賃金改善は物価上昇も含め総合的に判断/自動車総連の定期大会
(2014年9月10日 調査・解析部)
自動車大手メーカーの労働組合などが加盟する自動車総連(相原康伸会長、約76万人)は4、5の両日、都内で定期大会を開催した。挨拶した相原会長は、2015年の労使交渉に向けた要求方針の検討に向けて、物価上昇も含めて総合的に判断していく考えを表明した。大会直前に行われた会見では、来春闘では賃金改善を総連全体で要求していくことを明言した。
「2014交渉は日本経済再生と所得環境改善を進める『意義ある基点』」(相原会長)
挨拶した相原会長は、要求組合の6割以上が賃金改善分を獲得するなどの成果をあげた2014年労使交渉について、「全体としては、日本経済の再生と所得環境の改善を進めるうえでの『意義ある基点』とすることができた、また、自動車総連として一定の役割を果たし得た」と総括した。
2015年交渉に向けては、「2015年の取り組みは、企業、消費者などの行動に着実に変化をもたらし、日本経済への信頼を高め得る次なる一歩でなければならず、春の取り組みという大きなエネルギーの使い道をあらためて考える必要がある」と述べたうえで、「そのためには、2014年の基点を活かし、安定した物価上昇と賃金トレンドを日本の経済基盤に確実に根付かせる必要がある。なぜならば、景気拡大の潮目を本格的な流れに向かわせなければならず、日本は分水嶺にあるとの自覚を社会全体に促す、後のない重要局面にあるからだ」と強調。要求方針の検討に向け、「今後は、物価上昇と家計、非正規労働者の労働実態、職場の労働の質の向上などを念頭に、日本経済の全体の底上げを基調とする健全な持続的成長に資する自動車総連としての要求基準を総合的に判断する」と述べた。
また、相原会長は、政府の「日本再興戦略2014」に盛り込まれた新たな労働時間制度の創設について言及し、「労働時間制約を外す働き方は、けして魔法の杖ではなく、長時間労働の抑制策により健康が担保されはじめて成果を生む環境が整うものと認識する」と強調。さらに、「片方で、非正規労働者の拡大と健全な働き方の根底を覆しかねない労働時間制度を加速する現状は、明らかな政策上の不整合だ」と述べた。
「総連全体として賃金改善に取り組む」(相原会長)
相原会長は、大会直前に行われた4日の会見で、2015年交渉に向けた基本方向について、「基本的な態度は、総連全体として要求を掲げ、賃金改善に取り組む所存だ」と述べ、賃金改善に取り組む方針をいち早く明言した。一方、要求方針の検討にあたり、過年度物価上昇率をどのように捉えるかについては、「物価上昇、経済情勢、2,000万人に達する非正規労働者の労働実態等、幅広く要求検討材料をテーブルの上にあげ、総合的な判断を下したい」「物価上昇といっても中身は様々あることは承知している。よく吟味したい」などと述べた。
また、新たな労働時間制度について、「自動車産業には、親和性ある働き方はある」と述べる一方、「ただ、開発チームや設計などで一部裁量労働が導入されている職場はあるが、自動車の労使間では、かなり抑制的に進めているのが現実だ」と現場実態を披露。そのうえで、「自動車産業の職場と、裁量労働を含めた時間管理の実態からみると、(対象者を)1,000万円で区切るなどという議論はあまりにも現場から遊離している」と政府の動きをけん制。「生産性を高めるとか、やりがいを高めるということは、もっとナイーブな問題であり、時間制度をいじるだけではすまない」との見解を示した。
3分の2強で賃金改善獲得、引き上げ率は平均0.48%
大会では、2014年交渉結果の総括である「2014総合生活改善の取り組み総括」を確認するとともに、向こう2年間にわたる新運動方針を決めた。2014年交渉の8月31日現在の要求・回答状況をみると、自動車総連全体で、要求した1,106単組のすべてが妥結。そのうち賃金改善分を獲得したのは3分の2強の728組合におよんでいる。
賃金改善分の金額の単純平均は1,161円で、引き上げ率は0.48%。業種別に、額と引き上げ率をみていくと、▽完成車メーカー(獲得組合数13組合)=1,785円、0.57%▽車体・部品(同287組合)=1,013円、0.40%▽販売(同372組合)=1,217円、0.53%▽輸送(同14組合)=1,598円、0.74%▽一般(同42組合)=1,487円、0.56%――となっている。
企業規模別にみても、300人未満も含め、すべての規模で引き上げ率が0.4%台以上となっており、自動車総連では、「業種や規模にかかわらず、賃金改善分において有額回答を獲得できている」と評価している。
一方、一時金は、要求した1,078組合のすべてが回答をうけており、平均月数は4.34ヶ月で昨年妥結比はプラス0.17ヶ月。自動車総連は2014年交渉の回答結果の全体総括として「組合員の生産性向上に対する頑張りに報いるため、それぞれの組合が自ら掲げた要求を最大限押し込んだ結果であり、職場からの強い期待に応え、一定の役割を果たした」と評価している。
国内雇用の維持に向けた政策を推進
新運動方針では、重点項目に、自動車関係諸税に対する取り組みや、国内雇用の維持に向けた政策の推進、グローバル化対応と国際労働運動への関与などを掲げた。方針討議では、すべての企業グループ労連と、部品労連が意見表明した。全トヨタ労連は、「国内生産の空洞化には歯止めがかかっていないが、日本にものづくりを残すことにしっかり取り組み、国内に事業基盤を残していくことが必要。国内雇用を守ることは労働組合の責務だ」などと発言。全国マツダ労連は、2015年の取り組みについて言及し、「来年の賃金引き上げでは、より物価上昇が鮮明に表れた中での取り組みとなる。賃金の実質水準を維持するためだけでも、近年まれにみない額を要求せざるをえないことが想定される。今年の取り組み経過を振り返ると、個別労使の取り組みだけではなかなか着地点が見出せないのではないか。また、単組によっては労使の信頼関係を揺るがすことにつながりかねない。いま一番求められているのは来年への地ならしであり、経営への理解活動というより、社会への理解活動が必要だ」などの意見が出された。
役員改選が行われ、現職の相原会長(全トヨタ労連)、郡司典好事務局長(日産労連)はともに再任された。