「経済成長を目指す同盟関係」

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年5月

スウェーデン労働総同盟(LO)の主導によって、LO、ホワイトカラー労組連合(TOC)、大卒専門技術者労組連合(SACO)、スウェーデン経営連盟(SAF)の4者は、1998年後半を通じ「経済成長を目指す同盟関係」について話し合ってきた。各団体がスウェーデンの直面する諸問題への処方箋に合意した後この話し合いは経営側により突然中断された。

処方箋として団体交渉によるのか立法化によるのかを実際に交渉する段階になっても、SAFはこれに関する加盟企業からの委任を取り付けていなかった。LOは制定法上、賃金について団体交渉する権利を持ったことはないが、LO執行部は枠組み協約を交渉しない場合、少なくともLO加盟全労組の共同要求に合意を取り付けるよう対処し、最低所得者層を組織している労働組合を支援するために加盟労組の結束を図ってきた。これに対しTCOは、団体交渉には何の役割も果たしてこなかった。つまり、TCO加盟労組の場合、個別にあるいは交渉カルテルが団交を行ってきた。最近ではLO加盟の産業別労組が、TCOや製造業の事務技術系職員労働組合(SIF)、SACOの土木技師と共同して交渉にあたっている。

しかし、SAFがこの同盟関係をめぐる話し合いから手を引いたからといって、雇用増大をもたらす起業のための環境整備策についての労使間の合意形成努力が終わったことにはならない。この環境整備策は、積極的なEU政策、労働市場の柔軟化を目的とする労働法の改正、税制体系の修正、政府補助金で運営される職場における学習制度などである。

問題点をどのように説明するかについての各団体間の今回の合意は、既に1つの始まりといえよう。実際の交渉は、交渉権のある当事者レベル、すなわち支部レベルに任せざるを得なくなるだろう。政府の役割については、こうした交渉を促進・調停する程度に抑えるべきだとの一般的な合意が見られる。ただ、全当事者は1980年代末までスウェーデンが享受してきた完全雇用を回復するために一層の経済成長が必要と考えているようである。

今後の交渉成功の見込みは十分あると言えよう。ヨーロッパ通貨同盟の問題を含めてスウェーデンのEU政策について意見の相違は全くない。職場における恒常的な教育訓練の必要性とその体系は既に労使間で合意されている。残された問題は、政府に財源を支出させることにある。

税率調整についても労使間に共通の利害があるように思われる。というのは、企業が税率の高さを理由に本社を国外に移したり、専門技術者が所得税の低い国に移住する事態が発生しているためである。さらに、スウェーデン産業が同国より所得税の低い国から外国人専門家を呼び寄せたい場合にこの税率が障害となる。しかし、高い税率を全体的に引き下げるべきとの主張は見られない。国民は公的サービス維持のために高い税率の適用に合意している。

今回の話し合いの労使当事者は、世界経済の発展が、生産技術領域における新たな取り組みや新たな労働形態、個別労働者の責任の加重、製品の一定の向上をスウェーデン産業にもたらしたことでは意見が一致している。さらに、失業問題では、起業家を対象とする環境改善やインフレを伴わない需要喚起により解決すべきだという点で一致した。また、賃金決定制度は、労働者に新たな責任の引き受けと新たな技能の学習を奨励し、効率的な労働組織を支援するものでなければならないと位置づけられた。

両当事者により示された処方箋で注目されるのは、スウェーデンがEUにおいてより積極的な役割を果たすべきとしている点である。EUに対して極めて否定的な態度をとってきたLOは、拡大化するEU域内経済圏で経済成長の好機をうかがっている経営側を支持することに合意している。また労組側は、産業や職種、契約形態を通じて柔軟性のある労働生活に対する新しい要請に合わせることに合意している。これに対し経営側は、育児や家事の責任を負担する勤労者世帯のニーズや移民労働者の雇用の潜在的な高まりを認識している。

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