緑の党、社民党の合意無しに先任権制度改正に動く

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年7月

社会民主党政権を支持しているが、社会民主党と公式に連立政権を組んでいない緑の党は、現ペーション政権の期間中に雇用保障法を変更すべきではないという理解を撤回した。同党の国会への動議の提出は、野党から直ちに支持を得、158対157で可決された。その内容は、従業員10人以下の中小企業使用者が、採用、解雇に関して規定している先任権制度の対象から、使用者が選んだ従業員の2人までを外すことが出来るというものである。ペーション政権は、合わせて過半数を制している非社会主義政党および緑の党の決議を反映した議案の作成準備に取りかからなければならなくなった。

労使関係諸法を管轄する労働省副大臣は、国会の決議を受け、家族経営や個人経営の企業において、使用者の労働協約署名を促すために労働者がストライキで使用者を威嚇する行為を違法とする議案を準備中であると発言した。

しかし、改正議案が法案になり施行されるまでには少なくとも1年を要し、その間に不安定な政治情勢や、同案への労働組合の反発により、法改正が不可能あるいは不要になることも起こりうる。

甚大な影響

スウェーデンには従業員11人以下の企業が17万5000社あり、49万6000人を雇用している。緑の党による議案が通過すれば、現行の雇用保障に多大な影響をもたらすだろう。スウェーデン労働組合総同盟(LO)によれば、法の改正は、中小企業の雇用のあり方に深刻な影響を与える。現行の先任権制度の下では、解雇が勤続年数の短い者から先に行われるので、ある労働者が解雇されても、それが前の職場での労働需要が減退したことを意味するに過ぎない。ところが、法改正の後には、失業者は無能ゆえに解雇されたという、不名誉な立場に置かれてしまう。一方、法改正支持者達は、現行の先任権制度の下で、技術革新に見合う新しい技能習得の必要性がある状況に充分対応できない労働者を抱え続ける必要がある中小企業家達の立場を案じている。

使用者団体が先任権制度改正に積極的な姿勢を示す一方、労働組合は、使用者が必要としている専門技能の水準を維持できるように使用者と協力していく姿勢を示している。雇用保障法は雇用の基本ルールを定めており、法の具体的運用を労使に委ねている。すなわち、企業が事業を縮小する際に、労使双方は同法の規定によって生じるかもしれない諸問題についても交渉し、労働協約や個人の労働協約を結ぶことによって自主的に解決することができる。

象徴的議案

もし労働副大臣の議案が提出されれば、スウェーデンの労働組合はもはやストライキを楯に、労働組合が組織されていない中小企業に対して組合支部の労働協約への署名を強要できなくなる。欧州裁判所において、ホテル・レストランの労働組合が組合員が1人もいない夏季営業のレストランで起こしたストライキをめぐって、スウェーデンが勝訴したのは、つい先日のことである。

家族あるいは個人経営の企業に対するストライキを違法にすることに、現実的な成果があるわけではない。ほとんどの労働組合が、すでにそうした企業に対するストライキを禁止する労働協約を結んでいるが、3つの組合が残っている。その3つの組合とは、電気技術者組合、画家同業者組合、運送業者組合であり、毎年、ごくたまに家族経営者や個人経営者に対し、彼らの支部の労働協約に署名させるため、職場封鎖すると威嚇している。

労働法専門家は、誰にとっても事実上、支障になっていない権利を制限する法案は本当に必要なのかという立場を取っている。特に労使双方は、既に自ら労働協約の中でストライキ禁止を定めていることから、その必要性は疑わしい。賃金体系の問題は、政府、使用者、労働組合の全ての人々に関わるものであり、個人企業でのストライキ権や先任権によってどうなるものでもない。緑の党の提案する方法で法制化を実現させても、技術を持たない失業者を大量に生み出し、中小企業の賃金支払いに変わって、失業保険への負担を生み出すのみである。

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