開催報告:第24回日韓ワークショップ(2026年7月8日開催)
AIと労働市場の変化

労働政策研究・研修機構(JILPT)は、韓国労働研究院(KLI)と共催で、日韓両国に共通する労働政策課題を取り上げて議論し、相互の研究の深化を図ることを目的に「日韓ワークショップ」を開催している。2026年度(令和8年度)は、KLIがホストとなり、「AIと労働市場の変化」というテーマの下、7月8日にオンライン形式でワークショップを開催した。以下にその概要を報告する。


日時:
2026年7月8日(水曜)14時30分~17時00分
開催方法:
オンライン形式
主催:
韓国労働研究院(KLI)
労働政策研究・研修機構(JILPT)

プログラム

開会あいさつ

14時30分~14時35分
イ・ビョンヒ KLI院長
14時35分~14時40分
藤村 博之 JILPT理事長

セッション1(座長:ホ・ジェジュン KLI院長)

14時40分~15時00分
「AIと韓国労働市場の変化:実証分析を中心として」
バン・ヒョンジュン KLIリサーチフェロー
15時00分~15時15分
質疑応答
15時15分~15時35分
「日本における生成AIの導入後の従業員への影響―情報通信業J社と製造業K社への事例調査より―」
岩月 真也 JILPT研究員
15時35分~15時50分
質疑応答

セッション2(座長:藤村 博之 JILPT理事長)

16時00分~16時50分
ディスカッション
参加者全員

閉会あいさつ

16時50分~16時55分
藤村 博之 JILPT理事長
16時55分~17時00分
イ・ビョンヒ KLI院長

報告資料

日本
日本における生成AIの導入後の従業員への影響―情報通信業J社と製造業K社への事例調査より― (PDF:452KB)
韓国
AIと韓国労働市場の変化:実証分析を中心として (PDF:1.75MB)

第1セッション(座長:藤村 博之 JILPT理事長)

バン・ヒョンジュン KLIリサーチフェローの報告

  1. 韓国労働市場とAI

    はじめに、バン・ヒョンジュンKLIリサーチフェローが、「AIと韓国労働市場の変化:実証分析を中心として」と題する報告を行い、AIが雇用と賃金に与える影響についてマクロの視点から論じた。労働力人口の急減に直面する韓国経済にとって、AI技術の導入は避けられない。しかしながら、欧米を中心とする多くの先行研究では、AIが低熟練の労働者にコストを強いる一方、高熟練・高賃金労働者には多大な便益をもたらしていると指摘されている。報告では、こうした影響が韓国の労働市場ではどのように生じているのかを把握するために、ある職種・産業の業務がAIによる代替や補完の影響をどの程度受けやすいかを示す「露出指数」(注1)を用いて回帰分析を行った。

    (注1)従来型AIへの露出度を示すWebb指数と、生成AIへの露出度を示すFelten指数を用いている。


  2. AIが雇用と賃金に及ぼす影響

    分析の結果、従来型AIと生成AIとで異なる影響が観察された。まず従来型AIについては、雇用の減少との有意な関係性が確認された一方で、賃金への影響は見られなかった。他方生成AIは、雇用には大きな変化をもたらしていないとみられるものの、賃金の上昇に影響を及ぼした可能性が示唆された。この結果から、生成AIが雇用を増やさずに賃金を上昇させている、すなわち、生成AIを活用するためのスキルの不足が賃金上昇につながっているのではないか、と分析された。

    実際、生成AIへの露出度の高い職種における雇用割合の変化を見ると、高度なスキルを要する専門職では割合の増加が見られる一方、低スキルの職種では減少が観察された。同様に、AIへの露出指数を用いて熟練別に回帰分析を行うと、雇用・賃金ともに低熟練層へのマイナスの影響や高熟練層へのプラスの影響が確認されたことから、労働市場の二極化が生じている可能性があると指摘した。

