雇用情勢の改善
―景気回復と構造改革の影響

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年12月

失業者及び就業者の減少傾向

統計庁によると、1999年8月の失業者数は124万1000人で7月より10万8000人減り、失業率は5.7%で IMF 体制以降初めて5%台に下がった。失業者数の減少は学業や家事への復帰などで就業活動を諦めた非労働力人口の増加によるところが大きい。

前年同月比でみると、失業者数は33万3000人(-21.2%)減り、失業率は1.6%ポイント下がった。年齢別には30代(11万5000人)と20代(11万2000人)、学歴別には高卒(16万3000人)と中卒以下(13万5000人)などの減少幅が目立っている。

離職して1年未満の失業者の状況をみると、建設業と製造業部門ではそれぞれ18万3000人、13万人減っているのに対して、自営業・個人・公共サービス業部門では9000人増えている。そして離職の理由についても、「個人的事情、健康上の理由、労働時間及び報酬への不満」を挙げている者は33万1000人で5万1000人(18.2%)増えたのに対して、「休廃業」は6万1000人で11万3000人減(-64.9%)、「早期退職・整理解雇」は11万8000人で11万8000人減(-50.0%)、「経営悪化で仕事がない」は30万9000人で28万3000人減(-47.8%)となった。

就業者数は2052万人で7月より3万1000人(-0.2%)減った。性別にみると、男性は2万3000人増えたのに対して、女性は5万5000人も減った。統計庁の関係者によると、「特に女性の減少幅が大きいのは休暇シーズンを迎えて売上が落ち込んだ飲食店などで大量に削減された30代女性従業員が就業活動を諦めたため非労働力人口に加えられたからである。」業種別にみると、製造業部門では7月より3万200人(0.8%)増えたのに対して、いままで増加傾向にあった卸小売り業・宿泊飲食業と建設業部門でそれぞれ5万9000人減(-1.0%)、1万4000人減(-0.9%)となった。また賃金労働者のうち、常用労働者数は3000人増えたのに対して、臨時雇い労働者数と日雇い労働者数はそれぞれ3万6000人、1万8000人減るなど、雇用形態にも改善の兆しがみられる。

ただ、前年同月比でみると、就業者数は58万4000人(2.9%)増えている。また賃金労働者のうち、常用労働者数は30万1000人(-4.8%)減ったのに対して、臨時雇い労働者と日雇い労働者はそれぞれ20万3000人(5.1%)、69万2000人(41.4%)増えている。職種別には技能・単純労務職と専門・技術・管理職はそれぞれ1998年同期に比べて66万6000人(10.2%)、11万7000人(3.1%)増えているのに対して、事務職と農林漁業職はそれぞれ14万9000人(-6.3%)、13万3000人(-5.1%)減っている。

開業件数の急増と新規採用の回復傾向

毎日経済新聞社と韓国信用情報のまとめによると、1999年9月末現在全国6大都市における開業件数は2万292件で初めて2万件を超えた。月平均開業件数は2254件で1997年の1486件と1998年の1321件を大幅に上回っている。このような開業件数急増の背景には景気回復への期待感が増しているうえ、インターネットや SOHO などの普及で開業時の負担が軽減されていることも大きく影響しているようである。

地域別にはソウル(1万3745件)とインチョン(1838件)における開業件数が全体の76.7%を占めるなど首都圏に集中している。また業種別には、サービス業(月平均309件)、流通業(同244件)、建設業(同212件)などにおける開業ブームがひときわ目立っている。サービス業では機械設備のリース業、経営コンサルティング業、労働者派遣業・ビル管理業、広告企画・代行業などが多い。また流通業では失業者や退職者らの進出が目立っているようである。その他、情報通信業部門では特にインターネット関連の開業ブームで開業件数は1998年の72件から163件に急増している。

その一方で国税庁によると、法人税の納税義務がある事業所数は1999年6月末現在19万1415カ所で1月より9579カ所(5.3%)増えた。そのうち、製造業部門は5万3997カ所で1999年初めより3893カ所(7.8%)、卸小売り部門では4万4823カ所(5.1%)増えるなど、製造業部門での事業所数の増加ぶりも目立っている。

このように開業ブームと共に事業所数が増えるにつれ、新規雇用にも明るい兆しがみえている。労働部の雇用安定センターのまとめによると、同センターに登録された月別新規就業者数は1999年1月の3万2870人から8月には4万7273人に増えるなど、新規雇用は着実に増加傾向にある。

次に労働部が1999年7月上旬に上位30の大手企業グループの系列企業418社を対象に1999年下半期の採用計画を調査したところによると、210社で大卒者6014人、高卒者3820人など合わせて9834人を採用する計画である。各系列企業は1999年上半期に既に1万7667人を採用しており、年間採用規模は2万7501人に達することになる。ただ、大卒者に限ってみると、新規採用規模は1996年の3万196人をピークに1997年には2万3243人、1998年には1万200人に急減した後、1999年には1万6646人と僅かながら持ち直しているものの、IMF 体制以前の水準までには回復していない。

