スト規制法の改正法案の内容

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年5月

イタリアにおいては、ストライキ権は憲法40条により規制されている。しかし、この条文に基づき法律上の規制が行われた例は、これまでは不可欠公共サービス部門に関するストライキの規制を目的とする1990年6月12日法律146号(スト規制法)だけである。

スト規制法は、不可欠公共サービスの利用者の権利を実効的に保護するために、ストライキ権に一定の規制を加えようとするものであり、その意味で画期的なものであった。しかし、実際に法律を適用していく段階となると、法律に違反した者に対する制裁などに関して不十分な点があることが明らかとなってきた。たとえば、制裁を行わなければならないはずの使用者と行政当局は、紛争を回避するために、あるいはストライキがいっそう激しくなることを避けるために、あえて制裁を実施しないということがしばしばあった。

運輸部門においては、1998年12月23日に政労使間で新たな労使関係のあり方をめぐる協定が締結されており、この協定の経営側の締結主体であるイタリア工業連盟の副書記長によると、この協定においては、団体交渉はもはや労使紛争を引き起こすきっかけではなく、労使紛争の予防の契機であるとされている。このような変化は、ストライキに対する規制のあり方にも影響を及ぼすことになろう。

実際、この運輸部門の協定の締結後、スト規制法の改訂作業が進められてきている。この作業は、モデナ大学のビアジ教授などこの問題の専門家に委ねられてきた。先日、この作業の成果としてスト規制法を改正する法案が発表された。法案は、おそらく数カ月後には法律として成立するであろう。

法案のポイントは、まず第一に保証委員会の権限を強化していることである。特に問題となるのは、法律違反に対する制裁についてである。法案は保証委員会に直接に制裁を実行する権限を与えてはいないが、どのような内容の制裁を課すかを定めたり、その制裁が実行されることを監督するという権限を付与している。同時に、制裁をあえて実行しようとしていないと非難されてきている行政をも保証委員会による監視の対象とすることが定められている。このような不作為にに対する「罰」としては、重い金銭的制裁が定められている。また、協定を遵守しない労働組合に対しても一定の処分が規定されている。

法案のもう一つのポイントは、自主規制準則を通して自営業者や零細企業をも法規制の範囲に含めようとしていることである。この点については、問題は法技術的な性格を持つのではなく、政府がいかにして介入すべきかという政治的な性格を持つものといえる。

法案の具体的な内容

今回提出されたスト規制法の改正案は、8つの条文で構成されている。いずれも1990年のスト規制法を修正したり、補充したりするための重要な内容を含んでいる。以下、この8つの条文を順番に見ていく。

まず法案の第1条は、現行法の2条1項(ストライキ権を行使する場合には、10日以上前の予告と労働の不提供期間の明示が必要であると定める規定)を補充して、ストライキを宣言した主体に対して、そのことを保証委員会に通知する義務を課している。保証委員会が、このような新たな予告制度を通して、企図された争議または既に宣言された争議のスケジュールを常に確認できることが必要と考えられたからである。そのため、保証委員会はストライキの遂行方法、および調停の申請をする場合にはその理由についての情報も提供されなければならないと定められている。この結果、保証委員会には紛争の予防という重要な任務が与えられることになる。

法案の第2条は、現行法の規制の対象を「ストライキと同様に、諸制度において基本的な重要性を持つ任務の十全かつ通常な運営を危うくすることになる他の形態の集団的抗議」にまで拡張している(これは、現行法の第2条の第1項と第5項とを補充するものである)。例えば、弁護士や検察官が、防御的な労務不提供を行う場合について適切な通知を行う義務、および労務不提供の長さを合理的に限定するる義務が規定されている。

さらに、行政内での職員代表に関する規定部分について、現行法は1983年3月29日法律93号(公勤務基本法)に言及しているが、これを廃止して、1993年の委任立法29号およびその後の修正規定、ならびに1997年委任立法396号に置き換えることとしている。このほか、協定締結当事者がサービス利用者団体の意見を聴取するという手続を廃止し、意見聴取は協定の適切性を判断する場で保証委員会により行われることとされている。

