基礎情報:ポーランド(1999年)・続き

※このページは、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

  1. 労働時間
  2. 労使関係
  3. 労働行政
  4. 労働法制
  5. 労働災害
  6. その他の関連情報

1.労働時間制度の概要

労働法典第128条の定義によると、労働時間とは、労働者が事業所場または事業所外の業務遂行の場所にあって、使用者の監督下に置かれた時間をいう。労働者は使用者に拘束されている時間は、使用者のために効率的に業務を遂行しなければならない。ただし、休憩時間は必ずとらなければならない。使用者は、労働者を拘束している時間が、効率的に業務が遂行される時間になるよう業務計画を立てる責任がある。適切な法規が適用される場合には、労働者が拘束され業務が遂行される時間のほかに、休憩時間も労働時間に含まれる。休憩時間を労働時間に含めるかどうかは、労働協約、就業規則、個別の雇用契約に明記することができる。

2.労働時間に関する法律

労働法典第129条で、普遍的に有効な基本労働時間が定められている。そこに規定された労働時間を超えてはならない。第129条によると、労働時間は1日8時間に制限される。また第129条2項、129条4項、132条2項および4項により、3カ月以内の一定の期間を平均して1週42時間を超えてはならない。

この規定は、労働時間は法律で定めるとしたポーランド共和国憲法第66条に基づいたものである。この法律で定めた時間数が絶対的な基準となる。労働協約や個別の雇用契約で、労働者に有利に労働時間を取り決めることができるが、労働法典第129条に規定された時間を超えてはならない。

特殊業務や、法律で規定された条件にある場合は(例えば、休業日を規定以上に獲得するために働く必要がある場合)、8時間を超える1日の労働時間を労働協約や雇用契約で定めることができる。

1日の標準労働時間を延長した場合は、休業時間を別に与えなければならない。労働者はこれを3カ月以内の一定の期間に利用できる。こうした原則に基づいた標準労働時間を「変形労働時間」、就業体制を「変形労働時間制」という。原則として、労働時間を1日12時間に延長する場合と運転手の場合、対象期間は1カ月とする。ただし、労働組合の同意があれば、あるいは労働組合がない場合は労働監督官に事前に通告すれば、期間は3カ月まで延長できる。業務が天候に左右される場合は、6カ月まで延長できる。もっとも、つぎの場合には変形労働時間制を適用できない。

  • 有害物質が最大許容濃度や最大許容量を超える職場で働く場合。
  • 妊婦の場合。たとえ妊婦が1日8時間を超えて働くことに同意しても、適用できない。

自動車、バスの運転手は非連続労働時間制で働くことが可能な場合がある。該当する規則に記載のとおり、この制度は特別に妥当と見なされた場合に限って適用される。

労働法典第129条10項により、使用者は、労働時間が1日6時間を超える場合は休憩時間を与えなければならない。休憩時間は労働時間に含まれ、賃金が支払われる。休憩時間は各企業の就業規則で定める。労働法典に規定された休憩時間を最低基準とする。

3.有給休暇の概要

年次有給休暇に関する労働法典の規定はつぎのとおりである。

第152条

  • 第1項 労働者は年次有給休暇をとることができる。
  • 第2項 労働者は休暇をとる権利を放棄できない。

第153条

第2項 暦年で1年間勤務した労働者は、有給休暇をとる権利が与えられる。

第3項 その後は暦年単位で有給休暇が与えられる。

第154条

第1項 休暇日数

  • 勤続1年後18日
  • 勤続6年後20日
  • 勤続10年後26日

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1.労働組合

ポーランドの労働組合数を正確に把握するのは難題の1つである。中央統計局が発表する公式統計年鑑は労働組合数にまったく触れていない。理由は簡単で、正確な数が分からなければ、数値を公表できないからだ。裁判所登録簿に基づいた労働・社会問題研究所の試算によると、1998年には約2万4000の労働組合があり、そのうち約1万7000はOPZZ(全ポーランド労働組合連合)に加盟していた。全国的な労働組合連合体が9組織、全国規模の労働組合が273組織あった。最も重要で規模が大きいのはいうまでもなく2つの連合体、OPZZと「連帯」(NSZZ)である。この連合体でさえ、労働組合員数の推定は容易でない。入手できたデータによると、「連帯」が約150万人、OPZZが約400万人である。前者の数字が正確だと想定すると、後者の数字は明らかに疑わしい。なぜかというと、1996年に行った労働組合調査結果と食い違っているからだ。調査した企業数がきわめて少ない(20社)のは確かだが、そのなかでOPZZの労働組合員数が「連帯」より多かった企業は1社もなかった。

