震災の影響による業績悪化への対応を/サービス連合定期大会

(2011年7月22日 調査・解析部)

[労使]

ホテル・レジャー、観光・航空貨物等の組合でつくる、サービス・ツーリズム産業労働組合連合会(サービス連合、約4.5万人)は21日、都内で結成10周年に当たる節目の定期大会を開き、2011年春闘を総括するとともに、向こう2年間の運動方針を決定した。震災の影響で観光需要などが激減するなか、低落傾向にある一時金の状況を踏まえ、「年収維持等の観点から、秋闘の取り組みが重要になる」とした。労働条件切り下げなどへの対応として、労働条件全般を日常的に議論できる「総合労使協議体制」の確立もめざす。

観光需要の本格回復は依然、不透明(大木会長)

サービス・ツーリズム産業は、リーマン・ショックより続いた不況を脱し、アジアを中心とする訪日外国人の増加で業績回復傾向にあった。だが、東日本大震災の発生に伴い、訪日外国人旅行客数はこの4月には昨年同月比62.5%減の急落。都内の主要19ホテルの同月の客室稼働率も自粛ムードで宿泊・イベント・パーティ等のキャンセルが相次ぎ、同40.9%減になるなど、これまでにない深刻な事態に見舞われている。

こうした状況について、大木哲也会長はあいさつで、「震災発生から4カ月余りが経過したが、原発事故の収束に時間を要しており、観光需要の本格的な回復は依然として不透明な状況。被災地のみならず、全国の各企業の業績が思うようにあがっていない」などと指摘した。

そのうえで、今後の取り組みについて「長い道のりになるかもしれないが、私たちの産業はこの10年、災害だけでなく国際紛争や経済危機、伝染病の流行など数々のアゲインストに晒されながらも克服してきた。これまでの経験を活かし、新たな10年とその先の未来を切り拓こう」などと呼びかけた。

震災発生で交渉中断や要求凍結が続出/2011春闘総括 

サービス連合は、「魅力ある産業への進化」に向けて過去3年間掲げてきた賃金改善要求を継続し、中期的な賃金目標である「35歳年収550万円」の指標を提示して2011春闘に臨んだ。

大会では、基本賃金に関しては、定昇分(ホテル・レジャー業で平均5,000円、観光・航空貨物業で5,300円)+可能な限り0.5%相当の実質賃金改善を掲げて取り組んだものの、「震災発生で状況は一変し、交渉の一時中断や要求凍結を余儀なくされた加盟組合が続出した」などと総括。そうしたなかにあっても、ホテル・レジャー業では集計可能組合の単純平均で4,012円(昨年実績3,291円)、観光・航空貨物業では6月21日時点の合意組合の単純平均で6,513円(同5,051円)を獲得していることから、「多くの組合で賃金カーブを維持することができた。賃金制度の根幹である定期昇給の実施に対し、粘り強く交渉を重ねた結果だ」などと評価した。

一方、一時金は、年間4.0ヵ月以上を掲げて取り組んだものの、ホテル・レジャー業で年間協定できた9組合の単純平均は年間1.61ヵ月(昨年実績2.597ヵ月)、夏期のみ締結の35組合で0.88ヵ月(1.065ヵ月)、観光・航空貨物業では49組合の単純平均で1.143ヵ月(昨年実績33組合、1.29ヵ月)にとどまった。総括は、「水準のさらなる低下はもとより、年間協定に至らず、夏季一時金のみで決着する加盟組合が多く出た。震災の影響を色濃く反映する、サービス連合結成以来の厳しい結果だ」などと指摘。今後の課題として「年収維持等の観点から、秋闘の取り組みが重要になる」などとした。

労働条件全般を議論する「総合労使協議体制」の確立を

向こう2年間の運動方針では、震災の影響で急激に業績が悪化したことに伴い、多くの加盟組合が労働条件の限定的な引き下げなどの対応を余儀なくされている。こうした現状を受け、「あくまで雇用維持や企業存続のための一時的な対応であり、今後、業績の回復に併せて解除する取り組みが求められる」と指摘。さらに、「今後の推移によっては暫定措置の延長や(新たな)労働条件の引き下げなど、会社側からの申入れも想定される」ことから、労働条件に係る労使協議(団体交渉)とは別に、今後の経営・営業方針や事業展開・業務体制、人事制度を含めた労働条件全般について日常的に議論できるよう、「総合労使協議体制」を確立していくことなどを決定した。

未組織労働者の多いホテル・旅館の組織化に重点

また、組織拡大の取り組みについては、前期は「企業内・関連企業の組織化」を重点に2,500人の目標を掲げて取り組んだ結果、パノラマ・ホテルズ・ワン労働組合の236人(企業内)や阪急交通社労働組合の217人増(企業内・再編)、名鉄グランドホテル労働組合の171人(未加盟)、阪急阪神エクスプレス労働組合の165人(企業内・再編)――など、大幅拡大に至ったところを含めて計1,407人の増加となったことを報告したうえで、今期の取り組みの重点を「未組織労働者の多いホテルや旅館」に据えることなどを決定した。

また、処遇改善が進展してきた(注)派遣添乗員の取り組みに関連して、引き続き「独立系派遣会社」の組織化に注力することも確認した。

組織拡大に関しては、10万人組織へのプロセスとして、契約社員・パートの組織化に加え、組合員資格の厳密な再検証を行うことで管理職や定年再雇用者等にも対象を広げることも掲げている。

なお、大会では役員選挙も行われ、大木・会長(近畿日本ツーリスト労組出身)、後藤常康・事務局長(帝国ホテル労組出身)らを再任した。

注:派遣添乗員の処遇改善をめぐっては、派遣添乗員の業務や労働時間管理、日当のあり方といった課題を整理した「統一対応」方針を策定(2008年6月)して以降、「多くの企業で日帰り添乗やイベント業務に対し、実労働時間に基づいた派遣料金が支払われるようになった」(議案書)。そこで、さらなる処遇改善に向け、今大会に合わせて「統一対応」方針を改定(2011年6月)。 (1)1日12時間(基本8時間+時間外3時間+休憩1時間)のみなし労働とする (2)すべての派遣添乗員を対象に、本人の手取り時間給が1,000円を下回らないこととし、日当下限を1万1,750円に設定する (3)12時間を超えた労働については別途、規定率を乗じた時間外労働手当か日当の支給を求める――などの基準を新たに盛り込み、(社)日本旅行業協会や(社)日本添乗サービス協会に対し、傘下企業への指導を要請するほか、派遣先企業の各加盟組合でも、これに沿った処遇改善に取り組むなどとした経緯がある。