有期労働契約の規制に関する欧州労使協定のイタリア法に及ぼす影響

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年9月

はじめに

1999年1月14日、UNICE(欧州産業連盟)―CEEP(欧州公共企業センター)とETUC(欧州労連)の間で、有期労働契約の規制に関する欧州労使協定案について合意が成立し、同年3月16日にそれぞれの団体のトップによる正式な署名がなされた。この欧州労使協定は、将来的には、EU指令に取り入れられ、3年以内に個々の加盟国が国内法化することが義務づけられることになろう。

有期労働契約の規制に関する欧州労使協定の内容

1) 協定の目的

本協定は、次の2つの目的をもつ。第1に、有期労働の質を改善し、差別禁止原則の適用を保障すること、第2に、継続的な有期労働契約の利用から生じうる濫用を予防するための枠組みを定めること、である。

2) 適用範囲

本協定は、各加盟国の法律、労働協約、慣習において労働契約と定義される契約を締結している有期の労働者に適用される。

加盟国(労使との協議のうえで)または労使は、この協定は次のケースには適用しないと定めることができる。すなわち第1に、初歩的職業訓練関係(たとえばイタリアの現行法において、16歳以上32歳以下の若年者に対して認められている訓練労働契約がこれにあたる)や見習い関係、第2に、公的な、または公的なサポートを受けている個別の訓練プロジェクトの枠内で締結された有期労働契約である。

なお協定の前文では、派遣労働を適用除外とするとされている。これは派遣労働については、別個に交渉を行い規制していこうという労使の意思の表れである。

3) 定義

有期労働者の定義は、契約関係の終了が特定の日の到来、特定の仕事の完了、特定の出来事の発生といった客観的な要件によって決定されている契約を使用者との間で直接的に締結している者とされている。ここでは、すでに有期労働における安全に関するEC指令で用いられた定義がそのまま使われている。

4) 差別禁止の原則

有期労働者は、客観的な理由により正当化される場合を除き、有期で働いているという理由だけで、比較可能な労働者(つまり、同一の事業所で、同一または類似の職務に従事している期間の定めのない労働者)よりも不利益な待遇を受けることがあってはならない。ただし、一定の労働条件については、それが適切な場合には、期間に応じた保障をすることが認められる(たとえば、年次有給休暇)。そのほか加盟国(労使との協議のうえで)または労使は、この原則を適用するための法制度の整備について、EU法、国内法、労働協約、慣習を考慮しながら行わなければならないと定められている。

特定の労働条件に関して勤続年数の要件を定める場合には、期間の定めのある労働者と期間の定めのない労働者に対して同じように取り扱わなければならないが、客観的に正当な理由がある場合は例外とされている。

イタリアの法制(1962年4月18日法律230号第5条)ではすでに、期間の定めのある労働者と期間の定めのない労働者との間の均等待遇の原則が定められている。ただし、就労期間に基づく比例的待遇は認められている。さらに有期労働契約の性質上、均等待遇原則と客観的に両立させることができない場合には例外が許容されている。

5) 濫用の予防のための措置

本協定では、次のような原則が定められている。

第1に、加盟国には、第1回目の有期労働契約の締結については、これを制限する義務は課せられていない。すなわち、このような契約を締結するかどうかは、企業と労働者との間の自由にゆだねられたままである。

第2に、同一の主体の間で有期労働契約が継続的に締結することから起こりうる有期労働契約の濫用を予防するために、国内レベルで同様の法的措置が採られていない場合には、次のような措置を最低1つは講じなければならない。

  • 有期労働契約の継続的な締結は、客観的な理由が存在する場合にのみ行うことができると規定すること
  • 有期労働契約の継続の場合の期間の最長限度を規定すること
  • 更新回数の上限を規定すること

さらに各加盟国の立法府や労使が、個々の生産部門のニーズや労働者カテゴリーの特定のニーズを考慮して、前記の措置を導入することができるということも定められている。

また加盟国は、適当と判断される場合には、2つの契約がどのような場合に継続的とされるのか、どのような場合に期間の定めのある契約は期間の定めなく締結されたものとみなされるか、という点について定めなければならないと定められている。

これらの欧州レベルの協定の内容は、イタリア法の現行規定よりも総体的にみて企業に有利となっている。

というのはイタリアでは、労働契約は期間の定めのないものとみなされ(1962年4月18日法律230号1条)、有期労働契約は、法律または労働契約の定める特定の事由を充足している場合にのみ締結することができるからである(同法1条2項、1983年1月29日法律命令17号を修正付きで法律に転換した1983年3月25日法律79号8条の2、1991年7月23日法律223号8条。労働協約については、1987年2月28日法律56号23条1項参照)。有期労働契約の更新については、法律は、予測できない偶発的な必要性がある場合に、同一の労務について、当初の契約で定められていた期間を上回らない期間、1回のみ期間延長ができると定めている(1962年4月18日法律230号2条参照)。

またイタリア法では、同一の主体間で有期労働契約を締結する場合には、前の契約期間が6カ月を下回っているときには、契約満了時から10日を、前の契約期間が6カ月を上回っているときには、契約満了時から20日を経過していなければならないと定めている。

