基礎情報:フィリピン(2005年)
基礎データ
- 国名:フィリピン共和国 (Republic of the Philippines)
- 人口:8,946万8,677人 (2006年1月)
- 実質GDP成長率:5.1% (2005年)
- GDP:1,052億ドル (2005年)
- 一人あたりGDP:1,232ドル (2005年)
- 労働力人口:35,664万人(注1)
- 就業者数:3,231万3千人(2005年平均)
- 失業率:11.4%(2005年平均)(注2)
注1:財、サービスの生産に携わっている15歳以上の男女で、就業者、休業者、および完全失業者の合計
注2:フィリピンでは、2005年4月より失業率の算出に新基準を導入したが、新基準では前年との比較ができないため、ここでは旧基準の数値を採用した。
資料出所:LABSTAT January 2006 Bureau of labor and Employment Statistics DLE Philippines、National Statistics Office(国家統計局) HP
I.労働関係の主な動き
1.雇用情勢
世界的な石油製品価格の高騰によるインフレの悪化や景気減退という状況にもかかわらず、2005年のフィリピンの雇用は2.2%という緩やかな伸びをみせた。サービス部門(2.8%:42万3000人増)と農林水産部門(2.2%:27万5000人増)における雇用拡大が、この成長を支えている。一方で、製造業及び建設業の不振から、産業部門は0.05%と1%を切る成長にとどまった。
新たに創出された雇用数は、70万人。2003年の57万3000人よりは増加しているが、2004年の97万8000人からは大幅に減少した。2004年からの6年の任期中に1000万人、年平均で170万人の雇用創出を公約としているアロヨ大統領にとっては、厳しい結果といえる。
年平均の失業率は11.4%と、2004年(11.8%)よりやや改善された。なお、失業率の算出については、ILO(国際労働機関)の失業率基準を基にNSO(国家統計局)を新たに策定した基準を2005年4月から本格的に導入した。新基準では、1)無職、2)就職の意思はあるが無職、3)求職中または何らかの事情で求職活動を停止中――の、15歳以上の男女を「失業者」と定義している。ちなみに、新基準では、7.4%(2005年10月速報値)である(表4)。
海外出稼ぎ労働者(OFW)については、海外雇用庁(POEA)によると、98万1337人(速報値)で、政府が目標としていた100万人には届かなかったものの、2004年より4.2%増加した。一方、OFWによる銀行送金額は、前年比25%増の107億に達し、およそ3年半ぶりとなるペソ高に大きく貢献した。主要送金元は米国、サウジアラビア、イタリア、日本、香港、英国、アラブ首長国連邦、シンガポール。中央銀行(BSP)では、看護師や介護士等の医療関係職や事務職など、高給の熟練労働者の増加が送金増に貢献していると指摘した。
2.医師・看護師の海外流出続く:国内の医療体制の危機は深刻
国内経済への貢献度が非常に高いOFW数の増加が続くなか、国内では看護師や医師不足が深刻な問題として浮上している。海外で働くために国を去る看護師の数は、年々増加傾向にあり、ドゥケ保健省長官の発表(2005年8月)によれば、看護師になるための勉強をしている医師は、2005年には6000人にのぼった。2004年の2000人から3倍に増加したことになる。看護師になり海外で働けば、高収入が得られるというのがその主な理由とされる。
フィリピンの医師たちが、看護師に転身してまで海外へ出ようとするのは、低賃金、ハードスケジュール等、国内の医師の就業環境の悪さが第一の原因といわれる。特に賃金については、海外で働く看護師よりも国内の医師はかなり低い。例えば、フィリピンの国立病院で働く医師の月収は、およそ446ドル(約25000ペソ)である。もしこの医師が海外で看護師として働けば、その月収は8000ドルになるといわれる。この高収入に惹かれた医師たちが、看護師への転身を目指し、そして国を去るというケースが後を絶たない。
私立病院でも医師や看護師の不足は深刻な問題となっている。フィリピン私立病院協会(PHAP)によれば、2000年に1700あった国内の私立病院は、現在700カ所にまで激減。この5年間で閉鎖されたのは、1000カ所にもなる。さらに、2005年10月の11カ所閉鎖に続き、11月も12カ所閉鎖しており、私立病院の閉鎖は続いている。原因は、人員不足である。PHAPでは、こうした状況への対処として、多くの病院が、病院を去ってしまった看護師の穴を埋められるように、医療の専門家による介護士資格取得者へのトレーニングを開始した。
こうした状況は、国内の保健医療体制の危機的状況を作り出しているとし、ドゥケ保健省長官は、特別委員会を設置し、「フィリピン人医師が海外で働くには、少なくとも3年から4年間の国内での勤務を条件とする」という法案を作成したことを明らかにした。しかし、フィリピン人看護師を求める声は、ヨーロッパ諸国、アメリカ、中東諸国をはじめ、近年では、シンガポール等、近隣アジア諸国からも高まりを見せており、こうした声に応えるかのように、最近では、医師だけでなく弁護士や会計士、エンジニアなど、全く別の職業から看護師への転身希望者が増加しているという。
国内経済をOFWからの送金に頼るところが大きいフィリピンでは、積極的に労働者を海外へ送り出す政策方針をとっている。海外労働者の中でも、他の業種と比較して賃金が高い看護師等の医療従事者は、外貨獲得の重要な担い手であるが、国内の状況に目を向ければ、優秀な人材が不足し保健医療体制は危機的状況に直面しているだけでなく、さらには医師ではない者までもが看護師への転身を希望するという事態まで生じている。
