緊急コラム
雇用維持スキームの行方─欧米各国の出口戦略

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JILPT研究所 副所長 天瀬 光二

2020年10月9日(金曜)掲載

新型コロナウイルスとの闘いのエンドロールはまだ見えない。感染者数を表すグラフは、増加と減少を繰り返しながらなかなかゼロには近づかず、2020年という特別な年の年末だけが足早に近づいてくる(図1)。感染者数が依然増減を繰り返す現状においては、経済をフル稼働させるわけにはいかない。感染者数を横目で睨みながらの経済再開は、まさにブレーキを踏みながらアクセルを踏むことに等しく、どの国も難しい対応を迫られている。ウィズコロナの期間が長期化するに連れ、財源問題を含むさまざまな問題も生じているようだ。各国はここにきて、雇用のカンフル剤として用いた雇用維持スキームの出口を模索し始めている。それぞれの状況を反映して各国の雇用対策はどこに向かうのだろうか。

図1 各国の新規感染者数推移

図表1グラフ

出所:米ジョンズ・ホプキンス大学(JHU)データを基に作成

「操短手当」特例措置を最長で21年末まで延長【ドイツ】

ドイツの雇用維持スキームは、「操業短縮手当(操短手当 Kurzarbeitergeld, KuG)」と呼ばれるもので1969年創設された。わが国の雇用調整助成金のモデルとしても知られる。従来から失業の抑制や企業内の技能維持に役立ってきた。特にリーマンショック時には、従来から普及していた「フレックス」や「労働時間口座」等の柔軟な労働時間とこの制度の併用で大量失業を回避、他国に先駆けて景気が回復したため、当時「雇用の奇跡」とも称された[注1]

ドイツは、今回のコロナショックにおいても従来の制度をさらに強化することで対応を図っている。感染が急拡大した3月、操業短縮を余儀なくされた企業や従業員を支援するため、従来スキームの支給要件の緩和を決めた。主な緩和の内容は、1)従来の操短手当の支給要件であった「事業所内の3分の1以上の従業員が対象」を「従業員の10%以上(10分の1以上)が対象」まで対象を拡げ、当該労働者について10%以上の賃金減少があった場合に操業短縮で減少した賃金の一定割合を補填、2)手当の支給対象を派遣社員にも拡大、3)操業短縮中の労働者の社会保険料の雇用主負担分は連邦雇用エージェンシー(Bundesagentur für Arbeit, BA)が全額肩代わりする、4)従来の支給要件である「事前に公共職業安定機関への届け出」がなくとも特例で事後申請も可能とし手当支給を2020年3月1日から遡及適用の4点である[注2]

政府はその後5月、コロナショック克服のため、労働社会分野における様々な追加支援を行うと発表した。中でも注目を集めたのは、特例措置をさらに強化する操短手当補填率の引き上げである。引き上げの対象となったのは、労働時間が通常時の50%以上減少した労働者で、支給開始から3カ月間は、従来通り休業により減少した手取り賃金の60%(子がいる場合は67%)だが、4カ月目からは同70%(子がいる場合は77%)、7カ月目からは同80%(同87%)に引き上げるとした[注3]。なお、補填率が引き上げられても、操業短縮中の労働者の社会保険料の雇用主負担分は連邦雇用エージェンシーが全額償還する。これは2020年までの時限措置で、制度拡充による追加支出額は6億8000万ユーロ程度と見積もられた[注4]

ドイツでは、操短手当の他に、労働協約に基づいて雇用主が独自に追加の賃金補填をする産業もある。しかし、今回のコロナショックによって特に深刻な打撃を受けたホテルやレストラン等のサービス産業では、雇用主による独自の賃金補填を規定した労働協約がない場合が多い。そのため、危機が収束するまでの間、操短手当の補填率を引き上げるべきだとの議論があった。因みに、経済社会研究所(WSI)が欧州15カ国を対象に操短手当と類似する賃金補填制度を調査したところ、アイルランド、デンマーク、オランダ、ノルウエーの4カ国が補填率100%、オーストリア、イギリス、イタリア、スイスは80%、スペイン、ベルギー、フランスは70%であり、ドイツの60%は調査対象国の中で最低水準であることが判明した。ドイツにおける操短手当の補填率の引き上げは、こうした議論が背景にあったと見られる[注5]

