SAFが提案する新労働法の主要内容

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年9月

スウェーデン経営者連盟(SAF)がスウェーデンの労働法における基本法の大半を改訂することを目指して、大きな影響力を持ち、大いに人目を引く提案に着手していた5月に、労働法の問題が大きな話題になった。これは、実際には3つの法律を廃止して新たにこれを2つの法律に置き換えようとする提案である。その内容を説明する前に、様々な意見を引き起こす原因になったこの抜本的な提案の背景そのものを思い起すことが有益かもしれない。

1930年代に、労使双方は協調的労使関係を確立することができ、これを基礎に「スウェーデン・モデル」と呼ばれる特別な労使関係が形成されていチた。スウェーデン労働総同盟(LO)は、当時の社会民主党政権に対して労使関係には干渉せずに労働組合側に問題解決を任せてほしいと言った。1938年にSAFとLOの間でサルチオバーデンの協約を締結することによって、任意協定による労使関係制度が成立し、これが1970年代まで続いた。

この全期間を通じて、事実上立法措置は全く採られなかった。というのは、労働問題は労働協約とその他の任意協定によって解決されていたからである。こうして独特な労使間の勢力均衡と信頼が確立された。スウェーデンは最高の労働環境に身を置いているかのように思われていたのである。しかし経営側から見ると、あのモデルが1970年代にはすっかりひびが入ってしまっていたにもかかわらず、LOは相変わらず昔ながらの世界に生きていると信じているようだ。

それからどうなったのだろうか。当時は左翼的な傾向が幅を利かせていたので、スウェーデンは外国よりも真面目に労働問題を取り上げていた。政治家が次第に労使関係に関心を持つようになり、LOは一層急進的になった。労働組合は任意な取り決めを通してよりも、もっと手っ取り早く一層完全な結果を求めるようになった。

1973年から1978年まで多くの労働法が制定され、その法律もまるで1940年代や1950年代の現場にみるような労働生活を基にしたものがきわめて多かった。1940?1950年代といえば、それは丁度、労働組合の幹部や一部の政治家が、自分達の若い頃に経験した労働体験を思い起す時期に当るのである。新たに制定した法律は、相当多くの権限を雇用者個人にではなく、労働組合に与えた。こうして労働市場における独特なバランス感覚は失われてしまった。

長年にわたってこうした法律を時代に即したものにしようとした経営側の努力は無駄に終った。1991年から1994年にかけての非社会主義政権が1994年早々に2?3の手直しをしたものの、社会民主党が政権に復帰すると、1995年早々以降また以前の法律に戻された。それ以来、多くの委員会での話し合いは事実上何の実りも生まなかった。その間に労働者の問題は、変化に乏しい工業生産方式や代替可能な比較的低技能の労働者の問題から、情報通信を用いる革新に満ちた業種やその他の知識型のサービス業、また自らを集団的な労働力の一部とはみなさない有能な雇用者の問題へと変化した。

そこで今回、SAFは企業家的労働法を提案して労働関連法規の枠組みの一掃を目指している。これによって多くの制定法のうち雇用保障法、組合代表者法、労使共同決定法の3法が廃止される。その代わりに、新たに雇用協定法と労働協約法を提案している。これらは両方とも労働協約によって補足することが可能な強制的な最低保障法である。SAFの提案は以下のように要約することができよう。

