時間外労働に関する新たな法規制

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年7月

はじめに

1997年6月24日法律196号(雇用促進法)は、1週の法定労働時間を、1923年3月15日法律勅令692号(労働時間令)が定めていた48時間から、40時間へと短縮したが、当面は、時間外労働の遂行に関して使用者に課される行政手続上の義務は、1週48時間を超える部分から適用されるという経過的規定を設けていた。この経過的期間は6カ月と定められていたが、その期限までに本格的な労働時間規制法を制定することが不可能であったことから、法律で2回にわたりこの経過的期間の延長が行われてきた。

そして、ようやく1998年9月29日に、工業部門の企業における時間外労働に関する法律命令(335号)が制定されることとなり、さらに1998年11月27日に、この法律命令を法律に転換する法律409号が制定された。もっとも、この法律も、本格的な労働時間規制法が制定されるまでの暫定的な性格しかもたないということが明文で定められている。

また相次いで制定されてきた労働時間に関する法律の解釈・適用上の疑義を取り除くために、1999年2月1日に通達10号が出された。通達は、法律の執行の統一性を保障することを目的とする行政の内部文書にすぎないが、企業にとって実務上は大きな意味を持つことは明らかである。

労働時間に関する法制度の枠組み

新法(1998年法律409号)の内容を見る前に、まず労働時間一般に関する法制度の枠組みを見ておくこととする。

労働時間令692号、およびこれに引き続いて出された同法の施行令(1923年9月10日勅令1955号、1923年9月10日勅令1956号、1923年9月10日勅令1957号、1923年12月6日勅令2657号)は、これまで、工業部門および商業部門の企業、ならびに手工業企業および農業企業の労働時間について規制を行ってきた。労働時間令の1条1項では、「実労働」の時間は、1日8時間または1週48時間を超えてはならないと定められていた。また労働時間令5条によると、時間外労働は、1日2時間または1週12時間を超えない範囲でのみ認められていた。

このような労働時間の規制は、1995年12月28日法律549号および1997年の雇用促進法で大きく修正されることとなった。この修正の目的は、労働者の権利保護を考慮しながら、企業側からのフレキシビリティの要請にも応えるというものであった。この点で特に重要な意味を持つのが、前述のように、雇用促進法13条が週の法定労働時間を48時間から40時間へと引き下げたことである。

時間外労働に対する法規制

次に、時間外労働に関する現行の一般的な法制度の枠組みを見ておこう。まず、時間外労働は、通常の実労働時間に関する法定の限界を超えて提供される労働と定義される。

「実労働」に当たらないのは、企業内外での休憩、職場に向かうための時間、各10分以上全体で2時間以下の休息、交代制に従事する労働者の30分の食事休憩、祝日、個人の有給休暇(その種類を問わない)、無給の休暇、疾病・出産・災害のための欠勤、ストライキの時間、所得保障金庫の適用を受けた不就労時間(日)である。その他、労働協約で特別に「実労働」に関する定めを置くことも許される。

雇用促進法13条は、週の法定労働時間を40時間に短縮したので、時間外労働も週40時間を超える労働とされることとなった。さらに、時間外労働は1日2時間、1週12時間を超えてはならないという規定はそのまま適用され続けるので、新たな労働時間規制とあわせると、1週の労働時間の上限は52時間ということになる。

また、不可抗力の場合や、通常の労働時間体制における労働の中断が人や生産に対して危険や損害をもたらす場合には、前記の制限を超えるような労働の延長も許されるという従来の規定(労働時間令7条)も適用され続けると解されている。

工業部門の企業における時間外労働規制

労働時間令5条の2は、1955年10月30日法律1079号によって労働時間令に挿入された規定であった。同条は、技術的・生産的要請があり、他の労働者の採用という手段でこれに対処することが不可能であるという例外的な場合を除いて、臨時的ではない時間外労働を禁止していた。

1998年法律409号で法律に転換された1998年の法律命令335号は、この労働時間令5条の2を改正して、従来の臨時的でない時間外労働の原則的禁止を改め、1997年11月12にイタリア工業連盟と労働組合の三大総連合(CGIL、CISL、UIL)との間で締結された総連合間協定で既に合意されていた内容(実質的には、労働時間に関する EC 指令(93/104)の規定を受け入れたもの)を一部取り入れて新たな内容とした。