上述の操短手当の特例措置とも言える支援強化策は、5月末の時点では2020年までの時限措置とされていた。しかし、連邦政府はコロナショックが長期化の様相を呈してきたことから、9月、操短手当の最大支給期間を現状の12カ月から24カ月に延長し、最長で2021年12月末まで手当を受け取れるようにすることを閣議決定した。この延長措置は、2020年12月末までに操業短縮を導入した事業所を対象とする。また、操業短縮中の労働者の社会保険料の雇用主負担分は連邦雇用エージェンシーにより全額償還される。フベルトゥース・ハイル連邦労働社会相はこの支援期間延長に伴う2021年の追加コストを約50億ユーロと見積もっている[注6]

「長期部分的失業制度(APLD)」でスキームを存続【フランス】

フランスの雇用維持スキームは「部分的失業(Activité partielle - chômage partiel)」と呼ばれるもので、やはり従前から失業を回避する制度として存在した。景気変動や原材料の調達が困難になる等の要因によって事業の縮小または一時停止を余儀なくされた雇用主に対し、従業員の賃金を一部補填することにより支援、結果従業員の雇用維持を図る。従業員を休業させた場合、雇用主は総額賃金の70%(但し、手取りの最低賃金である1時間当たり8.03ユーロが下限)を支払う義務がある一方、企業に対して失業保険から1時間当り7.74ユーロ(従業員数251人以上の企業の場合。250人以下の場合は7.23ユーロ)が助成されるという制度である[注7]

今回のコロナショックでは、感染者数が急拡大した3月から従来の制度を大幅に拡充し、最賃水準の労働者には従前賃金の満額を保障するとしたほか、手続きを簡素化し、事後申請も可能とするなどの特例措置が設けられた。助成範囲はSMIC(法定最賃)の4.5倍までで、従前賃金の70%を企業が従業員に支払い、企業が支払った賃金の満額が国および失業保険制度から助成されることとなった[注8]。この結果制度の利用者は急増し、4月末までに全雇用者の3分の1に相当する880万人にまで達した。制度の拡充によって失業者の急増を回避した一方、失業保険制度を補填する国の負担は、4月25日に成立した第2次補正予算で258億ユーロ(7月30日成立の第3次補正予算では310億ユーロ)にまで膨れ上がり、特例措置の見直しが労使を交えて検討され、5月11日のロックダウンの解除後、利用条件を段階的に厳格化し、助成水準が順次引き下げられることとなった。

その結果、6月1日からは通常の制度では従前賃金の60%(70%からの引き下げ)を雇用主が従業員に支払い、企業が支払った賃金の85%(つまり企業負担は15%)を国および失業保険制度から助成される制度に改正された[注9]。一方、ロックダウン解除後も引き続き営業が禁止された観光業や外食産業については、これまで通り、従前賃金の70%を企業が従業員に支払い、企業が支払った賃金の満額を国および失業保険から助成する措置が維持された。さらに、ポストコロナを見据えて失業保険制度を恒久的に維持するという観点から、10月1日からは国と企業の負担割合が見直されることとなった。従業員が受け取る賃金は従前の60%、国および失業保険から企業への助成は60%(85%からの引き下げ)、企業は40%(15%からの引き上げ)を負担する制度が決定された[注10]

こうして利用条件を段階的に厳格化する一方で、労使合意を条件として失業(解雇)の回避とともに一定の所得水準を維持する「長期部分的失業制度(APLD:Activité partielle de longue durée)」の導入が決まった[注11]。7月1日から導入されたこの制度は、事業所や企業、企業グループレベル、あるいは産業レベルでの労使合意を条件として、一定の所得水準(従前賃金の70%、国および失業保険から85%を助成)を保障する制度である。労使合意には、適用期間、対象となる事業や従業員、労働時間削減の上限、雇用及び職業訓練に関する雇用主の誓約、制度の実施状況を労働組合や従業員の代表組織に対して情報提供する方法などを明記しなくてはならない。制度利用中に経済的理由の解雇が行われた場合、助成金の支給は停止され、雇用主は受給した助成金の全額返還が求められる。

APLDの利用をめぐり、コロナショックで厳しい経営環境下におかれている航空産業を中心に労使合意を目指して労使協議に入る動きが始まっている。例えば航空機部品などを製造するサフランは、航空機需要の激減などの影響を受け、フランス国内の従業員4.5万人のうち1.2万人を削減する必要があると試算されていたが、7月初旬に労使が合意に至り、APLDの活用により解雇が回避されることとなった[注12]。同社では2022年末まで制度を利用する予定で、フルタイム換算で6,000人分の労働時間の削減を実施、同時に3,000人を早期退職させることによって、従業員の解雇を回避する計画である。

