1999年第3四半期の構造改革状況と雇用情勢

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

韓国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2000年1月

大手企業グループの構造改革状況

政府は1999年11月17日、経済政策調整会議を開いて、4大財閥の第3四半期構造調整推進状況(負債比率引き下げ目標の達成状況)を点検した。大宇グループを除いた4大財閥は9月末現在揃って第3四半期の目標値を超過達成した。

しかし、年間目標値の達成度合いをみると、財閥の間にばらつきがある。三星グループは有償増資や金融資産の売却、系列企業の整理などを通して総計5兆8600億ウオン(100ウオン=9.11円)を調達し、9月末現在すでに年間目標値を上回っている(111.7%)ほか、SK グループとLGグループもそれぞれ96.4%、84.4%に達するなど負債比率の引き下げは順調に進んでいる。その反面現代グループは起亜自動車とLG半導体の買収など事業規模の拡大に伴う負債の急増が大きな負担になっていることもあって、9月末現在までの実績は年間目標値の63.6%にとどまっている。ただ、現代グループは好調な株式市場での有償増資や系列企業の整理などに積極的に取り組んでおり、いまのところ年間目標値の達成には問題がないとみられている。

資産規模で上位64位までの大手企業グループのうち、主債権銀行との財務構造改善約定で1999年末まで負債比率200%の目標達成が義務づけられているのは4大財閥を含めて32社に上っている(ワークアウトの対象や目標達成期限が2000年以上のもの除く)。そのうち、9月末現在年間目標値を達成したのは三星グループを含めて12社にとどまっている。政府はあくまで企業グループ全体の平均負債比率200%(系列企業間のばらつきは容認)の目標達成を求め、その目標値を達成できない場合は、是正勧告を経て罰則金利の適用、新規融資の中断、ワークアウトの対象としての選定など段階的に制裁措置をとることにしている。

但し、1998年から1999年にかけて大手企業グループの構造改革推進策の一環として、各企業グループが一斉に主債権銀行と結んでいた財務構造改善約定は2000年からその役目を終えるようである。金融監督院の関係者によると、「銀行側が1999年末から新たに導入する『債権健全性分類基準(将来の返済能力重視)』に基づいて企業の格付けが行われ、負債比率の高い企業グループに対しては同基準が厳格に適用され、管理・監督が徹底されることになる」など、いわゆる企業金融部門で市場原理が働くようになるとのことである。

発電設備部門のビッグディール成立と韓国電力公社の分割民営化案確定

11月9日、現代グループ、三星グループ、韓国重工業など3社間の発電設備及び船舶用エンジンをめぐるビッグディール(事業交換)交渉がようやく妥結した。まず発電設備部門では現代グループと三星グループの同事業権や専用機械設備を韓国重工業に移管し、事業所の統合を図る。これにより、1996年に競争体制に移行した発電設備事業は再び韓国重工業の独占体制に戻ることになる。次に船舶用エンジン部門では三星グループと韓国重工業が200億ウオン規模の合弁企業(出資比率4対6)を新設することで合意した。新設企業は三星グループと韓国重工業から発電設備と船舶用エンジンの事業権を賃借する方式を取ることになる。

その一方、政府の電力産業構造調整計画に基づいて、発電事業に競争原理を取り入れるための「韓国電力公社分割民営案」が決まった。韓国電力公社理事会は1999年11月2日、発電事業部門(全資産61兆ウオンのうち34兆ウオン規模)のうち、42カ所の水火力発電所(資産17兆ウオン)を5つの子会社に、14カ所の原子力発電所(17兆ウオン)を韓国原子力発電株式会社に分離することを主な内容とする「第1次民営化案」を確定した。5社の水火力発電子会社は2002年まで国内外に売却するほか、通信事業部門も1999年末まで子会社に分離し、売却する方針である。

これに対して韓国電力公社労組は「分割売却案は電気料金の引き上げや電力需給の不安定さをもたらす点や、基幹産業を外国企業に売却した先例がないことなど」を理由に強く反対すると共に、「とりあえず韓国電力公社の経営建て直しに注力した後、電力需要が停滞期に入る2010年以降売却の可否を決めるべきである」と主張している。韓国労総も同公社労組に歩調を合わせ、政府に対して同方針の撤回と6月25日の労政間合意事項の順守を求めて対政府闘争を再開すると警告するに至っている。