さらに1997年6月24日法律196号(雇用促進法)の制定後は、有期労働契約の継続的締結の場合には(労働省の通達によると、継続的とは契約が途中でとぎれることなく、という意味とされている)、契約締結当初に遡って期間の定めのない契約に転換することとされている。

6) 情報提供と職業訓練

本協定によると、使用者は有期労働者に対して、他の労働者と同じように常用労働者としての地位にアクセスする機会をもつことができるようにするために、空いている労働ポストについての情報を提供することが義務づけられている。ただしこの情報提供は、企業や事業所における適切な場所での掲示を通した一般的なアナウンスを行うという方法によるものであってもよい。

この規定は、実施上の困難性はさほど生じないように思われる。というのは、この規定は有期労働者に対して、職務上の地位を請求する権利を付与するものではないし、また採用の際の優先権を認めるものでもないからである。

職業訓練に関しては、本協定は有期労働者に対してその能力、キャリアの発展、雇用流動力(外部市場での価値)を強化するために、「適切な」(すなわち、遂行された労働に関連した)訓練へのアクセスを促進するということを定めている。ただし、協定では「できる限り」という文言が挿入されており、法律上拘束力のある義務ではない。

7) 組合代表

本協定では、国内法ないしEU法上の労働者代表機関が国内法の規定に基づき企業内に設置することができるとされている場合の従業員数の要件との関係で、有期労働者も算入されなければならないという原則が定められている。この原則の具体的な適用方法は、加盟国が差別禁止の原則を尊重して、労使との協議のうえで決定するものとされている。

イタリア法との関係では、この規定は有利にも不利にも影響を及ぼさないと思われる。というのは、現在議会で提出され議論されている組合代表に関する法案でも、この協定と同様に、有期労働者を従業員数に算入すると定めているからである。これに対して本協定では、イタリアの法案とは異なり、訓練労働契約の労働者を除外することが許されている(訓練労働契約を締結する労働者は、本協定上の有期労働者ではないからである)。

また本協定は、差別禁止の原則を考慮すべきとしていることから、労働ポストの保持権(原職復帰権)をもった欠勤労働者の代替のために雇われた有期労働者について、「ダブル・カウント」(二重に数えること)が発生することを排除している。

8) 労使協議

この問題についてはEU指令案の中で議論中であるので、本協定では、すでにパートタイムに関する枠組み協定で用いられた非強行的な方式を定めるにとどめられている。具体的には、協定では「使用者は、できる限りにおいて、企業内の有期労働について、現存する労働者代表機関に適切な情報を提供することを考慮しなければならない」と定められている。

いずれにせよ、イタリアの主要な労働協約ではすべて、その態様は様々であっても、事業所レベル、生産部門レベル、地域レベルで、有期労働について労働組合に情報の提供を義務づける規定を有している。

9) 国内法化

これまでの欧州協定(1997年のパートタイムに関する協定や1995年の育児休業に関する協定)でもみられたように、この協定も、引き下げ禁止条項を含んでいる。つまり、加盟国は、労働者により有利な規定を導入したり、維持したりすることができるのであり、協定を国内法化することが、労働者の保護の「一般的水準」を引き下げるための正当理由とはならないと規定されている。

経営側からの評価

本協定は、期間の定めのある労働契約に関するイタリア法の規定と比べても、またイギリスの拒否のために採択されなかったが、今回の労使交渉におけるパラメーターとなった1994年の指令案と比べても、また交渉の開始時に提出されていた協定案と比べても肯定的に評価することができる。

とくに、(イタリア法にあるような)1回目の有期労働契約の締結時から「客観的な要件」を必要とする規定を盛り込むことを求める労働組合からの執拗な要求にもかかわらず、このような規定が設けられなかったことは強調にしておくべきである。

さらに、パートタイム労働契約に関する協定から始まった一連のプロセスに沿って、今回の協定でも、(期間の定めのない労働が、一般的な雇用形態であるという傾向は残っているものの)典型的労働と非典型的労働(有期労働は後者に含まれる)という伝統的な二分法を克服していることについても肯定的な評価を行うことができる。

本協定では、弾力化への間接的であれ、明示的な言及がなされている。すなわち、企業を生産的かつ競争力のあるものとし、かつ弾力性と安全との間の必要な均衡を得るという目的をもって、弾力的な労働形態も含めた労働組織の近代化のための交渉を労使に呼びかけている欧州評議会の決議に言及されている。さらに有期労働契約が、企業と労働者の双方のニーズに応える場合もあるということも明確に承認されている。このことは、国内レベルでも有期労働契約の現行規制の修正を促進する議論の余地を広げるものである。

要するに本協定は、とくに交渉の開始当時の困難な状況を考慮すれば肯定的に評価することができるのである。

労働組合側の当初の立場は、前述のように、1回目の有期労働契約を締結することから制限を加えるための規制を要求するというものであった。少なくとも交渉の開始当時は労働組合は、期間の定めのある労働関係をそれ自体差別的なものと判断し、その経済的・社会的価値を認めることができないでいた。このために、パートタイム協定の際に盛り込まれたのと同様の有期労働契約の促進条項(これは決して非合理的なものとはいえないであろう)を、協定の最終案に組み入れることはできなかった。

イタリアの立法府がこの協定を国内法に受け入れるときには、欧州レベルで生じてきた新しい動きをとらえて、有期労働契約に関する現行規制を改革していく勇気をもつことを期待したい。

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