企業別労働組合の組合員数を把握するのは、労働組合数以上に難しい。問題は、ポーランドではこうした労働組合が大多数を占め、相当な数になるからだ。ほとんどが小さな組織で、労働組合員は10人前後、企業内の問題にのみ関与する。労働組合組織率を算出するには、各労働組合の組合員数が必要なわけで、困難な作業である。

2.ストライキ

ストライキ件数はかなり把握しやすい。信頼できると思われるデータをすべて、国家労働監督局が収集しているからだ。監督局のデータによると、ポーランドでは1998年に37件のストが起きた。過去と比べるとつぎのようになる。

表:ストライキ件数
1990年 250件
1991 303
1992 6351
1993 7444
1994 429
1995 49
1996 21
1997 35
1998 37

3.労働組合に関する法律

ポーランドでは労働組合の活動は、1991年に制定された労働組合法に規定されている。同法によると、労働組合は、労働者が自主的に組織し運営する団体で、労働者を代表し、労働者の権利、社会的利益、職業上の利益を守ることを目的とする。労働組合は使用者、中央政府、地方自治体などから独立して、法律に規定された活動を行うことができる。

労働組合は、組合結成権をもつ10人以上の発起人が採択した設立決議をもって組織される。設立を決議した発起人は規約を定め、財務委員会の委員を3~7人指名する。労働組合規約には名称、登録事務所の所在地、活動の地理的範囲および取りあげる問題の範囲、活動・任務の目的と実施方法・形態、加入と脱退に関する原則、方法を記載する。労働組合代表者の選出方法も規約で定める。財務委員会は、労働組合結成から30日以内に登録申請書を、労働組合事務所登録予定地の地方裁判所に提出する。労働組合と、規約に明記された組織単位は、登録日に法人格を与えられる。労働組合結成の資格のある労働者集団には、会社の所有形態や法的形態にかかわりなく、労働組合を組織する権利がある。

労働組合の結成および運営は独立、自主管理、多元主義、公平の原則に基づいて行う。労働組合運動全体が複雑な組織構造になった原因としてこれらの原則が影響したのは間違いない。多元主義の原則とは、ある企業、産業部門、職業集団、行政単位に複数の労働組合が存在してもよいことを意味する。公平の原則とは、国家機関、地方自治体、使用者はすべての労働組合を公平に扱わなければならないことを意味する。ただし、産業別全国組織、全国規模の労働組合、国内の大多数の企業の労働者を代表する組織につぎの権利を与える場合は、この原則は適用されない。

  • 労働法典や社会保障に関する訴訟の判決に対し、労働組合を通じて、最高裁判所に特別に控訴する権利
  • 法律や行政規則の前提条件、実施計画に関して、労働組合の役割の範囲内で意見を表明する権利
  • 労働法典、社会保障制度について、明確な説明、解釈を最高裁判所に要求する権利
  • 労働組合の役割の範囲内で、新たな法律の制定または現行法の改正を要求する権利

労働組合の自由に関するきわめて重要な原則は、労働組合法第3条に規定されている。同条によると、組合員であることを理由に、もしくは組合員でないことを理由に、または労働組合内で一定の役割を果たしていないという理由で、なにびとも不利益を被ってはならない。複数の労働組合が活動している企業では、それぞれの労働組合が組合員の権利を擁護し、組合員の利益を代表する。労働組合に加入していない労働者は、自らの権利の擁護者として、いずれかの労働組合を指名できる。ただし、この労働組合が事前に同意した場合に限られる。

団体交渉や労働者の利益にかかわる事柄を扱う場合、複数の労働組合が合同協議体をつくることができる。合意に達した場合や労働組合間の共通見解が求められる場合、各労働組合は合意した共通見解を表明する。合意形成の方法、および案件ごとに設定される合同協議体が共通見解を表明する方法は、労働組合間で締結した協定で規定される。

