本格的な景気回復と雇用情勢改善の兆し

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年7月

内需拡大による景気回復

3月に入って工業生産、国内消費、輸出などの増加傾向が著しく、予想を上回るスピードで景気回復が進んでいる。統計庁の「3月中産業活動動向」によると、工業生産増加率は18.4%に達し、1995年2月(19.3%)以来最も高い水準を記録した。また設備投資は1998年の年平均マイナス38.7%から1999年1月に初めて増加(6.4%)に転じた後、2月のマイナス0.7%を経て再び3月には25.1%増を記録した。そのうち、国内受注分は15.8%増、輸入分は28.3%増に達するなど、輸入の大幅な増加が目立っている。製造業の稼働率は1998年7月(64.6%)に最低値を記録してから、1999年3月には74.6%に達し、IMF体制以前の水準に回復した。

このような生産部門での回復は国内消費の持続的な増加と自動車や半導体部門等での輸出の好調に支えられている。卸小売部門の販売率は1998年8月以降上昇し続けているなか、減少傾向にあった生活用品中心の非耐久消費財までが2月に2%の増加に転じ、3月には7.6%増を記録するなど、国内消費全般に回復基調が見られるようになった。

業種別生産・販売・輸出動向をみると、自動車、造船、半導体部門などは急速な回復を見せているのに対して、1998年に好調であった石油化学、鉄鋼、家電部門などは減少に転じるか、わずかな増加にとどまるなど、業種別に明暗が分かれている。産業資源部によると、自動車部門では1999年第1四半期の国内販売は1998年同期に比べ55.5%増、輸出も50.3%増を記録した。半導体部門の生産は、国際価格の上昇もあって16.3%増を記録した。これに対して、鉄鋼部門の場合、国内需要は3.4%増にとどまっているうえ、輸出は輸入規制の影響をもろに受けて25.3%も減少し、生産は6.1%減を記録した。

現在の景気状況を表す「景気動向総合指数」は1997年10月の111.7から1998年8月には99.4%まで急落した後、上昇し続け、1999年3月には106.9に回復した。また6~7カ月後の景気見通しを示す「景気先行総合指数」も1998年7月以来9カ月連続して上昇し続けている。

統計庁の朴経済統計局長は「3月に景気回復基調が安定期に入ったのは間違いない。生産はIMF体制以前の水準に完全に回復し、国内消費も品目間や階層間の格差縮小とともにはっきりと増加傾向に転じた」と述べている。統計庁は「景気回復基調は内需の回復に支えられ、1999年末まで持続する」と見ている。

1999年1月から景気浮揚策の一環として金利の低め誘導政策をとっていた韓国銀行は4月初、1999年のGDP成長率を年初の3.2%から3.8%に上方修正する際に、第1四半期のGDP成長率については工業生産増加率10%(1~2月の平均は9.4%)を前提に3.1%と予測していたが、3月の工業生産増加率がその前提水準を倍近く上回ったため、予想を上回る景気回復のスピードに戸惑いを隠しきれないでいるといわれる。韓国銀行の全総裁は5月6日、「景気回復と株価上昇のスピードが予想より速いうえ、不動産にも値動きの兆しが見える」ことを重くみて、景気回復のスピードを調節するため、いままでの「金利低め誘導」の方針を「金利の現行水準維持」に変えると発表するに至った。

その一方、1999年の経済見通しをめぐっては研究機関の間で見解が分かれている。韓国開発研究院は4月25日、「1999年の経済見通し報告書」を発表し、「経済の先行きに対する不確実性の減少や、金利低下及び株価上昇などの影響により、景気回復基調ははっきりとしてきた」との見解を示した。そして1999年の経済見通しについては次のように強気の立場をとっている。つまり、「民間消費は不動産と株式などの資産価値の回復により1998年より4%増え、設備投資も金利下落と景気回復の期待感等により10%増え、GDP成長率は4.3%を記録する。また、ウオン高と世界経済の低迷などで輸出増加率は低下する反面、輸入増加率は景気回復に伴い大幅に上昇することにより、経常収支は1998年の400億ドルから213億ドルに大幅に減少する」との見通しを示しているのである。

