新たな労使関係改革案

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年6月

1999年2月に、リース職場関係省長官が作成した労使関係改革案の内容がメディアにリークされた。その多くはハワード首相も承認していると伝えられた(注)。メディアで報道されて以来、リース長官の提案は多くの批判を浴び、上院ではその多くが退けられるものと予想されている。

改革案の内容

マスコミを通じ明らかになったのはハワード首相とリース長官の間で取り交わされた秘密文書の内容である。この文書には政府の労働市場改革に対する方針が示されていた。

その内容は、アワード制度の役割と労使関係委員会の権限をさらに縮小すること、そして社会保障制度を通じて「相互義務」条件の範囲を拡大することにより、労働市場の規制緩和を一層進めようとするものであった。この提案は、1998年10月の総選挙で政権を維持した場合の政策提言を首相から求められた際のリース長官の回答であった。この提案は、リース長官にとって職場関係省の管轄に雇用政策を含めることを意味した。リース長官は1998年の港湾労使紛争でその指導力にダメージを受けたと伝えられており、今回の提案により信頼性回復を狙ったと思われる。この背景には自由党内の勢力争いがかいま見える。メディアに伝えられた提案内容の主なものは次のようにまとめられる。

  • 「不利益審査」の緩和。首相は1996年の総選挙の際に、労使関係改革により国民の生活は悪化しないと公約し、それを実現するために設けられたのが職場関係法の「不利益審査」原則であった。職場関係法では、認証協定やオーストラリア職場合意締結の場合、従前のアワードの条件よりも全体的に見て労働条件が不利になってはならないと定められている。文書では、職場合意の最低基準の意味を持つ新たな一つの標準的アワードを作成することが提案されている。つまりこの標準アワードは既存のほとんどのアワードより低い基準を定めると予想されている。
  • 企業が失業者を採用する場合、通常とは別の制度が適用される。具体的には、職場関係法の不当解雇禁止規定の適用除外を認めることなどが含まれる。
  • 労使関係委員会は最低賃金ケースを審査する権限を失う。
  • 小規模企業は通常の労使関係制度の適用を除外される。
  • 長期失業者が雇用された際の賃金は、通常の労働者に比べ引き下げられる。
  • 失業者の相互義務の強化。失業手当受給の代わりに、失業者は労働、訓練、教育のいずれかを果たさねばならない。
  • 低所得者に対する税額控除。

改革案に対する反応

この提案が明らかになってから、労働組合や野党労働党、上院議員の一部が一斉に反発の姿勢を示した。労働党は同提案が階級闘争や国民の間の分断をもたらすと非難した。

他方、リース長官はオーストラリア経営協議会(BCA)に対して自分の提案に同調するよう求めた。専門家の中には、BCA が1980年代に保持していた影響力回復を狙っていると見る者もいる。実際、BCA 自身も労使関係改革案を作成しており、その内容は政府のそれと酷似していた。

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