金属労組、生涯学習制度を協議へ

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年7月

スウェーデン労働組合総同盟(LO)、職員労働組合連合(TCO)、大卒専門職技術者労働組合連合(SACO)およびスウェーデン経営者連盟(SAF)は、職務に関する生涯学習制度を共同で作成することにした。この仕事は労働省の要請に基づいて行われた。当然ながら、合意された制度が実行されれば、相当規模の政府財政負担となる。

政労使三者には、失業者と若者に対して充分な教育が施されていないという合意が存在する。スウェーデンの産業界やサービス業界に競争力を持たせるために、そして労働者の技能が陳腐化しないようにするためにも、仕事を持つ人が技術進歩に遅れず、常に新たな知識を獲得できるような生涯教育制度を設計しなければならない。

生涯教育のための政府予算はすぐに計上されないので、金属労働者労働組合は現在、労働協約の中で教育と学習に費やされる最低限の時間を規定するように使用者に働きかけようとしている。同労働組合の調査研究によれば、金属労働者は有給教育休暇を年間平均2.5日分しか獲得していない。労働組合側の目標は、年間の有給教育休暇を25日間とる権利を労働協約に盛り込むことである。教育投資が最善の失業対策手段になるので、労働組合は春季予算編成で職務適性能力を向上させるための予算枠を政府に期待している。

しかし、たとえこれが政府予算に計上されないとしても、金属労働者労働組合は労働協約に最低賃金額引き上げや段階的な労働時間短縮が記されているのと同様に、生涯学習や個人能力開発などについての保証をエンジニアリング産業や鉄鋼産業での全国労働協約の中に得ようとしている。学習を促進する方策には、職務内容の拡充に対処し得る理論的な知識の学習や訓練を含むべきである。金属労組委員長によれば、有給学習時間は労働時間の10%として年間平均25日くらいは最低必要だとしている。また現在、エンジニアリング産業と鉄鋼産業で労働協約を適用する企業のうち40%は職業訓練を全くやっていないとしている。こうした企業は、もしその企業に雇用される労働者の賃金が発展途上国並みの低い賃金でないとすれば、そしてそんな賃金であるはずはないのだが、たちまち売り上げを落とす危険な経営状態にある企業なのである。

スウェーデン最大の企業エリクソン社における最近の成り行きは、金属労働者労働組合の堅い決意を明らかに示している。エリクソン社は知識集約型企業になることを計画している。その目的のために製造ラインは全て委託外注されている。1998年のクリスマスを前にしてエリクソン社の経営幹部は、何千人かの労働者が余剰労働者になる可能性があると発表した。その理由は「誰もが予測した以上に技術革新が速く進行していた」からだというものだった。技術革新の最たるものはラジオ局の配電盤に現われたようで、配電盤に組み込まれた1枚のプリント配線基盤でこれまでと同じ仕事ができるようになったというもののようである。低い水準の技術教育しか受けていない人には、もはや仕事はなくなるだろう。

こうした状況のなかで、伝統的な金属労働者はさらに高度な教育を受けなければ自分達の仕事を維持できない。これまで会社側は、新しい仕事をするために金属労働者の訓練に資金を使う決断をしてこなかった。自分達の仕事がスコットランドやその他の低賃金諸国に委託外注されている製造現場の労働者は、失業保険制度に追いやられている。企業発展につながる新しい知識が何もない人はエリクソン社では全く立つ瀬がない。スウェーデン国内内のエリクソン社全社の労働組合のコーディネーターで、役員会の労働者側代表でもあるヤン・ヘドランド氏はこう言っている。「問題は、企業側は既にきわめて高度な教育を身につけた人に巨額の投資を行っているのに、金属労働者の適性能力開発を求める我々の要求には誰も耳を貸さないことなのだ」と。新しい経営方針は、株主に対してそれぞれの投資にすぐに収益を出すことだとするきわめて近視眼的な考え方に基づいている。スウェーデン経済の第一線にある諸企業は、労働者の訓練に金を使うよりも、スウェーデンにやってくる外国人技術者が低い所得税を享受することができるように政府に租税規則の変更を迫る政治運動をしているのである。

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