そして大手企業グループの間では景気回復の影響や構造改革の進捗状況などにより、系列企業別に余剰人員を抱えているところと、逆に増員が必要なところに大きく分かれていることもあって、採用方式を企業グループ主導の公募から系列企業別随時採用に変え、弾力的に対応しようとする動きが広がっている。特に新規採用が目立っているのは、業種別には景気が好調で成長性が高い、情報通信、証券、流通部門であり、職種別には営業職である。

最後に韓国労働研究院が10人以上の事業所1584カ所を対象に「2000年上半期の採用計画」を調査したところによると、新規採用の計画があると答えた事業所は1999年末に37.3%、2000年上半期には44%に達している。反面、人員削減の計画があると答えたのは1999年末に2.1%、2000年上半期には2.2%にすぎない。このような計画により、10人以上事業所の就業者数は1999年末までに2.5%増(11万5700人)、2000年上半期までには4.6%増(21万2900人)、業種別には不動産賃貸と事業・個人・公共サービス業部門で9.1%増、製造業部門で4.7%増、卸小売り・宿泊・飲食業部門で4.3%増が見込まれるとしている。

中小企業の雇用情勢

中小企業庁の就業斡旋センターによると、中小企業の求人規模は1999年1月の297社で561人から3月には577社で1163人、さらに6月には680社で1614人に増えている。これにより求人倍率は1月の0.5倍から6月には0.9倍に上昇した。

また、1999年上半期に求人票を出した2857社を対象にまとめたところによると、20人未満の企業が45.7%で最も多く、次いで20~49人の企業(24.5%)、50~1999人の企業(13.9%)、100~199人の企業(10.3%)、200以上(6.5%)の順である。なお、求職者数も1月の1084人から3月に1135人、6月に ヘ1638人に増えている。業種別には求人、求職共に電子・通信機器部門(28.2%、35.1%)と機械金属部門(25.9%、11.6%)が多い。ただ、学歴別にみると、求人企業側の希望は高卒(40.7%)が最も多く、次いで短大卒(29.3%)、4年制大学卒(22.6%)の順なのに対して、求職者は大卒(57.7%)、短大卒(29.9%)、高卒(19.8%)の順になっているなど、需給のミスマッチが大きい。職種別求人倍率をみると、サービス・販売職が4.1倍で最も高く、次いで技能職(2.9倍)、単純労務職(1倍)、管理職(0.9倍)、専門職(0.7倍)、事務職(0.6倍)等の順である。

その一方で、景気回復や構造改革の進展に伴い、経営上の理由による整理解雇件数は減る一方で、中小企業の間で法的手続きを無視した不当解雇のケースが増えている。中央労働委員会によると、1999年7月末までの整理解雇判定件数は101件で1998年同期の157件より大幅に減っているが、そのうち、不当解雇と判定された件数は57件で全体の56.4%を占め、1998年の37件(23.6%)を大きく上回っている。中労委委員長は「全体の整理解雇判定件数が減る中で不当解雇と判定される割合が増えているのは、その判定を申請する労働者層が大企業の従業員から中小・零細企業のそれに変わっているからである。大企業は1998年から整理解雇について経験を積んできたこともあって、法的手続きを順守するようになったのに対して、遵法意識が薄い中小企業経営者の間では法的手続きを無視して勝手に従業員を解雇する傾向が強いとみられる」と述べている。

そういうなかでも中小企業の人手不足状況は再び深刻さを増している。中小企業庁の「1999年上半期労働力実態調査」によると、製造業における中小企業の平均人手不足率は4.0%で、1998年下半期の1.89%より倍以上上昇した。中小企業の人手不足率は1995年の6.14%をピークに、1996年5.3%、1997年4.45%、1998年には1.1%に下がってきたが、1999年に入って IMF 体制以前の水準に迫る勢いで急上昇している。

業種別には輸送機器(10.4%)や映像音響及び通信機器(9.0%)など最近開業件数が急増している分野で人手不足率が最も高い。またゴムプラスチック製品(5.2%)、鍛造・鋳造(5.1%)、繊維(4.5%)などいわゆる3K 業種でも依然として人手不足率は高い。職種別には研究開発職の人手不足率が5.8%で最も高く、次いで生産職(4.7%)、技術職(3.6%)、事務職(1.7%)などの順になっている。規模別には5~19人の企業の人手不足率が7.9%で最も高く、次いで20~49人の企業(4.3%)、50~99人の企業(3.5%)、100~299人(3.4%)の順になっている。中小企業庁の関係者によると、「現在人手不足が深刻なのは主に高度な専門・技術職や、鋳造・溶接のように熟練を要する職種のようである。」