  • 法律は現在のような寄せ集めの形でなく、論理的で理解しやすいものにすべきである。できるだけ特別な労働法を一般的な契約法に置き換えるようにした方がいい。つまり、諸規則の基本は、労働協約のような集団協定によるよりも個別契約によるものとすべきである。社会的パートナー相互間の自然状態が敵対的な関係にあるとする時代遅れの見解に陥ることのないように、労使間相互の利益を労使関係の基本的主題として据えるような法律が望ましい。
  • 個別契約を労働法の基本とする。雇用形態は常時雇用と臨時雇用の2形態だけに絞られるべきで(今のところ雇用形態はもっと多い)この2形態は同じように取扱うべきである。再雇用に当っては、以前雇用されていた従業員に9カ月の優先順位を与える規則および現在の先任権制度を廃止すべきである。
  • 雇用を中断した場合(文書によって行うべきものとする)、当該従業員を1カ月以内に離職させることができるようにする。使用者は、その人よりもむしろ他の人をそのまま雇用しておきたい理由まで述べる必要はない。しかし、退職手当は現行のものより相当に寛大なものにする。主要規則では雇用年数が12年までは1年について1カ月分を支払うことにし、民事裁判で例外を設けることが適当と判断された場合はそれより多く(あるいは少なく)支払うことにする。
  • 労働争議は通常の民事裁判所で扱うべきである。本来、労働協約に関する紛争を扱っていた労働裁判所が近年、法解釈をも行っているが、この労働裁判所は廃止すべきである。個別契約に関する現行法には、すでに弱者に対する保護規定がある。必要に応じ一層寛大な退職規則を設けることにも同意できるだろう
  • 従業員側が望むなら、労働組合や労働協約による支援を受けることができる。SAFが提案の中でもちかけている2つの選択肢とは、労働協約の効力を現状のように広範に認めたままにしておく方がいいか、それとも労働協約からの個別的な離脱を職場で認めるようにするかのどちらかだというものである。SAFの理事会は第2の選択肢をとった。
  • 労使共同決定法(MBL)には、労働組合が様々な状況について情報提供を受ける権利が定められている。しかし、この権利は組合員だけにとどまらず全ての従業員の権利に置き換えられるべきである。しかしながら、協議を行う(労働組合を含む)各当事者の一般的な権利は留保されるだろう。
  • 法延闘争で労働組合の優先権を認める労使共同決定法の現行規定は廃止すべきである。また外部契約者の利用に対する労働組合の拒否権も廃止すべきである。同情ストライキや二次的労働行為はもはや認めるべきではない。団結権は次の意味で強化すべきである。労働組合に加入しない非加入選択権は加入権と同様に強化されるべきである。
  • 組合代表者法は廃止すべきである。労働組合の職責を果たすために労働組合の渉外担当者が休み時間を取る権利は、新しい労働協約法で規定すべきである。この権利は、労働組合の仕事に必要だと合理的にみなすことができる場合に限るべきものとし、現行のように経営側の費用負担とするよりは、労働組合自体が負担すべきものである。
  • 他の労働関連法も順次改訂する必要がある。各種の労働組合活動を理由に従業員に仕事を休む時間を与えている多くの法律は、簡素化して一つの法律にまとめることが必要で、労働時間法を様々な方法で簡素化すべきである。

SAF提案の主要理由は、経済成長を高めるための諸条件を整えることであり、それによって多くの失業者にもっと多くの仕事を与えることである。事業活動は契励されなければならず、過度に規制された労働市場を本来の市場に戻すことが望ましい。なぜなら使用者数を増加させれば、若年者、移民、職能が低いとみなされているそれ以外の人達の雇用機会が生まれる可能性があるからである。

提案のもう一つの理由は、現行規定がますます時代遅れになっていることである。現在スウェーデンでは、労働力人口の4分の1に当る100万人の労働者が固定した職に就かず、その割合が増え続けている。サービス業務はますます社外から受け入れるようになっている。新規則は、労働力人口に該当する全ての人にとって等しく価値があるものにすべきである。

各個人が自分自身の暮らしについて意見を持つことができるのと同様に、労働条件についても自分で語る能力があることを認めようではないか。法律は、職場で雇用者がどのように代表されるべきかについて中立的でなければならない。そうした上で、雇用者が労働組合に自分達の代表機関であって欲しいと願うなら、そのようにさせればいいのである。

従って労働法は、雇用者の代表権を全般的に労働組合に与えてはならない。個人は自由に労働組合に助言を求めるかどうかを決め、雇用者が労働組合に自分達を代表する権利を与えるか自由に決めることができるべきである。しかしながら、これは信頼に基づく任意の選択肢でなければならず、労働組合に法律によって権限を与えるというものであってはならない。

予想通り、LOやその他の労働組合また政治家の多くが、こうした考え方に強く反対し、またそうでないにしても反対しているように思える。以下に示すような痛烈な意見があった。SAFは気が狂ったのか、SAFは19世紀に戻したいのか、SAFの意見は全体的にスウェーデンの伝統に反するものだから真剣に取り上げるには値しない、などである。しかし、それ以外の人達はこれを真剣に取り上げて、一体それが何を意味するのか理解している。つまり努力を傾け、労働法についてゼロから議論し直すことなのである。

若くて衆目を集めている産業雇用省第2大臣モナ・サーリン女史は、提案書を完全に読みもしないで提案の価値はほとんどないとして経営側を失望させた。同第2大臣がもっと詳細に説明を受け、提案書がもう一度検討されることを期待する。しかしながら、サーリン第2大臣も他の政府閣僚と同じようにLOに逆らうことを恐れている。だがLOのチーフ・エコノミストであるP.O.エディン氏が興味深い発言をした。「この変更によって、経営側は少なくとも20%の賃上げを負担するようになる可能性がある」というもので、エディン氏もおそらく無意識のうちに、新しい労働法が長期的には避けられないとみていることを示しているように思える。

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