統一的な賃金改善要求は見送り/電機連合の2013春闘方針

(2013年1月30日 調査・解析部)

[労使]

電機メーカーなどの労働組合でつくる電機連合(有野正治委員長)は1月24、25の両日、横浜市で中央委員会を開催し、今春闘に向けての闘争方針を決定した。パナソニックや日立製作所の労組など大手の主要12組合がスト権を立てて交渉する統一要求基準では、賃金体系維持分の確保(現行賃金水準の維持)などを掲げ、昨年に続き、統一しての賃金水準の改善要求は見送った。

電機連合では、(1)生計費 (2)生産性 (3)労働市場――の3要素と、組合員の生活実態を踏まえて賃金の要求内容を決めている。今期については、「消費者物価指数(CPI)は2009年に底を打っているものの依然としてマイナスで、直近のGDP成長率もマイナス。雇用情勢も改善傾向にあるが失業率などいまだ高水準にある」(浅沼弘一書記長)と判断するとともに、統一闘争に参加する12の中闘組合企業の当期利益の合計が2年連続でマイナスとなっていることなどを勘案。事業の構造改革で現場の繁忙感が増している会社も一部にはあるが、統一した賃金水準の改善要求は行わず、4年連続の見送りとなった。

檀上写真:あいさつする有野委員長(電機連合第99回中央委員会)

あいさつした有野委員長は、「電機産業の企業業績は巨額な赤字計上が続くなど、昨年に引き続き非常に厳しい実態となっている。その要因は半導体やデジタル家電の不振から脱却できないでいることや、構造改革費用が重くのしかかっていること、さらにデフレが長引いていることやグローバル競争の激化で売り上げが伸びないことなどがあげられる。そして、もっとも懸念することは電機産業の新たな成長戦略が描ききれないことだ」と指摘。「このような情勢を踏まえ、賃金については賃金体系維持を図るものとする」と述べたうえで、「電機産業を取り巻く情勢は一段と厳しさを増し、雇用を脅かすような状況にあるが、このような状況を乗り越え、デフレの進行に歯止めをかけ、景気の下支えと生活の安定をはかるために賃金体系維持を至上命題として位置づける」と強調した。

賃金体系維持分の確保、産別最賃の改善、一時金年間4カ月を統一要求基準に

パナソニックグループ労連や日立グループ連合、東芝グループ連合など12の中闘組合がスト権を立てて統一的に取り組む「統一要求基準」に設定したのは、賃金体系維持分の確保、産業別最低賃金(18歳見合い)の改善、一時金の産別ミニマムである年間4ヶ月の確保。賃金体系維持分の確保では、各組合に開発・設計職基幹労働者の現行水準を登録させ、その水準の確保を図る。

企業内最低賃金として労使で協定を締結し、18歳以上のすべての労働者に適用させる産業別最低賃金では、現行水準から1,000円引き上げて15万5,500円への改善を求める。

一時金は、「平均で年間5カ月分を中心」とし、生計費の固定的支出分(生活保障要素)に該当する部分とする年間4カ月を産別ミニマム基準に設定とした。ただ、一時金については、中闘組合のうち、パナソニックや東芝、富士通など多くの組合が業績に応じて算式によって自動的に水準が決まる業績連動方式を採用しており、日立や三菱電機などが水準交渉する。

中闘組合以外で、賃金水準の改善の取り組みが必要な組合は、賃金体系の維持を図ったうえで主体的に改善要求を行い、産業内格差の改善に取り組む。昨年は、中堅・中小で43組合が格差是正に取り組み、22組合で改善が図られている。また、賃金制度の歪み是正を要求した組合は19組合で、10組合で成果をあげた。

労働協約関連の取り組みでは、60歳以降の雇用について、法改正への対応に取り組むが、2月中に決着する組合は少数派で、多くの組合が春闘交渉期間中に労使合意に至るという展開になりそうだ。

関連・グループ企業の組織化の取り組みを強化

方針はまた、労働条件の底上げに向け、組織化の取り組みを強化するとしている。労働条件の引き上げや経営対策としての労使協議を行ううえでは、現実的に労組がないと困難であることから、まずは、構成組織が自分たちの関連・グループの未組織企業の組織化に取り組み、今春闘期間中に労組の必要性を会社側にアピールする。現在、電機連合に加盟する関連・グループ労連でみると、関連・グループ内で組織化できている企業割合は約4分の1にとどまる。

春闘方針の討議では、大手、中堅・中小合わせて5組合から意見があり、中堅・中小の労組から「大手、中小とも業績悪化と事業構造改革により、いわゆるリストラが多く実行されている。経営が厳しいからという後ろ向きのリストラが多いが、電機産業が魅力を失う要因にもなりかねない。経営者団体との調整に危機感をもってあたるなど雇用守る取り組みにも注力を」(MEMC労組)、「2012春闘では一時金が産別ミニマムの4カ月に満たない組合が60あり、共闘機能が働いているといえるのか。状況が改善されないなら要求基準を下げることも提案する」(同)、「今後、消費税が3%引き上げられる。来年春闘ではベア要求できるような環境整備をお願いしたい」(戸上電機労組)などを本部に要望した。

要求提出日は2月14日(木)までと設定。スト権は2月28日(木)までに確立する。

中央委員会ではこのほか、産別統一闘争を強化するためのプロジェクトの論議経過を報告した。また、「第3次エネルギー政策」の素案を報告した。素案は、原子力エネルギーについて、「依存度を低減していき、最終的には『原子力エネルギーに依存しない社会』を目指します」としながら、ただし、それに代わるエネルギー源の確保ができるまでは、「原子力発電を電源別ベストミックスに不可欠なエネルギー源と位置づけます」などと記述している。