見習い労働制度
―雇用促進法による改正のポイント

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年4月

1997年6月24日法律196号(雇用促進法、いわゆるトレウ法)は、多くの新たな制度改正を行っているが、中でも見習い労働に関する規定(16条)は重要な意味を持っている。この規定により、すでにヨーロッパレベルでは職業訓練を目的とする契約形態として広く普及している見習い労働契約という特別な契約に対して、イタリアにおいても真の意味での改革に向けての第一歩が踏み出されることとなったからである。この改正は、企業側からも、また関係する若年者からも、大きな関心をもって受け入れられた。

欧州委員会でも、見習い労働は議論の対象とされており、労働市場をいっそう競争力をもつ質の高いものとするために、職業訓練の内容の改善が目指されていた。今回のイタリアにおける見習い労働法制の改正も、このような傾向に即して進められており、とりわけ見習い労働における職業訓練的な面を積極的に強化しようとしている点が注目される。とはいえ、制度の中心的な内容は、依然として見習い労働に対して社会保険料や税金の面で助成措置を行うこと、そして、このような助成措置により企業が低コストの労働力を獲得できるようにしていることにある。

法制度の枠組み

見習い労働に関する一般的な規制を行っているのが、1955年1月19日法律25号と同法の施行規則に相当する1956年12月30日大統領令1668号である。これは、1985年8月8日法律443号(手工業者基本法)、1987年2月28日法律56号21条(労働市場の組織に関する規定)、1997年6月24日法律16条(前述の雇用促進法)によりアップデートのための改正がなされてきている。

さらに雇用促進法が制定された後は、見習い労働における職業訓練活動の内容に関して、1997年12月2日の労働省通達126号や1998年8月8日の労働省令が出されている。

制度の特徴と目的

見習い労働関係においては、使用者は、雇い入れた見習い労働者に対して、企業内でその労働力を利用しながら、同時に見習い労働者が熟練した労働者になるに必要な能力と知識を得るための教育訓練を自ら行い、あるいは他者に行わせることが義務づけられる。

見習い労働契約は、期間の定めのある従属労働契約である。その約因は、報酬と引き替えに提供される従属労働と実践的・理論的な職業訓練の2つから構成される。

見習い労働を利用することは、1997年12月2日の労働省通達126号でも明確化されているように、農業部門も含めた全産業部門において認められる。見習い労働関係は、書面による契約によって成立し、その書面には1997年の委任立法152号で規定されているすべての重要事項が記載されていなければならない。

雇い入れがなされる前に書面で合意されていれば、試用契約も認められる。労働時間は、週40時間を超えてはならない(ただし、18歳未満の者の就労の場合で、より有利な条件がある場合はこの限りではない)。補完的な教育にあてられる時間は、労働に従事している時間とみなされ、労働時間の中に算入される。22時から6時までの間の深夜労働は、いかなる場合でも禁止される。賃金は、産業別全国労働協約で規定されている。協約では一般に、見習い労働者の賃金は、同じ職務に従事する熟練従業員の賃金に比例して定められ、勤続年数に応じて増加するものとなっている。

見習い労働契約は、前述のように、期間の定めのある契約である。見習い労働者が、専門的資格を獲得することができた場合には、その終了時期を早めることができる。使用者は、期間の満了時において、労働関係をそのまま解消することもできるし、あるいは、獲得した資格に応じて、期間の定めのない労働関係に転換することもできる。後者の場合には、見習い労働期間に対して規定されている社会保険料の優遇措置が、引き続き12カ月間継続されることが認められている(このような方法で、見習い労働者を、期間の定めのない正規雇用へと転換させていくインセンティブを使用者に与えている)。

雇用促進法における改正の中で注目されるのは、見習い労働者の年齢の上限の引き上げが行われている点である。新法では、見習い労働として雇い入れることができる者の年齢は、16歳以上24歳以下であり、また EEC 規則の目標1号および2号で定める地域(すなわち、イタリア南部および産業衰退地域)では16歳以上26歳以下とされている。これらの年齢の上限は、障害をもつ見習い労働者に対しては、さらに2歳引き上げられる。なお、義務教育を終了した者であれば14歳の者を見習い労働契約で雇い入れることができると定めている1955年1月19日法律25号の6条2項は依然として有効であり、また、義務教育の修了のための年齢制限については以前から変わっていないので、雇用促進法制定後も14歳の者を見習い労働者として雇い入れることは可能である。さらに手工業部門においては特別の規制が適用されており、産業別全国労働協約により、高度の専門性をもつ資格については、見習い労働者として雇い入れることのできる者の年齢の上限が29歳にまで引き上げられている。

契約期間については、詳細は労働協約で規定されることとなっているが、期間の最長は、5年から4年へと変更されており、最短でも18カ月と定められている(雇用促進法16条 C 項1号)。

見習い労働契約は、いかなる場合においても、きわめて単純な職務の遂行を目的として行うことはできない。他方、雇用促進法により、従事する業務に適切な義務教育修了の資格または職業資格証明を保有する若年者に対しては、見習い労働者として雇い入れることが可能となった。従来は、見習い労働関係は、高卒の若年者には認められていなかった。それは、高卒という資格があれば、獲得すべき職業能力資格に固有の専門的知識はすでに保有しているものとみなされていたからで、このような者を見習い労働者として雇うことは低コストの労働力の活用だけを目的とするというような制度の濫用のおそれがあると考えられていたからである。しかし、実際には高卒の労働者には十分な職業能力が備わっていないのが通常であった。今回の法改正により、このような状況は解消されることとなった。ただ、このような規制の下では、現実には企業は、高校を卒業したばかりの若年者を、よりコストのかかる訓練労働契約で雇い入れるのか、それとも、訓練という目的を達成する見込みが小さいにもかかわらず、見習い労働制度という方法の利用をするのか、というジレンマに直面することとなった。

