産業競争力会議の議論に働く者の声を/連合中央委員会

(2014年6月4日 調査・解析部)

[労使]

連合(古賀伸明会長)は5月30日、福島県福島市で中央委員会を開いた。古賀会長は政府の産業競争力会議での労働時間制度などの議論について、「働く者の代表が参加していないところで、働き方の改悪を検討している」と批判したうえで、「働く者の声を聞きながら検討を進めるべきだ」と訴えた。また、中央委員会では、「2014春季生活闘争中間まとめ」や2015年度の重点政策などを確認した。

連合中央委員会写真

長時間労働を誘発する懸念が払拭できない

冒頭、古賀会長は、政府の産業競争力会議の雇用・人材分科会で進められている労働時間制度などの議論について、「働く者の代表が一人も参加していないところで、現場を知らない一部の学者や経営者などが働き方の改悪を検討している。去る5月28日の会議では、対象者は『業務遂行、労働管理等を自己管理し成果を出せる能力のある労働者』などと記載されているが、基準も明確でなく本質的には従来の内容と大差ない」などと抗議。「不払い残業に関する相談が依然として数多く寄せられ、過労死も最悪を記録するなど、今の職場実態を考えると、依然として長時間労働を誘発する懸念は払拭できていない」との認識を示した。そのうえで、「まず、違反行為の取り締まり強化や勤務間インターバル規制の導入、労働時間の上限規制の法定化など、正常な働き方ができる環境条件を整えることが先決。そのうえで、裁量労働制やフレックスタイム制など今の仕組みでは何が問題なのかを明らかにし、働く者の声を聞きながら検討を進めるべきだ」と訴えた。

さらに、「こうした労働者保護ルール改悪の動きは、一昨年の政権交代以降、繰り返し議論されており、全体の課題を見据えて現状を本質的に変えていかなければならない」と指摘。そのために力を集中すべき課題として、 (1) 労働者保護ルール改悪阻止 (2) 『働く者・生活者』の立場にたった政治活動 (3) 春季生活闘争 (4) 集団的労使関係の拡大――などを提起し、「これからの運動の起点にしていく」意向を表明した。

街宣行動などの社会運動を継続

労働者保護ルールについては、「繰り返し、改悪が検討されるということは、私たちの主張がなかなか受け入れらないということ。野党の一部もこれに同調する動きがある国会情勢のなかで改悪を阻止するには、すべての働く者の力を結集し、世論を背景に対峙していく以外にない」(古賀会長)と強調。昨年10月の定期大会以降、行ってきた街宣行動や新聞・テレビでの意見広告による世論喚起、地方自治体の意見書採択、国会への請願行動などの取り組みを、引き続き行っていく考えを示している。労働者派遣法の改正についても、「今回の改正内容は、『〝生涯〟ハケンで〝低賃金〟』を合法化する悪法であり、あらゆる手段で成立阻止に取り組む」構えだ。

次の歴史のサイクルを作り出す「新たな芽」の育成を

政治活動の取り組みでは、2015年4月に実施される第18回統一地方選挙を「『働くことを軸とする安心社会』をはじめとする連合の政策実現に向け、『働く者・生活者』の立場にたった地域の政治勢力拡大をはかる重要な闘い」と位置づけ、「地域での政治基盤を強化し、地方連合会および構成組織の連携強化による組織内候補者の積極的な擁立を基本に、連合推薦候補全員の当選をめざす」とする対応方針を確認した。

連合が昨年末に実施した「政治アンケート調査」によると、組合員レベルでの投票率が明らかに低下しており、若年層では「巨大な与党政権が出現した」ことについて、「どう受け止めればよいのかわからない」との回答が4割近くを占めたという。

古賀会長はあいさつのなかで、こうした現状を「私たちの働き方、暮らし、社会、経済、政治、国際情勢などは単独には存在せず相互に深く関連し、とりわけ政治のありようが他に大きな影響を与えている。にもかかわらず、政治情勢の変化が働く者とその家族の足下をいかに危うくしているのか、政治と働き方・暮らしなどとの回路が結びついていない」と分析。「研修会や日常の運動・活動を通じ、政治活動への意識喚起と問題意識の共有化をはかっていく必要がある」と述べた。

また、連合がめざす「『働くことを軸とする安心社会』へと至る次の歴史のサイクルを作り出す『新たな芽』を育てていく必要がある」と強調。「来年の統一地方選挙はその試金石であり、次期国政選挙にもつながるものだ」として「連合推薦候補全員の当選をめざして取り組もう」と呼びかけた。

