職場関係省長官、企業に職場関係法の有効利用を求める
―労組の影響力低減を図る

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年7月

リース職場関係省長官は、企業自身が職場関係法で利用できる規定を十分認識していないと考え、企業に対し労組に毅然とした態度をとるためにも現行法を有効に活用するよう求めた。つまり、国内企業に一段と競争力をつけるためには労組の影響力を低下させる必要があるとの認識から、同長官はこのような提案を行ったののである。企業からの申請に基づき、職場関係省は説明会を開催している。説明会では、労組の影響力低下のために企業が現行法をどのように利用できるかが解説されることになる。

実際、企業のトップを集めて行われた講演会で、リース長官はいくつかの課題や問題点を指摘した。

企業にとっての課題

リース長官はまず第1に、企業がアワード簡素化の過程で、アワードの対象外となった項目を安易に企業別協定に挿入していると指摘した。その結果、アワード簡素化は労組にとって脅威でなくなったという。

第2の課題として、職務分類や訓練制度はアワードにより規制されていることが多く、企業に特化した制度を望む経営者の不満の種になっている点が示された。

第3にリース長官は、多くの企業が「組合強制加入」制度を黙認している点を指摘した。この点に関しては、オーストラリア職場合意(AWAs)の実施を監督する機関である雇用援護事務所(OEA)が、企業を対象に組合強制加入制度の現状を調査する予定となっている(労組加入が任意でない組合強制加入制度は職場関係法では違法となる)。

この他に、同長官はチェックオフ制度への反対と、さらに企業がAWAsを十分活用していないことへの不満も表明している。リース長官のこの講演は、企業にとっての1つの指針を示すものといえよう。

企業の反応

しかし、企業がリース長官の提言にしたがって積極的に行動する可能性は低いと考えられている。港湾労使紛争を見れば分かるように、労使紛争は企業に大きなコストを負わせる結果となりがちである。さらに多くの企業は概して労組が果たしている役割に満足している。これに関連し、企業別交渉への転換が企業の期待したほどの生産性の向上や業績の改善をもたらしていないことを示す調査結果も公表されている。

リース長官は、港湾業に続く次の改革の対象に建設業を挙げている。建設業の使用者は非常に労組寄りであるといわれ、特に労組の要求や組合強制加入制度に従った結果、この業界のコストが高くなったという。しかし、多くの使用者は労組の存在を甘受し、感謝さえしている。というのは、労組の存在により、小規模業者は労働コストや安全基準を引き下げてまで大企業と競争しなくて済んだのである。このように、同産業内に共通のルールを実施し、その基準が過当競争により侵害されないようにすることで、労組は伝統的な役割を果たしてきたわけである。

そのために多くの使用者は、政府の推進する労使関係制度の分権化政策が同産業には不適当であると感じている。さらに強力な労組が存在するにもかかわらず、建設業の生産性は非常に高いと評価されている。

労組は労使紛争も覚悟

リース長官から改革の目標とされた産業を組織化する2つの労組は「相互責任協定」を締結し、港湾労使紛争のような政府のやり方にはあくまでも抵抗する姿勢を示した。建設林業鉱山エネルギー労組(CFMEU)とオーストラリア製造業労働者組合(AMWU)の間で取り交わされたこの協定は、攻撃を受けた場合に互いを支援することを約束し、財政的・政治的援助を提供することを内容としている。

興味深いことに、建設業での紛争を予想して、CFMEUに加入する労働者が劇的に増加している。

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