賃金体系維持を至上命題とする方針を決定/電機連合中央委員会

(2011年2月2日 調査・解析部)

[労使]

電機メーカーなどの労組でつくる電機連合(有野正治委員長、65万9,000人)は1月27,28の両日、横浜市で中央委員会を開き、「2011総合労働条件改善闘争」の要求方針を決めた。昨年の春闘同様、賃金改善の統一要求は行わず、賃金体系の維持を求める構え。年間一時金は年間5カ月を中心に、最低でも4カ月分以上の確保をめざす。有野委員長は「全構成組合が『賃金体系維持』を至上命題として取り組むことで、働く者の生活の安心・安定につなげる」と強調した。

中小労組を中心に賃金のひずみ是正と格差改善を

賃金体系維持を至上命題とする方針を決定/電機連合中央委員会:メールマガジン労働情報 No.695(2月2日 調査・解析部)(JILPT)

電機連合は、今春闘での賃金改定について、「取り巻く経済・雇用環境が厳しい情勢のなかで、『賃金決定の3要素((1)生計費(2)生産性(3)労働市場)』に基づく検討ならびに連合、金属労協(IMF・JC)の闘争方針を踏まえ、賃金水準の改善(引き上げ)要求を行う状況にはない」と判断。最終的な妥結目標が未達な場合にストライキなどの闘争行動の対象となる統一要求基準について、「開発・設計職基幹労働者賃金(30歳相当)」で「賃金体系の維持をはかる」こととした。そのうえで、産業内の格差改善指標として、到達水準(産業内格差改善指標)を27万円に設定。これを下回る組合は、格差改善に向けて、この水準への到達をめざす。

さらに、産業別最低賃金(18歳見合い)を現行水準から1,000円引き上げて、15万4,000円に改善することも統一要求基準に盛り込んだ。

一方、「製品組立職基幹労働者賃金(35歳相当)」についても、賃金体系維持と、到達水準25万円の要求を掲げるが、こちらは闘争行動の対象にしない統一目標基準としている。

有野委員長はあいさつで、「今次闘争では、全構成組合が『賃金体系維持』を至上命題として取り組むことで、働く者の生活の安心・安定につながり、デフレ歯止めの大きな下支えとなる」と強調。「統一的対応は『賃金体系維持』だが、各組合の置かれている状況によっては、『賃金のひずみ是正』と『格差改善』の取り組みを主体的に実施して欲しい」と訴えた。有野委員長は、中央委員会前に開いた記者説明会で、「集約では従業員規模300人以下の中小組合の賃金カーブが沈んでいる。300人以下の多くで賃金体系が維持できていないのではないか」と語った。

なお、電機連合は「賃金体系の維持」について、「現行賃金制度・体系に基づく制度的な昇給の実施によって確保されるもの」と説明している。「制度的な昇給」とは、定期昇給(相当)分や昇進・昇格昇給などを指し、賃金体系を維持する要素の一つとして位置づけている。

業績に見合った一時金の改善を――産別ミニマム基準は4カ月

年間一時金は、賃金所得の一部としての「安定的確保要素」と「企業業績による「成果配分要素」を総合的に勘案して、平均で年間5カ月分を中心に要求する。また、「安定的確保要素」のうち生計費の固定的支出部分として年間4カ月を「産別ミニマム基準」に設定する。

一時金に関しては、2008年秋のリーマンショックの影響が未だ色濃く残っており、昨年の春闘では、年間妥結月数が4~5.4カ月に分布している組合がもっとも多いことに加え、年間4カ月に満たない組合も全体の3割強を占めた。有野委員長は「一時金水準の低下が個人消費を低迷させる要因の一つとなっていることは明らかだ」などと指摘し、「業績回復に見合った一時金の改善を強く求めていく」との姿勢を強調した。

このほか、非正規労働者の処遇改善では、(1)パートタイム労働者など直接雇用の非正規労働者の賃金については、産業別最低賃金(18歳見合い)を保障する(2)直接雇用の非正規労働者の賃金が産業別最低賃金を超えている場合は、均等・均衡処遇の実現の観点でさらに改善をはかる(3)派遣・請負など間接雇用の非正規労働者の受け入れにあたっては、法定産業別最低賃金の保障について確認する――ことなどに取り組む。

討論では、産別の指導性発揮を求める声が

一方、討論では、春闘期における産別の役割を問う意見が目立った。富士電機グループ連合が、「これからの日本の電機産業の将来のために、労使が何をしていくかについて話し合うか求められている。個別労使の議論を踏まえ、電機産業の発展のために何をすべきかの議論を、産別労使でやって欲しい。置かれた状況を認識しあい、どういう方向性で発展させていくか、産業全体で話し合う事が必要だ」などと指摘。日立グループ連合も、「国の財政は危機的な状況にあり、まずは基礎的財政収支を黒字化するための政策制度を提案することが必要だ。これまで労組は増税反対の立場で政策制度要求をしてきたが、基礎的財政収支を黒字化するには増税論議は避けて通れないことが容易に推測できる。今次闘争を機に、政府への要請や、産別として何が必要かの論議を深めて欲しい」などと述べ、産別の大局的な見地に立った行動を訴えた。

また、パナソニックグループ労連からも、「今の日本社会の抱える課題は誰が見ても明らかだが、優先順位をつけて取り組むことがなかなか進まない。新しいこの国の形をどうしていくかの議論が必要で、そのことなくして課題の解決には至らない。政府、官僚、労働組合、業界が一つのテーブルについてしっかり論議すべきであり、今こそ労組の果すべき役割は大きい。今次闘争の労使論議の中身も質的な転換が求められている。今次闘争の政策制度要求でこうした観点からのリーダーシップを発揮して欲しい」などと産別の指導性強化を求める声があがった。

今後、各労組は2月17日までに会社側に要求書を提出。3月16日の集中回答日に向けて交渉を展開する。