労働争議

労働組合は労働者の全体的利益を代表する組織であり、労働争議を起こす権利がある。労働者と1人または複数の使用者間で、労働条件、賃金、社会的給付、労働者または労働組合結成権をもつ集団の権利と労働組合の自由をめぐって、労働争議に訴えることができる。これは、1991年に制定された労働争議解決法に規定されている。複数の労働組合が活動している企業では、争議の争点となる利益を、それぞれの労働組合が代表することができる。労働組合がない企業では、この企業の労働者から指名を受けた労働組合が争議を起こすことができる。

争点が労働協約あるいは労働組合が当事者となっているその他の協定である場合、協約・協定の解約通知日以前に、協約・協定の変更を目的とした争議を起こすことはできない。調停で争議が解決しない場合、労働者はストを起こす権利がある。事業所内のストは、労働者の半数以上が投票に参加し、その過半数の同意を事前に得たうえで、労働組合が公表する。労働争議を起こす権利の場合と同様、ストを起こす権利は労働組合だけにある。したがって、特別スト委員会や、労働者の自主管理組織、企業協議会、労働者協議会などの労働者代表組織が起こしたストは、労働争議解決法の規定により違法とされる。労働組合はスト基金の創設と運営について取り決める。この基金は強制処分の対象にならない。

労働組合には労働協約について交渉する権利もある。労働協約は、複数の企業で活動する労働組合または労働組合連合体と、使用者または使用者団体(もしくは使用者団体の連合体)の間で締結される。

労働組合代表の問題は、全国労働協約法に規定されている。全国的な労働協約締結の当事者となるのは、労働者側は、複数の企業で活動している労働組合内の、法律に照らして適切な部門、使用者側は、使用者団体内の、法律に照らして適切な部門である。複数の企業で活動している労働組合は、組合員がつぎの条件を満たす場合に、代表組織と見なされる。

  • 組合員数が5000人以上である場合。
  • 組合員数が5000人に満たないが、労働者の10%以上が労働組合規約の適用を受けている場合。
  • 組合員が労働者の最大集団で、組合員のために企業間協定が締結できる場合。

全国的な労働組合組織は、代表組織としての地位の確定をワルシャワ地方裁判所に要請する。裁判所は30日以内に判断を下す。この地位が確認されると、この連合体に加盟している全国労働組合と労働組合団体が、法律により代表権をもつ。

4.その他の労働者代表組織

労働者協議会

経済における多元的所有方式や法的形態が発展して、労働者を代表する組織の構造も多元化している。多くの労働組合は1社または複数の企業で活動しているが、国有企業の労働者協議会や職業別自主組織も労働者代表組織の役割を果たし、自主的に運営されている。とはいえ留意すべきことに、労働者協議会の役割は、この数年間でかなり限定された。1981年に制定され、その後何度か修正された「国有企業における労働者自主管理法」で制限されたからではなく、国有資産を減らし、経済改革再編の方向を打ち出したからである。この改革はいわゆる「バルツェロビッチの改革」期間に行われ、民営化により合法的な企業形態であった国有企業を解体しようとするものである。労働者協議会が労働者の自主管理組織として活動できるのは、合法的な国有企業に限られることを忘れてはならない。

「国有企業における労働者自主管理法」は、重要な企業内問題について意思決定を行う権利、意見表明の権利、発議権、動議権、企業活動を抑制する権利を労働者協議会に与えている。労働者協議会の意思決定権にはつぎの権利が含まれる。

  • 企業の年間事業計画を受け入れるか修正する権利
  • 予定されている投資に関する決議を承認する権利
  • 企業の財務諸表と貸借対照表に対する承認権
  • 民間企業など、法律に記載された事業体の設立、合併、株式取得に対する承認権、および事業分割、解散申請、株式売却の決議を採択する権利
  • 他社との合併や企業の分割に関する決議を採択する権利
  • 企業の固定資産を法人または個人に売却し、買い手が民法に規定された形態で利用することに同意する権利
  • 従業員住宅および社会保障サービスのための建物の建設に関する決議を採択する権利
  • 企業の事業活動の範囲変更に関する決議を採択する権利
  • 企業の手元に残った自由に使える利益の個々の基金への分配、この基金の利用に関する原則、企業投資資金の利用条件に関する決議を採択する権利
  • 企業が長期にわたって使用してきた固定資産の売却、および寄付に同意する権利
  • 社会団体への参加を決定する権利
  • 専門クラブおよび技術改善クラブに関する決議を採択する権利
  • 社長の活動に関する決議、企業内の就業規則に関する決議を採択する権利
  • 企業内投票の実施に関する決議を採択する権利
  • 使用者団体協議会に派遣する代表を選出する権利
  • 国有企業法の規定に従って社長、副社長などの役員を指名または解任することに関する決議を採択する権利