訓練計画

雇用促進法16条は、見習い労働者の訓練に関して、次のような基本原則を定めている。

  • 1998年7月19日以降に締結された見習い労働契約は、見習い労働者が、産業別全国労働協約の規定する企業外訓練活動に参加していることを条件として、社会保険料の優遇措置の適用を受ける。
  • 年平均120時間以上の訓練義務が課されなければならない。この時間は、義務教育修了の資格または職業資格証明を保有する労働者に対しては、短縮することができる。
  • 企業外の訓練と企業内の経験との接続役となるチューター制度を設置しなければならない。

その後、1998年4月8日の省令110号により、見習い労働者の企業外訓練の内容および方法を規制することを目的とする規則が出された。この省令110号は、見習い労働者の企業外訓練に関して出される最初の省令であり、今後に予定されている、個々の職種や多様な生産部門に応じた訓練内容を定める規則の制定が行われれば、その規則の方が優先するものとされている。

省令110号は、補完的訓練について、次の2つのタイプのものを規定している。第一に、企業横断的な内容をもつ訓練である。これは、語学的・数学的知識、経済的知識の修得を中心とするものであり、また、労働契約に関する法規制や労働者の安全・衛生保護に関する法規定の知識の修得も含まれている。訓練時間の35%以上は、このタイプの訓練にあてられなければならない。

第二に、技術的・科学的・実務的な専門性をもつ訓練である。訓練の内容は、職種に応じて異なったものとなる。このタイプの訓練時間は、第一のタイプの訓練の時間の残りがあてられることになる。訓練コースの実施は、州の職業訓練機関または特別に許可を受けた教育機関において実施されるものとされている。

使用者は、訓練期間の終了時に、労働者の修得した職業能力を証明し、その写しを当該労働者および職業訓練を所管する公的機関にわたさなければならない。企業外での訓練期間は持ち越しが可能であり、他の企業で見習い労働者として雇い入れられることになった場合には、訓練にすでに参加をしていることを事前に証明しさえすれば、すでに受けた訓練に参加することは免除される。

見習い労働者を雇い入れた企業は、企業内において、チューターを設置しなければならない。チューターの氏名は、州に対して通知しなければならない。従業員数が15名未満の企業や手工業企業においては、チューター役を経営責任者が行うことも認められる。その場合でも、雇用促進法においてチューターに従事する労働者に対して規定されている社会保険料の優遇措置の適用は受ける。

社会保険料と税金について優遇措置

見習い労働制度については、経済的な面と規範的な面でのインセンティブが規定されている。社会保険料の優遇措置は、見習い労働が行われている全期間において適用されるし、前述のように、見習い労働契約が期間の定めのない契約に転換された場合には、この措置は転換後12カ月間延長される。

1998年7月19日以降に締結された見習い労働契約に対しては、前記の雇用促進法の基本原則にしたがい、社会保険料の優遇措置は、見習い労働者が産業別全国労働協約で規定されている企業外での訓練活動に参加したことを条件として認められる。

税制上の優遇措置としては、見習い労働者として雇い入れた従業員の全コストが、州生産活動税(Irap)の課税対象から除外されている(1997年委任立法446号)という点があげられる。

規範的な面でのインセンティブとしては、見習い労働者の数を、法律や産業別全国労働協約の適用において問題となる従業員数の算定から除外するという点があげられる(たとえば、解雇制限法は、従業員数が15人を超える事業所において行われた解雇に対して適用されるが、その従業員数の計算において、見習い労働者の数を除外することができる)。以前は、見習い労働者として雇い入れる場合には、指名求人制度(職業紹介所に求人する場合に、労働者の名前を指名して求人するという制度)を利用することができるというのも使用者にとってのインセンティブとなっていた(その他の労働者については、人数のみを指定して求人するという指数求人が原則であった)。しかし、1991年7月23日法律223号(労働市場法)による法改正により、指名求人が原則となったので、指名求人制度を利用できるということは見習い労働制度へのインセンティブとしての意味を失った。

展望

たしかに、雇用促進法によって進められることとなった改革は、企業外部での訓練を導入したり、見習い労働者の指導を行うチューター制度を設置することにより、見習い労働制度の改善に貢献することになるであろう。

もっとも、これまでは、見習い労働制度は、雇用促進法の立法者が想定していたのとは異なる目的で利用されることがしばしばあった。実際、見習い労働は、訓練労働契約と同様に、若年者失業の対策という目的や若年者の労働市場への参入を促進したりする目的でますます利用されるようになっており、見習い労働契約制度の特徴である職業訓練という目的は無視されてきている。

したがって今後は、見習い労働制度は、見習い労働契約の期間満了時において、訓練期間の間に獲得した専門能力により、熟練労働者として企業に組み入れられる可能性が高まることを保障することができるような職業訓練をいかにして見習い労働者に実施していくのかという点に、関心を集中していくことが必要である。このような方向で現行制度を見直していくと、イタリアにおける見習い労働制度は、近年退潮傾向にあるとはいえ、今でもなお、実効的な訓練のためのモデルとされている欧州の北部の国の見習い労働制度に近づいていくことになるであろう。

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