障害者の労働に関する新しい法律

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年8月

はじめに

イタリアでは、障害者やその他の特別に保護に値する労働者カテゴリーに対して、特別な義務的(この形容は適切ではないが)な職業紹介手続きが定められている。最近、この分野において、障害者に関する新しい法律が制定された(1999年3月12日法律68号。以下、新法と呼ぶ)ので、以下、新法の内容を詳しく紹介することとする。

従来の法制度

これまで障害者の労働について法的な規整を行っていたのが、1968年4月2日法律482号(以下、旧法)である。この法律によると、従業員(職員・工員を問わないが、見習労働者や訓練労働契約で採用されている者は除く)の数が35人を超える民間部門の使用者(企業家かどうかを問わない)は、就労している従業員の15%を「保護カテゴリー」に属する労働者から採用しなければならない、とされていた。同様に公共部門においても、使用者は定員の空きが生じた場合には、選抜試験なしに「保護カテゴリー」に属する労働者から採用をしなければならない、とされていた。

使用者は、特別の職業紹介リストに組み入れられた、いわゆる「保護された労働者」については、選択する権利をもたなかった。すなわち、その他の労働者については廃止された「指数求人」制度(氏名ではなく、人数だけを指定して求人を行わなければならないという制度)が、障害者の求人については存続してていたのである。この旧法の規定に違反した者には、1万5000リラ以上15万リラ以下の罰金が科された。

義務的職業紹介に関する県労働局の特別委員会は、この手続きを監督し、採用のための順位リストを承認する権限を有していた。

この保護カテゴリーに属する労働者で、採用を希望する者は専用の特別リストに登録することができる。

身体的・精神的障害および労働能力の確認については、1992年2月5日法律104号の規定に従い地域保健機構(USL)に設置されている医学委員会の権限とされている。

保護カテゴリーに属しているという理由で、その従事した労務に相当する通常の法的待遇(賃金その他の労働条件)が排除されることはない。

新法の内容

旧法は、障害を持つ労働者の状況を改善するのには不十分な法律であると評価されていた。そのため、このような労働者に対してよりよい保護が保障されるようにするために、新しい法律を制定する必要性が以前から指摘されていた。

旧法について特に問題とされていたのは、法律を遵守しない使用者に対して定められている制裁の影響力が小さいものであったという点である。しかも判例によると、使用者は、障害者を職場に編入できるようにするために、生産工程や労働編成を修正する義務まではないとされていた。それゆえ企業にとっては、現在の経営状況において障害者を編入することが不可能であることを立証するだけで、法律が形式上定めている義務を容易に免れることができた。このような理由から、長期にわたる議論の末、議会は1999年2月25日に新しい法律を制定することを決定したのである。新法の目的は、特別な助成サービスや職業紹介サービスを通して、障害者の労働への編入・統合を促進することにある。

(a)障害者の労働権

新法の適用対象となる者は、身体的、精神的または感覚的な障害のある就労可能年齢の労働者および知的なハンディキャップを持つ者で、労働能力が45%以上減少している者である(1条1項a)号)。このような定義を行うことにより旧法は、障害者と、自己の家族的な領域に関係する出来事により影響を受けて保護に値するものの、特別な規定の対象とされなければならない者との区別を行っている。このような区別をすることにより、障害者のみを対象とする法律を制定し、訓練措置の名宛人となりうる者と、潜在的な使用者すべてをこの法律の定める措置に関与させることが可能となる。

障害者の労働への統合とは、障害者を有償の活動ができるようにすることである。現在、様々な理由で障害を持っている者は、労働市場における最弱者であり、教育や訓練面で遅れがあるために、適法に義務から免れようとする使用者に対して従属的な地位に立っている。

新法の1条は、障害者のカテゴリー(視覚障害者、聴覚障害者など)ごとに、障害者と性格づけることのできる要件を具体的に明示している。例えば2項では、「この法律では、視覚障害者とは、完全に失明している者、又は矯正をしたとしても両目で0.1以下の視力しかない者をいう。聴覚障害者とは、生まれつきの、又は話し言葉の習得前に聴覚障害に見舞われた者をいう」と規定されている。

