2015闘争で「政策指標」「ベンチマーク指標」を設定/電機連合の新運動方針

(2014年7月16日 調査・解析部)

[労使]

電機連合(有野正治委員長、約64万人)は10、11日の両日、神奈川県横浜市で定期大会を開催し、向こう2年間の新運動方針を決めた。春闘における産別統一闘争を強化する目的から、各組合が主体的に処遇改善に取り組む領域を追加して設け、賃金における達成目標水準などを産別が提示し、各組合がそれに向けた処遇改善を図っていく取り組みを2015年闘争から開始する。役員改選が行われ、有野委員長(日立グループ連合)が再任(3期目)。書記長は、浅沼弘一氏(NECグループ連合)が退任し、副委員長を務めていた野中孝泰氏(パナソニックグループ労連)が就任した。

回答相場の波及や格差是正が困難に

電機連合の春の労使交渉では、委員長を闘争委員長とする「中央闘争委員会」のもとに、12の大手労組が「中央闘争組合」を構成。中闘組合はストなどの闘争行動を背景に、要求内容、交渉日程から回答引き出しまで、足並みを揃えて交渉に臨む産別統一闘争を展開している。3月のヤマ場で中闘組合が引き出した回答内容や回答相場を、後続の交渉部隊である拡大中闘組合(大手に次ぐ規模の組合)や中堅・中小組合に波及させるのも、統一闘争の大きな狙いの一つとなっている。

だが最近は、企業業績の業種間、規模間でのバラツキが大きくなってきており、中闘組合の回答内容を中小組合に波及させることが以前に比べて難しくなってきている。また、現行の統一闘争の方式だと、大手の相場ができることによって、もともと賃金の絶対水準が低い中小組合が大手よりも高い水準の賃上げ額を獲得し、格差是正を図っていくことが難しくなるという面もある。

各組合が主体的に処遇改善に取り組む領域を

そこで、運動方針では、2015闘争から、従来どおりの賃上げ、一時金、産別最賃の統一闘争項目に加え、「各組合が業績や処遇実態を踏まえ、主体的に処遇改善に取り組む領域」を加えることにした。具体的には、めざすべき賃金の目標水準や、退職金などの処遇項目について、電機連合本部が、各組合が主体的に取り組んでいくうえで活用できる「政策指標」や「ベンチマーク指標」を作成して示す。

「政策指標」は、構成組合を対象に調査した労働条件調査のデータに基づき、各労働条件について複数の目標値を本部が設定する。一方、「ベンチマーク指標」は、各組合が、自らが置かれた立ち位置を確認するための指標で、労働条件調査のデータに基づき、業種別に各労働条件の最高基準、中位水準、下位基準などを提示する。具体的な実行にあたっては、指標を作成するだけでなく、毎年の闘争に加え通年の取り組みを含めた「達成プログラム」を作成する。こうした取り組みをあわせて行うことで、例えば賃金の場合、各組合が主体的に賃金水準の格差是正に取り組んでいけるようになる。

2015闘争ではこれまで以上に労組側の結束が必要

なお、従来どおりの毎年の賃上げ、一時金、産別最賃に関する闘争については、「何としても守るべき領域」として位置付け、闘争方法に変更は加えない。

2015闘争の方針に関しては、秋から具体的な組織討議に入り、12月頃には方針案の素案が構成組織に示されるスケジュールとなっている。2015闘争は、賃金と一時金を中心に取り組む年となる。挨拶した有野委員長は2015闘争について、「消費税率の引き上げや輸入価格の高騰などで2014年度の物価は上昇し、GDP成長率も内閣府見通しで1.4%程度と見られること、また電機産業の業績も回復傾向を続ける見通しであることや、今次闘争で掲げた『デフレからの脱却や、経済の好循環』のための社会的責任については継続して取り組むことが必要であることなどから総合的に判断すれば、今年度に引き続き賃金水準の改善に取り組むべき状況になる可能性が高いと考える」との現状認識を披露した。

ただ、今後の方針検討の方向について、「賃金要求の基本である『実質生活の維持』という観点でいけば、消費者物価指数上昇率が大きなポイントになってくる。現時点で2014年度の消費者物価上昇率をみると、消費税率引き上げの影響が大きく、内閣府の見通しでは3%とみられるが、この数値を基本に議論が進むとしてもかなり重い要求となる」と発言。さらに、「経営側からは2015年は全く違った対応が必要であるという慎重な発言がすでに聞こえてきているなど、相当厳しい交渉になることを覚悟しておく必要がある」とし、「成果を出すためにはこれまで以上に労働組合側の結束が必要だ」と述べた。

10日の大会直前に行われた会見で有野委員長は、2015闘争に向けた現時点の環境について、「物価が上がった分、GDPが伸びているかと言うと、電機産業の売上は全く伸びていない」などと説明し、物価上昇分が2015闘争でも主要な要求根拠となるものの、単純な議論にはならないとの見通しを示した。

運動方針の討議では、12の労連・単組が方針に賛成の立場で発言。そのなかで、2015年の産別統一闘争については、「要求水準の決定プロセスについて、中闘、政策委員会、中堅・中小代表者会議それぞれをみても、議論に深みが足りないのではないかと感じる。あらためて要求水準の決定プロセスの全体像を提示する必要があるのではないか」(村田製作所労連)、「組合として主体的に、消費増税や労働条件の実態データなどを背景にして賃金に関する論理を立てて交渉に臨むことが労使の納得感を高めるとともに、組合員の求心力を保つことにつながる」(全富士通労連)、「賃金改善はわかりやすい社会的責任の果たし方ではあるが、賃金改善がすべてでよいのか。経済の好循環の実現という社会的責任からの目的に対してどのような方法論をひもづけていくかの論議が必要であり、そのためにも視野を広げた論議が必要」(パナソニックグループ労連)などの意見が出された。

また大会では、2014闘争の総括である「2014年総合労働条件改善闘争の評価と課題」について報告し、確認した。評価と課題は、中闘組合で2,000円(「開発設計職・基幹労働者賃金」ポイント)の水準改善を獲得した賃金の取り組みについて、「労使に課せられた社会的責任と役割を果たすことができただけでなく、産別統一闘争の真価を発揮し引き出したものであり、評価できる」とし、「拡大中闘組合、地闘組合および一括加盟構成組合の交渉に対しても、最大限の波及効果をもたらすことにつながったことも評価できる」とした。

電機連合によると、7月10日現在で集約した直加盟160組合のうち集約した138組合でみると、79組合が賃金水準改善の回答を引き出している。また、78組合が「開発設計職・基幹労働者賃金」による取り組みを行い、そのうち39組合が2,000円以上の水準改善を引き出したという。一括加盟構成組合も含めた電機連合全体(約430組合)でみると、「開発設計職・基幹労働者賃金」について2,000円以上の水準改善を獲得した組合の割合は、有額回答を引き出した組合の80.7%を占め、中闘組合の回答額2,000円が電機連合全体に波及したことを表す集計結果となっている。

役員改選で決まった今期の新役員体制は以下のとおり。委員長=有野正治氏(留任、日立グループ連合)。副委員長=神保政史氏(新任、三菱電機労連)、書記長=野中孝泰氏(新任、パナソニックグループ労連)。