その一方で、中小企業の人手不足緩和に一役買っている外国人産業研修生の職場離脱問題が再浮上している。中小企業協同組合中央会によると、1999年8月末現在外国産業研修生3万8149人のうち、3466人が職場から離脱した。特に7月から離脱者数は月600人規模で増えている。

中小企業の間では、「政府が失業対策の一環として外国人産業研修生の代わりに国内労働者の雇用を誘導するために、1社当りの外国人研修生受け入れ枠を削減したり、国内労働者への雇用切り替え助成金(1人当り50万ウオン)の支給期間を6カ月から12カ月に延長したことが外国人産業研修生の職場離脱を助長している」との声があがっている。つまり外国人研修生が働いているのは主に3K 職場なので、代わりの国内労働者を雇うのは現実的に難しいうえ、ある程度仕事に慣れてきた外国人研修生はブローカーを通してより高い報酬を提示する他の中小企業に不法就労を覚悟の上移ってしまうのが現状のようである。

構造改革の雇用への影響

IMF 体制に入ってから1年半が経過した1999年6月末まで、上場企業の社員は4人に1人が減った。韓国証券取引所のまとめによると、6月末現在上場企業518社(12月期決算)の社員数は85万7614人で、1997年末(108万9158人)より23万1544人(26%)、1998年6月末(92万6487人)に比べて6万8873人(7.4%)減少した。職種別には管理職と生産職は1998年6月末に比べてそれぞれ5万1150人(13.3%)、1万7723人(3.3%)減っている。管理職の減少幅は全体の74.3%を占めるほど大きい。企業別にみると、三星電子の減少幅(1万5841人)が最も多く、次いで LG 電子、・大宇、三星電管、三星物産、現代建設、三星重工業などの順になっている。分社化による雇用調整に積極的な企業が目立っている。

その一方、韓国銀行が発表した「最近の労働市場の変化と特徴」によると、OECD の定義による青年失業率(15歳以上25歳未満)は IMF 体制以前の6~7%台から1998年には15.9%、1999年5月末には16.9%に急上昇している。これは雇用情勢の悪化で労働市場に新規参入する青年層の就業がますます難しくなって 「るうえ、世帯主の所得減少分を補充するために就職活動に入る10代の男性が増えていることによるところが大きい。10代男性の労働力人口率は1997年の8.6%から1998年には9.2%、1999年5月には10.1%に上昇している。また OECD が時間制労働者と定めている週36時間未満労働者の割合も IMF 体制以前の6~7%台から1998年には9.3%、1999年上半期には11%に上昇した。

その他に、企業が収益性や生産性を重視するようになったため、生産活動の雇用創出効果が急速に低下している。年間10億ウオン(100ウオン=9.05円)の付加価値(1995年価格基準)を生産するのに1990年には69人が必要であったが、1997~1998年には50人さらに1999年上半期には49人しか要らなくなると推定されている。

そして統計庁の「1998年基準産業総調査(暫定値)」によると、1993年から1998年までの5年間鉱工業部門及び電気水道ガス事業部門における事業所数と付加価値額は1万7550カ所(6.7%)、76兆7190億ウオン(63.5%)増えたのに対して、従業員数は54万5340人(16.5%)減った。従業員数の年平均減少率は3.5%で、1988年から1993年までの年平均減少率1%を大きく上回っている。特に不況局面での大型倒産→経済危機→構造改革が続いた。1996年から1998年までの年平均減少率は7.7%に跳ね上がっている。

最後に労働部が10人以上の事業所を対象に調査した「1999年の職種別雇用構造と労働力不足状況」によると、生産職は1990年の54.6%から1995年に50.6%、1999年4月末には40.7%に大幅に減少している。また事務職と販売・サービス職もそれぞれ1990年の25.1%、6.5%から1999年4月には22.7%、5.5%へと、小幅ながら減っている。これに対して、専門・技術・管理職は1990年の13.8%から1995年に20.6%、1999年4月には31.2%に大きく増加している。

企業規模別雇用構造をみると、自動化や情報化の進展に伴い、300人以上の大企業に勤める労働者数は1990年の37.3%から1995年に29.6%、1999年4月には28.9%に減り続けているのに対して、30人未満の小規模事業所に勤める労働者数は1990年の15.1%から1995年に21.3%、1999年4月には26.7%に増え続けている。そして人手不足状況を職種別にみると、機械操作・組立作業職(1.86%)と技能職(1.75%)など生産職の人手不足率が最も高く、全職種のそれ(1.1%)を上回っている。また規模別には30人未満の小規模事業所の人手不足率は1.84%に上っているのに対して、300人以上の大企業は0.22%にとどまっている。

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