開催報告:第9回国際フォーラム
テレワーク:コミュニティーフレンドリーな働き方
 —地域と接点を持った働き方としてのテレワーク—
(2005年10月21日)

基調報告/ブレンダン・バーチャル 英国ケンブリッジ大学教授上級講師

研究の背景と調査の概要

この研究成果ではテレワークを(1)組織から離れたところで、勤務時間の一定の部分を費やす者、(2)IT技術を駆使して仕事を遂行する者、(3)コミュニケーションに通信技術を用いる者――と定義する。

ソーシャル・キャピタル(注1)(例:市民活動への参加率)が低下する一方、テレワーカーは急激な増加を見せている。こうした中、テレワークの発展が地域社会と接点のない、閉鎖的側面をもたらすのではないかということが論点となった。そこで2つの調査を統合し、その検証を試みた。

調査結果1と2の概要
項目 調査1 調査2
調査の内容 EU全体についての大規模調査。(1)テレワーク率の各国比較、(2)テレワークと社会活動参加の関連性――について分析 小規模調査(12人)。(1)企業に従業員として所属しながら仕事の一部を在宅で行う場合の時間配分や(2)社会との接触・参加――について調査
目的 テレワークが閉鎖的な社会をもたらす、あるいはテレワークの増大によって人間間のネットワークが希薄になる、との懸念の検証。 家庭でも職場でも仕事をする人を対象に、家庭と職場の社会環境の違いを調査する。
調査方法 EU15カ国・EU加盟候補12国について労働条件調査(2000年、2001年)。対象は約3万人。 45~90分の面接に加え、対象者に仕事と時間の記録を依頼。
調査結果 テレワーク率(注2)は、(1)先進国かどうかに関わらずほぼ一定。(2)管理職及び専門職、男性に多い。(3)年齢層別では、先進諸国には働き盛りが多いが、新興国には比較的若い人が多い。 (1)在宅勤務を選んだ理由は、英国では「旧式」(注3)となった自分だけのプライベートなオフィス環境を作るため。(2)家で仕事に専念するための何らかのバッファーを設けている。
結論 テレワークは地域と接点を持った働き方であることが明らかになった。テレワーカーはボランティアや慈善活動には約1.5倍、政治活動、労働組合活動には約1.3倍積極的に参加していた。
  1. 労働者は保護された私的な空間を確保するため在宅労働を利用している。
  2. 在宅勤務は、職場から物理的バリアがあるというよりは社会的バリアがあると感じる。
  3. 共用オープン式の職場が増えるにつれ、労働者は家庭にプライベートな職場を求めるようになった。

結論と今後の課題

2つの調査から、テレワークという働き方は、仕事と人生のよりよいコントロールを可能にすることが明らかになった。調査1はテレワークが地域と接点を持った働き方であることを示しているが、残念ながら原因の解明には至っていない。推測ではあるが、以下の要因が考えられる。

浮いた通勤時間でコミュニティーに関わる活動をしている。

自宅のパソコンで地域の情報を入手し、情報交換をしている。

テレワークという就労形態を選ぶ前からコミュニティー活動に積極的に参加しているか、あるいはテレワークという就労形態を選んだ理由自体がコミュニティー活動に積極的に参加したいためであった。

なお今後は、テレワーカーとコミュニティー活動との関連性の原因と性質を探るほか、テレワーカーをタイプ別(注4)に分け、詳しい分析をしていきたい。

パネルディスカッション

テレワークと地域の相互関連性

モデレータ:ウェンディ・スピンクス

本日の議論のためにテレワークを(1)収入を伴う仕事をしている、(2)ITの利用が不可欠、(3)勤務場所が自宅もしくは複数――と定義する。雇用形態としては、従業員、事業主、個人ワーカーの3種類があるが、本日は基本的に事業主と個人ワーカー、つまり非従業員型テレワーカーを中心とする。理由は、日本の場合、現状では従業員型テレワークに比べ、非従業員型、いわゆるSOHO・在宅ワーカーの方が定着しており、活気もあるからである。

日本のテレワーク・SOHOの変遷を見ると、90年代、いわゆるバブル時代には、サテライト・オフィス、リゾート・オフィスといって郊外又は地方に作った施設に従業員を勤務させるという仕組みがあったが、定着しなかった。95年ごろには、テレコテージ(地域住民、地域活性化という観点からの情報通信ハブ、基地)が出現、2000年頃からは、SOHOサポートセンターが注目を浴び、数も増えた。

