行政機関におけるテレワークに関する法律

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年2月

はじめに

1999年3月8日大統領令70号により、行政機関におけるテレワーク(telelavoro)に関する規則(以下、テレワーク規則)が制定された。すでに1998年6月16日の法律191号で、行政機関においてテレワークという労務提供形態を利用することが承認されており、その施行規則の制定が政府に委ねられていた。テレワーク規則は、この法律に基づき制定されたものである。

たしかに、イタリアでテレワークが短期的に爆発的に量的な発展をとげると予想することは困難である。しかし、テレワークは、その質的な面にこそ着目すべきであり、潜在的には大きな影響力をもつと考えられている。

まずテレワークには、職員が在宅でも仕事ができるというメリットがある。とくに仕事をするために場所的に移動する必要性がなくなるということのメリットは大きい(なかでも障害者などの労働編入を容易にするという意味では社会福祉的な影響もある)。そして、このことにより、職員は家庭生活と職業生活との両立を図ることが容易となる。実際、テレワーク規則では、「行政機関は、職員を、テレワークの社会的利益及び個人的利益を高めることが可能となるような基準に基づき、テレワークに配置する」と定められている。

テレワークには、このような職員のニーズに応えるというメリットだけでなく、行政側にとっても、労働の質が改善され、労務提供の効率化が実現できるというメリットもある。まさにこの点で、テレワークには、イタリアの行政を従来の硬直的な体制から、市民のニーズに弾力的に応えることができるような体制へと変革させる潜在的能力があるといえる。

イタリアの行政機関は、かつては効率性というものと全く無縁であった。しかし、最近の立法により、行政にも民間部門と同様の効率性やコスト・ベネフィットといった考え方がもちこまれてきている。このようななか、テレワークは、行政機関の人的・構造的資源の利用の効率を高めるための手段として期待されている。職員が完全に自律的に自らの生活時間と労働時間を管理することができるという状況や、情報機器やネットワークを活用して労務を提供するという状況は、労働の質を高いものとさせるであろう。さらにテレワークを利用することにより、様々な行政機関間の協力も容易になろう。この点はテレワーク規則でも、「諸行政機関は、適当な計画協定を通して、事務所、インフラストラクチャー及び資源の共通利用のための協力に合意する」と定められている。

さらに、イタリアでは、数年前から行政における統一情報ネットプロジェクトが進められており、行政機関による新たな情報ネットの利用が急速に増えつつある。テレワークは、このような行政の情報化・ネットワーク化の一環としても位置づけることができる。

イタリアでは、コンピュータは、行政の機能を急速に現代化していくための手段とみられている。従来、ややもすれば立法による行政改革に対して保守的な反発的姿勢が強くみられたイタリアの行政も、コンピュータに関する改革には強い反発は示していないようである。実際、この分野での立法介入は迅速であり、前記のテレワークを促進するための法律だけでなく、デジタル署名に関する法律なども制定されている。

テレワーク・プロジェクト

テレワーク規則は、テレワークに関して詳細な規制を行うというのではなく、むしろ規制は最小限のものにとどめ、テレワークの促進を行政の主たる目的の一つとすることを明確にするということに重点をおいている。

そのため、テレワークは、行政機関の定めるテレワーク・プロジェクトに基づき実施することとされている。このプロジェクトで毎年定める目標の枠内で、個々の行政機関の運営機関がテレワークを利用することによって達成する目標を定める。プロジェクトの内容は、個々の行政機関の運営機関が、独自にそのニーズに応じて定めることができるが、テレワーク規則では、その一般的な指針として、「労働の編成並びにサービスの経済性及び質を改善することを目的として、業務の合理化及び単純化のための方法、行政的手続並びに情報処理手続を定めること」とされている。具体的には、テレワーク・プロジェクトには、目標、対象となる業務、利用される技術とサポートシステム、認知人間工学に基づいた実施方法、対象となることが想定される従業員の数及び職務類型、実施期間及び実施方法、検証及び改良の基準、必要な場合の組織的修正、並びに、直接的、間接的なコストと利益が定められていなければならない、とされている。

