労組専従者の賃金支給問題と政労使の取り組み

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年2月

労働部は1999年12月17日、「労組専従者の賃金支給禁止及び罰則規定などに関する労働組合及び労働関係調整法改正案」を20日に立法予告し、閣僚会議を経て年内に国会に提出することを明らかにした。同改正案は労使政委員会が12月15日にまとめた最終案に基づいている。

労働界は同改正案に反発し、抗議集会を開き、傘下事業所労組によるストを仕掛けるほか、2000年の総選挙を睨んで政治攻勢をかけるなど、対政府与党闘争の構えを崩していない。これに対して、財界は「施行まで2年ほどあるので再改正を急ぐ必要はなく、時間をかけて議論すべきである」との立場を堅持している。つまり労働界は総選挙を機に政府与党に政治的な圧力をかけて法律の再改正をできるだけ速く実現しようとしているのに対して、法律の再改正に反対である財界は政治的思惑に翻弄されやすい総選挙の時期が過ぎるのを待つ構えでいるのである。

では、「労組専従者の賃金支給禁止及び罰則規定」の再改正をめぐる労使関係はどのような展開を見せているのか、そして労使政委員会や政府はどのようなスタンスをとっているのかを探ってみよう。

「労組専従者の賃金支給及び罰則規定」をめぐる労使対立の経緯

同規定は1997年の労働法改正の際に労組専従者に対する定義規定と共に新設された。ただ、既存の労組活動を保護するためにその施行は2002年まで猶予され、その間は労使間の協議により賃金支給の規模を漸進的に縮小するよう努め、その財源を労組の財政基盤の強化に使うことが定められた。これと関連して労働組合自治主義に則って労組の自律的な決定を尊重するために、組合費の上限枠(2%)と労組幹部の兼職禁止を定めた規定が削除された。

「労組専従者の賃金支給及び罰則規定」は使用者側にとって無労働無賃金の原則を貫くうえで欠かせないものとして位置づけられているのに対して、労働界にとっては特に財政基盤が弱くて専従者をおくことが難しくなる中小企業労組の活動基盤が一気に崩れてしまう恐れがあるものと捉えられている。

それだけに、特に傘下に中小企業労組を多く抱えている韓国労総は、その後「同規定の再改正」を最優先課題に位置づけ、新政権に協力したり、時には対政府闘争で圧力をかけながら、その実現を目指してきた。まず1997年末の大統領選挙の際に金大中候補と政策連合を組むことにより、1998年2月に与党国民会議から「同規定再改正」の約束を取り付けたといわれる。その後、経済危機の影響で「公共部門の構造調整や整理解雇」が新たな争点として浮上したこともあってかしばらくの間、「同規定の再改正」をめぐる議論が表面化することはなかった。

しかし、1999年5月の労使政委員会の法制化を機に、それまで労使政委員会を脱退し、場外での対政府闘争の構えをみせていた韓国労総と政府との話し合いが再開され、6月25日に労政間で合意された案には「同規定の再改正」が最優先課題として盛り込まれるに至った。

その後、第3期目の労使政委員会が発足してからも「同規定の再改正」をめぐって政府与党側が及び腰のままであったため、韓国労総は11月15日、再び労使政委員会活動の中断を宣言し、場外での対政府闘争に突入する構えを見せた。

そういうなかで、労働界出身の国会議員らが議員立法で「労組専従者の賃金支給に対する罰則規定」の削除を推進しようとしたことが韓国労総側の政治攻勢に火をつけてしまう格好になったようである。

このような動きに対抗するように、財界(全国経済人連合会)は12月3日、「無労働無賃金の原則に基づいて労組専従者の賃金支給禁止及び罰則規定の再改正には反対の立場にあること」を再確認すると共に、「同規定の再改正を目指す労働界の政治攻勢に対抗するために政治活動も辞さない方針」を表明した。

特に政治活動の具体的な試みとして、政治委員会を設置し、労使関係についての各国会議員の立場や活動を分析した資料を基に、「2000年の総選挙で使用者側寄りの政治家に対しては政治献金等で支援し、労働組合側寄りの政治家に対しては牽制活動を展開していく」方針が打ち出されたため、政界では波紋が広がっている。今回の財界の政治活動宣言は、総選挙を前に政治攻勢を強めようとする労働界に対する反撃のみでなく、党の方針とは別途に「同規定再改正」の推進に動いている労働側寄りの国会議員に対する圧力の意味あいも少なくないようである。

このような財界の反撃に対して、韓国労総傘下の産別労組と京仁地域労組の代表100人余りは12月6日、全国経済人連合会の会長室を占拠して、「公式に政経癒着を宣言した」と非難し、その真義を質したり、朴委員長ら韓国労総執行部14人は与党国民会議の李総裁代行ら党幹部との話し合いが決裂したため、総裁代行室に立てこもるなど、実力行使に出た。

