基礎情報:イギリス(1999年)・続き

※このページは、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

  1. 労働時間
  2. 労使関係
  3. 労働行政
  4. 労働法制
  5. 労働災害
  6. その他の関連情報

1.労働時間制度の概要

イギリスでは、EUの労働時間指令が採択され、1998年10月1日に発効するまで、労働時間を規制する法制度がなかった。EU指令は、労働者に週48時間を超えて働くことを期待してはならないと定めている。労働力調査によれば、270万人の労働者(労働力人口の11.7%)が、この48時間制限を超えて日常的に働いているという。英産業連盟(CBI)は300万人程度の労働者が指令の影響を受けると考えているが、英労組会議(TUC)では400万人を超える労働者が48時間を超えて日常的に勤務していると推計している。自営業者や実習中の医師などは、この法制度から除外される。

労働時間指令が企業コストに及ぼす影響は、使用者は個々の従業員に労働時間の制限を放棄するよう求めることができるので比較的少ないのではないかとみられている。実際、いくつかの企業は、従業員に労働時間制限を放棄するよう求めていると報じられている。

2.有給休暇の概要

EUの労働時間指令は、年次休暇に関する要件を定めている。指令は、労働者には毎週1日以上の休暇(16~18歳については2日)が与えられるべきであり、年に4週間以上の有給休暇が与えるべきであると定めている(1999年から)。現在(1998年末)、労働者の3.3%が毎週7日働き、11%が3週間未満の有給年次休暇しか持っていないとみられている。使用者が被るコストは相当高いと予想されるため、使用者団体は、この指令に抗議している。この制度が導入されるとイギリス企業にとって年20億ポンドのコスト増になると試算され、政治問題も引き起こすというのである。

日常休憩期間資格

EU労働時間指令は、すべての労働者が、24時間当たり11時間の連続した休憩時間を持たねばならないとしている(16~18歳は12時間)。労働力調査によれば、全労働者の5.2%(120万人)が毎週1日以上13時間を超えて働いており、したがって毎日11時間の休憩を取っていないと推計されている。

さらに、労働時間指令は、成人労働者が6時間を超えて働く場合に20分の休憩を取らねばならないと定めている(1日4.5時間を超えて働く16~18歳の労働者は最低30分)。

育児休暇

育児休暇指令は、働く両親が子供の誕生または養子縁組の際に3カ月までの無給休暇を取る権利および緊急の家族の事情により職場を離れる権利を認めている。これは「労働の公正」立法の枠組みの中で実施される。

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1.労使関係概況

  • 労働組合員数: 
    680万人(1998年)(1997年の数から1.6%減少) 現在の数値を基礎とすると、労働力の30%が組織されている。これに対して、1979年には58%であった。組織率は、民間部門で低い。TUCは、民間労働者の20%が組織されていると推計している。
  • 労働争議件数: 
    1998年9月までの12カ月で174件(1997年9月までの12カ月には217件)
  • 争議参加労働者数: 
    1998年9月までの12カ月で10万5800人。1997年9月までの12カ月には26万700人
  • 争議による労働損失日数: 
    1998年9月までの12カ月で28万7200日。1997年9月までの12カ月には41万6600日

出所:TUC資料(労働力調査のデータを使用して試算),Labour Force Survey, Office for National Statistics

2.労働組合および労使関係に関する法律

保守党政権は、労働組合の活動を大きく規制する多くの法制度を1980年代に導入した。これらの法制度はつぎの分野を対象としていた。

  1. クローズド・ショップの違法化:消極的な結社の権利の導入により、加入前および加入後のクローズド・ショップは違法とされた。
  2. 労働争議に関連する処分免除の縮小:法制度は、労働争議の定義を狭め、使用者とその従業員との間の非政治的なストライキのみ処分免除の対象となるとした。労働争議の定義から外れる違法ストまたは争議が起きた場合、労働組合または役員は、罰金、損害賠償および組合財産の差し押さえを科せられる。
  3. 二次的および大衆ピケの違法化
  4. 政府は、組合員に対する労組の責任を重くすることが国益になると考え、つぎのような規制を導入した。
    • 秘密ストライキ投票
    • 政治資金徴収のための投票
    • 全国役員承認のための投票
  5. 消極的結社の権利の拡張:組合員は当該事業所の過半数が支持する労働争議から離脱することができることになった。

