政府の1999年度失業対策

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年4月

統計庁によると、1998年7月に7.6%に達した後、下がり続けていた失業率が1998年11月に4カ月ぶりに上昇に転じ、12月には7.9%に急上昇し、1982年7月に月別失業統計を取りはじめて以来最も高い水準を記録した。1998年の年平均失業率は6.8%で、1997年の2.6%より4.2ポイント高い。失業者数で見ると、1998年7月の165万人をピークに、10月には153万人台まで減っていたが、11月に155万7000人、12月には166万5000人に達した。1997年12月の65万8000人から、この1年間で失業者数は100万人近く増え、2.5倍に膨らんだことになる。

12月に失業者数が再び急増した背景には、(1)高校・大学卒業予定者の求職活動が始まった結果、15~19歳層の失業者は4万人、22~29歳層は6万7000人増えた、(2)冬季に入って農林水産業・建設業部門での仕事や政府の失業対策事業が減った、(3)景気低迷が長引く中で構造調整が進められていることもあって、倒産に追い込まれる企業だけでなく、生き残りをかけて減量経営(人員削減と新規採用の抑制)に取り組む企業も急速に増えたことなどが影響している一方で、12月の就業者数は1952万1000人で、前月より33万1000人、1年前に比べて116万1000人減った。就業者数の減少幅が大きいのは、冬季に入って仕事が急減している農林水産業や建設業部門である。

不安定な雇用形態の増加

就業者として分類されているものの、給与をほとんどもらえず事実上失業状態にある一時休職者数は19万9000人で、1年前(12万6000人)より57.9%増えている。また週36時間未満の労働者は243万1000人で、1997年12月の178万7000人に比べて36%増え、さらに週17時間未満の労働者は62万3000人で、1年前の33万3000人より87.1%増えた。特に、常用労働者の3万3000人減に対し、日雇い職は3万5000人増、臨時職は1万1000人増など、不安定な雇用形態の増加傾向が著しい。この結果、常用労働者の比重は50.9%で1997年12月の52.2%より1.3ポイント下がったのに対し、日雇い職労働者は14.1%から16.1%へ上がっている。

労働部が従業員30人以上の製造業の事業所1133カ所を対象に調査した「1999年第1四半期製造業雇用動向」によると、「雇用調整の計画がある」企業は28.0%で、前年同期の57.4%、1998年第4四半期の42.8%より大幅に減っている。雇用調整の方法としては「希望退職などによる人員削減」よりも「一時休業など労働時間短縮」を好んでいる。業種別に見ると、機械金属工業分野が32.7%で最も多く、次いで化学工業分野26%、軽工業22.8%の順である。その反面、新規採用計画があるところは11.6%にすぎない。このように製造業部門では人員削減による雇用調整は一段落したものの、新規採用の余力はないところが多いようである。

労働部がまとめた「1998年下半期大卒者新規採用状況」によると、30大企業グループの採用規模は9592人で、1990年代の平均採用規模の70%水準にとどまった。そのうち5大企業グループは正規社員1917人、インターン社員5130人、合わせて7047人を採用するなど、インターン社員中心とはいえ、優秀な人材獲得の手は緩めていないことがうかがえる。大手企業グループの間では、「新規採用が2、3年中断する場合、業務の流れが途切れるなど構造的な問題を抱えてしまう。優秀な人材が必死で就職活動に臨んでいる今が、ニーズに合った人材を獲得できる良い機会である」という見方が支配的である。ただ、新規採用方式については、構造調整に伴う雇用調整に不安を募らせている在職社員の反発を避けるためにも、従来のような「企業グループ主導の公募方式」よりは「系列企業別随時募集方式」を選ぶ傾向が広がっている。労働部では、「大学の卒業予定者39万5000人余りのうち6万2000人が軍隊に入り、12万人余りが就職するとしても21万3000人余りが失業することになる。これに既存の大卒未就業者7万3000人を合わせると、学卒の未就業者は28万6000人に上る」と推定している。

一方、労働者派遣法が施行されて3カ月が経った1998年9月末までに労働者派遣業の許可を受けた会社は288社で、派遣労働者3万2545人を2054カ所の事業所に派遣した(労働部)。12月末には620社に上り、月100社以上のペースで急増している。そして大韓商工会議所がソウル市内の上場会社380社と非上場会社165社など545社を対象に「労働者派遣制度の利用実態」を調査したところ、派遣労働者を採用した企業のうち91.7%は「派遣労働者を引き続き利用し、その割合を増やす」と答えている。また、派遣労働者を利用していない企業のうち36.1%が「今後利用する計画である」と答えている。