本日のテーマについて、日本での先行研究業績は少ないものの、SOHOは地域を意識し、実際に地域活動もするというように、相互の関連性を示すものもある。それでは、テレワークをしているから時間的・精神的余裕が生まれ、地域での活動に生かしているのか、あるいは、もともと地域活動を志向する人が、自分の志を実現できる働き方としてテレワークを選択したのか。この因果関係を見きわめることが重要。

パネリストの堀越さんは個人のSOHOワーカーとして、藤倉さんはSOHO事業者を連携させる立場から、関さんには、SOHOの取り組みで有名な三鷹市の自治体・地域とSOHO・テレワークとの関わりを、神谷さんは、テレワーク研究者として従業員型や、影の部分も含め、議論を展開していただきたい。

あらゆる仕事が地域の生活につながっている:堀越久代

私は元々地域活動に意識が高かったわけではなく、常勤時代はいわば組織人間であった。地域を研究対象とする仕事だったので、地域は仕事を通じて自分を育てる場、あるいは組織に仕事を反映させる場であった。当時の地元地域との関係は納税、ごみ出し、選挙程度だったが、結婚・出産を経て一変した。常勤でなく、プロジェクトごとに請け負う形で働き始めたためで、その中で、常勤の人にはない、生活者の視点を仕事に反映させるという意識を持ち始めたからだ。

最近の信念は「あらゆる仕事が地域での生活につながっている」ということだ。そうした視点で男性にも生活と仕事を上手にマネジメントしてもらいたい。最近は、防犯活動と、福祉サービスの第三者評価調査員の活動をしている。生活者と行政マン、あるいはサービス事業者との橋渡しの可能性を探っており、こうした活動にも仕事で培ったノウハウが役立っている。地域の中での仕事と生活の良い関係は、一人一人の個人が作っていくものではないか。

「家守」としてSOHOをネットワーク:藤倉潤一郎

96年に全国デジタル・オープン・ネットワーク事業協同組合という、主にIT関係のベンチャー企業を中心とした事業協同組合を作って以来、この活動に携わっている。当初はインターネット上での情報交換等の仕組みを考えていたが、顔を直接突き合わせ、リアルな場を共有しながら仕事をする拠点の必要性を痛感。04年、「ちよだプラットフォーム」の設立を手がけるに至った。

現在、拠点として区の産業振興施設を活用している。この施設は、維持・運営等にかかるコストが財政を圧迫するとして、千代田区が民間の事業者に運営を任せたものである。千代田区では、大企業が郊外に移転するにつれて関連する小規模の会社も移転し、空きビル、空き床の問題が顕在化していた。昼夜の人口差が大きいため、夜間も一定程度の人口を確保することが課題であった。加えて、千代田区には伝統的産業が多く、新しい都市型のサービス産業を育成していく必要があった。

これらの問題を一挙両得的に解決する手段として、「ちよだプラットフォーム」ではSOHOまちづくりを展開している。オンラインでのSOHO向けサービス提供に加え、テレワーカーが自由に立ち寄り、打ち合わせできるスペース、指定席を設けないオフィスなどを用意している。

地域・コミュニティーとの関係で施設を運営する上でのキーワードは、「家守(やもり)」(注5)である。家守は、江戸時代に今で言うビジネスマッチングを行っていた。実際にSOHOが円滑に業務を遂行するには、経営支援やビジネスマッチングサービスを提供するSOHOエージェントが重要だ。我々は総合エージェントと一緒に、家守や地域活動を行い、今後家守やSOHOエージェントが周辺地域に更に展開していくことを期待している。

SOHO CIYみたかでSOHOが定着:関幸子

「まちづくり三鷹」は、三鷹市役所が参加する第三セクターで、98%の株式を三鷹市が持つ営利企業。公共施設を民が活用するという藤倉モデルに対し、こちらは行政自らが民になり、産業振興と関連させつつSOHOの定着化を図るというモデルである。三鷹市は97年から「SOHO CITYみたか構想」を市の基本計画に位置づけ、新しい産業の育成としてSOHOの集積を始めた。我々の戦略は、住宅地で昼間人口が少ない三鷹市で起こせる産業として、ITを活用した個人事業主や小規模企業に注目し、地域に集積させることである。

そのために、地域にSOHOのショールーム(インキュベーションと呼ぶ)を作り、地域市民に活動内容・概念を紹介した。地域の主婦や中高年でリストラにあった方、定年後の方もショールームを通して新しい働き方を知り、創業していく。官の呼び水が民に流れ、民が自らSOHOを応援する形となり、5年で7つのインキュベーションができるまでに発展した。IT企業経営者にとって「まちづくり三鷹」を活用するメリットは、オフィスが利用できるとか、人的ネットワークの紹介を受けられるということだけでなく、地域の一員として活動するための場所の提供を受けられることもある。企業が地域からの信頼を得たいという気持ち、企業側の「コミュニティーフレンドリー」という姿勢と三鷹市とがうまく連携することができた。