職業別自主管理組織

職業別自主管理組織は、一定の職業集団を代表する労働者団体である。看護婦、助産婦、薬剤師、医師、獣医などの自主管理組織がある。この組織は他の労働者組織と違って、該当する職業に就いている者に参加を義務づけている。専門職であることから、会員の技能に関する活動を監督している。さらに、会員の個々の利益および全体的な利益を代表する団体としての役割を果たしている。このために、例えば労働条件や賃金について交渉する。ただし、労働組合法と労働法典に規定された労働組合の権利が制限されることはない。実のところ医療部門では、医師の自主管理組織と労働組合が共同で、医師の利益を擁護するといった事例がみられる。

5.使用者団体

ポーランドでは、1991年に制定された使用者団体法に基づいて使用者団体を組織できる。同法によると、使用者、つまり、労働者を雇用し事業活動を行う個人または組織は、事前に許可を得ることなく、自由に団体を設立できる。使用者、広義には経営者が共同で自己の利益の拡大を図る方法はほかにもある。職業集団の利益を高めるには、1989年に制定された「特定の経済実体の職業別自主管理に関する法律」に基づいて、職業別自主管理組織を設立することができる。増大させたい利益が事業活動の範囲内である場合は、1989年に制定された事業団体法に基づいて、事業別自主管理組織を設立できる。使用者団体設立の包括的な法的基礎になっているのは、1989年に制定された団体法である。同法により、使用者団体は自由選択の原則に基づいて設立できる。つまり、同じ産業部門、同じ地域、または同じ職業の労働者を結びつける組織となる。利益の増大を図ることもできる。したがって、多くの企業家はこの権利を行使し、中央政府が提案している制度モデルには関心を寄せていない。

労働組合の場合と同様、実際に活動している使用者団体の会員数を把握するのは容易ではない。完全で体系的な最新のデータはない。裁判所登録簿から得られる情報は、いくつかの使用者団体がこれまでに登録されたことだけである。

組織は活動を中止しても、登録簿から削除する手続きをとっていない。したがって、あらゆる使用者を代表する組織の会員数は概算にすぎない。推定ではあるが、現在活動している使用者団体は870団体あり、そのうち111団体が使用者団体法に基づいて登録している。使用者の利益を代表する最も重要な団体は企業家団体連合(Confederation of Enterprenoure' Organization)で、使用者団体法に基づいて登録済みの団体のみが加盟している。この企業家団体連合は使用者を代表する唯一の組織として、社会経済問題3者協議会の活動の枠組み内で、労働組合、政府代表との交渉に参加している。

ポーランドの使用者団体数と労働組合数を正確に把握するにはまだ時間がかかる。現在のところ、「労働者の世界」の利益を代表する組織も、「資本の世界」の利益を代表する組織もかなり分散している。資本の統合が進み、「欧州統合活動にに参加する」ことにより、こうした組織もおそらく統合せざるをえなくなるだろう。

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1.労働政策の概況

ポーランドでは1920年から1939年にかけて失業が大きな問題になり、1929年に公共事業省が設置されて道路、鉄道敷設、鉄道電化工事などで多くの雇用を創出した。同省は1931年に廃止され、変わって失業基金と社会保障省が設けられた。1933年には雇用創出局と労働基金が同省から独立した。

第2次世界大戦後、完全雇用政策がとられたが、潜在失業率が3~4%の地域もあったようである。1980年代にはポーランドの経済構造が不安定になり、失業率が5~7%に上昇した。

