2014、15年度ともに3,500円の賃上げを要求/基幹労連の賃上げ要求構想

(2013年12月11日 調査・解析部)

[労使]

鉄鋼、造船重機、非鉄関連の労働組合で構成する基幹労連(約25万人)は5、6の両日、静岡県熱海市で「AP14春季取り組み討論集会」を開催した。春闘方針のたたき台となる「AP14春季取り組み構想」を本部が提示し、その内容について構成組織を交え、討論した。構想は、これまでと同様、今次労使交渉でも2年をひとつの単位として取り組むとし、定昇相当分を確保したうえで2014年度、2015年度それぞれ3,500円の賃上げを基準とすると提起した。

今回の春闘も2年単位で交渉

構想は、来春の交渉に向けて、「デフレからの脱却を確実なものとするために、正規・非正規に関わらず働く者全ての所得と生活水準の低下に歯止めをかけ、経済成長と所得向上を同時に実現していかなければならない」と主張。「賃金改善によって働く者全ての実質生活を守るとともに、成長成果を適正に配分することによって消費マインドを改善し、個人消費の拡大によって国内経済の活性化を促す取り組みを積極的にすすめていく」と強調した。

基幹労連では2006年の労使交渉から、2年に一度、2年分の賃上げを要求し交渉する、いわゆる「隔年春闘」を全部門で採用しているが、構想は今回の要求単位についても、「2年サイクルにおける『基本年度』として組織化」するとして、隔年春闘のスタイルを維持する方針を明確にした。

継続的な賃金改善が必要

賃金など、それぞれの取り組み項目の具体的な内容をみていくと、賃金改善では、「デフレ脱却と日本経済の好循環創造という社会的課題への対処とその効果が表れはじめていることを背景に賃金改善の必要性が増している」と強調。そのうえで、「経済指標や雇用情勢等は概して改善基調にあるなど、とりまく環境は好転の兆しを見せている。景気回復と物価上昇が同時並行的に進行する中で、持続的な経済成長と働く者の所得向上の実現を両立させるべく、政策的観点から継続的に賃金改善を進めていくことが必要である」として、2年続けて賃上げが必要との考え方を鮮明にした。

一方、現場レベルの観点からは、スリムな人員体制のもとで安定した操業に対応している成果への配分として賃金の納得性を高めることの重要性や、企業の国際競争力強化への組合員の協力に対して賃金改善で応えることが働く者へのインパクトが大きくなるなどと主張し、ミクロの観点からも賃上げの必要性を訴えている。

2014年度の3,500円は1%以上の水準として設定

要求内容としては、構想は、「産別として賃金改善の一体要求を行い、2年をひとつの単位として、要求額は、2014年度3,500円、2015年度3,500円を基準とする」と提示した。なお、格差改善については、条件が整う組合が取り組むとした。定期昇給については、制度的な実施および確認、または相当分の確保を前提とし、制度がない場合の定昇相当分については標準労働者(35歳・勤続17年)を基準とする場合は3,700円、平均方式の場合は、平均基準内賃金の2%相当を目安においている。

討論集会の冒頭にあいさつした澤田和男委員長代行は、「AP14における賃金改善は、基幹労連として初めて経験する状況下での取り組みとなる。つまり、デフレからの脱却と経済成長を同時に進めなければならないという条件に加え、2014年4月に消費税が5%から8%に増税されるなかでの賃金改善だ」としたうえで、「従来の発想では対応できず、新たな対応が求められていると言える」と発言。構想で提示した要求案について、「日銀の推定による過年度物価上昇率が、2013年度0.7%、2014年度3.3%と変化する状況を踏まえ、AP14では2年をひとつの単位として取り組む基本のもと、賃金改善の実施時期を分けた要求とした」とし、その理由について「これは、デフレ脱却と経済成長を同時に進めるためには、財源を継続的に投入することが必要と判断したらからだ」と説明した。

また澤田代行は、それぞれの年度の改善額3,500円の根拠も明らかにした。「2014年度の3,500円は、基幹労連に集うすべての組合で連合・JCM(金属労協)の要求基準である1%以上の賃金改善となる水準として設定したもの」とし、一方、2015年度の3,500円については、「2014年度の消費税増税の影響を除いた過年度物価上昇分や経済成長予測を考慮したうえで、経済成長の腰を折らないための水準を総合的に勘案することとした」と述べた。

2年で7,000円では経営側に思いが伝わらない

集会初日の分散会では、構成組合から、「AP14では、なぜ2年サイクルというものの、2014年度で3,500円、15年度で3,500円と、2年まとめての賃上げ額を示すのではなく、年度ごとに額を示すことにしたのか。意味がまだつかめない」(日立造船労組)、「継続な財源投入が必要だという説明はよくわかるが、14年度と15年度で2つの賃上げ額の数値が出てくることについて、職場レベルではわかりにくいのではないか」(住重労連)、「単年度ごとに要求していく方が、それぞれ確実に結果を得られるのではないか」(川重労組)などの意見が出された。

本部の工藤智司事務局長は、2014年度と15年度でそれぞれ賃上げ額を掲げたことについて、「単年度で賃金をガンと上げて、それで終わりということではいけない。GDPを腰折れさせないためにも継続的な財源投入が必要。もし、2年で7,000円という要求にしたら、こうした我々の思いが経営側に伝わらない」と説明。3,500円の根拠については、「全体的なマクロの状況でみてみると、けっして順風ではないが、賃金改善できない状況ではない。標準労働者の要求方式の組合も、平均方式の組合もあるが、基幹労連で1%以上を額にすると3,200いくらという水準になる。そこで3,500円に揃えた」とし、さらに、15年も3,500円としたことについては、「GDPがやや落ち込む見通しなどから、2014年度を上回らないといけないという明確な理由がなかった」などと解説した。

なお、今期の鉄鋼、造船、非鉄それぞれの大手企業の収益状況をみると、鉄鋼総合の合計の決算は、通期で大幅な収益改善が見込まれている。総合重工6社の通期の経常利益(連結ベース)も増収増益となる見通し。非鉄総合6社の通期見通しは、連結ベースで6社すべてで増収となる見通しだが、経常利益では3社が減益を予想している。

基幹労連の最終的な春闘方針は、2月に開催される中央委員会で正式に決定される。