9,000円を賃金改善基準とする方針大綱を議論/JAMの春闘中央討論集会

(2014年12月3日 調査・解析部)

[労使]

金属・機械関連の中小労組を多く組織するJAM(眞中行雄会長、約36万人)は2日、静岡県熱海市で2015年春季生活闘争中央討論集会を開催した。本部が提示した春闘方針の原案となる闘争方針大綱について、構成単組を交え議論した。大綱では、賃金水準引き上げ(いわゆる賃金改善分)の要求基準を9,000円とし、賃金水準が低下し是正が必要な組合はさらに1,500円以上を上乗せして要求するとしている。

討論集会を欠席した眞中会長にかわり主催者あいさつした武井喜樹副会長は「2014闘争ではデフレ脱却と経済の好循環をめざし、月例賃金の引き上げと格差是正に取り組み、多くの単組がねばり強い交渉により実質ベアを獲得、一定の成果をあげた。2015年闘争は、4月からの消費税率引き上げもあり引き続き物価上昇局面での交渉となる。よって、2014闘争の基本的な考え方を引き継ぎ、物価上昇分を確保するために賃金水準の引き上げに取り組む」などと述べた。

「少なくとも物価上昇分は要求していかなくてはならない」(藤川副会長)

本部が提示した大綱の内容をみると、賃上げの基本スタンスとしては「消費者物価の上昇局面であることから、実質生活の維持とあるべき賃金水準を踏まえながら、ベア要求に取り組む」と明記。賃上げ要求基準については、賃金構造維持分に加える賃金水準の引き上げ額を「過年度物価上昇分と生活改善分を勘案して9,000円」とし、賃金水準の低下が確認され是正が必要な単組はさらに1,500円以上を加えて要求するとした。

2014春闘では、賃金水準引き上げ分の要求基準は4,500円(JAMの平均所定内賃金30万円×1.5%)であり、9,000円の水準引き上げ要求は前回要求基準の2倍の額に相当する。大綱を提案した藤川慎一副会長は9,000円の根拠について、「いろいろ議論したが、物価上昇は最終的におそらく3%前後になるだろう。生活向上分としては、7-9月期の実質GDP成長率がマイナスとなり、年度末の時点でどうかというと、おおむねゼロだろう。すると、少なくとも物価上昇分の3%は要求していかなくてはならならない」と説明。また、連合がこれより前に示していた賃上げ方針案「2%以上」との関係について、「連合はすべての構成組織が取り組める水準として2%以上と設定したが、JAMは9,000円という額にこだわる姿勢で取り組む」などと強調した。

是正が必要な場合は1万5,000円以上で

一方、個別賃金の要求基準について、大綱は、「標準労働者の要求水準は現行水準に9,000円を上乗せしたのとする」とし、高卒直入者の所定内賃金の要求水準は、30歳で26万9,000円(現行水準:26万円)、35歳で31万4,000円(同:30万5,000円)と設定した。

また、賃金実態調査の第1四分位で設定する「JAM一人前ミニマム基準」は、18歳=15万6,000円、20歳=17万円、25歳=20万5,000円、30歳=24万円、35歳=27万円、40歳=29万5,000円、45歳=31万5,000円、50歳=33万5,000円とした。

なお、賃金制度がなく、賃金構造維持分の推計もできない単組のための平均賃上げ要求基準は、1万3500円とし、是正も必要な場合の要求基準は1万5,000円以上とした。

要求水準と物価の捉え方について議論

大綱の内容について構成単組と議論を行った分散会では、9,000円という要求水準の高さや、物価上昇分の捉え方などについて意見が出された。主な意見は、「マクロの状況と実質生活を維持していくとの観点から、9,000円が必要な金額であることはわかるが、ちょっと高いという声が出ている。9,000円ありきではなくすべての組合がベアに取り組むという春闘をやることの方が大事ではないか」(東海)、「9,000円は非常に高いというイメージだ。地協内ですべての組合を揃えられるか心配。この要求を出しただけで会社に交渉テーブルから離れられてしまうとの意見もある」(東京・千葉)、「物価上昇分をそのまま取り組むとするJAMの方針案は、連合方針案と異なるように思える。説明してほしい」(東京・千葉)、「中小企業の状況からすると、実際の交渉は大変な苦労がある。3%に相当する引き上げを要求することで、みんなでがんばろうというまとまりや結束がむしろなくなってしまうのではないか」(東京・千葉)、「前回の春闘の交渉では、では物価が下がったら賃金を下げていいのか、という意見が会社から出た。物価上昇を理由とする賃上げの必要性を強化する材料がほしい」(神奈川)、「物価上昇3%のうち、消費税要因が2%であり、この分は社会全体で負担するもので会社に要求するものではない、と主張されて議論がかみあわなくなるのではないか」(神奈川)など。

答弁した藤川副会長は、要求基準が高すぎるという意見について、「地協の支部長に考え方を事前に説明し、9,000円は高いイメージがあるとの声は聞いていた。しかし、大事なのは組合員の気持ちがどこにあるのかということ。9,000円の引き上げを組合員が高いと思うかどうか。また、6,000円とかに下げたらそれは根拠を持つのか。物価上昇分+生活向上分を組合として取り組んでいくということで組合員の求心力アップにつながるのであればやるべきだ」と説明。また、「2014春闘までの過去15年間、われわれはベア春闘をやってこなかった。企業に体力があり、一時金が6カ月を超えるような年でもベアをやらなかったのは、物価上昇がなかったからだ。逆にいうと、物価上昇があるのなら、企業にとって苦しくとも要求はしなければならない」と物価上昇分に見合う賃上げの必要性を訴えた。

物価上昇への消費税率引き上げの影響については、「消費税は逆累進性がある。JAMは中小が中心であり、組合員でも低所得の人も多く、それにより生活は苦しくなる。目の前で物価が上がるなか、同じ給与では同じ生活レベルを維持できない。だから過年度物価上昇分は取り組まなければならない」と理解を求めた。

こうした一方で、「過年度物価上昇分として3%要求することは、いいと思う。個人的にはもっと改善分を入れてもいいのではとも思う。われわれは9,000円の引き上げ額の話をしているのではない。賃金(の絶対額)水準の相場をつくろうとして賃上げ要求をしているのだから」(大阪)と、目先の引き上げ幅の範囲内にとどまる議論を戒める発言もあった。また、ある大手労組からは「最近は要求と回答の乖離に対する組合員の意見も厳しくなってきた。実際には、賃金の制度づくりも会社と労組が一緒にやっており、会社も現実的な対応になってきている。大手の場合、要求決定に幅を持てるような要求の組み立て方を検討してもらえないか」との要望があった。

日程については、すべての単組が要求提出を終える期限である統一要求日を2月24日(火)に設定。統一回答指定日は3月17日(火)、18日(水)を提示した。

JAMでは1月20日に開催する中央委員会で最終的な春闘方針を決定する。なお、JAMも加盟し、毎年の春闘相場を牽引する金属労協(JCM)は、12月12日に開く協議委員会で、賃金の引き上げについて「賃金構造維持分を確認した上で、6,000円以上の賃上げに取り組む」などとする闘争方針を正式決定する予定。一方、JAMと同様に中小労組を多くかかえるUAゼンセンは、賃金水準の引き上げ方針案について、現在、「3%基準」を軸に検討を進めている。