法案の第3条は、争議の頻度を低くすることを目的とする規定である。これは前述の1998年の運輸部門の協定にも取り入れられていた規定であり、公共サービスが断続的に中断され、その結果としてストライキの影響を受けるサービス利用者に対して壊滅的な影響が及ぶのを防ぐことを目的とするものである。この条文は様々な労働組合による自主的な解決を想定しているが、あるストライキと次のストライキとの間に10日間の間隔を置くことは、自主的な合意が成立しなかった場合でも保障されなければならないものとされている。

また同条は、保証委員会に対してもう一つの任務を加えている。すなわち、10日の期間をあけなければならないのは一定のサービスの範囲内でのストライキの繰り返しに対してであるため、そのサービスの範囲について定めることが保証委員会の新たな任務とされている。

法案の第4条は、ストライキの宣言の撤回に関する規定である。保証委員会は、ストライキの撤回が繰り返し行われることを避けるために調停を試みるということが定められている。この調停の試みは、ストライキが開始される日の5日前までに行わなければならない。

この5日間という期間は、ストライキの公表が行われる期間を踏まえたものである。現行のスト規制法2条6項では、ストライキの開始の5日前までに、行政またはサービス提供企業はサービスの利用者に対してストライキの公表をしなければならないと定められている。そのため、ストライキの実施の5日前までには、サービスの利用者はストライキの態様や保証されているサービスの内容を知ることができていなければならない。この時点までに、保証委員会は調停を試みるために介入しなければならないのである。

労使間でストライキの実施の直前(5日未満)に協定が成立して紛争が解決した場合における突然の撤回は避けることのできない正当なものである。これに対して、このような正当な理由のない撤回が行われた場合には、保証委員会は撤回の決定を不公正な組合活動と判断することができる。このような判断が下されれば、労働組合にはスト規制法4条3項で定める制裁(2カ月間、団体交渉から排除)が課されることになる。

法案の第5条は、現行法上の法律違反に対する制裁規定をより実効あるものとするための修正規定を定めている。すなわち、現行のスト規制法4条に1項追加し、保証委員会は行政およびサービス提供企業がスト規制法4条1項に定めるところにしたがい、その懲戒権限を行使する義務を実際に果たしているかどうかを確認するものとされている(4条1項は、予告義務や不可欠な給付を行う義務に違反した労働者は、解雇などを除いた懲戒処分を受けるものと定めている)。

新規定における重要な改正点は、懲戒処分を課すことについて正当な理由のない遅滞があった場合にはその都度、当該行政の監督者や当該団体・企業の法的代表者に対して罰金処分を課すと定めている点である。この処分については、保証委員会が当該違反行為の程度やこれまでの違反行為の回数を考慮したうえで決定するものとされている。ただし、この制裁の実施は県労働局により強制命令によって行われることになる。

このように、制裁について決定する権限とこれを実施する権限とを分離したことにより、スト規制法が保証委員会に付与している「紛争に対する中立的な立場」が強調されることとなっている。同時に、保証委員会が制裁に関する権限を全面的に持つことから生じる運営上の負担を回避することともなっている。

法案の第6条は、現行スト規制法の第8条の改正を目的とするものである。第8条は、ストライキの宣言が憲法上保障されている人格権に対して重大かつ差し迫った損害をもたらす危険性がある場合に関する規定である。現行規定(スト規制法8条1項)では、行政当局が当事者に対して前記のような危険な状況を引き起こすおそれのある行為をしないように求めることと定められているが、法案では、そのための期間をストライキの通知を受けてから3日間と定められている。保証委員会は、職権で前記のような危険な状況があることを指摘することもできる。

