開催報告:第22回日韓ワークショップ(2024年7月11日開催)
外国人労働者受入制度―介護・家事労働を中心に
労働政策研究・研修機構(JILPT)は、韓国労働研究院(KLI)と共催で、日韓両国に共通する労働政策課題を取り上げて議論し、相互の研究の深化を図ることを目的に「日韓ワークショップ」を開催している。
2024年度(令和6年度)は、KLIがホストとなり、「外国人労働者受入制度―介護・家事労働を中心に」と題するテーマで、7月11日にオンライン形式で第22回ワークショップを開催した。以下にその概要を報告する。
- 日時:
- 2024年7月11日(木曜)13時30分~16時00分
- 開催方法:
- オンライン形式
- 主催:
- 韓国労働研究院(KLI)
労働政策研究・研修機構(JILPT)
プログラム
開会あいさつ
- 13時30分~13時35分
- ホ・ジェジュン KLI院長
- 13時35分~13時40分
- 藤村 博之 JILPT理事長
第1セッション(座長:藤村 博之 JILPT理事長)
- 13時40分~14時00分
- 「福祉サービス業の労働市場及び外国人人材」
イ・ギュヨン KLIシニアリサーチフェロー - 14時00分~14時15分
- 質疑応答
- 14時15分~14時35分
- 「外国人労働者の受入れ制度と実態-介護分野を中心に-」
山口 塁 JILPT研究員 - 14時35分~14時50分
- 質疑応答
第2セッション(座長:ホ・ジェジュン KLI院長)
- 15時00分~15時50分
- ディスカッション
参加者全員
閉会あいさつ
- 15時50分~15時55分
- 藤村 博之 JILPT理事長
- 15時55分~16時00分
- ホ・ジェジュン KLI院長
報告資料
第1セッション(座長:藤村 博之 JILPT理事長)
イ・ギュヨン KLIシニアリサーチフェローの報告概要
- 福祉労働市場の特徴-低賃金労働と高額なサービス利用料
韓国の福祉分野(介護、保育、家事等)に従事する労働者数は、2013年は16.3万人だったが、2021年には33.3万人に増加した。増加の背景には、急速な少子高齢化がある。出生数は2000年に64万人だったが、2022年には25万人まで減少している。この25万人の半数が女性だとして、彼女らが生む子どもの数は10万人以下になる可能性もある。
同時に、高齢者(65歳以上)が人口に占める割合が増加している。OECD諸国の中で、高齢化が急速に進んでいるのは、韓国、日本、ドイツ、イタリアである。少子化は先進国を中心に世界的な現象であるが、各国で少子化対応のための外国人活用は異なっている。どのような制度が韓国により適しているのか、アジア圏の事例を参考に制度設計を検討している最中である。
福祉分野の労働者数は、育児・家事支援は少子化の影響を受けて25.1万人(2013年)から12.1万人(2021年)へと、年平均8.7%減少しているが、高齢者対象の福祉・保健サービスは31.5万人(2013年)から62.9万人(2021年)へと年平均9.0%増加している。なお、福祉・保健サービスの提供場所は、福祉施設(非居住型)が大幅に増加しており、家庭内活動は減少している。
福祉分野の労働者の特徴として、4人に3人(75.1%)は高卒以下で、他業種よりも低賃金で長時間働く者が多い。低賃金職種として代表的な飲食や清掃分野よりも低賃金である。また、近年は福祉労働従事者自身の高齢化が進んでいる。
福祉サービス利用者は高額な料金を支払って良質なサービスを求めるが、賃金水準が低いため良質なサービスを受けにくく、追加的な労働供給にも制限がある。こうした労働供給不足が、介護分野における外国人労働者の受け入れ要請につながっている。
- 外国人受け入れ制度-同胞外国人労働者の高齢化
韓国で働く外国人は、「就労ビザ」に基づく者や「就労制限を受けない在留資格」に基づく者などがいる。就労ビザには、「特定活動在留資格」で働く専門人材と、「雇用許可制」で働く単純技能人材がいる。そのほか相当数の不法滞在者がいて、近年問題が顕在化している。
就業ビザで働く外国人56.1万人のうち、単純技能人材が48万人と9割近くを占め、専門人材が8万人となっている。また、就労制限を受けない在留資格がある外国人は93.5万人で、うち同胞外国人(韓国系外国人)が54.5万人と過半数を占め、次に永住(19万人)、国際結婚(14.5万人)などが続く。