1980年代に制定され法制度の枠組みは、明らかに労働組合運動の力を制限しようとしたものであったが、間もなく立法化される「労働の公正」に関する提案は、労組に法律上承認される新しい権利を与えている。たとえば労組は、当該職場の労働者の過半数が組合員であることを示せば、自動的に承認されるようになる。使用者には、労組承認が良好な労使関係を損なうと考えられるか、あるいは組合員が必ずしも団体交渉の結果を支持していないと考えられる場合には、中央仲裁委員会(Central Arbitration Committee)に訴える権利が与えられる。中央仲裁委員会が裁定を下した場合、労組承認について労組は投票を行わねばならず、そこにおいて当該職場の労働者(非組合員を含む)の40%の支持を得なければならない。労組は、このような投票で勝つことは極めて難しいと考えている。

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1.労働政策の概況

失業への取り組み

1980年代、1990年代の保守党政権は、労働市場に対する自由放任型アプローチを採用し、失業を減らすための積極的労働市場政策を実施しなかった。しかし、1997年5月に選ばれた労働党政権は、「労働に対する福祉」政策を導入し、6カ月以上失業している25歳以下の失業者25万人の再就労を援助することを目標に掲げた。同政策によれば、若年失業者に読み書き、計算能力を教える「ゲートウェイ」訓練を施し、長期失業者と認められた25歳以下の者に、つぎのいずれかの援助が与えられる。

  • 民間企業における6カ月間の就労、訓練 (使用者には受け入れ失業者1人当たり週60ポンドの補助金)
  • ボランティアとしての仕事
  • 環境作業員としての仕事
  • 一層の教育訓練

25歳以上の失業者を2年以上受け入れる使用者には週75ポンドの補助金が与えられる制度も発足する。「労働に対する福祉」政策は1999年の夏に実施される予定である。

だが、政府は完全雇用政策を追求しているのではない。毎月の金利設定の管理は、イングランド銀行の金融政策委員会に移された。金融政策委に対して年率インフレ目標値2.5%が設定され、この目標値にインフレを抑えることが、雇用創出より優先事項とみなされている。金融政策委は、雇用を犠牲にしてもインフレを抑制する意欲を示し、1998年の夏には製造業を救うため金利を下げるべきであるとの意見を無視した。これは委員会が、製造業以外の経済部門の賃金水準が高すぎて、金利を下げられないと判断したからである。

技能不足への取り組み

イギリスの職業教育訓練制度は、自主主義の原則に基づいている。1979年から1997年までの保守党政権が採用した政策は、訓練を個人または企業に任せるというものであった。しかし、多くの使用者は、技能を施した従業員が他の企業にスカウトされることを懸念して訓練には消極的であった。そこで、下記のようないくつかの新しい制度が1990年代に導入された。

  1. National Vocational Qualification(全国職業資格認定):職業認定全国協議会の設置に続いて、新しい全国職業資格認定制度が導入された。同資格認定は、職業資格について全国的体系を設けようとするもので、従来の統一性を欠いた制度に置き換わるものである。
  2. 訓練企業協議会:この組織は各地で1991年から1992年の間に設置され、当該地域の企業経営者が委員として参加することを奨められている。これによって、当該地方のニーズに合わせた訓練が可能になる。
  3. Management Charter Initiative(経営者資格イニシアチブ):サッチャー政権により導入され、経営者の専門的訓練および資格の不足について意識を高めることを目的としている。