同制度の利用は、その他金属産業においても検討が進められており、経営者団体・金属産業連合(UIMM)と代表的労働組合のうち民主労働同盟(CFDT)、管理職組合総連盟(CFE-CGC)、労働者の力(FO)の間で同様の合意が産業レベルでは初めて7月30日に成立した[注13]。この合意は、2025年第1四半期まで有効で、金属産業の企業のうち、事業所や企業、企業グループにおいて労使合意が締結されていない場合にも拡張適用される。

同制度は、経済的理由の解雇(整理解雇)など大きな損害を与える他の法的措置が回避できるものとして一定の評価がなされているようだ。しかしFOなどは、諸手を挙げて歓迎しているわけではない。労使合意の対象外となる従業員が解雇される可能性が残されていることが大きな懸念材料だとの指摘もある[注14]

「雇用支援スキーム(Jobs Support Scheme)」で条件を厳格化【イギリス】

イギリスには従来、従業員の賃金を補填することにより雇用主を救済し雇用を維持しようとするスキームは存在しなかった。しかし今回のコロナショックは、こうしたイギリスの政策スタンスにも変化を与えた。4月20日に導入された「コロナウイルス雇用維持スキーム(Coronavirus Job Retention Scheme)」は、事業に支障が生じた雇用主が従業員を一時帰休(furlough)にして休業等の期間における雇用を継続する場合、賃金の8割(月額2,500ポンドが上限)を補填する制度であり、危機に当たり雇用を維持しようという政府の強い姿勢が窺われる。同スキームは導入以降、累計申請件数は6月末までにおよそ110万件、対象労働者数は930万人に達し、申請ベースでの賃金助成の支給額は255億ポンドにのぼった。

しかし6月、感染収束の見込みは立たない。政府は当初5月までとしていた同スキームの対象期間をとりあえず10月末まで延長すると発表した[注15]。一方、コロナショックの長期化により経済への影響がじわじわと出始め、財政の負担軽減を図る必要に迫られていた政府は、できるだけ早期に労働者の職場復帰を促すため、8月以降雇用主の負担を段階的に引き上げるとした。

7月に入ると、政府は雇用維持や就労支援、またインフラ整備などを通じた雇用創出策などを盛り込んだ新たな政策パッケージ「雇用のためのプラン」(A Plan for Jobs)を公表する[注16]。総額で300億ポンドを投じるとしたこの対策パッケージにおける柱の1つは、「雇用維持一時金」(Job Retention Bonus)。これは、雇用維持スキームが10月末に終了することを受け、新型コロナウイルスの影響を受けた企業の従業員を2021年1月まで継続して雇用した場合に、1人当たり1,000ポンドを雇用主に支給するというものであった。政府はこれに最大で94億ポンドの予算を充てた。その後国内の感染状況は次第に落ち着きを見せ、政府は夏ごろから段階的に経済活動の規制や行動制限を緩和し、一部の業種を除いて大半の経済活動の制限を解除するに至った。またこれに合わせ、従来の在宅就業の奨励を取り下げ、8月以降は労働者の職場復帰をさらに促した。しかし、9月に入ると新規感染者数は再び急速な増加に転じる。

9月下旬、政府は景気回復と雇用維持に向けた追加的な施策パッケージ「冬期経済プラン」(Winter Economy Plan)を公表した[注17]。新型コロナウイルスの感染が再び拡大に転じ対応が長期化する中、企業等への経済的支援の継続と併せて、雇用主への賃金補助策を引き続き実施する方針を打ち出した格好だ。ただし、賃金補助の手法はこれまでとは異なる。10月に終了が予定されている従来のスキームは、新型コロナウイルスの影響を受けた企業が、労働者をまとまった期間休業(一時帰休)させる場合に、休業期間中の賃金の8割を雇用主に補助し、8割の賃金支払いを義務付ける制度として導入された。これに対して、11月に開始予定の新たな「雇用支援スキーム」(Jobs Support Scheme)は、休業者を対象から除外し、短時間就業者に限定する内容となった。通常の労働時間の少なくとも33%以上就業する労働者を対象に、残りの時間(33%就業する場合は、通常の労働時間のおよそ66%)に相当する賃金の3分の1を政府が補助(月697.92ポンドが上限)、もう3分の1を雇用主が負担するもの。上限額を超えない限り、労働者には通常の労働時間の77%相当以上の賃金が支払われ、うち55%相当分以上が雇用主の負担となる。実施は、2021年4月までの6カ月間、適用対象[注18]は、全ての中小企業と、コロナの影響により売上高が3分の1以上減少した大規模企業とした。なお、自営業者についても所得補償スキーム(Self-Employed Income Support Scheme)が引き続き実施されるものの、これも支給水準について引き下げが行われた。従来は、月平均収入の7割を3カ月分まで、合計で6,570ポンドを上限として支給[注19]していたが、新たに11月から来年4月まで(3カ月を単位として2期分)実施されるスキームは、月平均収入の20%を3カ月分、1,875ポンドを上限として支給する。