1998年2月に整理解雇制が施行されて以来、使用者側が厳しい整理解雇要件を回避するために全従業員に一括して辞表を出させた後、選別的に辞表を受理する方法で労働者を退職させる事例が相次いでいる。そんな中、そのような行為を整理解雇とみなし、労働基準法に定められた整理解雇の要件を満たすよう求める判決が出された。

ソウル地裁は1月14日、クリスチャンテレビ社の元従業員19人が同社の経営側を相手に起こした解雇無効確認訴訟で、原告勝訴の判決を下した。同判決は、「被告側は全従業員に署名欄だけを空欄にした辞職願を配った後、一括して辞職願を出すよう強要した。労働者側が自分の意思で辞職願を出したわけではないので、被告側の解雇処分は経営上の理由による解雇(整理解雇)に当たる。したがって、整理解雇要件を定めた労働基準法第31条に基づいて解雇基準などについて労働者代表と誠実に協議しなければならないにもかかわらず、その手続きを踏まなかったので違法である」としている。

1999年総合失業対策

政府は1月19日に開かれた金大中大統領主宰の閣僚会議で、「1999年総合失業対策」を確定した。まず中期目標として、今後4年間、社会資本(SOC、公共事業)関連投資を毎年10%以上拡大する。特に超高速情報通信網、電力、環境関連施設など雇用効果が高い上、国際競争力が強化できる公企業部門に対する投資を拡大し、2002年までに200万人規模(毎年50万人)の新規雇用を創り出し、失業率を5%台、失業者数を150万人台に抑えることなどを打ち出している。次に1999年の目標としては観光・文化・映像・情報通信・保健医療など付加価値の高いサービス産業を育成することにより40~50万人規模の新規雇用を創出し、失業率を年平均7.5%(経済成長率2.0%と仮定)水準に抑えることなどが掲げられた。特に1999年の第1四半期には失業率が8.3%、失業者数も175万人以上に上るなど最悪の雇用状況を迎えると見て、長期失業者の大量発生に備えて社会安全網を拡充するところに失業対策の重点を置いている。

失業対策の予算は7兆6911億ウオンで1998年より35.7%増え、適用対象労働者数は延べ475万人で1998年より175万人増える。部門別予算配分状況を見ると、まず失業給付に1兆5012億ウオン、失業対策事業に1兆6000億ウオン、生活保護に9632億ウオンなど失業者の生活保障のために延べ6兆2600億ウオンを投入する。次に失業者の職業訓練、高学歴未就業者の支援など職業訓練と就業斡旋のために1兆4311億ウオンを配分する。部門別対象人数は失業対策事業で35万人、雇用維持支援事業で102万人、職業訓練で32万人、失業給付で53万人、時限付生活保護で57万人、生活保護で116万人などである。

上半期の失業対策

その後、1月29日に開かれた金鐘必首相主宰の失業対策委員会では、失業対策事業の対象人員や大卒のインターン社員採用規模をさらに増やすことを主な内容とする「1999年上半期の失業対策」が確定された。

まず、第1四半期の失業対策事業に投入する人員の規模を当初の1日35万人から40万人に増やし、大卒のインターン社員採用規模も当初の3万7000人から3万9000人に増やす。第二に、公共事業予算の70%を上半期に傾斜配分し、できるだけ第1四半期に早期執行するとともに、雇用創出効果が大きいサービス産業や住宅建設事業の活性化を図る。第三に、情報化促進基金500億ウオンを投入し、軍調達情報システムの構築、外交通商資料のデータベース構築、建築物台帳の電算化などの事業を通して5800人余りの雇用効果をあげる。第四に、失業し生計が困難な失業者57万人を時限付で生活保護対象者とし、医療費と子女の学費などを支援する。

インターン社員制度の改善

このような失業対策の中で特に注目されるのは、第1四半期にその数がピークに達すると見られる学卒の未就業者を対象にしたインターン社員制度の改善と採用規模の拡大である。政府が、1998年上半期から整理解雇を控え、新規採用を抑えてきた大手企業グループに対して、構造調整の速やかな推進と整理解雇の自制という相反する要求の上、インターン社員の採用まで求めたこともあって、企業側は「主に経営の先行きが不透明で契約終了後正社員としての採用が保証できない」ことを理由に、最初インターン社員の採用に及び腰であった。その後、政府がインターン社員の採用促進策として雇用保険から採用奨励支援金を支給することを決めてからは、インターン社員採用に踏み切る企業も増えてきた。しかし、今度はインターン社員側から「営業・流通や単純作業などに回し、単純労働力として使い捨てにしている」との苦情やトラブルが相次いだ。