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1.労働市場の概況

イギリスの雇用保護法は、イギリスで通常の労働を行う労働者に、一定の個別的な就業に関する権利を認めている。この法制度は、他のEU諸国の法制度と比較すると規制の度合いはかなり少ない。雇用保護法は下記について定めている。

  • 雇用関係について
  • 賃金について
  • 出産の扱い
  • 人員整理
  • 解雇通告
  • 不当/不正解雇
  • 性別、人種、障害を理由とする差別

労働者は、法律上の権利が侵害されたと考える場合には、資格要件を満たせば、雇用審判所(Employment Tribunal)を通じて救済を求めることができる。雇用審判所は、独立の司法機関であり、費用が安く、迅速で、アクセスしやすく、簡易な司法判断を行うために設置されたものである。

労働党政権によって明らかにされている「労働の公正」白書は、近い将来法律になることになっているが、これにより以下の基本的な個人的権利を認めることになる。

  1. 「重大」な苦情申し立てに関して(法律上、契約上または市民法上の権利違反の恐れがあるもの)において、「個人」が労働組合役員に代表を委任する権利
  2. 法律に基づいた活動中に解雇された労働者は、不当解雇の異議申し立てをすることができる。この権利は、使用者が「紛争解決のためにすべての合理的手段を講じた」と証明できる場合には、8週間経過後失効する。
  3. 不当解雇補償の限度額を1万2000ポンドから5万ポンドに増額。不当解雇についての有資格期間は2年から1年に短縮される。
  4. EU育児休暇指令に従い、育児休暇の規定を盛り込む。
  5. パートタイム労働者に対し、フルタイム労働者と平等な賃金、平等な処遇を受ける権利を付与する。

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1.労働災害の概況

安全衛生問題に関する主要な法律は労働安全衛生法(1974年)である。同法は就労中の労働者の安全衛生を確保すること、当該作業(労働)によって生じる安全衛生面でのリスクから当該労働に関係しない者を保護すること、職場における爆発物の保管、管理に関すること、有害・危険物質の大気への排出を防止することなどを定めている。

この法律は、安全衛生委員会(Health and Safety Executive)、その他地方自治体の検査官により施行される。

使用者は、職場に安全担当者を任命する義務がある。安全担当者は通常、労働組合の職場内組織の役員である。その権限は、労働安全衛生法に定められており、HSE規則により補完されている。

2.労働災害補償制度の概要

労働災害に対する補償は、裁判を必要としない国家給付、あるいは民事訴訟を通じて得ることができる。国家給付には、就労不能給付および障害給付がある。

職業病については、社会保障法(1975年)が労働災害とは別個に扱う。損害賠償を求める市民法に基づく裁判は、過失、法律上の義務の違反および保証責任について訴えることができる。損害賠償は、過失がある場合(原告の行為が障害に関与した場合)には減額される場合がある。

表:労働災害者数(1993~1994年、10万人当たり)
  男性 女性
致命的傷害 2.2人 0.1人
重傷 119.9人 43.2人
軽傷(3日以上) 916.2人 321.9人

出所:1995年HSE資料から作成

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1.一般学校教育制度

イギリスの児童は5歳から学校教育を受ける。学校を離れる最低年齢は16歳であり、この時点で生徒は中等教育一般認定試験(GCSE:General Certificate of Secondary Education)を受ける。

A級からC級までの5つのGCSEに合格する生徒の割合は、現在46.5%である。

教育および訓練目標に関する全国諮問委員会は、この割合を引き上げてC級における5つのGCSEまたは中間GNVQ/NVQレベル2を2000年までに児童の85%に合格させることを目標としているが、目標達成の可能性は高くない。

16~18歳の児童のうち約64%が、現在全日制または定時制の教育または訓練を受けている。この割合は、他の西欧諸国に比べて低い。ドイツでは、この割合は90%である。

参考資料:

  1. Workplace Employee Relations Survey 1998 (職場従業員関係調査)
  2. Labour Force Survey, Office for National Statistics

基礎情報:イギリス(1999年)

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:イギリス」