失業率は1989年以降、著しく上昇し、91年には17%に達した。89年に雇用法が制定され、労働市場の基盤がつくられた。地方労働事務所に加え、助言・相談機関として雇用委員会(労働・社会政策省のもとに中央委員会、自治体に地方委員会)も設置された。さらに職業紹介所、職業安定所、労働基金が設けられた。地方労働事務所は雇用計画、提言、調査・研究、地方労働事務所間の調整を担当する。失業者を登録し、さまざまなサービスを提供する。失業給付の支給、職業相談、専門教育、助成事業(政府事業、公共事業)を行い、就業資金を融資する。企業が事業所を新設する場合にも融資する。融資資金は労働基金から提供される。

1990年以降、さまざまな失業対策がとられている。まず、政府の労働市場への介入で最も重要なのは、訓練機会の提供と、専門職の資格変更である。1991年に雇用・失業法が公布された。失業給付で失業者を消極的に保護することが、労働基金による支援策の主な役割であるが、労働基金の資金の一部は、積極的な失業対策に振り向けられている。積極的な対策としては訓練、融資のほか、政府事業、公共事業などがある。融資、訓練、政府事業が失業対策として選択されるようになった。労働・社会政策省が管理する労働基金の財源は、政府予算と使用者からの強制拠出金である。1992年には、雇用と退職金に関する法律が一部改正され、新しい法律が制定された。この法律は失業給付を平均賃金の35%と規定し、早期退職を認めている。

1991年に中央計画局は、失業率が高くなりそうな地域を特定する制度を設け、地域経済再構築プログラムを実施してきた。対象地域は労働基金から資金の提供を受けて、インフラ投資、融資、免税を行い、税制優遇措置をとっている。財務省には、高失業率が予想される地域で活動する企業に対し、所得税を減免する権限がある。国際金融機関からの助成資金は地域経済の振興に使われている。

1991年以降、つぎの2つの政府プログラムが実施されている。

  • 社会保護地区:早期介入支援団の形成、転職の機会増大、早期退職制度、社会的支援、社会的病理の克服を推進する。
  • 特別イニシアチブ地区:貯蓄奨励、インフラ投資支援、失業者と企業への融資、政府介入事業、公共事業、地域社会の活動を推進する。

1993年には、失業を防止し、その悪影響を抑制するプログラムが実施された。それによると、経済活動はつぎの点に重点を置かなければならない。

  • 整合性(新規雇用の創出・保護による経済発展)
  • 包括性(経済を牽引する部門や制度の政策基盤の形成。これにより、失業克服という大きな目標が達成される)
  • 一貫性(経済分野の意思決定はすべて、雇用政策を優先すべきである)

新雇用・失業対策法が1994年に公布され、新卒者を雇用する経営者を対象とした税の軽減・奨励制度が盛り込まれた。同法は1995年に修正され、プログラム再編による地域労働市場支援策が盛り込まれた。企業内で訓練か実習を開始した新卒者には、失業給付ではなく奨学金が支給されることになった。

同じく1995年には、「生産的雇用の促進および失業減少のためのプログラム」が新たに実施された。このプログラムはポーランドにおける失業の特徴である若年者の失業、長期的失業、地域格差、転職機会の少なさの解消を目的としている。

若年者の失業率が高いのは、「若年者専門職活性化プログラム」が新たに1995年にスタートしたからである。このプログラムでは、ひとたび雇用された若年者は、新卒者雇用契約により助成金を受け、失業給付ではなく奨学金の支給を受けることができる。また、専門的な訓練と助言を受け、職業クラブに参加できる。積極的失業対策費は増えている。失業給付と退職前給付の受給資格が定められ、雇用委員会の権限が強まった。

1991年から96年にかけて「雇用促進および雇用サービス拡大プロジェクト」が実施された。これは、融資と技術支援を受けるために世界銀行と合意したものである。支援内容としてはプロジェクト管理、情報システムの構築(コンピュータ・ネットワーク)、統計、社会的給付制度の改善、公共職業安定所の効率化、職業訓練、小規模企業の支援が含まれている。

1994年雇用・失業対策法により、労働市場のために特別プログラムを実施することが可能となった。失業の痛手が大きい人々は「リスク集団」とされる。長期失業者、片親、専門職をもたない労働者、資格の低い労働者、新卒者、刑事施設からの釈放者、余剰人員削減による失業者、兵役除隊者が対象になる。1995年には「障害者の専門活動支援プログラム」が実施された。障害者に専門職業訓練、個人融資を提供し、小規模事業の起業を支援するのが目的である。