ワークアウト対象企業の二極分化と製造業の財務構造改善

金融監督院が1999年11月15日に発表した「ワークアウト進捗状況」によると、1999年6月末以前にワークアウト約定を結んだ70社(3月決算期企業除く)の1999年上半期の売上高は目標値の91.1%に達したものの、営業利益は目標値の53.1%にとどまった。特に銀行の与信規模が2500億ウオン以上の大手企業グループの場合、売上高は目標値の89.1%に達したのに、営業利益は目標値の37.9%にすぎない。そのうえ、経常損失額は7944億ウオンで、目標値(3132億ウオン)より倍以上膨らんでしまった。その反面、33の中堅企業グループの経営業績をみると、売上高は目標値の99.2%、営業利益は目標値の106.2%を記録し、経常損失額は1053億ウオンで、目標値(1118億ウオン)よりさらに減っている。

このようにワークアウト実施中の企業の間で経営業績上のばらつきが大きく、当初の狙いとは逆に経営業績の低迷が大手企業ほど目立っている。その対策をめぐっては「ワークアウト計画があまりにも楽観的な数値に基づいて作成されたため、債務の再調整に入っている」との立場と、「経営業績に改善がみられないか、経営再建の可能性が著しく低い企業はワークアウトの対象から外す」との方針が混在しており、しばらく試行錯誤が続きそうである。

このようなワークアウト実施中の企業に対してはすでに利子減免、融資分の出資への転換、新規与信などにより34兆9006億ウオン規模の債務調整が行われ、これから大宇グループの主要系列企業12社に対してさらに31兆2000億ウオン規模の債務調整が計画されているなど、債務調整の総額は66兆1006億ウオンに達する見込みである。

その他に、ワークアウトをめぐっては、経営再建のための人件費削減を伴うことが多いだけに、雇用や労使関係への影響が懸念されている。労働部は1999年11月15日、ワークアウトの推進過程で労働者の雇用不安や労働条件の悪化などをめぐって労使間の対立が激化する恐れがあることを重くみて、ワークアウトに伴い雇用不安が予想される事業所103カ所に対して、担当の労働監督官を指定し、労使関係動向やワークアウトの進捗状況などを持続的に把握、管理する態勢に入った。

一方、韓国銀行が1999年11月10日に発表した「1999年上半期の企業経営分析」によると、製造業の負債比率は247.2%で、1998年同期の387.0%より139.8%ポイント、1998年末の303.0%より55.8%ポイント下がり、1968年(207.5%)以来最も低い水準を記録するなど、財務構造の改善傾向が著しい。特に1999年に入ってからは、株式市場の好調に乗じての有償増資の拡大(36.6%)、資産の再評価(7%)によるところが大きいと分析されている。企業別にみると、負債比率200%以下の企業は1998年末の40.4%から46.4%に増えている。ただ、500%以上の企業と債務超過に陥った企業もそれぞれ13.5%、11.5%から13.7%、12.7%に僅かながら増えている。

経営業績の推移をみると、為替レートの下落で輸出は増えているのに売上高は1998年同期より3.4%減り、1970年に統計を取り始めて以来初めて減少に転じた。にもかかわらず、低金利と為替レートの下落で借入金の利子負担が減り、資産売却や有価証券投資からの利益が増えたこともあって、売上高対比経常利益率は1998年同期のマイナス0.4%から4.2%へと大幅に上昇した。特に低金利による利子費用の減少幅よりは外貨資産・負債の再評価による為替差損益幅が大きいなど、為替レートの変動が経営業績に及ぼす影響がますます大きくなっていると指摘されている。

不安定な雇用形態の増加と順調な分社化の成果

統計庁によると、1999年9月の失業者数は106万9000人で、8月より17万2000人減り、失業率は4.8%に下がった。これは「中秋節(旧暦8月15日)景気」の影響で卸・小売業や飲食宿泊業部門で臨時職や日雇い労働者が急増したことによるところが大きい。

就業者数は景気回復や中秋節景気の影響で製造業(13万2000人、3.3%)、卸小売り・飲食宿泊業(15万6000人、2.7%)での増加ぶりが目立ち、1999年8月より47万3000人(2.3%)、1998年同期対比で87万6000人(4.4%)が増えた。

雇用形態別にみると、賃金労働者のうち、常用労働者の割合は46.9%(608万人)で8月の48.0%より1.1%、1998年同期の51.8%%(626万人)より4.9%下がっている。それに対して、臨時職労働者は33.4%(432万人)で8月の33.2%より0.2%、1998年同期の32.4%(392万人)より1.0%、日雇い労働者も19.7%(255万人)で8月の18.8%より0.9%、1998年同期の15.8%(192万人)より3.9%それぞれ上昇した。