第2条は、障害者に照準をあてた職業紹介制度について定義している。すなわち、これは「労働ポストの分析、助成措置、積極行動、環境・構造・日常の労働場所や交流場所での人間関係に関わる問題の解決を通して、障害を持った人をその労働能力について適切に評価し、ふさわしい労働ポストに組み入れることを可能とするような一連の技術的手段および支援」とされている。この規定は、従来にはない新しい意味を持っており、労働の場に障害者を編入・統合し、障害者を支援されるべき人としてではなく、実用性のある人としてみるという新法の主たる目的を考慮して設けられている。

第3条は、障害者に留保される労働ポストの率(雇用率)に関する規定であり、従業員数に応じて異なる率を定めている。最大率は7%である。具体的には、公共部門および民間部門の使用者は、従業員数が50人を超える場合にはその7%、従業員数が36人以上50人以下の場合には2人、従業員数が15人以上35人以下の場合には1人の障害者を雇い入れなければならない。ただし、従業員数15人以上35人以下の民間部門の使用者は、この採用義務は新法の施行日から6カ月が経過した時点で発生し、またこの規定は新規採用に対してのみ適用される。

政党、労働組合、および社会的連帯・扶助・リハビリテーションの分野で活動する非営利組織は、前記の雇用率は管理的任務を遂行する専門的執行職員の数のみを考慮して算定する。

新法において、雇用率がこれまでの15%から7%へと引き下げられているのは、以前はこの比率には孤児や未亡人も含まれていたからである。

第4条は、雇用率の算定基準を定めているという点で、重要な意味をもつ規定である。すなわち採用すべき障害者の数の決定においては、新法に基づき雇用されている労働者、9カ月以下の期間で雇い入れられている労働者、生産・労働協同組合の組合員、および上級管理職は、従業員数には含まれない。また期間の定めのない労働契約で雇い入れられたパートタイム労働者は、労働者憲章法(1970年5月20日法律300号)18条2項に基づき、労働時間に比例して算定される。

雇用率の達成については、企業が1973年12月18日法律877号の11条2項の規定にしたがい、通常の労働時間に相当する継続的な労務提供を行うのに適した量の労働を委託している在宅就労またはテレワークという形態の従業員たる障害者も、雇用率の中に算入される。

(b)採用過程

第9条は、使用者は、障害者たる労働者の採用が義務づけられた時点から60日以内に、「所轄の事務所」(第6条1項において、1997年12月23日委任立法469号の第4条に基づき州が定める機関で、障害者の雇用問題を担当する機関を、このように呼ぶこととしている)に対して採用の申請をしなければならないと定める。申請された職種または使用者との合意による別の職種で労働者を採用することができない場合には、所轄の事務所はリストの順位にしたがい、第12条で規定する方法によって行われる事前の訓練を行ったうえで、類似の職種での労働者を採用させる。

精神的障害者の採用は、第11条に規定する協定(後述)に基づき、指名求人(採用しようとする者の氏名を指定して行う求人)に基づき行われる(第9条4項)。同項に基づき採用を行った使用者は、第13条の定める助成措置(後述)を受ける権利を有する。

新法の適用を受ける使用者は、民間部門、公共部門とを問わず所轄の事務所に対して、従業員の総数、第3条の規定する雇用率に算入可能な労働者の数および氏名、第1条の労働者(障害者)にとって利用可能な労働ポストおよび職務が記載されているリストを送付しなければならない(9条6項)。この送付が行われたときに、採用の申請もなされたものとみなされる(9条3項)。

企業が本条に基づく障害者の採用を拒否した場合には、県労働局は調書を作成し、所轄の事務所および司法当局に通知を行う(8項)。

障害者の採用においては、従業員数15人以上35人以下の使用者、政党、労働組合などは全員を指名求人で行うことができるが、従業員数36人以上50人以下の使用者は50%、従業員数50人を超える使用者は60%しか義務的に採用すべき障害者の指名求人はできない(7条)。しかし、このような指名求人の枠の制限は、最大限の弾力性を必要とする障害者雇用のシステムを硬直化させる危険があるし、この(部分的に認められている)指数求人制度は、満足できる成果を保障することはできない。

