5大財閥における構造改革の進捗状況と新たな構造改革案

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年11月

新たな構造改革案

8月25日に開かれた政府と財界の懇談会で、1999年上半期の5大財閥における構造改革の進捗状況が点検され、新たな構造改革案が合意された。

1998年1月に合意された構造改革の5原則(経営の透明性向上、系列企業間の相互債務保証の解消、財務構造の改善、主力業種への特化、経営陣の責任体制強化)に基づいた目標値は後述するようにほとんど超過達成されている。ただその中身例えば負債比率の引き下げ方法をみると、系列企業の整理や不動産・機械設備、金融資産などの売却よりは有償増資による系列企業間の株式持ち合い強化や系列の金融機関による資金調達などが目立っている。この点について専門家の間では、「5大財閥に対しては債権金融機関を通じての圧力はあまり効き目がない」とか、「政府の財閥改革方針に逆行するような動きがまかり通っている」とみる向きが多い。

その一方、政府の財閥改革方針をめぐって野党や財界の間で「財閥解体論」を危惧する声が高まるなか、政府は改めて「財閥改革の目標はその所有構造を解体するのではなく、その護送船団方式経営やオーナー同族支配体制にメスを入れるところにある」と釈明している。

今回新たに加えられた次のような3原則はこの目標を達成するうえで欠かせない条件として位置づけられている。第一に、有償増資による系列企業間の株式持ち合い強化の流れに歯止めをかけるため、1998年2月に廃止された出資総額制限制度を2001年4月に復活させる。

第二に、系列の金融機関(保険会社や投資信託会社)が財閥専用の資金調達窓口と化してしまう財閥特有の金融支配構造の弊害をくい止めるため、「第2金融圏」(保険会社、証券会社、投資信託会社、綜合金融会社等)のコーポレートガバナンスにメスを入れる。主に社外取締役の割合を銀行と同様に2分の1以上に引き上げることや、社外取締役中心の監査委員会を設置し、法的地位が保障される監督官を新設することなどが盛り込まれている。

第三に、変則的な相続や贈与を防ぐため、相続・贈与税率の引き上げや、非上場企業の株式贈与に対する実勢株価による課税など税制を改正すると共に、脱税の疑いがある者に対する金融取引関連資料の照会など税務管理を強化する。

その他に、財閥のコーポレートガバナンスに関連してオーナー経営者の独断経営に歯止めをかけるため、社外取締役の割合を現行の4分の1から2分の1に増やし、社外取締役中心の取締役候補推薦委員会を設置する(証券取引所の関連規程改正)ほか、現行の監査制度を廃止し、社外取締役中心の監査委員会を設置する(商法の改正)ことも合意されている。

このような新たな構造改革案に対して、財界は特に出資総額制限制度の復活や社外取締役の増員及び地位向上などについて強い懸念を表明している。

出資総額制限制度はもともと財閥のオーナー経営者が自己資金ではなく、系列企業間の相互出資で護送船団方式の経営に走るのをくい止めるため、30大財閥グループを対象に1987年に導入された。しかし1998年2月に IMF の構造改革プログラムの一環として外国人投資家による国内企業の敵対的な買収が容認されるようになったため、出資総額制限制度も財閥に対する逆差別になることを理由に廃止された。

その後、財閥の間では負債比率の引き下げや経営権の防衛のために行われる有償増資に、財務状態が相対的に良好な系列企業の参加が増え、系列企業間の株式持ち合い率は急速に高まった。

韓国証券取引所が1998年1月から1999年8月にかけての10大財閥グループの株式保有状況をまとめたところによると、オーナー経営者の持株率は3.22%から2.82%に下がったのに対して、系列企業(公益法人含む)の持株比率は19.95%に大幅に上がった。これによりオーナー経営者の他にその親・姻戚と系列企業などを含めた内部持株比率は27.23%から34.60%に上昇した。特に財閥のオーナー経営者が一株も保有していない上場系列企業は40社で全体の44%を占めている。つまりオーナー経営者は持株比率が下がっているにもかかわらず、系列企業間の株式持ち合い率を高めることにより、企業グループに対する支配構造を強化しているのである。このような動きは政府の財閥改革方針に逆行するだけに、政府は出資総_z制限制度を復活させざるを得なくなったのである。

これに対して、財界は「出資総額が制限されると、(財閥の構造改革の大きな柱である)主力業種別小グループ化のための株式移動が難しくなり、財務構造改善作業に支障が出るほか、外国企業の敵対的な買収に対して国内企業の経営権を防衛する手段を失ってしまうことになる。また新規事業への参入など企業の投資意欲が削がれる恐れもある。」と反論している。つまり、構造改革の一環として分社化、企業分割、外資誘致による合弁事業、系列企業の有償増資などに取り組むことが結果的に出資総額を増やすことになるため、出資総額制限制度は構造改革の障害要因となりかねないということである。

その反面、専門家の間では、「出資総額制限制度が廃止されている間、財閥は系列の企業及び金融機関の資金を動員してオーナー経営者によるグループ支配構造の強化に努めてきたことを考えれば、同制度の施行時期を2001年4月に引き延ばしてはならず、今すぐ施行すべきである」との声が多い。ただ、公正取引委員会はその施行時期を引き延ばした理由について「現在36%に達する5大財閥の出資総額比率を2年前の基準である25%に引き下げるためには約12兆ウオン(100ウォン=8.84円)に上る株式をすぐ売却しなければならず、現実的に難しい面があることを考慮した」と説明している。

構造改革の進捗状況

5大財閥の構造改革の進捗状況を負債の削減幅からみてみると、6月末現在負債比率は302.2%で当初の目標値である335.7%より大幅に引き下げられた。これは資産売却や有償増資、外資誘致など財務構造の改善作業が概ね順調に進んでいることの現れである。

財閥別にみると、現代と大宇グループは負債規模が1998年末より増えたのに対して、三星、LG、SKグループは負債比率の目標値を超過達成するなど、明暗が分かれている。まず現代グループは起亜自動車などの買収で負債は3兆4000億ウオン増えたが、有償増資(5大財閥のうち最も多い5兆9000億ウオン)などで自己資本を増やすことにより、負債比率を1998年末の448.8%から340.8%に引き下げた。ただ、1999年末まで負債比率を200%未満に引き下げなければならないだけに、構造改革はこれから正念場を迎えるだろう。

第二に、大宇グループは5大財閥のうち、構造改革が最も遅れ、すでに資金繰り難に陥っており、後述するようにグループの解体に向けて本格的な構造改革作業が進められている。負債規模は61兆8000_ュウオンで1998年末より1兆9000億ウオン増える一方で、自己資本は9000億ウオン減ったため、負債比率は1998年末の527%から588%に上昇した。

第三に、三星グループは金融資産の売却などで5兆4000億ウオンの負債を返済し、有償増資で自己資本を4兆2000億ウオン増やすことにより、負債比率を1998年末の276%から192.5%に引き下げた。

第四に、LGグループはLG半導体の売却などで自己資本を3兆6000億ウオン増やす一方で、負債を1兆2000億ウオン返済することにより、負債比率を1998年末の341%から246.5%に引き下げた。

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