  3. 中小企業とAI

    一方、韓国労働市場の中核を担う中小企業に目を向けてみると、AIの活用に向けた課題が浮き彫りとなった。韓国の中小企業のAI活用率は国際的にも低い水準に留まっているが、人材不足が深刻化する中でAIへの期待は一層高まりつつある(注2)。活用が求められているのにできていないというこの逆説的な状況は、中小企業におけるスキル不足に起因しているという。KLIが2025年にOECDと共同で行ったアンケート調査によると、AIを活用していない企業の多くが、その理由として活用のためのスキル・人材の不足を挙げており、さらにそうした企業ではAIの活用に向けたガイドラインや研修体制の整備も進んでいない。高度なスキルを持つ人材を雇うことができず、社内での育成も進まないことでAIの活用がさらに遠のいていくという、負のフィードバック効果が生じているという。

    (注2)中小企業のAI活用率が31.3%とOECD平均を下回った一方で、「AI活用が人材不足解消に役立つ」と回答した中小企業の割合はOECD平均を上回った。(OECD (2025), Microdata from the OECD SME Survey on Generative AI)


  4. 労働市場の構造転換-今後の課題

    報告では、韓国におけるAI人材の不足の原因として、欧米や中国への頭脳流出が起きていると指摘された。硬直的な給与体系や資金力の不足により、諸外国から提示される高水準の賃金に、韓国企業は対抗することができていない。AIへの露出度が高い職種における労働力供給の停滞は、こうした頭脳流出をその一因としている可能性がある。

    頭脳流出とは別に、韓国国内の労働市場でも、実証分析からは高熟練労働者と低熟練労働者との二極化が確認された。新しい技術の登場が既存の雇用の減少を招くことはある種の必然であり、その意味で、AIによるこうしたネガティブな影響は、必ずしもそれ自体で問題視されるべきものではない。しかしながら問題は、AI技術の進展に人材育成や労働移動が追いつかず、その結果として、労働市場の人材と新たに創出された雇用との間にミスマッチが生じ、低熟練労働者の雇用減少とAI分野での人材・スキル不足がともに深刻化している点にあり、AIがもたらす費用と便益をより公正に分配していく必要があると指摘された。

KLIの報告に対する質疑応答

報告に対し、藤村JILPT理事長は、アメリカの大手IT企業でAIに起因する大量解雇が行われているとの報道に触れ、これは雇用への影響が主として低熟練労働者に及んでいる韓国とは対照的だが、両者の違いをどのように理解しているか、見解を尋ねた。バン リサーチフェローは、現在アメリカで生じている解雇は、実際にはコロナ禍による需要増に伴って生じた余剰人員の整理という面が強く、AIによる高熟練労働者の雇用への影響については慎重に判断する必要があると述べた。

写真:藤村 博之 JILPT理事長
藤村 博之 JILPT理事長

また、小野JILPT理事は、分析において2つの異なるAI露出指数が用いられていることに触れ、従来型AIと生成AIの影響の違いをどのように理解するべきなのか質問した。これに対しては、従来型AIの露出指数は雇用の代替可能性を、また生成AIの露出指数は業務との類似性を、それぞれ指数化したものであることを説明した上で、従来型AIについては既に職場に一定程度普及しているため影響が顕在化しつつあるのに対し、生成AIは一般に利用されるようになった2022年頃から日が浅く、その影響がまだ十分に現れていない可能性があり、今後も検証の必要があると述べた。

岩月 真也 JILPT研究員の報告

写真:岩月 真也JILPT研究員
岩月 真也 JILPT研究員
  1. 日本の職場における生成AIの活用

    続いて、岩月真也JILPT研究員が、「日本における生成AIの導入後の従業員への影響」と題して、企業へのヒアリング調査の結果について報告した。日本の企業による生成AIの活用率は必ずしも高くないが、それが職場にもたらす変化を巡っては活発な議論が繰り広げられている(注3)。こうした状況を踏まえ、岩月研究員は、職場での生成AIの活用の実態を把握する必要があるとし、比較的普及率の高い情報通信業(J社)と製造業(K社)を対象にヒアリング調査を実施した。調査では、生成AIの活用実態や従業員への影響の解明のため、導入前後でのタスクやスキルの変化、雇用と賃金への影響、活用方針の整備状況、労使の対応について聞き取りを行った。