1999年の通達10号で明確にされている、新たな法規定のポイントは次のようになる。

1)この新しい規定の適用範囲は工業部門の企業に限定される。この点は、従来の労働時間令5条の2と同じである。労働時間令を中心とする労働時間規制の対象となるのは、工業部門および商業部門の企業、ならびに手工業企業および農業企業であるが、従来から5条の2は工業部門の企業における時間外労働については特別な法規制がなされてきた。他方、商業、手工業、農業部門の企業における時間外労働は、一般的な法規制の適用を受け続ける。

工業部門の企業であっても、乗船勤務、公的な事務所・サービス(民間請負業者の経営するものを含む)における労働は適用除外となるし、また家内労働者、指揮監督者、外交員にも適用されない。この点も従来と同様である。

2)時間外労働の範囲については、新法で改正されている。改正後の5条の2の第2項は、「時間外労働の利用は、抑制的でなければならない。比較的最も代表的な労働組合の締結した労働協約による規制がない場合には、時間外労働の利用は、年間250時間、3カ月で80時間を超えない範囲で、使用者と労働者との間の事前の合意がある場合にのみ許される。補完的交渉は、全国労働協約の定める上限の範囲内で行われる」と規定している。

この規定をめぐる一つの解釈問題は、全国労働協約において、時間外労働に対して法律が定める上限を上回る上限を定めることができるかどうかである。通達は、これを認めている。なお事業所協約や県協約のような補完的な協約については、法律の明文で、全国労働協約の定める上限を超えてはならないと定められている。

3)さらに5条の2の第3項は、時間外労働に対して法律が定める上限を超える時間外労働が認められる事由を定めている。

a)例外的な技術的・生産的要請があり、他の労働者の採用を通してその要請に対処することができない場合。

b)不可抗力の場合、または通常の労働時間体制における労働の中断が人や生産に対して危険や損害をもたらす場合。

c)生産事業に関係する博覧会、見本市、催し、これらのための見本・模型その他の準備。その他、比較的最も代表的な労働組合の締結した全国労働協約が特別に定める事由。

これらの3つの事由のうち、a)号とb)号は従来の法律のままであり、c)号が新たに修正して定められたものである。

時間外労働の通知義務について

1998年の法律命令335号の施行前は、労働時間令5条の2により時間外労働が許されているケースについて、企業は、時間外労働を利用せざるを得ないことと、他の労働者の採用を妨げる技術的・生産的理由があることを明示して、時間外労働の開始から24時間以内に労働監督署に通知をしなければならないものとされていた。労働監督署は、時間外労働の要件が充足されていないと判断した場合には、時間外労働の短縮または停止を命じることができた。

改正後の5条の2の第1項は、工業部門の企業において、時間外労働を行わせた結果、1週の労働時間が45時間を超えることになった場合に、使用者は、当該地域を所轄する労働監督機関である県労働局に通知をしなければならない、と定めている。時間外労働は週40時間を超える場合に成立するが、通知義務は45時間を超えた時点で初めて生じる点に注意する必要がある。

この通知は週45時間を超える時間外労働の開始から24時間以内に行われなければならない。ただし通達によると、その期日が祝祭日もしくは非労働日にあたる場合には、通知義務の履行はその翌日にまで延期することができる(民法2963条3項も参照)。

また通知義務は、当面は週の所定労働時間が固定されている場合にのみ適用される。労働協約(事業所協約も含む)が変形労働時間制(所定労働時間を、複数週における労働時間の平均を基準として定める制度)を導入している場合には、通知義務に関する規定は適用されない。変形労働時間制が導入されている場合については、改正後の5条の2の第2項の2は、通知の実施要件・実施方法を労働者、使用者それぞれの比較的最も代表的な団体の意見を聴取したうえで、1999年2月28日までに発せられる労働・社会保障大臣令により定めることとしている。この規定は、下院での修正で挿入されたものであり、週40時間を超える労働を時間外労働とみない変形労働時間制に対しても、それを法的な保護の対象に含めようとしたものである。