これに対して、全国経済人連合会付設の韓国経済院は「景気が底を打ったのは確かだが、景気動向総合指数の循環変動値と平均稼働率は依然として低い水準にとどまっており、景気回復も半導体などの一部業種に限られている。そのうえ、国際石油価格の上昇や貿易摩擦などが本格的な景気回復を妨げる要因になりつつある」ことに注目し、より慎重な立場をとっている。1999年の経済見通しについても「民間消費は賃金削減と雇用不安にもかかわらず、資産価値が回復し、構造調整と景気動向に対する不安感が解消されることもあって、4%増に達する反面、企業の財務構造改善計画が1999年度中に集中的に実施されることもあって、設備投資は減少し続け、GDP成長率は3%にとどまる」と低めの見通しを示している。

雇用情勢改善の兆し

統計庁の「3月中の雇用動向」によると、失業者数は170万4000人で2月の178万5000人より4.5%減少し、失業率も2月の8.7%から8.1%(季節調整値は6.7%)に5カ月ぶりに下がった。統計庁によると、失業率低下の背景には「3月に入って農作業や建設工事が増え始めているほか、アルルバイト職探し(求職活動)に入っていた大学生が学業に復帰したことや、失業救済事業が拡大されていること」も影響している。

3月の労働力人口は2114万3000人で、2月の2056万2000人より2.8%増え、労働力人口率は2月の58.0%から59.5%に上昇した。就業者数も2月の1877万7000人から1943万8000人に3.5%増えた。

労働部が10人以上の事業所5300カ所を対象に調査した「月別労働統計調査」によると、雇用動向の先行指標である求人規模は1999年第1四半期に23万2640人で、1998年第4四半期(13万4497人)より10万人近く増え、1998年同期(6万4573人)より3.6%増加した。特に3月の求人規模は9万5116人で1月~2月より2万5000人余り多い。

そして純採用数(新規採用者数―退職解雇者数)は1月の4360人から2月には9100人に増えている。業種別にみると、新規採用者数が退職解雇者数を上回った部門は製造業(4000人)、金融保険不動産(3000人)、卸小売り・飲食宿泊業(1000人)であるが、依然として退職解雇者数が多い部門は建設、運輸、倉庫、通信業などである。純採用率((新規採用者数―退職解雇者数)/労働者数)でみると、不動産及び事業サービス部門が0.51%で最も高く、次いで卸・小売り(0.26)、金融保険業(0.23)、製造業(0.20)などの順になっており、雇用情勢改善の兆しはサービス部門の高い雇用吸収力によるところが大きいようである。企業規模別にみると、300人以上の大企業は依然として退職解雇者数が新規採用者数を上回っているのに対し、300人未満の中小企業は新規採用者数が多いなど、大企業から中小企業への労働移動の構図も見えてきた。

その他、1999年1月~2月には賃金や労働時間も増加に転じている。賃金は1998年に年平均マイナス2.5%から1999年2月には4.6%上昇した。特に超過給与と特別給与はそれぞれ18.4%、10.6%増えるなどその増加幅が大きい。労働時間は1998年に年平均1.9%減から1999年1月~2月には月平均(192時間)で4.1%増え、1998年に14.1%も減っていた超過労働時間は4.1%増えた。

一方、4月末までの賃金交渉の進捗状況(労働部集計)をみると、賃金交渉が妥結した100人以上の事業所949カ所のうち、賃上げを決めたのは全体の30.2%(287カ所)で1998年同期の9.5%(97カ所)を大幅に上回っている。その反面、賃金凍結に合意したところ61.2%(580カ所)で1998年同期(81.1%、826カ所)より大幅に減り、賃金削減に合意したところも8.6%(82カ所)で1998年同期(9.4%、96カ所)より下回っている。

4月末の平均賃上げ率は0%を記録し、1998年1月以来続いていたマイナスからようやく抜け出した。労働部の関係者は「賃上げ率が回復基調にあるのは景気回復と共に、1998年の賃金削減分に対する労働者の補償要求が強まったこともあって賃上げに踏み切る企業が増えたからである。5月から賃上げ率はプラスに転じるだろう」と述べている。

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