昨年と同様に賃金カーブ維持分確保を大前提/自動車総連の2013春闘方針

(2013年 1月 16日 調査・解析部)

[労使]

自動車総連(相原康伸会長、約76万人)は10日、小倉市内で中央委員会を開催し、2013春闘に向かう「2013総合生活改善の取り組み方針」を決定した。賃金の要求基準は昨年と同様の書きぶりで、すべての組合が「賃金カーブ維持分確保を大前提とする」とし、格差是正、賃金体系是正の観点から賃金改善分に取り組む組合は、要求額には幅をもたせるものの、「明確な額で要求する」とした。

労使の適切対応が消費支えの王道

挨拶した相原会長は、2013春闘に向けての基本的な課題について、「日本だけがデフレ、円高などを背景に、長きにわたり世界の成長から取り残されている実態はあまりに異常とも言える」と言及。デフレ脱却のシナリオとして、「成長の必要性のみならず、着実な財政健全化のためにも内外需バランスのとれた経済構造が不可欠だ」と指摘しながら、「2013春の取り組みにおける労使の適切な対応が、GDPの6割を占める消費の底支えに繋げ得る王道だ」として、今春闘での労働側への適正な配分がデフレ脱却に不可欠との見方を示した。

さらに、相原会長は、「見方を変えると、こうした政策運営と賃金決定を誤れば、日本経済はデフレスパイラルに陥る危険をはらんでいる」と指摘。「したがって、賃金を唯一の生活原資とする働く者の立場からすれば、2013春闘を機に現在の賃金水準、賃金カーブを見直す動きなどは論外と断ぜざるを得ない。一部報道にある通り、今春闘に対する極めて厳しい経営側の対応が図られるとすれば、まずマクロの観点から大きな警鐘を鳴らす必要がある」と述べ、これからの交渉において賃金カーブ維持分に切り込む可能性のある経営側を牽制した。

そのうえで、「自動車総連のあらゆる職場で日々行われていることは、目に見えない生産性向上と言ってもよい。いわゆる、一人ひとりの成長によってもたらされる、うちなる生産性の向上とも言える」「こうした側面を十分にふまえた『人への投資』の重要性を訴えていく」と、交渉への意気込みを述べた。

9月以降、国内販売は前年比マイナス

自動車産業の2012年1月以降の状況をみると、生産、国内販売ともに前年実績を大きく上回っている。しかし、エコカー補助金が終了した9月以降の4カ月間の国内販売状況をみると、各月の国内販売が連続で前年比マイナスとなるなど不透明感も漂い始めている。超円高が続いていた為替は1ドル80円台後半まで回復しつつあるものの、自動車総連では「国内空洞化の懸念は払拭されていない」(相原会長)とみる。

グローバル競争を含め、産業を取り巻く情勢は依然として厳しいものの、取り組み方針は、デフレから脱却し、いきいきと働く人が増える人が増える社会を構築するためにも、賃金の底上げ・底支えなどが必要だと主張。賃金について、家計と雇用環境を改善させて持続的な内需拡大につなげていくためにも「現状の賃金水準を維持することが極めて重要」だとし、賃金カーブ維持分の確保にさらなるこだわりをもつとともに、業種間・企業間の賃金格差などを是正し、賃金改善に(各加盟組織が)主体的に取り組むとした。

車体・部品、販売は積極的に改善を要求へ

具体的な要求基準をみていくと、「平均賃金要求」での基準は「すべての組合は、現状の賃金水準を維持するため、賃金カーブ維持分確保を大前提とする。なお、賃金改善分については、生産性向上に向けて懸命に取り組む組合員の努力・成果、賃金実態をふまえた格差・体系の是正等を重視し、明確な額で要求する」となっている。自動車総連では、昨春闘では全体で478組合が賃金改善分を要求し、車体・部品、販売部門を中心に131組合が改善分を獲得した。

一方、「個別ポイント絶対水準要求」の基準では、技能職中堅労働者(中堅技能職)の現行水準を維持したうえで、格差是正や体系是正に向け、各組合の判断により賃金改善分を設定するとした。具体的に示されためざすべき水準は、「プレミア基準」(トップ3組合がめざす水準)が37万円、「目標基準」(全組合がめざす水準)が32万3,000円、「スタンダード基準」(格差を把握するための水準)が28万5,000円、「到達基準」(すべての組合がクリアする水準)が25万1,000円。

業種ごとの重点取り組み課題をみると、メーカー部門では、車体・部品や販売など他部門が労働条件の改善の取り組みを主体的に推進できるよう、交渉の環境整備も含めてリーディングユニオンとしての役割を果たしていく、とし、個別項目としては非正規労働者に関する取り組みを積極的に進めるとしている。車体・部品部門では、「賃金格差の存在が部門の重大な課題であるとの認識のもと各組合の実態・課題に応じ格差是正に向けた主体的取り組みを推進していく」として、積極的に賃金改善に取り組む内容となっている。販売部門も、積極的に賃金改善分に取り組むとした。

一時金は5カ月が基準

企業内最低賃金では、特定最低賃金の金額改正に波及することもあり、全単組での締結をめざすとしている。要求基準は、18歳の最低賃金要求で15万4,000円以上とする。現在、自動車総連のなかで、企業内最低賃金を協定化できている組合は全体の6割にとどまっており、また、15万4,000円以上の水準で締結できている組合は締結組合のさらに6割だ。

一時金の要求基準は、昨年の春闘と同様、「年間5カ月を基準とし、最低でも昨年実績獲得実績以上とする」とした。メーカーが一斉に要求書を提出する統一要求提出日は2月13日。全体の要求提出日は2月末日までとした。

現役時の賃金カーブと60歳以降は切り分けを

方針の討議では、日野労連から、60歳以降の高齢者雇用について質問が出された。同労連の中央委員は「(改正法が施行される)4月1日以降はこれまで以上に再雇用を希望する労働者が多くなるという予想は避けられない。労務費の問題も出てくるだろう。雇用延長によって、賃金制度について、現役世代も含めて賃金カーブや体系の見直しが必要になるとの経営側からの発言もある。こうしたなか、生活闘争と再雇用者の位置づけをどう考えたらよいのか」と、本部に尋ねた。

これに対し、答弁に立った本部の堀秀成副事務局長は、「結論から述べると、現役世代の賃金カーブと60歳以降の賃金は切り分けて考えるべきだ」と発言。その理由について、「制度設計時に60歳以降の雇用延長者の賃金水準がどのように決められてきたか、当時をふりかえると、当時はまだ老齢年金が支払われており、働けば年金も減額調整されることを前提に賃金水準などを決めてきた。つまり、現役世代の賃金カーブとは、もともと切り分けて論じてきたのであり、春闘で混ぜる議論する案件ではない。別に場で議論するにしても、現役世代の賃金と60歳以降の賃金は成り立ちも位置づけも異なることを十分ふまえるべきだ」と説明した。