フレキシブル賃金システム、危機下で効果を発揮

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年5月

全国労働組合会議(NTUC)のリム・ブーンヘン書記長(無任所相兼任)は1月15日、前回の景気後退期(1980年代半ば)以降に導入されてきたフレキシブル賃金システム(FWS)が現在の不況のもとで効果を発揮しているとの認識を示した。

FWSは、過去の高率賃上げが1985年のマイナス成長につながったとの認識のもとに、景気動向に即応した賃上げ決定を可能にすべく、同年以降政府が導入を進めてきた賃金制度で、具体的には、賃金を固定給部分と可変給部分に分け、景気の変動に応じて後者を変化させるというもの。今回の不況はFWSの導入が始まって以降初めてのもので、その真価が問われていた。

リム書記長がFWSの効果を評価するにあたって根拠にしたのは、1998年賃金統計とメリルリンチ証券レポート(1月6日付け)。前者によれば労使交渉で定められた年間平均賃上げ率は1998年初頭の4%から第3四半期の2%へ低下しており、また企業のなかには労働組合が雇用確保のための賃金凍結すら受け入れたところも数社ある。

一方、メリルリンチ証券の顧客向けレポートは、中央積立金(CPF)の使用者側拠出率が引き下げられる以前でさえ賃金はきわめてフレキシブルになっていたと述べている。それによると、一般にマイナス成長期には賃金は産出量減少に遅れをとるため単位労働コスト(ULC)は加速的に上昇する傾向があるが、シンガポールの1998年のULC上昇率は第2四半期の3.1%から第3四半期の1.8%へと低下した。これは景気下降期に賃金低下が産出量低下に先行したことを示唆しており、FWSのもとでは賃金は「下方硬直的でない」ことを示している。

月間可変賃金、月収の5%前後になる見通し

FWSをさらに柔軟にするため、NTUCは1998年10月以来、年末ボーナスの一部を毎月繰り上げ支給し、景気動向に応じてこの部分を変化させるという「月間可変賃金」案を提唱しており、政府も導入を検討している。これにより、企業は年末ボーナスの削減を持つことなく賃金コストを削減でき、資金繰りへの迅速な対応が可能になる。

リム書記長によれば、1985年不況と現在の不況は12~15%の賃金削減が必要であることを示しており、そのうち8~10%を年間ボーナス削減で達成できるとすれば、残りは毎月の可変賃金で削減する必要がある。政府部内では現在、可変賃金の割合を月収総額の最低3~6%に設定する方向で話し合いが進められている。

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