賃金水準引き上げがデフレ脱却に向けた第一歩に

中央委員会では、2014春季生活闘争の「中間まとめ」を確認した。4月末までの賃上げの回答引き出し状況について、「月例賃金の引き上げにおいて有額回答を引き出し、長い間一定の水準に貼り付いていた賃金水準を引き上げたことは、デフレからの脱却に向けた一歩だ」と評価。「その水準は要求趣旨からすれば十分とはいえない」としながらも、「賃上げを実現したことは、消費拡大を通じて内需主導の経済の好循環をはかるという姿に向けてのスタートが切れたものとして受け止める」と総括した。今後、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」などの各種統計を注視しつつ、7月の中央執行委員会での最終まとめに向けて、定量的な評価などを加えていくという。

個別要求項目の評価をみていくと、賃金では、「月例賃金の底上げのこだわりによって、賃金レベルを具体的に引き上げることができた意義は非常に大きい」「回答水準は要求趣旨がすべて満たされたものではないが、月例賃金の引き上げに有額回答が示されたことは今後につながる成果だ」などとしている。

中小共闘における規模間格差の是正については、中小組合の平均賃金方式での回答水準や、中小共闘が賃金カーブ維持分の目安とする4,500円以上で妥結した組合の比率が、昨年同時期を上回っている状況を評価しつつも、「規模間格差の是正には、賃金制度の確立が不可欠であることが再認識された」として、「交渉支援体制を含め、『賃金制度』『定期昇給制度』の確立に向けた連携のあり方について至急検討を開始する」とした。

非正規労働者の労働条件改善(非正規共闘)では、時給の改善に加え、雇用形態の違いによる処遇の違いの改善や正社員の転換ルールの制定などを求めた取り組みが進められたことから、「今後、先行組合の事例集を作成するなど、情報交流と取り組みの拡大を進める」としている。

実質賃金維持の観点を持ったうえで要求項目見直しの議論も

古賀会長は、春闘の今後の検討課題として、 (1) 今後も物価上昇が見込まれるなかで、働くことと生活の価値(実質賃金)を維持する観点をしっかり持つ (2) 連合が掲げる闘争方針のあり方について、現状のように多岐に渡る要求項目を盛り込むべきか、時々の情勢を踏まえつつ項目を絞り込むべきかについても議論する (3) 「総合労働条件改善指針(仮称)」を2015春季生活闘争の構想段階に間に合うよう策定を進める――必要があるとした。

加えて、7月の最終まとめに向けて、「交渉力の向上や説得力ある要求の策定、中小労組における賃金制度の構築や実質賃金の把握、すべての働く者が参加する運動の構築と賃金相場の波及力の向上など、今後さらに強化すべきポイントについて整理し、着手できることは早急に進めていく」との考えも示した。

さらに、昨年開かれた政労使会議にも言及。「政労使が格差社会の是正に資する内容について、一定の幅のなかで理解を持ち得たことは意味のあることだ」などと述べ、今後も社会対話の場の継続を政府に求めていく意向を表明した。

集団的労使関係の重要性の周知を

現在、連合は2020年に1,000万組織の実現に向けた取り組みを展開している。この取り組みを受け、中央委員会では直近6カ月間(2013年10月1日~2014年3月31日)の組織拡大実績が報告された。この間、24構成組織94組合が6万2,166人(うちパート労働者2万3,819人)を組織化。地方連合会(11地方連合会19組合240人)とあわせて113組合6万2406人が新たに連合に加わった。他方、昨年末に公表された労組推定組織率は17.7%と、2割を割り込んでいる状態にある。

こうした現状を踏まえ、古賀会長は、「企業内でも地域社会においても、集団的労使関係の重要性を周知し、仲間作りを進めることは、その大切さを知るわれわれの責務だ」と強調。「真にすべての働く者を代表する組織となるために、量・質両面でさらなる前進がはかれるよう、格段の奮闘をお願いしたい」と呼びかけた。

このほか、中央委員会では、2015年度に連合として実現をめざす重点政策も確認した。雇用創出を視野に入れた復興計画の実現や地域産業の振興などの「東日本大震災からの復興・再生の着実な推進」や、解雇の金銭解決制度の導入、解雇規制の緩和などに反対する「安心して働き続けられるための労働者保護ルールの堅持・強化」、均等待遇原則の実現などを求める「派遣労働者の雇用安定や処遇改善の強化」、「労働者の健康・安全の確保のための労働時間制度の見直し」などを最重点政策に掲げている。