介護分野で働く外国人は、これまで同胞外国人(主に韓国語が話せる韓国系中国人)が殆どだったが、当該人材の高齢化が現在大きな問題になりつつある。同胞外国人に占める60歳以上の割合は、2013年は14.1%だったが、2021年には27.4%まで増加し、今後新たに若い同胞外国人が流入する見込みはない。そのため、雇用許可制に基づく単純技能人材の枠でもっと多くの外国人労働者を受け入れようとする動きがある。
他方、介護を除く育児・家事サービスについては、通いでサービスを提供する「外国人家事管理士」のモデル事業(100人規模)がソウル地域で行われている。
- アジア国家間の比較・課題-今後の展望と課題
韓国、台湾、日本の外国人労働者の受入制度を比較してみると、韓国は公共部門が受け入れを主導しているが、台湾では民間部門が主導しており、在宅サービス市場が盛んである。日本はその中間(半官半民体制)に位置している。
新しい試みの「外国人家事管理士」は、韓国政府の認可を受けたサービス提供機関(2機関)が外国人家事管理士を雇用して各家庭に派遣する形を取るが、実際に外国人に育児・家事をしてもらいたいという家庭の需要がどの程度あるのかは未知数で、言語、賃金、労働時間などによる需給ミスマッチの可能性は残る。
なお、福祉分野に従事する外国人労働者に全国一律最低賃金より低い最低賃金額を適用する検討が行われたが、現時点でその可能性は否定されている。
介護の人材確保は急務であり、施設でなく長年住んだ自宅で最後の人生を送りたいという個人の希望に添うための在宅サービスの需要も今後高まると予想される。しかし、台湾やシンガポールのように、家庭と外国人労働者が直接契約を締結できるようにするかどうかは、人権侵害のリスク等も含めて慎重に検討していく必要がある。
KLIの報告に対する質疑応答
報告後、藤村理事長からは、OECD諸国の中で、韓国、日本、ドイツ、イタリアで高齢化が急速に進んでいる点について、第二次世界大戦前の国の政策と戦後の政策の違いが影響している可能性が示唆された。
呉JILPT特任研究員は、福祉分野の労働者が低賃金である一方、サービス料金が高いというギャップについて質問した。それについて、韓国では高齢者が老いにより介護保険を利用する場合と、何らかの病気を抱えて治療やリハビリをしつつ医療保険を利用する場合で、介護内容は類似していても、後者がかなり高くなることが大きな問題となっているとの説明があった。
さらに、呉特任研究員は、子どもの数が減り、育児・家事サービスの市場が縮小している中でなぜ外国人労働者を受入れようとしているのかについて質問した。それについて、韓国では女性の就業率の高まりとともに保育需要が増加しているが、公的施設でなく民間施設が増加しているため、保育料が非常に高いという背景や、政治的方針などの複合的な要因が絡んでいる旨の説明があった。
山口 塁 JILPT研究員の報告概要
- 特定技能制度―深刻化する人手不足への対応
日本の中・低スキルの外国人労働者受入れ政策は、2019年4月の特定技能制度の創設や今後予定される育成就労制度の創設など、大きく変化している状況にある。
特定技能制度は、中小や小規模事業者をはじめ深刻化する人手不足への対応として、生産性向上や国内の人材確保のための取組を行ってもなお人材確保が困難な状況にある産業分野(特定産業分野)に限り、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れることを目的としている。
「特定技能1号」は、相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格(滞在は上限5年)であり、「特定技能2号」は、熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格(滞在期間の更新可能、家族帯同可能、技能水準は試験で確認)である。
現在、特定産業分野は16分野(2024年3月追加の4分野を含む)で、分野別に「向こう5年間の受入れ見込み数」が設定されている。
- 技能実習制度の発展的解消と育成就労制度の創設
これまで日本で行われてきた技能実習制度が抱える課題解決を目指して、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」による検討(2022年12月~2023年11月、計16回)が行われた。その結果、技能実習制度の発展的解消と育成就労制度の創設が決定し、先日の国会で法案が可決・成立した。
