副首相、月給への可変給部分の早期導入を要請

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

シンガポールの記事一覧

  • 国別労働トピック:2000年1月

リー副首相は1999年9月29日、全国人材サミットの開会式で、今回の不況期に示されたフレキシブル賃金システムの成果が国民の意識に残っている間に、同システムの柔軟性をさらに高める月間可変給部分(Monthly Variable Wage Component :MVC)の導入をはかるべきだと呼びかけた。

1987年に導入された現行のフレキシブル賃金システムでは、賃金は固定給(基本給)と可変給(年間増補賃金とボーナス)から成り、賃金コストを節減する必要がある場合は、大半の企業は年末に支給する可変給で行う。同システムは、数年前までの高成長期における小さな景気変動に対してはよく機能してきたが、今回の経済危機では、年末での可変給調整まで待てずに解雇で対処する企業が続出した。

そのためNTUCは、企業が突然の景気後退でコスト削減を迫られた際に、年末での調整を待たずに、かつ人員削減に訴えずに済むよう、MVCつまり月給への可変給部分の導入をかねてより提案してきた。同案によれば、企業は従業員の年間賃上げ分を二つの部分に分け、一方を基本給のベースアップに、残りを月間可変給にあて、景気が急に悪化してコスト削減が必要になった場合は、MVCを減らすという仕組み。同案については、全国賃金審議会(NWC)が「1999~2000年賃金勧告」(1999年5月)で導入を推奨したのち、MVCの引き下げ条件等を盛り込んだガイドラインを作成するためシンガポール全国使用者連盟(SNEF)のアレクス・チャン副会長を座長に三者協議会が設置された。

リー副首相は、使用者、政府代表、組合代表ら700人が参加した全国人材サミットの開会式で、不況時に政府が公務員の給与を即座に引き下げられたのは、月給と年間ボーナスの両方に可変部分を導入していたからだと指摘、民間企業は経済が軌道に乗り賃金が上昇している今こそMVCの導入を開始すべきだと提言した。NWC の勧告は、賃金全体に占めるMVCの割合を最終的には10%にすることを目標としているが、「そこまでMVCを引き上げるには数年かかり、今始めなければ、貴重な機会を逸することになる」(副首相)。

サミットに参加したSNEFのスティーヴン・リー会長は、副首相の意向を支持するとし、民間企業はガイドラインの完成を待たずに2000年の賃上げの一部を月間可変給として組み込むべきだと述べた。また会長は、調査対象308社のうちMVC導入予定の企業が6%にすぎないとのワトソン・ワイアット(人的資源コンサルタント)の調査結果をはねつけた(下記参照)。会長によると、それに先立ってSNEF自身が320社を対象にした調査では、半数以上が2000年6月末までにMVCを導入する可能性があるとの結果が出ている。会長は、企業がMVCを導入・推持するためには管理コストがかかることを認めつつも、結局は従業員と使用者の双方が利益を被ることになるとその有益性を強調した。

2000年の賃上げ率、前年上回る見通し

国際的な人的資源コンサルタント、ワトソン・ワイアットが1999年8月に308社を対象におこなった調査によると、企業が予測する2000年の平均賃上げ率は3.6%で、1999年の実際の引き上げ率よりも1.6ポイント上回る。ただし、1998年の3.9%に比べるとまだ低く、さらに経済危機前の1997年の6.2%を大きく下回っている。

2000年の予測賃上げ率が最も高かったのは情報テクノロジー産業で5.2%、ついで医薬品とハイテク産業がともに4.8%となっている。最も低いのは小売部門(1.7%)やホテル・レストラン(1.9%)であった。

同調査ではまた、月間可変給(MVC)の導入を予定している企業がわずか6%にとどまることも分かった。導入が困難であると回答した中で最も多かった理由は、「賃上げ幅が小さすぎて分割できないこと」(33%)。ついで「賃金構造が複雑になる」(25%)、「従業員がMVCを年間増補賃金と同様に保障された部分とみなすようになる」(16%)、「導入のためのガイドラインが不足している」(14%)、「事務手続きが増える」(12%)となっている。

2000年1月 シンガポールの記事一覧

関連情報