新法により、雇用委員会や県義務的職業紹介委員会のような多くの機関が廃止されることとなり、その権限は州や県レベルの協議機関(その任務は州法により定められる)により遂行されることになる。しかし、このような動きは義務的職業紹介制度の改革を損なう危険もある。というのは、障害者の採用過程における県レベルでの調整は、様々な理由で不可避と思われるからである。その理由は次のとおりである。

第1に、より広い範囲の管轄を認める方が障害者が複数の使用者の下で働くことができるようになる。第2に、複数の県や州で活動する企業では、上位の地域レベルの運営の方がより単純で容易である。第3に、障害者の職業紹介に関する個別的な政策を実行するセンターに充てるべき十分な数の職員がいない。第4に、障害者の団体、ボランタリーの団体、地域保健企業、使用者団体との連携が不可欠であるが、それは地区レベルよりも高いレベルでの方が維持されやすい。

(c)障害者の社会統合のための協定と助成措置

第11条は、障害のある労働者の採用のための協定や助成措置を定めた規定である。同条は、「障害者の労働の場への編入のために、所轄の事務所は、本法の雇用目的の達成に照準をあてた計画の策定を目的とする協定を使用者との間で締結することができる」と規定している。この協定は、採用の時期および方法について定めるものである。協定で合意できる採用方法とは、指名での選択、訓練目的の見習いの実施、期間の定めのある契約での採用、労働協約上の規定よりも長い試用期間(ただし、試用の結果が否定的なものであっても、それが当人の障害に関係するものであれば、労働関係の解消理由とならないとされている場合に限る)である。

本条は、法律を遵守しない使用者に対する制裁が弱いものでしかないことから、使用者に対して障害者の採用にインセンティブを与えようとしている。安定労働力としての採用の場合には、雇用促進法(1997年6月24日法律196号)の規定に基づき企業における見習い期間を前置することができ、雇用率の算定においてはその全期間(24カ月まで)を算入することができる。この手続きは、1998年の労働省令142号の10条(雇用促進法18条1項に基づき、障害者に対する適切な訓練コースの特定を行っている)による協定が州雇用委員会との間で締結された場合にも適用可能である。

第13条は、第11条の協定をとおした採用についていくつかの助成措置を定めている。すなわち所轄の事務所は、民間部門の使用者に対して、提出された計画に応じて、本条第4項の基金の財源の範囲内において、次のような措置を認めることができる。

a)労働能力が79%を超えて減少しているか、1978年12月23日大統領令915号およびその後の修正規定によって承認された、戦争年金に関する規定の統一法の付則に定める第1等級から第3等級に該当する障害を持つ労働者で、新法に基づき採用された者について、その各人に関する社会保険および社会福祉の拠出について最大8年まで、全面的に国庫負担とすること。このような国庫負担化措置は、知的・精神的障害のある労働者で、新法に基づき採用された者に対しても、その障害の比率に関係なく認められる。ただし、州は事前にこれによる費用が、州の負担すべき全割合の10%以内におさまるような一般的な基準を作成することする。

b)労働能力が67%以上79%以下の範囲で減少しているか、a)号で引用された付則に定める第4等級から第6等級に該当する障害を持つ労働者で、新法に基づき採用された者について、その各人に関する社会保険および社会福祉の拠出について最大5年まで、全面的に国庫負担とすること。

c)労働能力が50%以上減少した障害者の活動に適合的なものとするための職場の改造、またはテレワークの技術の習得や障害者の労働への統合をいかなる方法であれ制限している建築上の障害の除去のために要する費用の一部の償還。

以上のような助成措置は、新法の適用を受けない使用者に対しても、障害者を採用した場合には適用される。所轄の事務所は5年後、第13条1項の定める助成措置を継続するかどうかの検討を行う(5項)。

第11条に基づき締結された協定により、障害者に対して10カ月間(1回のみ更新可能)、採用を目的とする見習い活動の実施を保障する使用者は、これによりその期間は採用義務を履行したことになる。使用者は、この見習い者に対して全国労災保険公社(INAIL)との協定による労働災害からの保障措置や民事責任のための保障措置を講じなければならない(3項)。