「SOHO CITYみたか構想」の最大の目的は、天空に浮遊するSOHOを自治体が一網打尽に捕まえて、三鷹に根を生やしてもらうことだ。行政は地域の雇用や昼間人口の確保、税金の形での地域への還元などの効果を期待している。また産業振興だけでなく、人や文化、環境などの地域資源の再発見も目標に掲げてとして、お祭り、ワークショップなどをIT企業、既存の商・工業、地域の人々と協力して行っている。新しい出会いと交流から新技術の導入などの効果も現れている。ちよだの家守というコンセプトに対し、三鷹はSOHOの置屋として、場所・仕事の提供とビジネスチャンスの構築を目指している。

従業員型は仕事と家庭で手一杯:神谷隆之

一般的に在宅勤務は、通勤時間を省けて生活との両立可能な働き方と見られている。育児期の「従業員型」在宅勤務は余裕のある働き方になっているのではないかと仮説を立てヒアリングを行ったが、実態は出勤後に更に在宅で勤務するなど負担が大きい側面も見えてきている。在宅勤務を利用して地域と積極的に関わりたい気持ちはあるが、仕事と家庭のことで手一杯という状況で、現実的には難しい。将来に向けての地域に対するニーズという面では、保育園や小学校の母親仲間がお互いに助け合い、子供の面倒を見るといった取り組みが見られており、こうした動きを父親の在宅勤務も含めて、ボランティア的にどう育てていくかが、1つの方向性ではないか。

テレワークと地域の因果関係

スピンクス:
テレワーカーの方が市民活動に積極的になる可能性が高いのはなぜか。テレワークは地域と接点を持った働き方を可能にするのか。

堀越:
経験則で言うと、ボランティア活動を円滑にするためには、自分の働き方を公言し、認知してもらうことが必要。また、社会も大きく変化してきているのを感じる。周りにITの使い手が増え、同時に女性の就労率が高まり、SOHOでなくても、女性が働き、仕事と他の活動を両立するのが当たり前の社会になってきている。

藤倉:
働く場所をもっと自由にしたいと考え、ワークプレースを切りかえるという手法をとっている。例えば高度な集中を要する作業は自宅で、高度なビジネスセキュリティーを確保する必要がある場合は、SOHOの拠点に行くなど。ワークプレースを切り分けながら、一人一人違う働き方で自由度を広げていくことができれば、本当にコミュニティーフレンドリーな働き方が実現できると思う。

その前提として、「ちよだプラットフォーム」で試みているのは、一つ一つの会社あるいはSOHOの規模拡大ではなく、個人事業者やベンチャー企業、あるいはNPOなどが連携しながら、地域プロジェクトを作っていくことだ。地域の魅力は、やはり地域プロジェクトにある。「ちよだ」で千代田区の問題や課題を解決していくといった、ユニークな観点の地域プロジェクトを起こすことができれば、テレワークでフレックスな働き方をしている者同士の協働が可能になるのではないか。

関:
テレワークは換言すれば職住接近型という概念でとらえることもできる。職住接近のメリットは、まず有効性のある時間が持てる、地域の情報が手に入る、人と交流することができること。「みたか構想」が掲げるポイントは、(1)答えは地域にしかない、(2)夢を形にしてみせる、(3)その気にさせるための情報の共有、(4)小さな事業でもいいから、地域の人と一緒に実践することーーである。「まちづくり三鷹」を訪れる人に、楽しいジョブを提供し、地域に根を下ろした空間と時を作ろうとしている。

神谷:
育児の時期の女性を考えると、男性の働き方は変わらず、女性にばかり負担が増しているというのが現実だ。父親も在宅勤務を中心に弾力的な働き方ができるようになれば、母親の負担が減り、父親も地域活動に関わる可能性が増える。男性の育児休業取得だけに拘らず、代わりに在宅勤務を認めるなど様々な選択肢を広げていくことが必要ではないか。男女別々でなく、働き方を夫婦セットで考えると、色々な意味で効果が上がる可能性を秘めているのではないか。

企業社会の規範をどう変えるか

スピンクス:
日本では、テレワーク・在宅ワークは、主婦や女性が行うもの、という発想がまだ根強いが、実際は男性の方が多く、コミュニティーと仕事とライフスタイルは、もはや女性又は年配者だけの問題ではなくなってきている。そこでソーシャル・キャピタルのキーワードの一つとして挙げられた「規範」に注目したい。企業社会では男性が地域に大事な役割を担うことが規範になっていない。社会資本を支える重要な要素の1つである規範はどのように変えるべきか。

