中央積立基金、使用者側拠出率引き上げか

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年11月

政府は5月に1999年の経済成長率を0~2%と予測していたが、8月に入った頃から多くのエコノミストが4~5%と高い予測を出し始めている。これを機に、全国労働組合会議(NTUC)委員長で無任所大臣でもあるリム・ブーン・ヘンは政府に対し、中央積立基金(CPF)の使用者側拠出率を元の水準に戻す措置を予定よりも早く実施するよう要請した。

CPF への拠出は使用者にとって賃金などともに労務費の一部をなし、とくに不況期には大きな負担となる。政府は不況脱出策として105億 S ドル(1Sドル=63.38円)規模のコスト削減計画を実施、その一環として1999年1月に CPF の使用者側拠出率を20%から10%に引き下げた。その効果は確実に現れ、第2四半期の成長率は6.7%を記録した。

リム大臣は復帰のペースは単位労働コストや企業の収益率などの要因にかかっているとしながらも、経済危機以前の20%への完全復帰を支持している。

こうした動きに使用者らは警戒している。シンガポール全国使用者連盟(SNEF)のスティーヴン・リー会長は、復帰に着手する前に第3・4四半期の経済成長率を慎重に見積るべきだとしている。同会長によると、建設部門は第2四半期に15%も縮小し、なお弱体である。しかも隣国の通貨価値が下がったためシンガポールの賃金コストは相対的に高まっている。シンガポール産業連盟のロビン・ラウ会長も、コスト削減をする一方で CPF 拠出率を引き上げれば、不況対策に一貫性が欠けているとの印象を海外投資家に与えかねないと拠出率復帰に否定的だ。

シンガポール国際商工会議所のグレアム・ヘイワード所長は具体的に、向こう12~18カ月は現在の10%の拠出率を維持するべきだとしている。また民間部門最大の使用者の一つ、ヒューレット・パッカードは、復帰プロセスの開始を2000年、20%への完全な復帰を2001年とすることを提案している。

一方労組指導者らは、1998年に CPF の引き下げを受け入れたのは、経済が回復すれば完全に復帰することが保障されていたためだ、と反論する。1980年代半ばの不況の際、使用者の CPF 拠出率は25%から10%に大幅に引き下げられ、1994年に20%まで引き上げられた。当時の不況は国内のコスト構造に由来していたため、同措置は正当化できるものだったが、今回の不況は世界的な需要縮小に起因している。したがって労組指導者らによれば、CPF 拠出率を長期的に引き下げたままにしようとする動きは、労働者のなかに不信感を生み、将来再び引き下げが必要な時に労働者を説得しにくくなる。また労組は、長期的な拠出率引き下げが CPF を利用して住宅ローンを返済している低所得層に及ぼす影響を危惧している。

CPF の使用者側拠出率引き上げの時期については、5月末にリー臨時首相代理が時期尚早であるとし、当初の予定通りあと1年半現水準を維持するとの見解を出していた。しかし経済指標の好転が確認されるにつれ、政府の態度にも変化が見え始めており、引き上げ時期が予定より早まるのは確実と見られている。

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