この第13条の定める目的のために、労働・社会保障省において、障害者の労働権のための基金が設置される。この基金への資金供与は、1998年には300億リラ、1999年には400億リラ、2000年には600億リラが認められる(4項)。財務・予算・経済計画大臣は、必要な予算変更を、その命令によって行うことが認められている(7項)。

本法の施行から120日以内に発せられなければならない労働・社会保障大臣命令では、第4項の基金の財産を州間で配分するための基準および方法、ならびに第1項の定める助成措置の許可のための手続きを定めるものとされている(8項)。さらに政府は、新法の施行から3年以内に本条の規定の効果を検証し、本条で定められている財源が十分で適切なものであるかどうかの判断を行う(9項)。

本条で定められている助成措置は、障害の程度に応じたものでなければならない。その結果助成措置は、精神的・身体的な障害の程度が高いほど長く継続することになろう。そうすると、障害者の就業というものを新たな観点からとらえることができるよう。

(d)制 裁

制裁に関する第15条の規定は、詳しく検討するのに値する重要な規定である。

まず、第9条6項の規定に定める義務(リストの提出義務)を履行しない民間企業および経済的公共団体は、その遅滞について100万リラ(遅滞の日数に応じて、1日5万リラが加算される)の支払(過料)が科される(15条1項)。この過料の処分は県労働局により行われ、支払われる額は第14条の定める基金(州障害者雇用基金)に払い込まれる(2項)。

本法の規定について行政機関の不履行があった場合には、その責任者は公勤務に関する規定に基づき、刑事的制裁、行政的制裁、懲戒処分を受ける(3項)。

障害者の雇用義務が発生した日から60日が経過すると、使用者の責に帰すべき原因により雇用率に達しない期間、労働者1人につき1日10万リラの過料が科され、支払われる額が州障害者雇用基金に払い込まれる。

この規定により、旧法における不公平な制裁システムが改められ、雇用率に関して計算に入れられる労働者の総数を明らかにする年次リストの送付が遅れた場合には、障害のある労働者が雇用されていない日数、その人数分に比例して強力な金銭的制裁が科されることになった。このような制裁はまさに障害者の採用を行う企業に対して助成措置を行うために、また、センターでの職業訓練や労働ポストの適合のために活用される州障害者雇用基金の財政を強化することになる。

おわりに

新法は、その制定直後から、イタリア工業連盟と障害者連盟との間で激しい論争を引き起こした。特に論点となったのは、障害のタイプ、雇用義務の小規模企業への拡張、財源の少なさなどである。

特に小規模企業に関してイタリア工業連盟は、これらの企業は障害者の労働への編入のために必要な財源を持っていないということを強調し、さらに雇用率が期間の定めのある労働者など、当該企業のすべての労働者にまで拡張されるべきであると主張している。なお、イタリア工業連盟にとっても、障害者連盟にとっても、他の欧州諸国と同様に、いかなる雇用率も削除されるべきと考えている。

新たな組織構造を作り出したり、新しいシステムを始動させたりするための猶予期間として、旧法が新法施行後も10カ月間は依然として適用され続ける。

以上のように新法では、強制的な手法から、個人としての障害者の労働への編入を目的とした合意重視の手法へと移行しようとしている。これは、とりわけ雇用を待望している障害者の数が1996年から1997年にかけて3万人も増加しているという状況も考慮されている。この点で著しく重要性を持つのが、企業に代わって障害者を採用することができる社会的協働組合である。ただし、企業から十分な取引を得ることができることが条件となる。

労働組合側では、たとえばCISL は新法について、社会的な私人や社会的な代表の組織化ということにいっそう特徴付けられた福祉政策の制度的再編および再定義という、より大きなプロセスの中に位置づけられると考えている。このように位置づけることにより、障害者と労働の場との間の出会いの機会を助成・サポートするためのあらゆる手段を用いて、障害者を他人の慈悲に頼る市民ではなく、十全な市民とすることができるように労働の場への編入を行うという新たな展望を開くことができる、とする。

新法は、労働に関わるすべての者を関与させるための、また障害者の社会的統合という新たな文化を創り出すための法制度の基礎となるだけでなく、労働組合や使用者団体をはじめとする労使や民間の団体に対して、障害者に照準をあてた社会的編入のための労働市場の直接的な管理を委ねるプロセスを始動させるための基礎ともなる。

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