経済的イニシアチブを支援する体制が「促進プロジェクト」の枠組み内で整備された。構成はつぎのとおりである。

  • 全国59カ所にイニシアチブ支援センター
  • 31の経済的イニシアチブ開発基金
  • 既存の24の経済的イニシアチブ

失業者と失業者が起こした事業の支援に当たる銀行と財務省の合意により融資保証基金が1994年に設置された。さらに、地方イニシアチブ機関が失業者によるイニシアチブを支援した。

1996年に政府はEUの支援を得て、統合地域調整プログラムを実施した。労働市場に関する問題を、地域経済の特徴を踏まえて解決しようとするプログラムであった。

政府は1995年に新たな社会経済開発プログラムを実施した。このプログラムでは、失業率を算定し、失業率の低減、社会的病理の克服、若年者失業対策のためのガイドラインを評価できる。このプログラムの枠組み内で特別経済地区が設定され、また、雇用の安定を保証する条項を民営化契約に盛り込むことが可能になった。

2.労働関連行政機関

労働行政に労働・社会政策省によって管轄されている。同省にはつぎの11の部が置かれ、また8つの付属機関がある。

労働・社会政策省の部局

  1. 経済分析・予測部
  2. 労働市場政策部
  3. 部門政策・再編部
  4. 構造・地域政策部
  5. 社会対話部
  6. 労働法制部
  7. 社会福祉部
  8. 社会保険部
  9. 労働条件部
  10. 賃金部
  11. 欧州統合対外協力部

労働・社会政策省付属機関

  1. 全国労働局
  2. 社会保険局
  3. 中央労働保護研究所
  4. 労働・社会問題研究所
  5. 社会サービス開発センター
  6. 社会パートナーシップ・センター「対話」
  7. 労働・社会保障中央図書館
  8. 自主労働組合

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ポーランドの労働関連法は法典化されている。労働法典のほか、特定の職業(事務員、教員など)の労働者に関する特別法がいくつかある。

(1)労働法典(1974年制定、1996年改正)

労働法典は、主体と客体を包括的に規定した法律で、労働法典の基本原則を定めている。また、労働契約の締結方法、労使関係、賃金、その他の給付(一般原則についてのみ)、使用者および就業者の義務、設備・原材料および職場の秩序に対する就業者の責任、労働時間、休暇、女性保護、青少年の雇用、職場の安全衛生問題、労働協約、労働争議の解決、労働者の権利違反に対する責任などを規定している。同法は1996年にポーランドの労働法典を市場経済の原則に適合させ、さらには国際法や欧州法の条項と適合させることを主目的に大幅に改正された。

(2)労働災害および職業病の補償に関する法律(1975年)

労働災害や職業病による損害に対する使用者の責任を規定し、業務上傷病を被った労働者またはその家族は社会保険基金から補償されると規定している。使用者が支払う基本給付は、長期健康障害に対する補償と遺族補償である。また、就業不能となった労働者またはその家族は障害者給付(就業不能補償)、または家族障害給付を社会保険制度から受けられる。

(3)国家労働監督法(1981年制定、1996年改正)

国の独立行政機関が労働条件および労働法典準拠状況を監督する場合の原則を定めている。労働法典の改正に伴って、同法も1996年に大幅に改正された。

(4)社会労働検査法(1983年)

社員が指名し、当該企業で活動する労働組合が監督する社会労働検査官が、労働条件と労働法典準拠状況を点検する場合の原則を定めている。

(5)使用者側に過失があった場合に適用される、雇用契約終了に関する規定および原則に関する法律(1989年)

経済的理由、または事業再編、生産・技術の変更にかかわる理由で労働者を解雇する場合の規定および原則を、労働法典とは別に定めている。使用者側の理由で大量または個別に解雇する場合に適用され、解雇の際の労働組合の役割を規定し、余剰労働者に対する退職給付の支給を規定している。

(6)使用者破産の場合における労働者の請求保護に関する法律(1993年)

使用者が破産して、労働者の請求に応じられない場合にとるべき手続きを定めている。延滞賃金は、使用者の拠出金で設立された労働者給付保証基金から支払われる。

(7)雇用および失業対策法(1994年)