新法は、通知を受ける県労働局は、時間外労働に関する規定の遵守状況を監督する任務を有するということを新たに明記している。県労働局がこのような任務を遂行できるようにするために通達では、時間外労働の通知には、法規定を遵守していることを証明できるような事項がすべて含まれなければならないと定めている。県労働局は、1961年7月22日法律628号4条により付与されている、社会立法における諸制度の適用に関する情報の請求・収集権限を活用することができるであろう。

通知の内容については、法律は明確な定めをおいていないが、週45時間を超過したということを通知するだけで十分であると解される。したがって時間外労働を行わせる従業員の数、時間外労働の長さ、時間外労働を行わせる理由などの情報を提供することは義務づけられないこととなる。

以上のような行政に対する通知義務以外に、使用者には労働組合への通知義務も課されている。前述のように、改正後の5条の2の第3項は、時間外労働に対して法律が定める上限を超える時間外労働が認められる事由について、3つの事由を定めているが、そのうちa)号(例外的な技術的・生産的要請があり、他の労働者の採用を通してその要請に対処することができない場合)とb)号(不可抗力の場合、または通常の労働時間体制によおけ労働の中断が人や生産に対して危険や損害をもたらす場合)について行われる時間外労働は、その長さに関係なく、時間外労働の提供の開始から24時間以内に、統一組合代表または事業所組合代表、これらの組合代表が存在していない場合には、全国レベルで比較的最も代表的な労働組合の総連合に加盟している産業別組合の地域組織に対して通知を行う義務が定められている。

c)号の事由については、従来から別の法律で、企業内における組合代表への通知が定められていた。

労働組合への通知は、県労働局への通知とは異なり、法定の週労働時間(40時間)を超過した場合に義務づけられる。

労働時間令5条の2で規定されている通知義務は、すでに以前から同条の適用範囲から排除されていた事由に対しては適用されない。このような事由とは、次のようなものである。

  1. 農業労働その他、技術的・季節的な必要性に応える必要性のある労働。
  2. 準備的労働・補完的労働の遂行。
  3. 特定の産業について労働大臣が臨時的に定めた例外措置。
  4. 労働者と使用者との意思とは無関係の、予見していない原因による労働停止期間の回復、不可抗力による労働停止期間の回復、使用者と従業員との間で合意して行った労働時間の中断の回復。ただし、回復のための労働時間の延長の結果、1日の法定労働時間の上限を超えるものとはなってはならない。

このほか、企業が1923年の勅令1957号の別表で定める作業(すなわち、技術的・季節的な必要性のある作業で、一定期間、一定範囲内で、1週40時間を超えることが許されているもの)を遂行するときに、県労働局に事前に通知しなければならないという点は従前の規定のままである。

制定規定

最後に、改正後の労働時間令5条の2の第4項は、改正後の5条の2に違反した場合には、時間的な限界を超えた時間外労働ないし法律が規定している事由以外で行われた時間外労働について、それに従事した労働者1人につき、10万リラ以上30万リラ以下の行政罰(過料)が科されると定めている。行政罰として支払われた額は、国庫に組み入れられる(1999年法律409号2条)。これは、1993年3月20日法律命令148号(1993年7月19日法律236号で法律に転換)の1条7項の定める雇用基金に割り当てられ、(1997年の雇用促進法13条の定める)労働時間の短縮とパートタイム労働を促進させるための社会保険料の削減・調整のための財源にあてられる。

なお、時間外労働が行われた結果、労働時間が45時間を超えた場合の通知義務に違反した場合については新法は特に制裁を定めていない。通達によると、このような通知義務違反の場合には、労働時間令9条が労働時間令の規定に違反した場合について定めている制裁規定が適用されることになるとする。同条によると、使用者が労働時間令の規定に違反した場合には、5万リラ以上30万リラ以下の行政罰(過料)が科される。仮りに法律違反の状態が5人を超える労働者に及んでいる場合、または、暦年において50日を超える場合には、30万リラ以上200万リラ以下の行政罰(過料)が科されることになる。

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