堀越:
防犯活動に参加するのは8割方が退職後の男性である。彼らの経験談によると、現役時代は多忙を理由に地域に不在の状態が続いていたが、退職後に気づいたことは、地域活動への関与は時間の問題ではなく、気持ちの問題ということだと言う。これから団塊の世代が退職して昼間市民になってくるので、彼らの活躍を期待している。実践あるのみ。

藤倉:
「実践あるのみ」に同感。インターネットの規範(注6)は、様々な問題や課題を政治的、宗教的な権威や圧力でなく、技術でそれを解決していくこととされる。テレワークやインターネット技術はコミュニケーションや情報処理を効率化しており、時間を自由に使える可能性が広がっているはず。それが自由にならないのは、企業あるいは社会という規範が問題なのだろう。そうした規範に対し、我々はできることから取り組んでいく。

都市型のモデルについては、千代田だけでなく、郊外でもセカンドキャリアを地域に生かせるようなプラットフォームを作ってみたい。こうした実践、実験を試行錯誤することで、少しずつ変わるべきものは変わっていくのだろう。

関:
戦後60年の日本の産業は同質的な人材を求めていたが、インターネットの時代には、チームで良質なものを作る時代から、1人の人がチームを支える形に変わり、人材育成のあり方、求める人材が変わってきた。今後は大学も企業も、そこに働く個人のブランドが重要になってくる。日本のビジネス規範が変わりつつある今、地域はチャンスを迎えている。地域は、現在は眠るために帰るだけだが、企業では優秀という市民を地域に取り込むことが可能である。父親が地域に不在では、犯罪が増加するだけでなく、男の子がうまく育たないといった問題が懸念される。こういう理由から地域はテレワークを歓迎する。

神谷:
関さんのお話を実践する人物にヒアリングで会ったことがある。父親が育児をしないと男の子がしっかり育たないと考え、在宅勤務を週2日行いながら、育児休業の代わりにしていた。また、人事部でシングルファーザーの勤務のあり方を実際に検討している例もあった。企業は多様性を認める方向に動いており、そうした規範を受け入れていくと思われる。ただそういう多様な働き方を認めてもらうには、労働者が相当の能力を持っていることが必要。その意味で、労働者の選別も同時に進んでいくと見られる。

「テレワークと地域」の詳しい解明を

スピンクス:
これまでのテレワーク研究は、テレワークが立地からの解放であるというのがその定説(注7)であり、そのメリットに視点が集中していた。しかし、立地を無視するのではなく、特定の立地に根をおろす手段にもなり得るという意味で、テレワークは新しい時代に入ろうとしていると感じた。基調報告にあったように、テレワーカーにはハイスキルの知的労働者とロースキル、ルーチンワークの2つの類型がある。またそれに並行して、地域社会の中で、個人として身動きがとれない人と、とれる人という、2つのタイプがある。そして行政では、一点を拡大させて活用しようとするモデル(藤倉モデル)、それとは別に、行政そのものが、自分が預かるところに色々な点を結びつける有機的つながりを持つ試み(三鷹モデル)、地域そのもののアプローチがある。今後の課題として、テレワークのタイプ、個人のスキル、個人の志、地域・コミュニティーの市民との関わり方など、さまざまなパターンについての類型化が必要だろう。その上でマトリックスを作ってテレワークと地域の関係を見ていくと、もう少し解明が進むのではないか。

注:

  1. ソーシャル・キャピタルとは、機能性を発揮している社会と発揮していない社会の違いについて論ずるもので、(1)相互性のある信頼関係の中での規範、(2)周囲との関係を構築するネットワーク、の2点から構成される。
  2. 仕事時間の少なくとも4分の1は自宅でパソコンに向かって仕事をしている人の割合。
  3. 現在、ヨーロッパ特に英国ではオフィスは一般的に非常にオープンなスペースになっており、特にテレワーカーが多い会社では、デスクに指定席が無く、空いているデスクに座るという方式が主流。
  4. (1)男性で管理職あるいは専門職、(2)女性で事務的な作業に従事、の2タイプに大別される
  5. 江戸時代に、地主から長屋を預かって、全国からコミュニティーに必要とされる職人を呼び寄せ、仕事も生活もスムーズに定着できるよう、様々な身の回りの世話をした者のこと
  6. 出典:『インターネットコミュニティー』(力武健次著、1994年)
  7. テレワークにより、組織を離れた場所での就労が可能になった。