    (注3)2024年時点で、「生成AI使用企業の労働者」の割合は10.6%に留まった一方、その内生成AIを活用している企業の割合は80%以上に上った。(労働政策研究・研修機構(2024)『職場におけるAI技術の活用と従業員への影響-OECDとの国際比較研究に基づく日本の位置づけ』、労働政策研究報告書No.228)


  2. 生成AIが職場にもたらす変化

    まずタスクとスキルについては、従業員によるタスク処理を効率化させる「補完的タスク変化」が生じていたことに加え、生成AIの活用によって、従来は困難だったタスクの遂行が可能になったり、従業員のスキルが補完されたりする事例が観察された。他方、既存のタスクが効率化された代わりに新たなタスクが生じたり、あるスキルをより多くの従業員が獲得した結果としてそのスキルの価値の低下が生じたりするなど、その影響は多面的であった。その一方、雇用と賃金については明確な影響を確認することはできなかった。

    生成AIの活用方針については、J社、K社ともに様々な仕組みを構築していた。例えば、生成AIの倫理的活用を掲げた原則、ないしそれに基づいたガイドラインの策定、さらには独自の審査部門を社内に設置するなど、両社とも、生成AIのより適切な利用に向けた高い意識を有していることが確認された。

    以上のような生成AIの導入に対して、両社の労働組合の認識は概ね肯定的であったが、他方、生成AIの活用を巡っては慎重な意見も見られた。生成AIについて労使協議を行っているJ社では、組合が従業員間でのスキル格差について懸念を示し、研修機会を全従業員に平等に提供することを要求していた。生成AIの活用が、スキルの有無に基づく新たな格差を生み出しかねないという懸念は、少なからず共有されているといえよう。

  3. 生成AI活用のこれから

    以上の調査結果から、岩月研究員は3つの実務的・政策的示唆が得られると指摘した。

    まず、生成AIがもたらす主要なリスクとして指摘されている「ハルシネーション」の問題については、タスクの種類によってハルシネーションへの対応の困難さが異なるという点が重要であるとしている。ハルシネーションそのものを理由に生成AIの活用を制限するのではなく、その発見や修正の困難さをタスクごとに見極めながら、柔軟に活用していくことが求められる。

    次に、生成AIが低スキル労働者にもたらす影響については、正の側面と負の側面の双方を認識する必要がある。確かに、生成AIは低スキル労働者のスキルの幅を拡大することにつながるが、一方で、一部のスキルについては価値の低下につながる可能性があり、また基礎的なタスクの学習に対する従業員の意識を希薄化させかねない。生成AIが普及した職場においても、タスクを十分に理解し指導できる従業員はやはり必要である。

    最後に、生成AIの倫理的活用に向けて、より具体的な取組みが求められる、と岩月研究員は述べる。調査結果からは、生成AIを巡る労働者の関心が、いまや賃金減少や雇用喪失から、スキル格差や倫理的活用へと移行していることが窺える。こうした状況を踏まえると、企業には、活用方針やガイドラインの策定、社内研修の実施といった具体的取組みに加え、それらについての活発な労使協議の実施が求められていくだろう。

JILPTの報告に対する質疑応答

報告に対し、ナムグン・ジュンKLI国際協力室長から、調査対象企業の労働組合が生成AIの「導入」を交渉事項としていないのはなぜなのか、質問があった。岩月研究員は、そもそも日本企業の労組が新技術の導入を「経営判断」と見なす傾向にあるとした上で、今後生成AIがより一層職場へと普及し、雇用や賃金、採用に目立った影響を及ぼすようになれば、生成AIの導入が団体交渉のテーブルに乗る日も来るのではないかと述べた。

写真:ワークショップの様子(JILPT側)

第2セッション(座長:イ・ビョンヒ KLI院長)

日韓の両報告を踏まえ、ワークショップ参加者全員での総括討論が行われた。

まず、呉JILPT特任研究員は、日韓両国でのAI活用率、特に政府レベルでの投資規模の違いに触れ、政権交代を機に積極的なAI活用を推し進めている韓国では、労働市場への影響が日本に比べてより顕在化するのではないかと指摘した。その上で、現在韓国で深刻化している若者の失業問題について、AIによる低熟練労働者の雇用喪失がこれとどのように関係しているのか、韓国側に質問した。