また法案は、保証委員会の権限である調停に同意するよう、行政当局が紛争当事者に求めることができるということも定めている。同意がなされなかった場合には、現行の第8条1項の定めるように、保証委員会が13条1項a号に基づき行う提案に従うよう紛争当事者に求めることとされている(現行法では、「保証委員会が提案を行う場合には」という文言が挿入されており、保証委員会が提案を行うことが裁量的であるかのような印象を与えているが、このような解釈上の誤解を取り除くために、法案ではこの文言は削除されている)。

さらに、徴用令に関しては、その命令はストライキの通知の際に示されている労務の不提供の開始時の48時間以上前に発令しなければならないと定められている。

法案の第7条は、スト規制法13条で規制する保証委員会の権限の拡大を詳細に規定している。まず第1項で、保証委員会は労使が不可欠な給付の提供に関して締結する協定の適切性を評価する場において、消費者およびサービスの利用者の団体の意見を聴取することができると定められている。このような意見聴取は、現行法では労使が協定を締結する場で行われることとされていたが、この規定は前述のように法案の第2条で廃止され、保証委員会がこの意見聴取権限を受け継ぐこととなっている。

第2項は、スト規制法13条1項a号を修正する規定である。同号は、保証委員会が労使間で締結された協定を適切と判断しなかったため、あるいは保証委員会が適切と評価する協定が締結されていなかったために、ストライキの際にも確保されるべき最小限の不可欠な給付が定められていないという状況について規制する規定である。法案では、このような状況が生じた場合について、ストライキを宣言している組合、労働者、行政、関係企業は、所定の手続の終了の際に保証委員会が決議した不可欠給付に関する暫定規則に定める内容を遵守しなければならない、と定めている。

第3項は、スト規制法13条1項c号を補充する規定である。同号は、保証委員会の任務としてストライキを宣言したり、ストライキに参加したりする者の行為を評価し、法律上の義務の不履行や法律違反があればそれを明らかにし、また4条3項(スト規制法上の義務に違反した組合を、2カ月間、団体交渉から排除することを定める規定)との関係でその事実を指摘することがあげられている。法案では、前記の運輸部門の協定で定められた新たな手続を考慮して、保証委員会が指摘すべき不履行・違反として「労働協約で規定する冷却化手続および調停手続」の不履行・違反に特別に言及している。

第4項は、スト規制法13条1項e号の定める保証委員会の両院の議長に対する報告義務に関する規定を修正するものである。法案では、保証委員会に対して当局が徴用令を発令するよう促す義務を課している。さらに、紛争の実体面について労使間で合意が存在していない場合に、保証委員会が提案する諮問的協議を遂行することができるようにするために、当局はスト規制法8条3項に基づきストライキの延期の命令を発令することも定められている。

第5項は、これまでの保証委員会の権限に新たな権限を追加することを目的とする規定である。なかでも特にh号において新たに追加された権限が注目される。すなわち、行政および不可欠公共サービスの提供企業には、保証委員会からの要求に基づき、ストライキの宣言および実行、ストライキの撤回・中止についてのデータを速やかに提供する義務、さらに既に宣言されたストライキの延期(その理由を明記して)通知する義務、ならびに紛争の発生の原因をめぐり保証委員会から要求された情報を提供する義務が課されている。

このほかp号も重要な改正を含んでいる。同号では、保証委員会に対して明らかに正当性を欠いていたり、特別な攻撃力のある抗議形態について、冷却手続や調停手続をより効果的に活用することを目的として、その中止または延期を求める権限を付与している。

法案の第8条は、スト規制法の規定のいくつか(6条、15条、17条、18条)の廃止を目的とするものである。

以上、法案の中の各条文の内容について概観してきたが、この法案は今後、国会で承認されることを必要としているものであり、国会の審議の中でいくつかの修正や変更が行われることはあろう。しかし、法案の主たる目的となっていた保証委員会の権限を拡大する規定や、法律違反に対するより実効的な制裁を課すことを定める規定については、そのまま維持されることになるのは間違いない。

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