ポーランド/職業教育の展開と失業への取り組み

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年4月

国際化の進展や近代的生産技術の開発が、雇用構造を変化させ、高度な職業遂行能力を身につけた労働者への需要を高めるが、一方で職業適応能力の低い人達は失業と貧困に苦しむことになる。このような状況が教育の役割強化を必要とし、全職業経歴を通して学習する社会を育むことになる。

現在、未成年者の学校とは別に成人学校が教育制度に取り入れられている。成人学校では、17歳以上の人なら誰でも生涯、実務的な学習をすることができ、年齢制限はなく、中・高年者でも在籍することができる。

成人学校には、教育制度の枠組みに組み込まれた学校(intramural)と公開講座学級(extramural)の2つの運営基盤がある。公開講座学級では、全学期中に2週間ごとに2日間(通常は週末)の相談学級(グループ・コンサルテーション)が開かれる。個別相談が1学期中の総授業時間の20%を占めるように配慮され、各学期ごとに指導授業が2回ある(1回目は学期始の学習説明、2回目は学期末最終試験の前)。公開講座学級は、仕事と学習を両立させやすい工夫がされている。1990年代には公開講座の学級数、在籍者数ともに増加した。公開講座学級の学生は、大学の公開講座の受講生になる潜在的候補者でもあり、大学の公開講座(全科目)の受講生数も増えた。公開講座学習が追加的な教育機会を生み出し、学習と仕事を両立させるものとして人気があり、教成人の教育と職業能力の水準を引き上げるものとして注目されている。

職業能力の向上と教育

雇用の拡大と企業競争力の向上のためには教育を労働市場の要求に応じて調整することが重要課題となる。労働市場の変化に合わせて学校制度の改革を目指す重要な指導方針には、以下のようなものがある。

  1. 義務教育期間の延長
  2. 職業教育への徹底した基礎的、一般的な知識の導入(転職を容易にする)
  3. 職業教育像の幅を広げ(専門的になりすぎない)、職業の流動性、柔軟性を高める
  4. 能力の個別化、特殊な職業、職務に結び付く専門能力と、いわゆる基軸能力を区別する
  5. 教育機関(学校や大学)と雇用の場を連結させる
  6. 企業の行う(職場)教育活動に生徒の実質的な参加を促す
  7. 教育経路に期限を設けず低水準から高水準に段階的に移行する教育(垂直的)及び不適切な教育経路、機関の選択について変更を認める学校型教育(水平的)の普及
  8. 労働市場に参入する若者の職業能力向上の必要性と同時に、教育の恒久的な性格についても認識する

しかし、教育活動を単に労働市場の要請からの圧力だけで計画してはならない教育制度の将来展望を経済の拡大のみの視点から描けば、文化的・社会的発展という根本的な要素が、非人間的なものとなるおそれがある。

地域経済の必要性に応じ、職業教育について最適かつ継続的な調整を行うために、制度改革の重要部分として専門的カリキュラムも実施可能な広範囲に亘る教育像が学校教育に導入されるようになった。

1997年以降の新しい法的措置は、特別職業学校や中級職業学校に、各々のカリキュラムに必須科目を取り入れる条件を付して、1職種について複数の訓練カリキュラムを導入することを認めている。基礎的な必須科目が全学習時間の80%を占めている。この1職種を対象にさまざまな訓練カリキュラムを組む方法は、全国的に共通した特色となる。さらに地域労働市場の必要性を満たすために、訓練カリキュラムに専門的な特色を取り入れることが認められ、基礎教科に専門的な実務訓練プログラムを導入することができる。専門学級では、主として教科に取り入れられた職種について実務訓練がなされるが、専門性は、その地域の労働市場の特色に規定されるので、特定の企業の必要性に合わせて職業教育を調整することもできる。必須教科は、同じように大学の授業でも全国的に確立され、総授業時間のうちの50~60%を占める。

教育課程で開発される基礎能力は、学校の卒業生に労働市場で職を見つけやすくさせ、職業移動を促している。(1)企画、組織力、(2)意志疎通と情報処理能力、(3)効率的なチーム・ワーク、(4)創造的な問題解決、(5)コンピュータを使いこなす能力、が基礎能力である。教育・訓練の質の重要性が次第に増し、教育制度改革の優先課題として職業能力資格基準設定の方法についての作業はすでに始まっている。

1989/90年から1997/98年の期間、中等及び高等教育の構造に大きな変化が起きた。中学校(表2)と大学教育を終了した人が多くなったために、社会の一般的な教育水準が変化した。初等教育または初級職業教育だけしか受けず、卒業後すぐに職に就く人数は減少している。

雇用の状況

1998年上半期の失業率はおよそ11%に減少した。これは失業率が減少すると同時に雇用事務所に登録した失業者数も減少したことを示す。1998年8月末現在の失業率は過去7年間と最低となり、EU の平均失業率より低くなった。

1996年に学校を卒業した者の中の失業者の最大グループは、中級職業学校教育(中級以上を含む、以下同じ)を受けた人たちで構成され46%、それよりやや小規模なグループは初級職業学校教育を受けた人たちの34%、最も少なかったのは大学卒業者のグループで4.3%だった。1997年になると、学卒失業者の構造に変化がみられるようになった。学卒失業者総数(44.2%)のなかで、初級職業学校の卒業者が占める割合が目立って増えた。同時に、中級職業学校の卒業者による割合が37.3%まで約10%減少した。1998年8月における学卒失業者のなかの最大グループは、中級職業学校の卒業者の45.94%、2番目は初級職業学校の卒業者の35.48%だった。上記のデータは、中級と初級の職業学校卒業者が最も深刻に失業の脅威に曝されていることを示している。

このような状況に対処する教育政策は、特殊な職業学校教育を受けた人や教育水準が低い人達を減らし、中等教育の組織と教科の変更を行うというものである。労働市場の必要性に柔軟に応じるために、訓練期間を短縮した(2、3年)新形式の職業学校や、単位取得方式によるカリキュラムが教育訓練制度に取り入れられようとしている(「教育制度改革」文部省、1998年」。

雇用事務所に登録した学卒失業者のなかで、最大多数を占めるグループは、初級職業学校の学卒者と中級職業学校の卒業者であり、最も少ないのは大卒者グループである。学卒者と雇主が互いに必要とする条件に不一致があり、また経済が未だに落ち着いていないが、失業率が下がり状況が改善されつつある。

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