一生雇用が安定するが、これは不安定な労働市場の中での特権としてとかく議論の対象とされ、また公務員は労働の成果があがってもあがらなくても解雇されないという見通しがあることから、生産性が低くなってしまうとの批判も聞かれる。

この批判にこたえるかのように、公行政部門は近年期限付雇用を大幅に導入してきた。すなわち、1996年には期限付雇用労働者の割合が前年比マイナス0.3%だったが、1997年にはプラス0.5%に転じ、1998年にもプラス1.7%となっている。他方民間では期限付雇用の割合は全く逆の傾向をたどっていて、1997年には0.7%、そして1998年には1.6%減っている。つまり、過去2年間で民間で期限付雇用の割合が39.5%から37.2%に低下したのに対し、公行政部門では15.7%から17.9%に上昇しているのである。なお公行政部門での期限付雇用は、特に市町村および自治州行政で目立っている。

いずれにしても、欧州諸国と比べてスペインの期限付雇用の割合が格段に上回っているのは、公行政でなく民間の重みがはるかに大きい。

部門別に見ると、期限付き雇用の割合がもっとも大きいのは建設業と農業で、1998年にはそれぞれ62.5%と60.6%となっている。これらの部門では期限付雇用が急増するかたわら、終身雇用の創出はより緩慢であり、また農業では終身雇用の減少すら見られる。一方サービス部門での期限付雇用の割合は28.1%、工業では28.9%と、それぞれ平均をやや下回る。

農業および建設業では期限付雇用の割合がそれぞれ0.6%と0.8%上昇し、平均との差が開いている。逆にサービス業と工業ではこの割合は平均以下で、しかも低下傾向にあり(それぞれマイナス0.7%およびマイナス1.1%)、全体として期限付雇用の低下に貢献している。

各部門内の経済活動分野まで下って分析すると、更に別の動きが見えてくる。サービス業を構成する11の分野のうち5つでは期限付雇用の増加が見られるが、これらは防衛・医療厚生・教育など公行政との関係が非常に強い分野、もしくはホテル業のように季節変動が激しく、本来安定した雇用になじまない分野である。工業部門では、鉱業や電力で期限付雇用の増加が見られる。ただ工業部門の95%を占める製造業では、雇用の安定を求めて強い圧力を行使しうる労組の影響もあって、全体としてはマイナス1.4%となっている。

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