1999年の賃金・労働協約改訂交渉をめぐる動き

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年6月

韓国経総が1999年の賃金・労働協約改訂交渉を前に50大企業グループの人事労務担当役員を対象に行った調査結果によると、「1999年の労使関係が安定する」と答えたのは19.5%にすぎず、「不安定になる」と答えたのが65.9%を占めた。労使関係の不安定さが懸念される部門については「製造業の大手企業」(39.0%)と公企業(31.7%)を挙げたのが多い。労使関係の不安定要因としては「雇用調整と賃金削減に対する労働者の反発」(34.6%)、「賃金・労働協約改訂交渉権の委任増加」(19.8%)、「強硬派労組委員長の登場」(16.0%)、「労組の団結力強化に向けての労働協約改訂の要求」(13.6%)、「労使政委員会を通しての要求事項貫徹の試み」(11.1%)、「労労対立」(4.9%)などが挙げられている。1999年の賃金・労働協約改定交渉における主な争点については「雇用安定」(33.3%)、「賃上げと1998年の賃金削減分の補填」(21.1%)、「人事経営権への参加」(14.7%)、「退職金中間清算制の義務づけ」(12.2%)などが指摘された。その他、1999年に雇用調整を計画しているところは63.4%に達し、賃金水準については凍結または削減すべきであると答えたのは78.1%に上っており、1999年も雇用か賃金かの選択を迫る構図に大きな変化はみられないようである。

労働部がまとめた「1999年の賃金調整展望」によると、従業員100人以上の事業所584カ所のうち、69.2%は賃金凍結、10.1%は賃金削減、20.2%は賃上げを実施すると答えている。賃上げ計画のある企業は1998年の15.5%より増えており、景気回復と共に賃上げの全力を取り戻す企業が増えていることの現れであろう。

労働界の指針・労使政委員会からの脱退

1999年の賃金・労働協約改訂交渉をめぐっては、1998年に経済危機の影響で一方的な譲歩を強いられていた労働界が巻き返しに転じる動きが目立っている。まず韓国労総は1月中旬、1999年の賃上げ要求率5.5%とともに、いままで譲歩していた労働協約案の原状回復、雇用安定、労組の経営参加などを盛り込んだ賃金・労働協約改訂交渉の指針を提示し、政府に対しては週40時間への労働時間の短縮、労組専従者賃金支給禁止条項の削除、労使政委員会法の制定などを要求した。民主労総も1999年の賃上げ要求率7.7%とともに、最低賃金の引き上げ、年俸制の撤回、雇用安定、産別体制への移行、労組の政治勢力化などを推進することを決めた。その後、民主労総と韓国労総は相次いで労使政委員会から脱退し、対政府闘争に突入することを宣言するなど、いまのところ労働界はどちらかといえば労使交渉よりは労政交渉に精を出しているようにみえる。

韓国経総の指針

そういう中で、韓国経総は2月25日、「構造調整を完了した企業は賃金凍結を、構造調整が進行中の企業は解雇回避努力との連携で企業の事情に応じて適正比率の賃金削減を行うよう勧告する」賃金ガイドラインを提示したのに続いて、3月19日には「1999年の賃金・労働協約改訂交渉戦略セミナー」を開いて、次のような「1999年の労働協約締結指針」を発表した。

まず、労働界が強く求めている雇用保障や整理解雇禁止などについては、雇用保障関連条項を労働協約に盛り込んだり、別途に雇用安定協約を締結することがないようにする。また、整理解雇に関する内容もできるだけ労働協約には盛り込まないようにし、整理解雇に関する規定が労働協約に盛り込まれている場合は解雇の事由を包括的に規定するようにする。

第二に、もう一つの争点である労組専従者賃金支給については、2001年まで労組専従者数を段階的に縮小し、有給専従者の増員は現行法上認められない点を明記する。労働法改正後も専従者の給与や専従者の数を削減していない企業は2002年の法施行までの3年間毎年30%ずつ削減するようにする。

第三に、労組側の産別交渉要求については、労使関係の安定のためにそれに応じないことを原則とし、企業別労使交渉の慣行を定着させる。無労働無賃金原則を徹底し、争議期間中の賃金全額を差し引くようにする。労使代表が合意した労働協約改定案の組合員総会への上程を禁止する条項を新設する。

第四に、労働条件の下方調整の際に、福利厚生関連項目も含める。労働時間を短縮する際には労働時間短縮分に相当する賃金削減を行う。経営権への参加については会社の経営事項を労使交渉の対象として取り上げるのには応じず、労使協議会を通して協議・報告するようにすることなど。

政府の対応

このような賃金・労働協約改訂交渉をめぐって、労働部は3月21日、「個人別差等成果給制」を導入している企業と成果給を支給される労働者に対する税制上の優遇、年俸制への転換、賃上げ率と雇用安定の連携など3つの方針を主な内容とする「1999年の賃金交渉勧告指針」を作成し、46の地方労働官庁に配布することを明らかにした。労働部の関係者は賃金ガイドラインと関連して「労働界の主張は現実的ではない。賃金ガイドラインは設定せず、賃上げの代わりに雇用安定を確保するよう指導する方針である」と述べた。

労働部によると、「100人以上の事業所4303カ所のうち、年俸制を実施したり、導入を計画している」と答えたのは2207カ所(51.3%)、「成果配分制を実施したり、導入の準備に入っている」ところは1885カ所(43.8%)に達している。これは1997年10月に比べてそれぞれ4倍と2倍近く増えたことになる。年俸制の場合、課長級以上を対象にしているところが30.5%で最も多く、全社員を対象にしているのは19.4%にとどまった。

労働部が4月5日に発表した「3月中の賃金交渉状況」によると、3月の賃上げ率はマイナス0.3%で1月のマイナス4.1%、2月のマイナス1.3%より上昇している。賃金交渉が妥結した453カ所のうち、賃金凍結を決めたところは65.6%、賃金削減は11.0%、賃上げ23.4%をそれぞれ占めている。賃上げで合意した事業所は1998年の5.8%より4倍近く増えており、景気回復に伴い賃金補填に応じるところが増えていることがうかがえる。

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