日本とのFTA交渉では、看護師や介護士等の介護労働者の受け入れについて、2006年の最終合意を目指し、受け入れ人数枠等の条件についての交渉を重ねている。フィリピンは、国内経済の発展と医療体制の維持・発展という大きな課題を抱えている。海外へも国内にも、優秀な人材を――今後、この課題にどのように取り組んでいくのかが注目される。
調査した月 | 総就業者数 | 対前年同期比増減数 | 対前年同期比増減率 |
---|---|---|---|
2003年(平均) | 30635千人 | 573千人 | 1.9% |
1月 | 30119千人 | 414千人 | 1.4% |
4月 | 30418千人 | 232千人 | 0.8% |
7月 | 30451千人 | 347千人 | 1.1% |
10月 | 31553千人 | 1302千人 | 4.3% |
2004年(平均) | 31613千人 | 978千人 | 3.2% |
1月 | 31547千人 | 1428千人 | 4.7% |
4月 | 31533千人 | 1115千人 | 3.7% |
7月 | 31632千人 | 1181千人 | 3.9% |
10月 | 31741千人 | 188千人 | 0.6% |
2005年(平均) | 32313千人 | 700千人 | 2.2% |
1月 | 31634千人 | 87千人 | 0.3% |
4月 | 32221千人 | 688千人 | 2.2% |
7月 | 32521千人 | 889千人 | 2.8% |
10月(速報値) | 32876千人 | 1135千人 | 3.6% |
LABSTAT Vol.10 No.1 January 2006より作成。(データは、国家統計局労働力調査による)
産業 | 2005年 | 2004年 | 増減 | 増減率 |
---|---|---|---|---|
就業者数 | 32313千人 | 31613千人 | 700千人 | 2.2% |
産業部門別 | ||||
第1次産業 | 11629千人 | 11381千人 | 248千人 | 2.2% |
第2次産業 | 5025千人 | 4998千人 | 27千人 | 0.5% |
鉱業 | 123千人 | 118千人 | 5千人 | 4.2% |
製造業 | 3078千人 | 3061千人 | 17千人 | 0.6% |
電気・ガス・水道 | 117千人 | 120千人 | 3千人 | 2.5% |
建設業 | 1708千人 | 1700千人 | 8千人 | 0.5% |
第3次産業 | 15658千人 | 15235千人 | 423千人 | 2.8% |
卸小売業 | 6147千人 | 5872千人 | 275千人 | 4.7% |
ホテル・レストラン | 861千人 | 806千人 | 55千人 | 6.8% |
運輸・通信 | 2451千人 | 2427千人 | 24千人 | 1.0% |
金融仲介業 | 341千人 | 328千人 | 13千人 | 4.0% |
不動産・レンタル業 | 734千人 | 690千人 | 44千人 | 6.4% |
行政機関 | 1481千人 | 1491千人 | 10千人 | 0.7% |
教育 | 978千人 | 938千人 | 40千人 | 4.3% |
医療・福祉 | 375千人 | 361千人 | 14千人 | 3.9% |
コミュニティ・個人サービス | 775千人 | 835千人 | 60千人 | 7.2% |
家政婦 | 1516千人 | 1487千人 | 29千人 | 2.0% |
特別地方職員 | ― | 2千人 | ― | ― |
LABSTAT Vol.10 No.1 January 2006より作成。(データは、国家統計局労働力調査による)
調査した月 | 失業者数 | 失業率 |
---|---|---|
2004年(平均) | 4249千人 | 11.8% |
1月 | 3900千人 | 11.0% |
4月 | 5002千人 | 13.7% |
7月 | 4206千人 | 11.7% |
10月 | 3888千人 | 10.9% |
2005年(平均) | 4145千人 | 11.4% |
1月 | 4030千人 | 11.3% |
4月 | 4786千人 | 12.9% |
7月 | 3996千人 | 10.9% |
10月 | 3786千人 | 10.3% |
LABSTAT Vol.10 No.1 January 2006より作成。(データは、国家統計局労働力調査による)
調査した月 | 失業者数 | 失業率 |
---|---|---|
4月 | 2909千人 | 8.3% |
7月 | 2715千人 | 7.7% |
10月(速報値) | 2620千人 | 7.4% |
LABSTAT Vol.10 No.1 January 2006より作成。(データは、国家統計局労働力調査による)
参考:
- 1米ドル=114.87円(※みずほ銀行ホームページ2006年6月22日現在のレート参考)
- 1フィリピンペソ=2.16円(※みずほ銀行ホームページ2006年6月22日現在のレート参考)
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- 基礎情報:フィリピン(2004年)
- 基礎情報:フィリピン(2003年)
- 基礎情報:フィリピン(2002年)/全文(PDF:848KB)
- 基礎情報:フィリピン(2001年)/全文(PDF:366KB)
※2002年以前は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。
関連情報
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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:フィリピン」