女性の深夜労働の解禁

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年12月

従来の状況

イタリアでは、1999年2月5日法律25号により、女性の深夜労働に対する規制が大幅に緩和され、事実上解禁されることとなった。女性の深夜労働に関しては、EU加盟国内のいくつかの国(フランス、ベルギー、ギリシャ、イギリス)と欧州委員会との間で対立が生じてきており、中でもイタリアが最も深刻な対立を抱えていた。しかし、前記の法律は、「イタリアがEUに加盟していることから生じる義務の履行のための規定」という名前が付けられていることからもわかるように、国内法をEU法に適合させることを目的としており、これにより欧州委員会との対立はひとまず解消されることとなった。

女性の深夜労働に関する従来のイタリア法を見ると、ファシズム期に作られた法律(1934年4月26日法律653号)では、女性の深夜労働は18歳未満の年少者の深夜労働と並んで全面的に禁止されていた(12条1項)。その後、男女間の待遇の平等に関する1976年2月9日の EC 指令207号が出され、イタリアでもすぐに男女平等待遇法(1977年12月9日法律903号)が制定された。この法律により、法の理念は、女性を保護の対象とすべきであるというものから、女性を男性と同等に扱うべきであるというものへと大きく変容することとなった。

この男女平等待遇法は、採用、職業訓練、賃金、職業分類、昇進などにおける男女差別を禁止し(日本の均等法の当初の規定のように努力義務規定ではなく禁止規定である)、従来の女性労働者の保護の規定の大半が廃止された(さらに、採用差別などに対して、裁判所での簡易迅速な救済手続も定められた)。

しかし他方で、女性の深夜労働については、第5条1項で、「製造業においては、24時から6時までの労働に女性を配属させることを禁止する」と定めており、製造業における女性の深夜労働の禁止は原則として維持されることとなった。その理由は、イタリアの女性が、家庭面や社会面で負わされている伝統的な役割を考慮すると、女性ゆえの保護を撤廃するのは時期尚早と判断されたことにある。

もっとも、男女平等待遇法の5条1項但書は、指揮監督的な職務を遂行する女性や企業内の医療サービスに従事する女性には例外的に深夜労働の禁止規定は適用されないとしていた。また、労働協約により、特別な生産ニーズに対処する必要性などがある場合について、法律とは異なる規定(つまり、深夜労働を許容する規定)を設けることも許されていた(5条2項)。ただし、このような例外は、妊婦および産後7カ月が経過するまでの女性に対しては許されないものとされていた(5条3項)。

このように女性の深夜労働を原則として禁止する法制をもつイタリアに対して、EUはたびたび法改正を求めており、ついに1997年12月4日に欧州司法裁判所により、イタリアがEU指令を遵守していないとの判断が下されることとなった。

現在の状況

そこで、1999年2月5日法律25号は、男女平等待遇法5条1項を改正し、「女性は、24時から6時まで、妊娠状態が確認されてから子供が1歳になるまで、労働させることを禁止する」という内容に改めた(17条1項)。これにより、女性は、産前産後の一定期間を除くと、深夜労働は原則として許されることとなった。

ただし、同法は、次の者については、本人が望めば深夜労働をしなくてもよいと定めている(男女平等待遇法の改正後の5条2項)。第1に、3歳未満の子の母親たる女性労働者(この者に代わり、母親労働者と同居する父親でもよい)、第2に、12歳未満の同居する子の養育委託を受けた唯一の親である労働者(男女を問わない)、第3に、障害者を自ら扶養する労働者(男女を問わない)、である。

ところでイタリアでは、深夜労働に関して、女性以外に、年少者についても禁止・制限規定が設けられている。1999年法律25号は、このような年少者の深夜労働規制については、何も修正を加えていない。イタリアにおける年少者の深夜労働の規制は、次のようになっている。

まず年少労働者保護法(1967年10月17日法律977号)では、16歳以下の年少者については、22時から6時までを含む連続12時間の間は労働に就かせることはできない(たとえば、22時から6時までの時間帯は就労禁止であるし、22時まで働かせる場合には昼は10時からしか働かせることはできない)、16歳を超えて18歳以下の年少者は、22時から5時までを含む連続12時間の間は労働に就かせることはできない、義務教育の学校に通う18歳以下の年少者は、20時から8時までを含む連続14時間の間は労働に就かせることはできない、と定めている(15条、16条)。

ただし、事業の運営を妨げるような不可抗力の事態が生じた場合には、16歳以上であれば、必要な時間に限って、例外的に上記の時間帯でも労働をさせることができる(17条。この場合は、使用者は即時に県の労働監督署に通知することが義務づけられている)。

また見習い労働に関する法律(1955年1月19日法律25号)は、22時から6時の時間帯に見習い労働者を働かせることを禁止している(10条4項)。ただし、現在では、見習い労働者として採用できる年齢の上限は24歳にまで引き上げられており(1955年法の制定当時は、15歳以上20歳以下であった[6条1項])、見習い労働者全体に対して深夜労働を禁止することには合理性がないのではないかという批判がある。

将来の展望

1999年法律25号は、前記のような規定に加えてさらに、深夜労働に関する男女共通の本格的な規制を行うために、政府に対して次のようなガイドラインに基づいて法律(委任立法)を制定することを要請している(17条2項)。

第1に、深夜労働を行うためには、事前に労使および関係労働者との間で協議が行われること、第2に、深夜労働が行われた場合に、1週および1月の労働時間を短縮させるという規定や割増賃金を支払うという規定を設けるかどうかは、労使の団体交渉(労働協約)に委ねること、第3に、深夜労働には、(企業の経営組織上のニーズを考慮したうえで)それに従事することを自ら申し込んだ労働者を優先させること、第4に、団体交渉における労使間の合意に基づき、深夜労働に関するさらなる制約を定めることができること、第5に、深夜労働に従事する労働者の適性を確認するために、事前のおよび定期的な健康のチェックを行うこと、第6に、当該労働者が深夜労働の適性が欠けることとなった場合には、別の職務や昼間の勤務へと異動させること、第7に、予防・安全サービスに関する情報を提供し、特別な危険を伴う作業については労働者安全代表との協議を行うこと、である。

このような規制は、深夜労働に従事する労働者にとってかなり保護の行き届いた内容といえるが、逆に企業側からは、労働力の弾力的な活用を妨げることになるのではないかという懸念が表明されている。

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