そのため政府は、従来のような企業側の自主的な採用方式を、大学側主導の選抜方式に切り替え、次のような仕組みを取り入れることを決めた。まず、現在失業状態にある卒業生と卒業予定者を対象に大学側が独自の基準でインターン社員候補を選抜し、企業、研究所、経済・社会団体、公共機関などのインターン研修機関と交渉し、インターン協約を締結する。各地方労働事務所は、大学側のインターン社員割当て要請を受けて同割当て枠を確定し、採用奨励支援金を大学側に支給し、大学側が直接インターン社員に渡すようにするというものである。採用支援金は、6カ月間でインターン社員1人あたり月40万ウオン(5大財閥)~50万ウオン(一般企業)が支給される。

労働部は1998年12月22日、「大学側主導のインターン社員採用方式に切り替えてから、全国の300大学(短大を含む)から4万3080人のインターン社員割当て申請があり、そのうち3万6188人をインターン社員として割り当てた」ことを明らかにした。この3万6188人は、1999年2月の全卒業予定者の8.5%に当たる。

この他に政府は、雇用保険の特別延長給付制度や雇用維持支援金及び採用奨励金制度などを拡大実施し、長期失業者への対応や雇用安定にも力を入れることにしている。

失業給付支給期間の延長

まず、雇用保険の特別延長給付制度を1999年6月末まで引き続き実施する。同制度は失業給付の支給期間が終わる失業者に対して「失業給付」2カ月分の70%または退職前賃金の35%をボーナスで支給するものである。今回、その施行期間がさらに6カ月間延長されるに伴い、15万人余りがその対象になると見られる。労働部の関係者は「この制度のために1000億ウオンの予算が投入される。今回の措置で失業給付の支給期間が2~5カ月から4~7カ月に延びるので、長期失業者の生活安定に役立つだろう」と述べている。ちなみに1998年7月15日から1999年1月14日まで施行された第一次特別延長給付制度の適用対象になったのは13万5000人余り(支給額950億ウオン)と推定されている。

雇用維持支援金制度の拡大

第二に、1999年3月までの時限付きで雇用保険の雇用維持支援金や採用奨励金の支給額を引き上げ、支給期間を延長する。雇用維持支援金は、対象労働者の賃金の3分の2(大企業は2分の1)から4分の3(大企業は3分の2)に引き上げ、支給期間も現行の6カ月間から8カ月間に延長する。採用奨励金は、採用労働者の賃金の2分の1(大企業は3分の1)から3分の2(大企業は2分の1)に引き上げ、1年以上の長期失業者を採用する場合は賃金の3分の2(大企業は2分の1)から4分の3(大企業は3分の2)に引き上げる。また支給要件を緩和し、これまでの「四半期毎に5人または全従業員の5%以上の採用」から「月1人以上採用」へと、その適用対象を拡大する。

雇用促進奨励金の大幅引き上げ

第三に、女性と中高年労働者の再就業を促進するため、雇用促進奨励金を大幅に引き上げる。まず妊娠・出産・育児のために退職した女性労働者を再雇用した事業主に支給される女性雇用促進奨励金を1人当り60~100万ウオンから120~200万ウオンに引き上げる。育児休職制度を実施する事業主には女性労働者1人当り15万ウオンを支給し、職場内保育施設を運営する場合、保母1人当り60万ウオンの人件費を補助する。次に45~54歳層の中高年労働者を再雇用する事業主に支給される高齢者雇用促進奨励金を1人当り40~80万ウオンから80~160万ウオンに引き上げる。

その他に、労働時間の短縮、事業所内訓練、休業などの雇用維持措置を同時に実施した場合、今までは1つの支援金しか支給されなかったが、これからは2つ以上の支援金を同時にもらうことができる。また従業員が買収した企業(EBO)に対しても、第1四半期に限って従業員1人当り40~80万ウオンの支援金が支給される。ただし、同企業は従業員の出資比率が51%以上で従業員側が経営権を確保し、買収された企業または同業種に従事する労働者の60%以上を再雇用しなければならない。

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