育成就労制度は、育成就労産業分野(特定産業分野のうち就労を通じて技能を習得させることが相当なもの)において、特定技能1号水準の技能を有する人材を育成するとともに、当該分野における人材確保を目的としており、従来の転籍制限を緩和(「やむを得ない事情がある場合」の範囲の拡大・明確化)した。本人意向による転籍要件は、①同一機関での就労が1~2年超、②技能検定試験基礎級等および一定水準以上の日本語能力に係る試験に合格、③転籍先が適切と認められる一定の要件に該当、となっている。
- 介護分野の外国人労働者―4つの「仕組み」
介護分野における外国人の受け入れについて、現在は4つの「仕組み」がある。1つは、二国間の連携強化を目的とした「EPA(経済連携協定)(インドネシア、フィリピン、ベトナム)」、2つめは、専門的・技術的分野の受け入れ在留資格である「介護」、3つめは本国への技能移転を目的とした「技能実習(2017年11月~)」、4つめは人材不足対応のため一定の専門性・技能を有する外国人の受入れを目的とした「特定技能1号(2019年4月~)」である。このほか身分に基づく在留資格等で日本に在留し、介護分野で就労する外国人も一定数存在するものと思われる。ただし、日本国内の女性全体では介護分野が主要な就労先の一つであるのに対し、外国人の女性では製造業での就労が顕著に多い(総務省「国勢調査」、2020年)。
- 特定技能外国人の受け入れ状況―介護は「試験ルート」の受け入れが中心
特定技能1号外国人のうち約半数をベトナム国籍が占めており、これにインドネシア(16.4%)、フィリピン(10.3%)が続く。介護分野ではベトナムとインドネシアが3割弱。ミャンマー国籍も1割程度を占め、比較的多い。また、介護分野では女性が7割程度を占め、18歳~29歳が7割を占めている。
地域分布をみると、特定技能1号は、技能実習生と比べると、やや最低賃金が高い地域に偏っている程度である。介護分野では、特定技能1号全体の傾向と比べてやや最低賃金が高い地域に偏るが、産業大分類「医療・福祉」での雇用者の分布と大きな違いはみられない。
特定技能1号外国人のうち7割弱が「技能実習ルート」である。ただし、介護分野では8割が「試験ルート」での受け入れであり、全体の傾向とは異なる。特定技能1号の取得ルートについて既存のアンケート調査結果をみると(注1)、介護分野では留学生などの技能実習、特定活動からを除く国内試験合格や介護分野以外の技能実習修了者が多い。それに伴い、日本での就労経験については「介護事業所・施設以外での就労経験あり」の割合が高くなっている。
なお、これまで特定技能1号は施設での労働に限り認められてきたが、現在は、訪問介護を認めるかどうか議論されており、今後の動向が注目されている。
(注1)介護分野における特定技能外国人の受入れに関するアンケート調査(「介護分野における特定技能制度の推進方策に関する調査研究」国際厚生事業団、2022年3月)。
- 介護外国人材の評価―実際の受け入れで、ポジティブに感じられる側面が多い
令和4年度介護労働実態調査(介護労働安定センター)によれば、外国人材(EPA、在留資格「介護」、技能実習、特定技能、留学生)のうち介護事業所において受け入れ割合が高いのは技能実習(4.4%)、特定技能1号(3.5%)。なお社会福祉法人や施設系(入所型)では、それぞれ1割程度の受け入れ割合となっている。また、受け入れ事業所のほうが「労働力の確保ができる」だけでなく、「職場に活気が出る」といった項目でも高く評価する傾向等がみられ、実際に外国人材を受け入れてみると、ポジティブに感じられる側面が多いことがわかる。一方で「できる仕事に限りがある(介護記録、電話等)」では受け入れ事業所のほうがやや高い回答割合となっている。実際に外国人材を受け入れてみて、言語能力に由来する介護業界特有の壁に直面する様子も窺われる。
介護現場における外国人材受け入れに関する課題としては、言葉の壁(業務上必要な日本語は理解できるが、書類作成は難しい)のほかに、人材育成(人手不足のなかで、育成に人員や時間を割くことができない)や利用者からのハラスメント、時間に対する感覚の違いなども挙げられている(注2)。
(注2)村上久美子(UAゼンセン日本介護クラフトユニオン)、2024「介護分野における外国人労働者施策の現状とこれから」『労働調査』通巻639号.