これと関連して、今後のAI活用を担う人材の在り方を巡って議論が行われた。樋口 前JILPT理事長は、AI技術の進歩が企業を取り巻く社会の在り方そのものに変容を迫っているとした上で、今後、企業にとって求められる人材像が大きく変化していくのではないかとコメントした。その上で、そうした新しい人材育成のための投資が若者に集中し、高齢者のリスキリングが敬遠される可能性を指摘した。また、百瀬JILPT研究員は、若者の高学歴化が著しい韓国社会の状況に触れながら、AIによる雇用の減少や頭脳流出といった問題がこうした高学歴層の若者にどう影響しているのか、韓国側に質問した。

一方、韓国側の報告でも強調されていた、AIによる労働市場の二極化を巡ってもコメントがなされた。北村JILPT研究員は、大企業と中小企業との間でAI活用率に大きな差が見られることを踏まえ、二極化は企業規模の格差に基づいて今後深刻化していくのではないかとコメントした。加えて、韓国において確認されたAI活用スキルの希少性の高まりについては、AIによるアウトプットを最終的に評価するのはあくまで人間であるとし、懸念されているスキル格差については異なった理解も可能なのではないかと指摘した。

これらのコメントに対し、バン リサーチフェローは、AIによって雇用を失っている低熟練労働者の多くは実際には中高年であると説明し、新技術への親和性を持っている若者に比べ、そうした中高年のスキルアップには概してコストがかかるということが、雇用減少の一つの原因になっていると論じた。また、若者の高学歴化については、AIによる大卒の事務職の雇用代替は現時点で確認されておらず、社会全体の進学志向は大きくは変化していないとした上で、問題はやはり博士号取得者など高度人材の海外流出である、と改めて強調した。

その一方で、AIが若者の雇用に及ぼす影響については、より慎重に判断する必要があるという。韓国では、フリーランスやプラットフォーム労働の拡大といった雇用形態の多様化や、若者人口そのものの急激な減少といった事態が進行しており、こうした中でAIによる影響のみを抽出することは容易ではない。加えて、呉研究員が指摘したように、韓国におけるAI活用はいままさに急速な進展を遂げようとしている最中にある。今後、若者を中心にAIの活用が一層進展すれば、今回観察された労働市場を巡る状況もまた変化し得るとし、AIによる影響を引き続き注視していく必要があると述べた。

対照的に、ノ・セリKLIシニアリサーチフェローは、日本企業におけるAIの影響の小ささに関してコメントした。今回の報告においても、AIが雇用や賃金に影響を及ぼしたとの認識は日本企業においてほとんど見られず、これは韓国の状況と対照的である。その一方、今回の調査対象の企業においても、スキルの価値の低下や基礎的学習の希薄化といった変化は観察されており、AIが日本企業に全く影響を及ぼしていないというわけでは必ずしもない。日本においてAIの影響があまり見られないのはなぜなのか、特に雇用や賃金への影響は何によって相殺されているのか、質問がなされた。

これに対し岩月研究員は、賃金変動や労働移動の少ない日本的な給与体系、雇用システムにおいては、AIのような新技術の導入がなされても雇用や賃金には直ちに影響が顕在化しにくい、と述べた上で、日本企業でのAI活用はまだ始まったばかりであると指摘した。調査対象企業においても、AIの活用に向けた研修としては、基礎的な内容から実践的な応用へと進む段階的な研修体系が整備されており、AIの普及の度合いは同一企業内でも部署や従業員によってばらつきが見られた。また、日本の職場においても確認されたスキルの価値の低下については、先の北村研究員の指摘にもあったように、例えばAIによるアウトプットを正しく評価することなど、むしろ価値が上昇するスキルもあり得るのではないか、と岩月研究員は述べる。総じて、今後企業での活用が本格化していくに従って、AIによる影響は日本においても顕在化していくことになるだろう、との見通しが示された。

AI技術の進歩は日を追うごとに加速しており、それに伴って労働市場を取り巻く環境もめまぐるしく変化している。議論を経て、AIによる影響を継続して注視していく必要があるということが改めて確認されるとともに、今後とも日韓両国の情報共有と意見交換を密に行っていくことを確認し、ワークショップは幕を閉じた。

2026年7月14日掲載

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