「脱原発」で特別決議を採択/日教組定期大会

 

(2011年7月6日 調査・解析部)

[労使]

日本教職員組合(日教組、28万人)の第99回定期大会が4~6日、東京・千代田区で開かれ、向こう2年間の運動方針を決めた。中村譲委員長は大会冒頭のあいさつで、東京電力福島第1原発の事故に関連して、「原子力をエネルギーとすることはもうできないと思っている」などと述べたうえで、「エネルギー政策を根本から見直し、その歩みをスタートさせる政策を強く求めていく必要がある」とし、「脱原発」の実現を訴えた。大会最終日には「脱原発・持続可能で平和な社会をめざす特別決議」も採択した。

「8,000人の児童・生徒が依然、避難生活」(福島県)など被災3県からの報告も

大会初日には、東日本大震災で被害の大きかった岩手、宮城、福島の県本部などから現状報告があった。岩手県教組は「(児童の)転出入は500人を超えた。子供だけでなく、自宅や家族をなくした教職員の心のケアも必要だ」と訴えた。公立・私立を含め児童・生徒の死亡・行方不明が400人を超え、震災孤児も約100人にのぼる宮城県の代表は依然としてご飯・ふりかけ・牛乳だけの「簡易給食の学校がある」と報告した。原発事故による避難生活者が多い福島県教組は、800人の教職員と8,000人の児童・生徒が避難生活を余儀なくされるなか、60校が休校中でうち23校は再開のめどが立たないとの厳しい現状を紹介。加えて「校庭の表土は入れ替えても学校に置きっぱなしで、子どもたちの健康・安全の判断は教師に委ねられている」と指摘し、政府の対応の遅さを批判した。そのうえで、「原発事故は子どもの生活と未来をめちゃくちゃにした。脱原発と再生可能な新エネルギーへの方針転換を明確にし、子供の健康を守るべきだ」などと訴えた。

教育福祉(Edufare)を軸 ―中学校までの35人学級の早期実現を

大会で決定した向こう2年間の運動方針は、すべての子供に教育の機会を保障し、貧困の再生産を断ち切り、教育と福祉を融合させる教育福祉(Edufare)の実現を軸に置く。その具体的な施策として、「全国学力調査」については調査のあり方を抜本的に見直し、学校の「序列化・過度の競争」につながらないように取り組みを強化する。教科書検定については、当面、第三者機関による教科書認定制度への移行を含め、「透明・公正化に向けた制度改革」をめざすとしている。

また、障害者権利条約の理念を踏まえた「インクルーシブ教育」の実現のために、希望した場で「合理的配慮」が実施されるような関係法令の改正に取り組む方針だ。さらに、東日本大震災による転学・進学・就職等の課題について実態を把握したうえで、問題解決を図るとしている。

教育行政と財政政策としては、日教組が長年要望してきた少人数学級の推進に向け、4月15日に小学校1年生の35人以下学級を実現するために必要な義務標準法の改正案が可決・成立したことを受け、中学校までの35人学級の早期実現とともに「小学校から高校までの30人学級の実現」に取り組むとしている。

公務員制度改革では「自律的労使関係」の特別決議も採択

国家公務員に対する団体協約締結権の付与を中心とする自律的労使関係を構築するための公務員制度改革関連法案が国会に提出されていることについて、日教組はこれを60年以上にわたって制約されてきた公務員の労働基本権を回復する大きな一歩と位置付けている。この動向を受け、地方公務員に係る法案の早期作成と成立に向けた取り組みを強化するとともに、単組では、自律的労使関係構築に係る関係法令の制定を視野に入れた対策を要請。そのうえで、労働基本権の回復を実現し、公共サービスの担い手としての教職員の賃金決定のあり方についての議論を深め、各県では協約締結に資する資料提供などを行い、「標準的な給与水準・労働条件の確立をめざす」としている。

また、段階的な定年延長の実現に向けては、60歳前に退職する割合も高いことから、短時間勤務制度の実現などを求めるほか、教員免許更新制については早期廃止を含む法改正を強く求めるとしている。

大会最終日には、「自律的な労使関係を構築し、労働条件改善と組織拡大・強化に向け、職場を原点とした運動展開に総力をあげる」などとする特別決議を採択した。

再生可能なエネルギーへの政策の転換求める

運動方針では、「脱原発社会の実現をめざすとりくみをすすめる」とし、政府に対して「原子力政策の根本的転換を求める」との姿勢を打ち出している。大会あいさつで中村委員長は、原水禁とともに「脱原発を実現し、自然エネルギー中心の社会を求める全国署名を展開中」と報告したうえで、「子供たちの未来を最初に考えなければならない私たちとしては、自然と共生する『持続可能な循環型社会』の実現に向け、エネルギー政策を根本から見直す必要がある」と訴えた。脱原発をめざす特別決議では、「再生可能なエネルギーへの政策転換を求めるとともに、自らのライフスタイルを見直し、省エネルギーを実現することが重要」「今こそ政府の原子力中心のエネルギー政策を転換させる必要がある」などと強調している。

大会後の記者会見で中村委員長は「脱原発と再生可能エネルギーの活用は日教組が一貫して主張してきたことである」と説明し、この機会に特別決議として採択したのは、上部団体の連合が原子力発電を含むエネルギー政策のあり方に関する議論を凍結していることに関連しており、「それなりの重みになる」とした。そのうえで、連合内での議論の再開と連合としての新たな基本スタンスの表明については、10月の定期大会前に行われるのではないかとの見通しを示した。