テレワークの導入のもたらす影響

テレワークは、行政の運営を手続面や組織面などで改革していこうとするものといえる。

行政の手続面での簡素化は、行政に対して常に求められているものであるが、情報技術の発達は、行政手続の合理化を促進し、また合理化を要請するものである。テレワーク規則でも、テレワークは、「当該労務提供自体が関わる行政との接続を可能とするような情報・通信技術のサポートを主として受けながら」行われるものとされており、テレワークが行政手続の簡素化の手段と関連づけられていることは明らかである。

さらに、情報技術は、ダイナミックな組織的モデルを実現し、行政目的の達成に応じた弾力的な職員管理を可能とする。このような観点からは、テレワークは、部署間の連携、人的資源の再編成、構造的資源(文書や評価モデル)の利用の改善と共有、手続の迅速化と効率化、サービスの質の改善などを実現するものとして評価できよう。また、テレワークは、情報・電気通信システムの利用と関連した新たな職種を生み出しうる。これは雇用の創出という効果をもつであろう。

テレワークは、行政における勤務体制にも影響を及ぼすであろう。すなわち、テレワークを利用した新たな体制では、在宅でテレワークに従事する者に、大きな決定権限と責任とを付与していくことが予想される。そこでは、職務はいわばバーチャルな組織の中で行われることになり、上司による指揮・監督の方法も変容するであろう。

さらに職務の評価も成果に基づいて行われるようになるであろう。テレワーク規則では、テレワーク・プロジェクトの中で、「テレワークにより遂行する労務提供の質的、量的パラメーターを定めるために、成果指向の基準を定める」と規定している。

このような変化は、公務員の勤務の「文化」それ自体を変えることになるかもしれない。前述のように管理職による指揮監督のあり方がまず変化していくであろうし、テレワーカーの方も職務の成果に対する責任を自覚していかなければならず、そのために自己の能力開発に取り組まなければならなくなるであろう。テレワーカーには、単に技術の使用に関する能力だけでなく、様々な問題を自ら解決したり、処理したりしていく能力が求められるし、また自らの労働の管理や計画化、さらに人間関係の管理といった組織的能力も求められることになろう。

この最後にふれた人間関係の管理というのは、テレワークの問題点と考えられる「孤立」の問題を避けるために重要な意味をもつ。テレワーク規則でも、テレワーク・プロジェクトの中で、「行政は、従業員の活動する組織的状況との十分なコミュニケーションを確保するような方法を定める」と規定している。コミュニケーションは、テレワーカーの孤立を避け、上司による指揮監督の欠如をカバーする役割を果たすものとなろう。それのみならず、テレワーカー自身にとっても、組織的なコミュニケーションを受ける権利が認められなければならないであろう。

このようにテレワークの導入は「文化」的な面での影響ももちうることから、単に技術的な面などの訓練だけでなく、「文化」的な面での訓練も必要となる。テレワーク規則でも、テレワーク・プロジェクトの中で、「組織的、技術的条件の変化及び事務処理手続に関する条件の変化への適応性を確保することができるような能力を開発するために、訓練措置や改良措置に関するタイプ、期間、教育方法、財政資源を定める」と規定している。

テレワークの利用が可能な職務

テレワーク・プロジェクトを進めるためには、どのような職務をテレワークで行うかを定めておくことが必要である。

新法(1998年法律191号)では、個々の行政機関が、プロジェクトの中で自由に特定することができることとされている。実際には、テレワークで単純作業が行われることもありうるが、本人が十分に独立性をもって、コンピュータを高度に活用して行うような専門的作業でもテレワークは利用される。この後者のタイプの作業においてこそ、行政の効率性の向上をもたらすという点で、前述のようなテレワークのメリットと潜在的可能性が十分に発揮できることになるであろう。

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