- 今後の論点・検討課題
今後、人材不足が深刻な地方部は、特に定着に向けた独自の取り組みが欠かせないと思われる。また、監理団体や登録支援機関といった移住仲介・支援の機能にも注視していく必要がある。
JILPTの報告に対する質疑応答
報告に対して、韓国側からは、今後発足する新制度(就労育成制度)のもとで、転籍が可能になった場合の点について集中的な質問がなされた。その点について、今後は、外国人労働者が地域に定着してもらうために、地方や小規模企業がどれだけ取り組めるかが重要な点になるのではという点を報告者が説明した。
第2セッション(座長:ホ・ジェジュン KLI院長)
ディスカッションでは、濱口JILPT所長が介護分野の外国人労働者の受け入れ促進は、日韓における伝統的な家族の在り方や介護の担い手の変遷、人々の意識の変化が大きく関係しているのではないかと指摘し、韓国側も同意して、それに関する議論が行われた。
小野JILPT理事は、日本も韓国と同様に人口が減少する中で、女性の就業支援や家事労働のアウトソーシングに関する議論が行なわれているが、韓国のように政府の認定機関が派遣する形とはなっていないため非常に興味深い旨の発言があった。韓国側からは現在ソウルで進めている「外国人家事管理士試験事業」の具体的な制度運用方法や課題について、さらに詳しい説明があり、日韓の家事労働にかかる考え方や制度の違いについて議論が交わされた。
呉特任研究員は、モデル事業が行われているソウル市の外国人家事管理士と雇用許可制との違いについて質問し、韓国側が雇用許可制の場合は使用者が雇用許可を取るが、外国人家事管理士については、政府の認可を受けた2機関が雇用許可を取り、個人が利用する違いがあることや、モデル事業で派遣されている外国人は、認可機関が用意した宿舎で生活して各家庭に通っているなどと説明した。
韓国側からは、韓国では外国人家事管理士を労働基準法の適用から除外しようとする動きがあるが、日本でも6月27日に新しい動きがあったと報じられているので、詳細を教えてほしいとの要望が寄せられた。
これについて濱口所長は、日本では従来から家事使用人は労働基準法の適用対象外であること、2022年9月29日に東京地方裁判所で下された判決は、1つの家庭で介護と家事の両方を担っていた家政婦の女性が7日間の泊まり込み勤務の末に急死した事案について、労働基準法が適用されない“家事部分”を排除し、労働基準法が適用される“介護部分のみ”を労災認定基準における労働時間と見なしたため「過重労働には当たらない」として労災が認められず、遺族が国を訴えた事例であること、去る6月27日に厚生労働省の労働基準関係法制研究会に提示された提案では、家事使用人も労働基準法の適用対象に含めることが示唆されたことを説明した。
さらに韓国側から、介護分野で働く外国人労働者に対する日本人利用者の満足度に関する質問があった。この点について、山口研究員が日本の各種の調査結果によると、利用者満足度は低くないが、利用者の家族に拒否感がある場合もあることなどが紹介された。
このほか韓国側からは、韓国の介護保険制度のもとで、介護施設における介護と、療養型病院における介護で利用料金に大きな差が出ることについて、日本では、介護施設も療養型施設も介護保険で利用できるのか等の質問があり、呉特任研究員から日本の制度を詳しく説明した。
2024年8月7日掲載