このような労使間の政治的対決にこれ以上巻き込まれるのを恐れたのか、与党国民会議側は「労働問題は労使政委員会で処理すべきである」との原則論を繰り返した。

労使政委員会の最終案と労働部の立法予告

総選挙を前に政治的な決着を図ろうとした韓国労総側の目論みが引き金となって、労使間の対立が政治的攻防に変質してしまう中、労使政委員会は12月9日に公益委員だけの会合を開いて、労使双方の要求や言い分を総合的にまとめた仲裁案を提示した後、15日には次のような最終案を確定した。

まず、現行の「労組専従者の賃金支給禁止規定」を削除する代わりに、「使用者は専従者の賃金を支払う義務はない」という規定を、また「賃金支給を不当労働行為と見なし、罰する規定」を削除する代わりに、「専従者の賃金支給を理由とする争議行為を禁止する規定」を新たに盛り込む。すなわち、使用者は労組の専従者数の上限枠を超えない範囲内で労使間の合意に基づいて専従者の賃金を支給することができるようになるとのことである。特に、複数労組の容認と絡んで新たな争点として浮上した労組専従者数の上限枠については「専従者数は大統領令の制定の際に労使共同で実態調査を行った後、労使政委員会での論議を経て事業所規模別に適正な水準を定める」こととなった。

第二に、労組間の自律的な決定により複数労組の交渉権を一本化する。

第三に、労働協約の実効性を高めるために、1)労働条件及びその他の待遇、2)組合費の天引きと労組の会議・広報活動などの労組活動、3)争議行為などに関して、刑事罰が避けられない事項に限って罰則を設ける。

第四に、公共部門の構造調整に伴う予算編成指針のうち、賃金及び福利厚生に関するものは労使間で十分な協議を経て施行することなど。

政府はこのような最終案を基に労働関係法改正案を作成し、政府立法で国会に提出することにした。大統領府の関係者は「労使政委員会の最終案は労使両方を全て満足させることができる最善の案ではないが、今の状況でとりうる次善の案ではある。政府としては今回労働法改正の意志を明確に示すために国会に任せず、政府立法で処理することにした」と述べている。

労働界はこれに反発し、12月17日から予定通り傘下事業所レベルでの時間付きストや抗議集会など対政府闘争を強行する構えである。

ちなみに労使政委員会が10月に政・労・使、学界、市民団体などの労働分野専門家500人を対象に調査し、12月12日に発表した「第3期労使政委員会の懸案と発展方向」によると、労使政委員会で取りあげるべき主要議題として、公共・金融部門の構造調整(15.9%)、法定労働時間の短縮(13.8%)、失業対策(13.4%)、労組専従者の賃金支給問題(12.7%)、賃金体系及び退職金制度の改革(11.4%)などが挙げられている。特に労組専従者の賃金支給問題は最も合意に達するのが難しい議題とみられている。その他に、労使政委員会での合意事項はあまり履行されていないとの意見が多く、合意事項の誠実な履行を保障し、履行可能な合意事項を見いだすことが先決の課題になっている。

民主労総の合法化と労働団体の政治献金禁止規定に対する違憲の判決

労働部は11月23日、民主労総が1995年の設立以来5回目に提出した設立申告書に対して「法的な要件を満たしたため、合法的な労働団体と認めた」ことを明らかにした。労働部によると、7月に傘下の全教組が合法化されたほか、殆どの組合幹部が組合員の資格を取得したため、合法化の道が開かれた。しかし僅かながらでも組合員資格のない組合幹部が残っているにもかかわらず、今回労働部が民主労総の合法化に踏み切った背景には、労政間の対話チャンネルを拡大し、労使政委員会の機能回復を図るほか、2000年の総選挙を前に労働界を取り込む狙いもあるとの見方が支配的なようである。

民主労総の段委員長は「合法化された後も、既存の労働運動路線に変わりはない。労使政委員会での合意事項が殆ど実現されていないため、労使政委員会への参加は考慮していない」と述べている。ただ、12月2日には民主労総委員長としては初めて労働長官を訪問し、実務レベルで労政間の対話チャンネルを設けることで合意している。

一方、憲法裁判所全員裁判部は11月25日、「労働団体の政治献金を禁止する『政治資金に関する法律(第12条5号)』は憲法違反である」との判決を下した。裁判部は「使用者団体には政治献金を認めながら、労働団体にのみ政治献金を禁止するのは政党への政治献金を通して政党に影響力を行使し、政治的意思決定の過程に参加することを制限し、労働者に不利な結果をもたらす恐れがある。労働団体の政治献金禁止規定は労働団体の表現・結社の自由を侵害するものであり、労働団体にのみ政治献金を禁止するのは平等の原則に反する」と述べている。

これにより、労働団体の政治活動は全面的に容認されることになった。まず1997年の労働法改正で労働組合の政治活動が、1998年には公職選挙法改正で労働組合の選挙支援活動がそれぞれ容認されたのに続いて、今回の違憲判決で政治献金が認められるようになったのである。2000年の総選挙を前に労働団体の政治活動の全面的な自由化が実現したことにより、労働界の政治攻勢にも勢いがつくものとみられる。

注:「労働組合及び労働関係調整法改正案」は12月28日の閣僚会議で議決されたが、2000年初の臨時国会で処理されるかどうかは、いまのところ未知数である。

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