国の雇用対策機関(労働事務所)の組織と機能を規定している。失業を減らし、失業の影響を低減することに特に重点が置かれている。同法によれば、雇用対策機関の機能とは、職業紹介、訓練コースや介入事業の提供および資金供給、失業給付の支給などである。職業紹介所の予算は、使用者の拠出金で設立された労働基金で賄われる。外国でポーランド人を使用する者、国内における外国人雇用なども同法で規制されている。

(8)労働組合法(1991年)

民主主義国における労働組合活動の自由の前提条件に合わせて、労働組合の結成、登録方法、企業レベル、1企業を超えたレベルでの労働組合の権限を規定している。また、企業内労働組合の規約の枠組みを定めている。

(9)使用者団体法(1991年)

労働組合法に規定されたのと同じ原則に基づいて、使用者団体の設立・登録方法と権限を規定し、内部規約の枠組みを定めている。

(10)労働争議解決法(1991年)

労働条件、報酬、社会的給付、労働組合の権利と自由、使用者に対抗するため争議に訴える場合の原則を定めている。争議の当事者間の交渉、当事者が指名した調停人、または当事者の一方の要請により、労働・社会政策省が作成したリストから選んだ調停人による調停、仲裁など、団体交渉の各段階について規定している。労働者にストライキ権を与え、この権利を行使する条件を定めている。

(11)国有企業における労働者自主管理に関する法律(1981年)

国有企業における労働者自主管理制度(労働者集会、労働者協議会など)の設立と効率化に関する原則を規定している。こうした制度には、定款に関する議決権、企業の全般管理者を指名する権利など、広範な権限がある。もっとも、公共部門の商業化、民営化が進められ、国有企業の数が減少しているため、同法の役割は次第に小さくなりつつある。

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1997年から98年にかけて労働災害死傷者数は生産、建設、医療、社会福祉の部門で過去最多を記録した。1998年1~9月には、公共部門で37,348人が労働災害に見舞われ、そのうち161人が死亡した。民間部門では4万63人が労働災害に遭い、283人が死亡した。

1997年1~9月には公共部門で6万6516人が労働災害に見舞われ、そのうち268人が死亡し、784人が重傷を負った。民間部門では5万4380人が労働災害に遭い、431人が死亡し、1170人が重傷を負った。

中央統計局によると、97年に起きた災害の主な要因は、それまでとだいたい同じである。打撲(災害件数の38.2%)、転落(27.7%)、鋭利な物体との衝突(8.8%)、有害化学物質などの作用(8.3%)であった。

「1997年にポーランドの各経済部門で就業者がかかった職業病の種類と要因」(職業医療研究所による分析)によると、1万1685人が職業病と認定され、1996年に比べて367人増加した。

職業病罹病者を性別にみると、男性の方が多く、1997年には56.8%を占めた。これ以前の年と同じく、健康に有害で不快感をめたらす要因に長期間さらされたために発症した例がほとんどであった。年齢別にみると、40~49歳が全体の29.6%、50~59歳が44.5%を占めた。

安全衛生問題の範囲内における使用者の義務は労働法典、なかでも第10章「職場の安全衛生」と、同法典の行政条項に規定されている。使用者の主要な義務は同法典第207条に明記されており、その第1項によると、職場の安全衛生に責任を負うのは使用者である。

1997年12月31日現在の中央統計局データによると、就業者数612万8539人のうち61万9801人が、従業員数が10人を超える事業所で有害な労働環境にさらされていた。

健康に有害で不快感をもたらす環境で働いている者には、つぎのような特典が与えられている。

  • 労働時間の短縮
  • 有給休暇の追加
  • 予防食、回復を速める食事の提供

健康に有害で不快感をもたらす労働条件に対する補償として、付加給付を受けた労働者は、1997年に131万7400人に上った。この給付は労働協約に基づいて行われる。または、労働報酬支払い条件に関する法律、国家機関の雇用者の報酬への付加給付を認める法律に基づいて行われる。

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1.社会保険

1998年に制定された「社会保険基金から支給される退職・障害給付に関する法律」が1999年1月1日に発効した。これにより、職業別の社会年金制度や社会保険制度は廃止される。1998年に制定された社会保険制度法で、家族農場の従事者を除くほぼすべての職業集団が、新たな退職・障害自動給付制度の対象となった。