財務相は新スキームの導入について、感染拡大初期とは異なり、経済活動が再開しつつある今、将来的に存続可能な雇用に補助を限定すべきであり、引き続き一時帰休の状態に置かざるを得ない雇用を維持し続けることは誤りであるとの立場を示している。

「給与保護プログラム(PPP)柔軟化法」で運用も継続には課題【アメリカ】

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、アメリカの9月の新規感染者数は120万人で、7月から100万人の大台を維持したままだ(図1)。感染者数が横ばいの傾向にあった5月中旬から、各州はロックダウン(都市封鎖)を段階的に解除し経済活動を段階的に再開させたが、6月下旬から再び感染者数は増加。その後減少傾向にあったものの、最近はまた増加の兆しをみせるなど増減を繰り返している。さらに、この原稿を執筆している最中には大統領のコロナ感染のニュースが飛び込んできた。大統領選を控え、アメリカの状況は益々混沌としてきたようだ。

アメリカにも従来、連邦レベルでの雇用維持を目的に雇用主を救済するスキームはなかった[注20]。しかし、今回のコロナ禍においては、緊急事態に連邦レベルで迅速に対応するため、中小企業での雇用維持を目的とした「給与保護プログラム(Paycheck Protect Program、PPP)」[注21]という緊急融資制度が設けられた。この制度は従業員数500人未満の中小企業等に対して、1,000万ドルを上限に、従業員の月間平均給与総額の2.5倍を連邦政府(財務省中小企業庁、SBA)の保証で融資するもの。雇用主は融資を借り入れ後8週間以内の従業員の給与、有給休暇、保険料、家賃、公共料金、住宅ローン利息の支払いなどに充てることができる。満期は5年(後述の「柔軟化法」施行前は2年)で金利は1%である。一定期間、融資を活用して従業員の雇用や給与水準を維持した場合にその返済を免除する仕組みで、雇用維持を目的とした助成金給付としての性質を帯びている。

さらに6月5日には「PPP柔軟化法(Paycheck Protection Program Flexibility Act)」が成立し、返済免除の条件を緩和するなどの措置がとられた。雇用主が融資を借り入れ後従業員の給与等に充当できるとした期間は8週から24週間以内(あるいは2020年12月31日までのどちらか早いほうまで)に拡張され、2月15日時点の雇用者を再雇用できない、又は連邦政府の要請等により事業活動を2月15日以前の活動レベルに戻れないことを文書で証明すれば全額免除されることとなった。

PPPは、無担保、条件によっては返済不要の融資を一定期間、人件費などの固定費、運転資金に充て、コロナ禍の経営危機をしのぐ手段となることを想定したものである。対象となる中小企業のニーズは高く、4月3日の受け付け開始時から申し込みが殺到した。当初予算の3,490億ドルは2週間で底をつき、急きょ3,100億ドルを追加する立法措置がとられた。法定期限の8月8日に受け付けを締め切ったが、この間、521万件、総額5,250億ドルもの融資を行なった[注22]。連邦財務長官は「5,100万人の雇用維持に貢献した」との見方を示している[注23]。ただし、企業による不正受給などの疑惑も一部報じられており、現在政府や議会などではPPPの効果と違法行為の実態について検証が行なわれている。

図2 各国の雇用維持スキーム

危機前から労働時間短縮スキームがあった国 アクセスと範囲を増加させた国 給付額を増加させた国 非典型雇用労働者のためのアクセスを増加させた国 新しい労働時間短縮スキームを作った国
日本
アメリカ
イギリス
ドイツ
フランス
韓国

出所:OECD公表データより作成

(注)本稿の主内容や意見は、執筆者個人の責任で発表するものであり、機構としての見解を示すものではありません。