このように不安定な雇用形態が増えるにつれて、非正規職労働者に対する不当労働行為も目立っている。労働部は1999年11月11日、全国25カ所の主要総合病院に勤める非正規職労働者の労働条件に関する実態調査を行い、労働基準法に違反したり、不当な処分を行っていると判明された14の総合病院に対して改善命令を下した。今回改善命令を受けた病院は11月末まで違法事項を是正しなければ、労働部の特別労働監督を受けることになる。今回の実態調査で摘発された病院側の違法事項をみると、年月次手当、時間外手当、ボーナス等の未払いの他に、医療・雇用・労災・年金など4大社会保険への未加入、不当な労働条件を盛り込んだ契約などである。

非正規労働者の労働条件をみると、労働時間や休日などでは正規労働者と同一の条件が適用されているのに、非正規労働者の賃金水準は正規労働者の87%、ボーナスは61%にとどまっている。IMF 体制以前の非正規労働者数は正規労働者の6.5%(1559人)にすぎなかったが、今回の調査では正規労働者の9.6%(2193人)に増えている。

その一方、構造調整の有効な手段として注目されている分社化は順調な滑り出しを見せているようである。大韓商工会議所がソウル地域所在の親会社289社と分社化された企業141社を対象に調査したところによると、親会社の73.3%が分社化を通して構造調整に成果を上げていると答えている。親会社は平均6.1の事業部門(従業員339人)を分社化したが、事業部門別にみると、低付加価値の小規模部門(38.8%)、単純で反復的な支援業務(32.7%)、中核事業(6.1%)の順となっている。ただ、分社化された企業からみると、売上高の半分以上を親会社に依存しているところが全体の75%に達しており、親会社への依存度の引き下げが大きな課題になっている。

分社化の成功事例として注目されているのは、三星グループの系列企業である三星コーニングの取り組みである。同社は1998年11月に構造調整の一環として13社の分社化(全社員の3分の1に当たる1064人)に踏み切った。分社化された13社の売上高は平均55%、生産性は50%向上したうえ、親会社も大幅な純利益を上げることが予想されるなど、いまのところ分社化の成果に関係者全員が満足しているという。

政府の雇用対策

労働部は1999年11月14日、雇用保険の雇用安定事業による支援を強化するために「雇用維持助成金」の支給額を引き上げ、その支給期間も延長することを主な内容とする「雇用保険施行令改正案」を立法予告し、2000年から施行することを明らかにした。「雇用維持助成金」は不況や構造調整の際に人員削減の代わりに、労働時間の短縮(全体の10%以上)、休業(月2日以上)、教育訓練(1週間以上)、社外派遣(1カ月以上)、休職(1カ月以上)などを通して、雇用を維持する事業主に支給される。まず今回の支給額の引き上げ幅は賃金の3分の2(大企業は2分の1)から4分の3(大企業3分の2)に。次に支給期間の延長は、雇用維持のための訓練に対して従来の180日に加えて最長で90日まで。その他に長期失業者の雇用促進奨励金の支給期間も1年に延長されるが、個別事業所への偏りを防ぐために長期失業者・高齢者・女性の雇用促進奨励金の支給額に上限が設けられる。

労働部のまとめによると、1999年9月末現在延5万5399カ所の事業所に1442億ウオンの雇用維持助成金が支給され、これにより雇用が維持されたり、再就職が決まった労働者は53万3721人に達した。

もう一つ、政府の雇用対策をめぐる新たな試みとして注目されるのは、失業者の再就職支援訓練制度の改善策である。労働部は失業者の再就職支援訓練制度を改善し、訓練機関と失業者間の癒着関係による中途脱落者数の増加を食い止めるために、次のような失業者訓練改善案を2000年から施行することを明らかにした。まず、再就職率が高くない職種や中途脱落率が高い課程の失業者訓練に対しては訓練費の一部を訓練生が納めて、修了した時点で返すことにする。修了した後、資格を取得したり、再就職にこぎ着けた場合は奨励金を追加支給する。

第二に、専門家を養成するための高費用課程の訓練生に対しては政府の支援限度額の超過分を貸し付けて、就職した後返済するようにする「失業者訓練費用貸付制度」を導入する。いままでコンピュータ・アニメーションやグラフィックデザインなど訓練費用が高い課程に対しても1人当りの支援限度額が一律に適用されるため、訓練費用が足りず、劣悪な教育条件や不十分な教育内容に対する批判の声が高まっていた。

第三に、知識情報化社会に備えて、訓練職種を知識集約的なものを軸に改編し、2000年までシステム分析や電子商取引など44の知識集約的産業向け訓練プログラムを開発し、普及させることなどとしている。

  • 韓国電力公社の分割民営化関連法案は、同公社労組や韓国労総の反発を意識した与党自民連と野党ハンナラ党議員らの反対で今通常国会での処理が難しくなったようである。

2000年1月 韓国の記事一覧

関連情報