新たな年金制度は3つの柱からなる。

  1. 従来どおり、所得再配分システムに基づいた国民・自動退職保険からの給付
  2. 資本型:退職保険拠出金の一部を公開年金基金の枠組み内で投資する
  3. 国が助成する職業年金制度をはじめ、あらゆる形態の自主保険を網羅する。

2.人的資源開発、教育訓練

ポーランドでは市場経済が発展し、また、労働市場が競争市場となって教育熱が高まった。とくに若年者の失業率が高い上、使用者が求職者に要求する資格水準が高まり、若年者は中等教育、高等教育に関心をもつようになった。大学教育を受ければ、就職、昇進、生活水準の向上が保障される。1990年から1997年までの間に、19~24歳の若年者全体に占める昼間部学生の比率は20.7%から34.4%に上昇した。学生数は同じ期間に約40万人から100万人を超えるまでになった。

全就業者のうち大学教育を受けた者は1.4%にすぎない。失業者の29%は18~24歳の若者である。

失業者を就業させるのに有効な方法の1つは訓練である。1993年から1997年にかけて失業者の約3.1%が、転職や新たな資格取得のための訓練コースを修了した。現在、失業者を含め、120~130万人がさまざまな能力開発講座に参加している。

3.学校教育制度

ポーランドでは、当面の教育政策を決定づける条件は政治制度の変革とかかわっており、その範囲内で、青少年教育および成人教育の分野も含め、社会的発展に対する国家の役割と責任が変わりつつある。主な変化としては、教育管理体制の分権化と、地方自治体への権限委譲が進んでいる。地方自治体法(1990年、1998年)、高等教育法(1990年)、教育制度法(1991年、1995年、1998年)により、あらゆる教育レベルの私立学校の設置を含め、教育施設の整備、運営原則に関する法的枠組みが設定された。

1996/97年度にはつぎのような私立学校が運営されていた(カッコ内の数字は全体に占める比率)。

  • 小学校(1.6%)
  • 一般中学校(18%)
  • 高等学校(42.7%)
  • 大学(54.5%)

私立学校(地域社会、宗教団体、民間団体が運営)の生徒が占める比率はつぎのとおりである。

  • 小学校(0.7%)
  • 一般中学校(4.6%)
  • 高等学校(42.7%)
  • 大学レベルの教育機関(20.8%)

国は助成金や補助金を通じ、初等・中等・高等教育を間接的に援助している。ポーランドでは公立学校(自治体運営の学校を含む、がまだ大多数を占めている。

ポーランドの教育制度の基本は、1校8学級の小学校で、基礎教育を担い、総合科目を教えている。

小学校を修了すると進路を選択する。中等教育機関には基礎実業学校、実業中学校、一般中学校がある。実業中学校には、小学校修了者や基礎実業学校修了者のための実業学校のほか、専門学校なども含まれる。

1990年から1998年にかけて、中等教育の構造が大きく変わった。基礎実業学校(卒業者は熟練労働者として就職)の数が減り、実業中学校と一般中学校の数が増加した。実業中学校や一般中学校に進学した方が職業を選択できる。また、高等学校や大学で学びたい者もこちらを選ぶ。

注目すべきことに、一般中学校の数は90年代初めに急増し、高等学校と大学は93年以降に増加した。

ポーランドの教育制度を拡充、多様化する試みの1つとして私立学校が設立された。これは社会団体や宗教団体、個人が経営する。また、学級ごとに特色をもたせた編成を行った。私立学校での教育が拡大して一般中学校の数が増えた。私立中学校は現在、中学校全体の18%を占めている。もっとも、私立の一般中学校に通う生徒は全体の4.4%にすぎない。

私立の実業中学校については、学校数は中学校全体の3.1%、生徒数は1.8%である。

参考資料:

  1. Rocznik Statystyczny Pracy 1997,GUS (中央統計局『1997年労働統計』)
  2. Monitoring rynku pracy,GUS,October 1998 (中央統計局『労働市場調査』)
  3. Aktywnosc ekonomiczna ludno?ci Polski,November 1992 and May 1998,GUS (中央統計局)
  4. Biuletyn Statystyczny GUS,December 1998 (中央統計局『統計公報』)
  5. 『ポーランド国民の事業活動』
  6. Journal of Laws no.162, item 1118, no.37, item 887

基礎情報:ポーランド(1999年)

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