国内空洞化阻止に向け、パネル討論/自動車総連と各業界団体

(2011年7月13日 調査・解析部)

[労使]

自動車総連(西原浩一郎会長、約77万人)は11日、都内で「政策推進コンベンション2011」を開催した。日本自動車工業会など自動車産業内の各業界団体も参加したパネル討論では、東日本大震災でサプライチェーンの問題などが露呈した自動車産業について、国内空洞化防止策など産業の発展に向けて話し合った。

討論には、パネリストとして自動車総連の西原会長、日本自動車工業会の名尾良泰副会長、日本自動車部品工業会の高橋武秀副会長、日本自動車販売協会連合会の天野洋一会長、直嶋正行・参議院議員が参加。コーディネーターは自動車総連の桑原敬行副会長が務めた。

自工会の名尾副会長は、震災直後の影響を振り返り、「サプライチェーンが寸断され、全国の工場で生産が停止した。地震が起きたときは復興・復旧にどれほど時間がかかるか想像もつかなかった」と語った。震災発生後の翌日には、自工会の志賀俊之会長(日産自動車最高執行責任者)から電話を受け、トヨタ自動車の豊田章男社長(自工会副会長)、ホンダの伊東孝紳社長とも連絡を取り合ったことを明かし、「これほどトップが連絡をとりあって一丸で取り組んでいこうと決めたのは初めてのことだ」と述べた。

サプライヤー支援については、自工会内にサプライヤー支援対策本部を設置。各自動車メーカーが、取引先の情報収集にばらばらに動くと、連絡が重複し迷惑がかかることから、関係会社の垣根をこえて幹事社を情報が集中する態勢をつくって活動したという。

一部の部品生産が滞って生産に支障が出たことから、報道などでは、在庫を極力持たないようにするジャストインタイム方式の弱みを露呈したなどの指摘もあがったが、名尾副会長は「果たしてそう短絡的に考えてよいのか」と提起。「何十年に一度のことに備えて無駄な部品を持つことも理屈では考えられるが、むしろ迅速な回復力を前提に今後の対応を考えるべきだ」と強調した。

部工会の高橋副会長は、完成車メーカーを頂点とする業界のピラミッド構造について、「完成車メーカーが一次、二次のサプライヤーまではきちんと見えていなかったことが明らかになった」と指摘した。

高橋副会長は、今は実際には「ピラミッド構造」ではなく二次メーカー以下では取引企業が重複・集中する「ダイヤモンド構造」となっていたと説明。部工会でボトルネック調査をしたところ、合成樹脂など原材料メーカーの操業停止の影響が極めて大きいことを突き止めたと述べた。

冬期の電力供給問題も注意必要

もう1つ、興味深い指摘が提起された。電力の供給確保の問題は、冬についても課題があると指摘。冬期の1日の使用電力のパターンは、夏期と異なり、暖房のせいで夕方にもうひと山あるという。高橋副会長は「冬は夜に生産をずらすことができるのだろうか。慎重に電力事業者とすりあわせしないと冬にも問題が起きる。冬に向けて点検のための稼働停止となる原発もある」と強調した。

自販連の天野会長は、販売業界の被災状況について、岩手、宮城、福島、茨城の被災4県では、1,457ある販売拠点のうち850拠点が被害を受けたと報告。宮城県のディーラーに行き渡る新車は専用船で仙台港から陸揚げされることから、5,000台の新車が流される被害をうけたと述べた。

車検で預かっていた車を失ったことで、客と困難な交渉を迫られる販売店もあったという。生産停滞の影響では、客に車を納車できないという問題も生じた。車検を機に新車の購入を予定していた客への新車供給が間に合わなくなったため、販売会社が車検代や代車代金を肩代わりするという事態も生じ、経営を傷つける結果となったと報告した。

自動車総連の西原会長は、震災に対する組合の活動の柱として、 (1)連合の取り組みに積極的に参画し、被災者救援・地域社会の復興・復旧を下支えする (2)日本経済の復興を視野に政策面の取り組みを追加・補強する (3)経営者団体との連携を深め、産業復興に向け協議し、産業内での調整機能を発揮する――の3本を据えて取り組んだと報告。ボランティア活動や政府への要請活動内容、労使で協議しての休日の振り替えなどを紹介した。

直嶋参議院議員は、円高や法人税の水準などにより、震災がなくてもものづくり産業には厳しい状況だったところで震災が発生したと指摘。日本全体が気持ちを1つにして取り組まないと乗り越えられないと強調した。

アンケートで7割のサプライチェーンが海外移転の可能性を指摘

また、サプライチェーンの問題については、「共通にできるところは共通化した方がよいのではないか」と指摘。「東日本大震災後のサプライチェーンの復旧復興及び空洞化実態アンケート調査」によると、7割がサプライチェーンの海外移転が加速する可能性があるとしていると述べ、「自動車産業の国内基盤をしっかりとしたものにしていくことが、国民生活を考える上でも不可欠だ」と強調した。

討論ではその後、いかに自動車産業を国内に残していくべきかについて意見交換し、西原会長が、自動車関連就業人口は532万人と全就業人口の約1割を占めると強調。ユーザーに対して課せられている9種類、8兆円規模の自動車関係諸税について、「来年末の税制改正で必ず見直すべきだ」と訴えた。

自工会の名尾副会長も、西原会長の意見にまったく同感だとして、道路特定財源の一般財源化について「こんなおかしなことはない」と述べた。自販連の天野会長は、180万円の新車を購入した場合に、平均使用年数11年で1台につき188万円の税金等の負担が生じると説明し、これに任意保険が加わればさらに28万円分重い負担になると訴えた。また、車が不可欠な地方の住民ほど、これらの負担を抱えなくてはいけないことを問題提起した。